常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第二十話 PM桜子

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 全てが上手く回り出した。
 雄一が谷中に提案したバッチチームと移行チームの共同体制は上手く行っていた。
 お互いの足りない技術や時間を補い合うことが出来たからだ。
 それでも当初は、会社が異なるメンバー同士ギクシャクした関係が続いていた。
 雄一はそれを打破するために、飲み会やボーリング大会などのレクリエーションを行うことで交流を深めさせていった。
 週一で強制的に定時上がりしてもらう日も用意した。
 本音は、メンバー達に遅れを取り戻すために残業して欲しかった。
 だが、モチベーション維持のためにはこういったご褒美も必要だと考えていた。
 メンバー達を帰した後、雄一は終電までの勤務という自己犠牲を払うことで、遅れの拡大を防いだ。
 そんな雄一の姿を見て自主的に居残って手伝うメンバーも増えて来た。
 この頃になるとメンバー全員、成長を見せ始めていた。
 やがて、スケジュールをオンスケまで持っていくことが出来た。
 このメンバーでも十分やっていける。
 雄一は手ごたえを感じていた。
 そして、藤澤のことなど忘れかけていた。
 リアルチームの方は、こなさなければならない物量--例えば開発すべき画面は多数ある。
 が、リーダーである池江や担当者に熟練者がいたので問題は無かった。
 何より、AIチームの秋華とプロジェクトルームで一緒に仕事出来るようになってからは両チーム共に作業効率が上がった。
 唯一、田原だけがなかなか口をきいてくれない。
 彼が率いるインフラチームは全て同じ会社のメンバーだった。
 つまり、ハロンテクノロジーの社員だ。
 同社は田原が社長なので、メンバーはすべて彼のイエスマンだった。
 だが、そつなく仕事をこなしてくれるので、こちらも概ね問題は無かった。
 全体としては、各リーダー、メンバー、それぞれが雄一に協力的な姿勢を見せるようになっていた。
 雄一も拙いながらもプロジェクトマネージャーとしてそれに応える努力をした。
 好循環が好循環を招いた。
 本当に全てがスムーズに回った。
 そして、7月も終わろうとしていた。
 スケジュール的にはプログラミング、単体、結合テストが終わり、本番環境を使用した各種テスト、そして最後に移行を控えている。
 まさに佳境を迎えようとしていた。


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 そんなある日。

「お疲れ様」
「お疲れ様です」

 雄一は三浦部長に呼ばれた。
 会議室で二人は向き合った。

「なんでしょう。突然」
「......うむ。悪い知らせが二つある」
「え? 二つも」

 良い知らせと悪い知らせがあるという前置きをされ、どちらから先に聞きたいかを訊かれるパターンはよくある。
 だが、二つとも悪い知らせというパターンはあまりない。

「どちらから聞きたい?」
「どっちでもいいです」

 どちらも悪いんだったら、どっちからでも一緒だと思った。
 今までも悪いことは沢山あったが乗り越えてここまで来た。
 今更、どうってことないはずだ。

「うむ」

 三浦課長はコホンと一つ咳をし、口を開いた。

「まず一つ、インフラチームのことなんだけどね」
「はい」
「田原さんが、チームごとプロジェクトを抜けるって言ってるんだ」
「え?」

 プロジェクトマネージャーの問題では彼と揉めた。
 その後、雄一は進捗会議でプロジェクトマネージャーとしての決意を述べ、池江と谷中から同意をもらった。
 田原は沈黙していて、何も反論してこなかった。
 その後、彼は今日まで文句も言わずに仕事してくれた。
 だから、てっきり雄一は彼が自分をプロジェクトマネージャーとして認めてくれていたと思っていた。
 だが、ここに来て抜けるということは、そうではなかったということか。

「有馬さんも知っての通り、彼のところは会社単位でインフラチームとして入っている。だから、社長である彼が抜けると言えば、社員であるメンバーは皆、それに従うようになっている」
「そんな......」

