常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第二十七話 金脈

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 昨晩、病室にいたあの7人の中に裏切り者がいたということか。
 桜子はいきなり7人は多いと思っていた。
 計画を知る者が多ければ多いほど、それが漏洩する可能性も高くなる。
 それに昨日知り合ったばかりの者達なら尚更だ。
 桜子としては一人ずつ、しっかりその人物と信頼関係を築いた上で仲間に引き入れて行きたかった。
 だが、酒井が言うように『来たばかりの自分』を、彼らがそう簡単に受け入れてくれるか疑問もあった。
 あの場にいた者達の予想以上に硬化した態度を見るにつけ、それが難しいのを感じてもいた。
 悠長なことを言ってられる時間も無かった。
 だから、酒井の好意も有りあの場にいた全員に協力を仰いだ。
 それは上手くいったかのように見えたが、やはり時期尚早だったか。

「あなたは重大な契約違反を犯した上で、ここで仕事をしているそうじゃないか?」
「は?」
「匿名でそんな告発があった。安田さん、あなたキャロット情報ブレーンに籍を置きながら、すでに退社しているステイヤーシステムの社員としても仕事をしている。そうですよね?」

 「どうしてそれを」と、桜子は言い掛け何とかその言葉を呑み込んだ。

「確か、府中屋とかいう和菓子屋がエンドユーザの仕事だったか。そこのサーバリプレースの仕事を二次請け会社で常駐してやっているとか。間違いないですか?」

 桜子は何も答えなかった。

「これが事実なら、キャロット情報ブレーンに対しても、府中屋に対しても不誠実であり、商流も何もかも無視した立派な契約違反だ」

 松永は勝ち誇ったような顔でそう言った。
 続ける。

「これを関係者に投書したらどうなるかな?」

 桜子の頭の中を思考が駆け巡る。

(あの7人の誰かじゃなかった)

 桜子はスパイとしてキャロット情報ブレーンに潜入した。
 そこに至るまでの込み入った事情を知っている人物は限られている。

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「うちにも考えがあるからな......」
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(角田社長......)

 昨晩、中抜きの件で福島課長とやり合っていた。
 交渉は決裂した。
 その時の呪詛にも似た角田社長の捨てゼリフが、桜子の耳の奥から響いて来た。
 だが、それが角田社長と確信出来ても匿名での告発と前置きされた以上、松永に確認出来ようもなかった。
 裏を取るまでもなく角田社長が密告者であることは、間違いないが。
 それでも、桜子は彼を責める気にはならなかった。

「分かってくれましたか?」

 松永は目を細め両手を広げた。
 それはひどく優し気なポーズに見えた。

「だから、お互いのために、お互いの秘密を握り合って置きましょう」

 脅したかと思ったら、懐柔しようとしてくる。
 硬軟織り交ぜ桜子を黙らせようとしているのが分かる。

「......ということは、やはり松永さんにもやましいことがあると?」
「ふふふ」
「あなたは非弁行為をしています」
「それが何か?」

 どのみちこの交渉は、お互いの弱みを握り合ったまま痛み分けで終わることは分かっていた。
 桜子は頭を切り替えた。
 この場では何もしない。
 もう一度、社内を見渡した。
 ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、ラッセン......絵画に投資でもしているのか?
 松永の成金っぷりに引っ掛かるものがある。
 その贅沢をするための金の出どころは一体?
 藤澤をはじめとした難民たちの少ない稼ぎと借金、本当にそれだけで足りるのか。
 角田社長の話だと、松永はキャロット情報ブレーンの副社長として、同社の株式の49%を所有しているという。
 しかし、上場していない中小企業の株の配当金などたかが知れているのではないか。

(最上流から最下流までの金の流れを掴みたい)

 桜子はその金脈に当たりを付けていた。
 そして、それこそが彼らの弱点だと考えていた。
 その裏を取ってから、全面対決に臨みたかった。
 だが、松永に先手を取られてしまった。
 計画に失敗は付き物、仕方がないと割り切った。
 ここは引き分けで良しとして出直す。

