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【小説 しょっぱいマネージャー】第二十六話 誰がその手を汚すのか

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「その顔、よく覚えてるよ。じっと見ていたかったけど、すぐ意識を失っちまったからな。でも、こうしてまたそのクールな顔を拝めるなんて、命があって良かったよ」

 と、酒井はニッコリ笑った。

「いえいえ、そんな大層なもんじゃありません」

 桜子はそんな酒井の愛嬌ある態度に思わず笑みがこぼれた。
 こんな状況でも尚明るい彼は、藤澤にとって太陽みたいな存在だったのだろう。
 あの時、桜子は藤澤を彼女の元に行かせ、かつ吐血した酒井の介抱をしつつ救急車を呼んだ。
 騒ぎを聞きつけ、金子や目黒ソフトウエア工業のプロパー達も集まって来た。
 彼らは救急隊員に酒井の普段の状況を訊かれた。
 異口同音、彼らはブラックな働かせ方を隠ぺいするような証言をしていた。
 担架に乗せられ酒井は搬送されて行った。

「あんたは命の恩人だ」

 そう言うと、酒井は辺りを見渡し心配そうに呟いた。

「藤澤の子供、無事に生まれたかな......」
「みたいです」
「そりゃ良かった!」

 と、大きく膝を打ってまるで自分のことのように喜んだ。
 隣のベッドの男が、騒がしいと言わんばかりに口元に人差し指を当てた。
 ステイヤーシステムの連絡簿に藤澤のケータイ番号が残っていた。
 桜子は酒井を見舞いに行く前、藤澤のスマホに電話した。

「早産だったけど、母子ともに大丈夫です」

 スマホの向こう側で彼は泣きながらそれを伝えて来た。
 その報を聞いた時、桜子はホッと胸を撫で下ろすと同時に、藤澤にとってこれが飛躍のキッカケになればと思った。
 守るものが出来た時、人は強くなれる。

「酒井さんは藤澤とホントに親しいんですね」
「ああ」
「私、こういう者です」

 桜子はステイヤーシステムの名刺を取り出した。
 その名刺を手にした酒井は、眉間にしわを寄せ不思議そうな顔で桜子を見た。

「どういうことだ?」
「実は藤澤と私はステイヤーシステムという会社の社員でした」

 桜子はそう前置きし、自分がログアウトを経由してキャロット情報ブレーンに入社した経緯を説明した。
 必然的に、その説明の中でログアウトの悪行とキャロット情報ブレーンとの関係を露わにすることになった。

「最終目標はログアウトとその仲間たちを潰すことです」

 桜子は酒井にそう宣言した。
 酒井は顎を撫でながら思案顔でこう返した。

「......そんな話を俺にして大丈夫なのかい?」
「はい。あなたは信頼出来ると思ったから」
「ほう」
「すいません。私は先ほど藤澤と酒井さんが休憩室で話しているのを聴いてしまいました。その内容から、酒井さんは藤澤の事もこの職場の状況の事も良く知っていると思ったんです。だから信用出来ると思いました」
「......なるほど」

 酒井はベッドの上に胡坐をかき、腕を組んで頷いた。

「俺に何を期待している?」
「まず、私が計画していることの妥当性と実現性を聞いてくれませんか? 所謂レビューみたいなもんです。酒井さんの観点で抜け漏れを指摘して下さい」

 桜子は語った。

「ふ~む」

 酒井は額を人差し指でトントンと叩き、俯いて考え込んでいる。
 
「まず......まだ来て間もないお前さんに、あいつらが心を開いてくれるかな」

 第一段階、藤澤と同じようにここに連れて来られた人間の証言を集める。
 その証言とは、彼らが何社くらいたらい回しにされた挙句、幾らの借金を抱えキャロット情報ブレーンに来たのか。
 退職代行の際に、松永が辞める会社に対してどんな交渉をしたのか。
 聴き取ったそれらの情報をリスト化し証拠にして松永の前に突き出そうと考えていた。