 田原だけが抜けるなら、まだマシだ。
 残ったメンバーからインフラチームのリーダーに適した者を選び出し、何とかやっていける可能性があるからだ。
 だが、インフラチーム全員がゴッソリ抜けるということは、ネットワークやサーバそしてデータベースの専門家がいなくなるということだ。
 それは、本番環境構築を含んだ今後のスケジュールに影響が出ることを意味していた。

「田原さんたちはここを抜けてどうするんですか?」

 確かインフラチームは田原を含め6人はいたはずだ。

「次の仕事先なんてそう簡単に見つからないでしょ!?」

 そんな大人数をいきなり雇えるところなんて無い、雄一はそう思った。
 雄一は声を荒げている内に、田原の理不尽な態度にだんだん腹が立って来た。

「やりかけのプロジェクトを途中で放り出すような集団にすぐ次の仕事が見つかったとしたら、俺はそんな世の中を疑う!」

 自分を飛び越えて三浦部長に相談したことに思い至り、それも怒りに火を注いぐ。

「彼は自分と自分の会社の将来のため、としか言わなかった。それ以上は訊けないよ。我々はそんな立場じゃない」
「三浦部長、彼らとの契約ってものがあるでしょ?」
「それはPMである君の方が詳しいはずだが」

 雄一は一旦自席に向かった。
 引き出しを開け、ハロンテクノロジー、つまり田原との契約書を探した。
 手に取って確認する。
 雄一は眩暈がした。
 サガスとハロンテクノロジーとの契約は3ヶ月ごとの準委任契約だった。
 7月で丁度その3ヶ月の区切りになり、田原が社員を率いてここを抜けることに対して誰も文句が言えないのだった。

「田原さんはっ!?」

 雄一はインフラチームのメンバーに向かって声を張り上げていた。
 無言でメンバーが行き先ボードを指差す。
 田原の行き先には『年休』の文字が書かれていた。

(仁義とか人情ってもんがあるだろうがよぉ!)

 雄一は一人、地団駄を踏んだ。


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「もう一つの悪い方は?」

 会議室に戻った雄一は、息を切らしながら三浦部長に問い掛けた。

「うむ。実はスケジュールのことなんだが......」

 三浦部長は申し訳なさそうに続けた。

「システムのリリースが2ヶ月早まった。つまり、11月1日から9月1日になった」
「えっ? そんな......無理ですよ」
「分かっている」

 弱り切った顔をした三浦部長に対して、雄一は問いただした。

「何故です? 何故早まったんですか?」
「OGR.comって会社知ってるか?」
「はい。ネット通販とかで利用したことがあります」

 雄一はOGR.comが運営している動画サイトで、アダルト動画見放題プランに登録していることまでは言わなかった。

「そこがどうかしたんですか?」
「OGR.comとシーバードはネットサービス事業でライバル関係にある。実はOGR.comがうちと同じ結婚情報サービス事業を始めようとしている。そのシステムのリリースが10月1日だっていうんだよ」

(それでか......)

「つまり、ライバルとの競争に遅れをとりたくないから、システムのリニューアルを急ぎたいってことですね」
「そうだ」
「でも、そのスケジュールじゃ無理ですよ」

 スケジュール的には今からリリースまで重要かつ遅れが許されないイベントが目白押しだ。
 来月搬入される本番サーバの構築や性能確認そして、シナリオテスト。
 厄介な顧客の受入テストもある。
 寺山などのシステム利用者に使ってもらい、要望や使い勝手を評価してもらう。
 そこで何かあれば対応する必要がある。
 そして全てのテストが終われば、最後の仕上げとして現行システムから新システムへの移行もある。
 もともとのスケジュールでも厳しいのに、これ以上短くするのはあり得ないことだった。

「君たちはいつも何時に帰ってる?」
「え? 19時から20時位ですが......」
「まだ余裕ありそうだな」

 三浦部長の言いたいことは分かる。
 だが、長い目で見れば過度の残業で疲弊することはシステムの品質を落とすことに繋がるのだった。

「働いた分は出せる様に私から上に話しておく。一括請負、例えば谷中さんや池江さんのような請負契約の場合は期間が短くなった分、契約金は見直させてもらう。君の様な準委任契約の場合は残業した分を全て払うから」
「だからって......無制限に残業した場合のプロジェクトの費用はどうなるんです?」