「安田さん。あなた他の奴と目が違う。クズの振りして私に代行を依頼した時から最初から分かっていた。だが、興味があったから敢えて泳がせておいた」

 桜子は返事をしなかった。

「あなたが、我々に利用される振りをして何をしようとしていたかは知らないが、もう諦めなさい。それより......」

 松永は爽やかな笑顔だった。

「この際、私と付き合ってみませんか?」
「はぁ?」

 何だ、この際って。
 この状況で、そんなことを言うこいつの精神構造を疑った。

「クズを救ってどうするんですか? クズはクズのまんまなんだ。それよりも、一緒に会社を運営しましょう。あなたほどの有能な方と仕事出来たらもっと夢が広がる」

 その後、気を取り直し職場に向かった。
 早速、藤澤に声を掛ける。

「ちょっといい?」
「あ、はい」

 休憩所へ移動する。

「お子さんはどう?」
「ええ。お陰様で。まだ集中治療室にいますが、命に別状はないって」
「そう、良かった」
「今朝も様子を見て来たんですが、気のせいか昨日よりなんか大きくなってるみたいで......」

 藤澤は目を細め喜んでいた。

「ふむ。よろしい」

 桜子は頷き、一口コーヒーを飲むとこう言った。

「今日は定時で帰りなさい」
「え? でも明日までに作らないといけない機能があって無理ですよ」
「出来なかった部分は私が引き取ります」
「そんな、悪いですよ」
「いいの。仕事なんかより家族の方を大事にしなさい」
「安田さん......」

 藤澤は目を潤ませ何度も頭を下げた。

「その代わり君に頼みごとがあるのよ」
「何ですか? 何なりと!」
「君の給与明細と月報を頂戴」

 桜子は藤澤に向かって右手を差し出した。

 桜子は昨日と同じく19時に仕事を切り上げ、帰り支度を始めた。

「安田さん」
「何でしょう?」
「進捗状況について確認したいんだが」

 開発リーダーの近藤だ。
 その疲れ切った顔にはパンダみたいなクマが目立っている。

「昨日入社したばかりでプロジェクトの説明も受けていません。そんな私に進捗も何もないでしょう?」
「それでも、作るべきものは昨日教えたじゃないか? どこまで進んでる?」
「前任者が作ったものは出来が悪いので作り直しています。10画面中、4画面完了。1画面仕掛中で5画面未着手です。これでいいですか?」
「全て今週中に完了出来るか?」
「元々無理なスケジュールですし、未着手分は設計すら中途半端なので手を付けられません」

 空気が緊張感を帯びて来た。
 周囲の者は、まるで二人が睨み合っているかのように見えた。
 近藤の目は血走り怒りや苛立ちを宿しているようだが、桜子の目は無機質そのものだった。
 まるで目の前の男など眼中にないようだ。

「じゃ、石橋課長にヒアリングして設計を進めろ」
「あの人は非協力的です。協力するように上から働きかけて下さい」
「貴様......」
「目黒ソフトウエア工業の人がPMですよね。それがPMの仕事だとお伝え下さい」

 桜子は近藤の横を通り抜けて帰ろうとした。

「痛い!」

 左手首に痛みが走る。

「設計途中の分までは進められるだろ?」

 掴まれた手首を振りほどく気にもならなかった。
 スケジュールに追い立てられている目の前の男が哀れに思えて来たからだ。

「何だよ?」

 哀しい瞳で見つめる桜子に、近藤は不思議そうな顔を向けた。

「可哀そうな人」
「何だとぉ?」
「あなたは立場上、進捗会議で表向きオンスケの報告をしなければならない......」

 近藤は黙り込んだ。

「プロジェクト全体のスケジュールが遅れている中で、私の担当の一つや二つ遅れても誤差みたいなもんでしょ? あなたに言っても無駄かもしれないけど、早めに主要メンバーを集めて遅れをどうするか検討しないと、今よりもっと酷くなりますよ」

 近藤は桜子から手を離した。
 彼にも分かっているのだ。
 このままその場を取り繕うだけの残業、休出だけでは早晩行き詰るということを。

「どうしてもやれというなら、残業代を出してください」
「お前は役職付きだから出せない」

(やっぱりそうですか)

 夜21時。
 空港から地下鉄で2駅先の駅で降りる。
 駅に隣接する切手ビル10階のビアホール銀玉ライオンに向かった。

「桜子ちゃんから誘ってくれるなんて嬉しい限りですよ」

 桜子の目の前の男は最近、部長に昇進したとのことだ。
 赤ら顔に禿げ上がった頭を、おしぼりで拭きながら鶴丸部長はそう言った。
 恰幅も良くなっている。
 ダブルのスーツのボタンがはじけ飛びそうなくらいの腹だ。