「ただ、俺があいつらに一言......」

 その時、数名の男が病室に入って来た。

「酒井さん」
「大丈夫ですか」
「これ、お見舞いです」

 彼らはそう口にしながら酒井のベッドの周りに集まって来た。
 その中の何人かは、桜子も見覚えがあった。
 昼間、職場で見たことがある顔が並ぶ。

「よぉ! 来てくれたのか!」

 都合7人の男がベッドを取り囲む形になった。
 次々に中心にいる酒井に心配の言葉を投げ掛ける。
 桜子は少し離れてその様子を見ていた。
 彼がこの職場でどれだけ慕われていたかかが良く分かる。

「お前たち、忙しいのにありがとな。俺の心配はもういいから。それより、あそこにいるお嬢さんの力になってやってくれっ!」

 酒井の指差す先にいる--つまり桜子の方を、皆が一斉に見た。

「この人はお前たちを借金地獄そして、強制労働から救ってくれる。そう、まさに救世主だ」

 紹介を受けた桜子は頭を下げ、こう言った。

「安田桜子と申します。本日、キャロット情報ブレーンに入社しました。酒井さんからも紹介があった通り、僭越ながら皆さんを地獄から救うために来ました」

 皆、ざわついた。
 「チッ」と隣のベッドの男が舌打ちした。
 ざわつきが止んだ。

「皆さんはログアウトの松永に騙され、終の棲家と称されるキャロット情報ブレーンに入った方ばかりだとお見受けします」

 皆、その言葉に頷いた。

「元々は松永の退職代行サービスに乗った、あなた達の自業自得が原因です」

 皆、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、何も言い返さなかった。

「......ですが、それを差し引いたとしても悪いのは松永であり、それを利用したキャロット情報ブレーンです。甘い言葉であなた達を騙し搾取し続け、奴隷船で倒れるまで働かせる仕組みを作ったのは彼らです。いいですか? これは形を変えた人身売買です。これを撲滅しなければあなた達に未来はありません。だから、私に協力してください」
「そうは言ってもよ......。僕たちはあなたのことを知らない。もしかしたら、甘いこと言って俺たちに何かを売りつけようとしてるんじゃないか? それこそ奴らの手先かもしれないし」

 川田という小太りの男が高い声で反論した。

「川田さんでしたっけ......あなたは幾ら借金をしてキャロットに来たんですか?」
「えと......80万かな」

 恥ずかしそうに答えた。
 彼は最初の会社を退職代行で辞めてから、キャロットに辿り着くまでに都合2社程度を松永の斡旋で転職し、その度に紹介料と代行料を抜き取られていた。

「今の生活は、ロイス金融の利息を返すのがやっとでしょ?」
「ま、まぁ......」
「私にちょっと情報協力してくれれば、その借金チャラにして見せます」

 それでも川田をはじめ数名が、桜子へ疑いの視線を向けている。
 キャロット情報ブレーンに流れ着くまでに、皆、様々な形で騙されて来た。
 今更、上手い話を持ってくる人間が信用出来ないのだ。
 
「川田、この人は俺の命の恩人だ。だから信頼しろ!」

 ベッドの上から酒井は声を張り上げた。
 その言葉に、数名が頷き合った。
 酒井は余程メンバーに信頼されているらしい。
 そんな彼と出会えたことは桜子にとっても幸運だった。
 あとは川田だけだ。
 この場で、彼だけが腕を組んで考え込んでいる。

「けど......あいつら、どう考えたって反社だ。あんな恐ろしい奴らに文句を言って無事でいられるはずがない」
「暴力が怖いんですか?」
「ああ、怖いさ。死んだら柚果ちゃんに会えなくなる」

 川田は汗をかきながら鼻息荒く、そう言ってくる。
 柚果とは彼が推してる地下アイドルらしい。

「あなたはこのまま利息を返し続ける人生を送るつもりですか? どちらにしてもどん詰まりにいるあなたは私に賭けるしかないんです。人間は希望が無いと生きていけないんです。その柚果ちゃんに会うのにもお金が掛かるんでしょう? もっと握手したいでしょう? だったら......」