「今日は忙しい中、お時間ありがとうございます」
「時間に厳しい桜子ちゃんが遅れて来るなんて、珍しいですな」

 腕時計を見ながら、いやらしい笑みを浮かべ嫌みを言って来た。
 近藤と議論するのも無駄と思い、お茶を濁す形で1時間ほど残業をした。
 それで遅れた。

「すいません」
「ま、あなたと一緒に飲めるなら何時間だって待ちますよ」

 一部上場の大手SIerである目黒ソフトウエア工業の部長はご機嫌そうだ。
 桜子はこの人物とはステイヤーシステムに入社した時からの付き合いだが、何度か愛人にならないかと申し込みを受けていた。
 もちろん断り続けている。

「ところで、エンジニアに戻ってから調子はどうですか?」
「はい。以前にも増して仕事が楽しくて仕方がありません」
「君ほどのエンジニアがその力を発揮しないなんてもったいないからな」
「お上手ですね。部長」

 そう言いながら、桜子はお酌した。

「聞いた話によると、御社ではOGR.comの仕事を請け負っているとか」
「ん? どうしてそれを?」
「エンジニアですもの。他の案件にもアンテナをはってます」
「ふむ......なるほど。今日の誘いはそういうことか」

 鶴丸部長は仕事の話だと悟ったのか、目の輝きが消えた。

「結婚情報サービスの会員管理システムですよね。元請けは目黒ソフトウエア工業、つまり御社。その下請けというか偽装請負先がキャロット情報ブレーン」
「どうして、そこまで知っている?」

 鶴丸部長のは真顔になった。

「お待たせしました」

 あつあつのチーズダッカルビが二人の間に置かれた。
 だが、それに手を付けることも無く話し続ける。

「そのことで、部長に頼みたいことがあります」

 鶴丸部長は無言でビールに手を伸ばした。
 一口飲み、桜子を見据える。

「御社とキャロット情報ブレーンとの契約関係について、私に教えてください」

 昼間、職場にて桜子は端末に向かい、メンバー共用のNASにアクセスした。
 そこには、設計書、手順書やサンプルとなるソースなど各種資料の類がフォルダ単位に分かれて置かれていた。
 桜子はその中から、契約書関係の書類を探したが流石にそれは無かった。
 だが、それでもこのプロジェクト全体を把握することが出来る資料を幾つか見つけることは出来た。
 例えば体制図。
 それには顧客であるOGR.comを頂点として、直下に目黒ソフトウエア工業、更にその直下にキャロット情報ブレーンが記されている。
 偽装請負という形で、キャロット情報ブレーンが目黒ソフトウエア工業の社員として働いているのが読み取れる。
 桜子が知りたいのは、目黒ソフトウエア工業はキャロット情報ブレーンに月単価として、一人当たり幾ら支払っているのか、ということだった。
 最終的に、最下流のキャロット情報ブレーンの社員達は幾ら貰っているのか。
 つまりは、商流とその金の流れが知りたかった。

「何故、そんなことを知りたい?」

 桜子は事情を話した。
 自分が今、キャロット情報ブレーンの社員であること、そしてその目的などなど。

「......分かった。だがしかし、OGR.comの仕事は私が治める物流システム部とは無関係だ。あそこはネットサービス事業部の担当だからな」

 卓の上を指でトントン叩き、思案顔で桜子を見据えた。

「部長」
「何かな?」
「私、この仕事が落ち着いたら、ナニワに行ってみたいんです。その時は、是非、ナニワ出身の鶴丸部長に案内していただけたら、と......」

 桜子は顔を赤らめ恥じらいを装いながら、上目遣いでそう言った。

「ほほう。そういうことですか」
「......はい。二泊三日でどうでしょう?」
「よっしゃ! 契約書の件は任しとき! 部長権限でいくらでも何とかしまっさかい。旅行の件も桜子ちゃんが楽しめる最高のプランを立てまっせ!」