 勝負するしかないでしょう。

「やるぞ!」

 誰かが声を上げると、つられて誰かが「おお!」と応える。
 桜子の言葉に、ここにいるメンバー全員決起した。

「うるさい!」

 ついに隣のベッドの男がブチ切れた。

 病院を後にした桜子はコンビニで弁当を買い、ステイヤーシステムの事務所に向かった。
 戻ったら府中屋の仕事もしなければ。
 今日は終電まで仕事をするつもりだ。
 誰かまだ居るのか、事務所の窓から明かりが漏れている。

 福島課長がいると思ったが、いない。

「だから、せめて5万円のところを3万円にして下さいって言ってるんですよ!」

 扉を締め切った会議室から怒鳴り声が聞こえて来た。
 聞き覚えのある声。

(角田社長?)

 桜子は扉に耳を押し当てた。

「契約期間の途中では受け付けられませんな」

 続いて福島課長の声が聞こえた。
 それは突き放すような冷たい声だった。

「こう言っては何だが、お宅はコスモ商事とうちとの間に入っているだけでしょう。それなのに一人当たり5万円の仲介料は高すぎる」
「その契約でサインをしたのは角田社長、あなたでしょ」
「分かってます。分かってますとも。あの時は仕事が欲しかったからそれでサインした。だけど、お宅とコスモ商事との単価は45万円でしょ? ここから5万円引かれて40万円。それが私らYSホットラインサービスに入って来る金だ。そこから経費や保険やらを抜き取ると社員の手取りは15万円くらいになる。これじゃ社員の生活がままならないよ」

 角田社長は声を枯らして訴えていた。
 ステイヤーシステムはコスモ商事の仕事を請け負っていた。
 だが、実際に仕事を行っているのはYSホットラインサービスの社員だ。
 彼らはステイヤーシステムの社員として、顧客先に常駐する形で仕事をしていた。
 つまりは偽装請負だった。
 コスモ商事からは一人当たりの単価として45万円がステイヤーシステムに支払われる。
 その後、5万円が中抜きされ40万円がYSホットラインサービスに入って来る。
 YSホットラインサービスから9人派遣させているから、月にすると何もせずに45万円がステイヤーシステムの懐に入る計算になる。

「うちは慈善事業をやってるんじゃないんですよ」

 相変わらず福島課長の声は冷たい。

「じゃ、仕方ない。全社員、撤退させてもらいますよ」
「どうぞ」
「くっ......」

 福島課長は全く動じない。
 角田社長は伝家の宝刀を抜いたつもりだったのだろうが、虚しくそれを鞘に納めた。

「もう頼まん。うちにも考えがあるからな......」

 角田社長の押し殺した様な声が聞こえた。

(まずい)

 桜子はそう思い扉を開けようとした。
 だが間に合わず、激しく扉が外向きに開かれた。
 桜子が扉から数歩後ずさりしている間に、角田社長は事務所から出て行ってしまった。

「福島課長!」

 会議室にいる課長は桜子の方に目を向けた。
 その表情は松永や金子とひどく似通って見えた。

「聞いてたのか......」
「だから私は人売りは嫌なんです」
「仕方ないだろ?」
「だからって......」
「安田、よく聞け。コスモ商事の案件はうちとしては今後のために取っておきたいものだったんだ。だが、丁度人がいなかった。そこで角田社長のYSホットラインサービスから人材を集めた。あちらとしても渡りに船だったはずだ。その仲介料を取るのは当然。俺たちは食っていかなくちゃならない。事業を継続し発展させていかなければならない。それは綺麗ごとじゃない。だから割り切れ」

 桜子は唇を噛み締め黙り込んだ。

「それが出来ないなら、お前が早くこの業界の仕組みを変えて見せろ。俺はそのためなら、喜んで手を汚そうじゃないか」

 福島課長の開き直りともとれる発言だった。
 信頼している上司が会社のためとはいえ、弱者に冷酷な態度をとっているのは胸が痛む。
 桜子はこの業界を変えたいと思っている。
 だが、それは綺麗な部分だけを都合よく切り取った絵空事なのかもしれない。
 実際は、桜子が業界を変えるために動き続けるには莫大な費用が必要で、それを稼ぐために福島課長が非情に徹して人売りを行っているのであってみれば、本末転倒の様な気がする。
 桜子は大きなため息をついた。