 鶴丸部長はナニワ弁になり、上機嫌で酒をあおり出した。

 翌日の昼12時。

 桜子は空港で鶴丸部長と待ち合わせし、契約書関係のコピーを受け取った。

「ほな、頼むで!」

 鶴丸部長は上機嫌で去っていた。
 近くのカフェに入り、内容を確認する。

「なるほど」

 目黒ソフトウエア工業からキャロット情報ブレーンに、月単価で一人当たり60万円が支払われている。
 契約形態は準委任契約。
 残業代は出来高精算。
 契約書の大筋はそんな内容だった。
 桜子は藤澤の給料明細を広げた。
 基本給15万円。
 交通費1万円。
 そこから色々引かれて手取り5万円。
 今日日、こんな額で生活出来る訳がない。
 契約書と突き合わせると、キャロット情報ブレーンの搾取っぷりが良く分かる。
 そして、桜子の思った通り、ある事実が繋がった。
 残業代だ。
 藤澤は夜遅くまで働き、時には泊まり込んでもいるはずなのに残業代が一円も支払われていない。
 だが、契約書に残業代は

『月契約時間である180時間を超えた場合につき、1時間当たり1500円払う』

 と書かれていた。
 キャロット情報ブレーンには、単金60万円の他に残業代が支払われているはずだ。
 しかもこの炎上案件、その残業時間は青天井のはずだった。
 一体いくらの残業代になるのか。
 それを一切、社員に支払っていない。

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「どうしてもやれというなら、残業代を出してください」
「お前は役職付きだから出せない」
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 桜子の問いに近藤はハッキリとそう言った。
 それを裏付けるかのように桜子は主任という役職だった。
 入社したての試用期間の自分が?
 笑わせる。
 藤澤もそうだし、他の社員もそうだった。
 石を投げれば、主任という部下を一人も持たない名ばかりの管理職に当たる。
 全ては金子、松永が私腹を肥やすために、元請け様を裏切っているのだ。

(思った通りだ)

 この事実を取引材料に、金子、松永を追い詰める。

 ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、ラッセン......

 全て取り上げてやる。
 
つづく

登場人物などの各種設定

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

えー、鶴丸部長も来るのー・・・

VBA使い

いつも楽しみにしております。


「御社とキャロット情報ブレーンとの契約関係について、私に教えてください。「」」


鶴丸部長、懲りないね

foo

桜子vs松永の第一ラウンドは、双方ジャブの打ち合いに終始しつつ、松永が若干優勢で一旦ゴングってところか。
元請けに対する残業代の詐取っつうネタも割れたし、そろそろクライマックスが見えてくる予感。

>  ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、ラッセン......絵画に投資でもしているのか?
>  松永の成金っぷりに引っ掛かるものがある。

さらっと芸術品鑑定スキルを披露してのける桜子は相変わらずの桜子姐さんっぷりだが、こんな成金趣味をわざわざ見せつける松永自身にも、やはり引っ掛かるものがあるな。
いざとなったら盗難にあったり、裁判所からの差し押さえで没収されたりしかねない形で巻き上げたカネを持つのは、あまり賢い選択肢ではないような。
(そもそも悪事に手を染めてる時点で賢いとは言い難いだろ、という要素を差し引いて考えても)

単に松永がそれだけ強烈な虚栄心を抱いているという描写なのか、それともまだ何らかの伏線が潜んでいるのか。
次回以降の伏線回収と、桜子姐さんの松永に対するフィニッシュブローの瞬間が楽しみだぜ。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>鶴丸部長も
もちろん、この人の場合、利用されるだけされてあっさりポイされます。


あと、関西弁、変だったらゴメン。

湯二

VBA使いさん。

>いつも楽しみにしております。
いつもコメントと校正ありがとうございます。


>懲りないね
便利なキャラです。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


>そろそろクライマックス
次回、血の雨が降る! なんちて。


>芸術品鑑定スキル
小学校のころ水彩画で県展に入選していたという後付け設定でも入れておきます。
あと、なんでも鑑定団を毎週欠かさず見ている。


>成金趣味
松永は綺麗な女の人を雇って、道行く人に偽物の絵を売る商売もやってます。
確かに分かり易い、成金っぷりですね。


>虚栄心
本当は絵描きになりたかったとか、今思い付いたけど。
彼のバックにはもっと大きな本家があって、その指示に従ってるだけかもしれないし、、、
けど、作者の私より予測してもらって、ありがたいもんです。


桜子さんが一番

>あと、関西弁、変だったらゴメン。
いえいえ、だいたいそんなもんで合ってますから大丈夫です。

湯二

桜子さんが一番さん。


>いえいえ、だいたいそんなもんで合ってますから大丈夫です。
おおきに!

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