 翌日。

「安田さん、ちょっとうちに来てくれないか?」

 職場に向かう途中、ログアウトの松永から電話が来た。
 遅れることを金子に伝え、ログアウトの事務所へ向かう。

「あまりチョロチョロ動かないでほしいなぁ......」

 松永はタバコの煙を吐き出し、そう言った。
 応接セットで桜子と松永は向かい合っていた。
 
「なんのことでしょうか?」
「知らないとは言わせないよ」

 いつもの穏やかな態度とは打って変わった威圧的な物腰。

「君が仲間を募り、私のあることないことをでっち上げようとしてるのは分かってるんだ」

 口調は激しくないが、ドスが効いた声音で桜子を尋問してくる。
 Yシャツの袖口から緑色の入れ墨が見える。
 桜子は思った。
 昨日、病室にいたのは酒井を含めて7人。
 それだけいれば裏切り者がいてもおかしくない。
 人間の考えは千差万別だし、一晩経って自分につくより松永についたほうが得だと考えた人間もいたかもしれない。
 つまりは密告者が出たということか。

つづく

登場人物などの各種設定

Comment(10)

コメント

匿名

「そんな機械彫りでビビると思います?」と鼻で笑って総手彫りの桜吹雪見せつけて土下座させる展開を希望。
何でもありのチートキャラならいけるっしょ!

桜子さんが一番

ミナミの帝王っぽくなってきましたw

匿名

密告者は「事故」にあってもらわないと(にっこり)

VBA使い

どれだけ慕われていた「かか」が良く分かる。


柚果ちゃんに会うのにもお金が「か」掛かるんでしょう?


「伝家の宝刀」が正しいようです。


ここにいるメンバー全員決起した。
→ますますカイジ(地下労働編)っぽいですね。

foo

待っていました、桜子と松永の直接対決!
果たして桜子姐さんは松永とどう戦ってゆくのか。

仮に松永の正体が本当に反社だったとして、松永が反社であるという証拠を握れれば、あとは警察に駆け込めば勝利のような気がするが、そんな簡単に……いきそうな予感もするな、桜子姐さんなら。
仮に松永とリアルファイトになったとしても、少なくとも負ける姿が想像できない。
# かめ○め波や北○百裂拳はギリギリ出せなさそうだけど、キ○肉バスターあたりならできるんじゃなかろうか。

湯二

匿名2019/11/05 09:18さん。

コメントありがとうございます。

>「そんな機械彫りでビビると思います?」
言いそう。
このもんどころが目に入らぬか~。
桜吹雪が舞う中、エンディング。
実は夢でした的なエンドですかね。

湯二

桜子さんが一番さん。


>ミナミの帝王
技術の事なんも書いてないし、もうこのサイトに載せていいかもわかんない展開ですね笑

湯二

匿名2019/11/05 11:33さん。


コメントありがとうございます。


>事故

ドラム缶に詰めて埠頭に放り投げるとか。

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございます。


>伝家の宝刀
ずっと人と話す時、天下のって言ってました。
はずかし。


>(地下労働編)
限定じゃんけんの次に好きなシリーズですね。
チンチロリンで決着をつけることはありません。

湯二

fooさん。

コメントありがとうございます。

>桜子姐
ヤクザの抗争みたいになって来たな。


>そんな簡単に……いきそうな
一応、ピンチの場面も入れていきたいですね。
なんか、小説入門とかの本にピンチの場面があると面白くなるよって書いてあったので。


>リアルファイトになったとしても、少なくとも負ける姿が想像できない。
俺TUEEEEみたいな。


>キ○肉バスター
女子にあの技は厳しいでしょう。
体制的にも足がM字になっているし。

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