 雄一は自分で問いを投げ掛けておきながら、気付いた。
 リリースが2ヶ月早まるということは、2ヶ月分の人件費は払う必要が無い。
 それに田原達のチームも抜ける。
 三浦部長は、その浮いた分で残ったメンバーの残業代を賄うことが出来ると踏んでいるのだろう。
 プロジェクトマネージャーである雄一は、現状の人員、費用、スケジュールについて理解しているつもりだった。
 しかし突然、あと3ヶ月で作れば良い物を急に1ヶ月で作れと言われて、どう人員を配置しスケジュールを組み直せば良いか分からなかった。

「......増員は出来ないのでしょうか?」
「人を増やせばこなせるなんて、そんな単純な話ではないと思うが」
「三浦部長は単純に新しい人を雇うより今いる人達でこなす方が安上がりだから、そう言ってるんでしょ?」

 雄一は食い下がった。
 何に対しても言いなりでは、プロジェクトマネージャーをやっている意味が無い。

「私はそういう意味で言ってるんじゃないんだよ」

 三浦部長は眉間にしわを寄せ、諭すようにこう言った。

「君もこの業界で数年働いて来たから経験しただろうと思うが、人を育てるのは時間が掛かるものなんだ」

 そして、こう続けた。

「だから、新しい人間を今から入れて一から慣れてもらうのには時間が掛かるんだよ。現行メンバーが新メンバーの教育に充てられるのも時間のロスになる。しかも、そうして育てた新メンバーがこのプロジェクトに適しているかどうかは分からないんだよ。そんな賭けをするより、今いるメンバーをフル活用して乗り切る方がプロジェクトのためになると思うんだ」
「くっ......」

 雄一は三浦部長の正論に呻くだけだった。

「すいません......。この件については一旦、メンバーと話させてください」
「話すも何も、もう決まったことだ」

 三浦部長はもう腹を決めているようだ。
 雄一に対しても、そうしろと強要するかのように腕を組み口元を引き締めている。


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 同じ頃、キャロット情報ブレーンの会議室にて。

「本プロジェクトのマネージャーを務めております、安田です。今日はお越しいただき、ありがとうございます」

 桜子はそう言うと、目の前の男に名刺を差し出した。
 名刺にはこう書かれていた。

  キャロット情報ブレーン株式会社 取締役副社長 安田桜子

「いえ、こちらこそわざわざお呼びしていただき、ありがとうございます」

 男は名刺を差し出した。
 名刺にはこう書かれていた。

  ハロンテクノロジー株式会社 代表取締役社長 田原清

「社長さんなんですか」
「ええ......まあ。社員7人ほどの小さな会社ですが」

 田原は表情を変えずに応えた。
 IT業界の小さな会社の社長は、自ら営業をし社員と共に現場に入って仕事をすることもある。
 その他にも、田原は立ち上げたばかりの会社の事務、社員管理なども行い多忙を極めていた。
 そんな中での面談だった。

「仕事の内容としてはOGR.comさんの結婚情報サービスシステムの開発になります」

 桜子の説明を、田原は黙って聞いている。

「リリースは10月1日。現在開発、単体、結合テストが完了し、これから本番環境構築、性能測定、システムテスト、顧客への受入テスト、最後にリリースに向けての作業になります。藤澤君、スケジュール表見せてあげて」

 指示された藤澤はバインダを取り出し、折りたたまれているスケジュール表を開いて見せた。

「あの......」
「なんでしょう? 田原さん」
「本当にメンバー全員を受け入れてくれるんでしょうか?」

 桜子は切れ長の目を細め、笑顔でこう答えた。

「我がプロジェクトではインフラ要員が不足しています。開発がひと段落しシステム全体の評価段階に入った今、インフラ専任者を増強していかないと、このタイトなスケジュールに間に合わないと考えています。ですから、田原さん率いるハロンテクノロジーには是非、我がプロジェクトで活躍していただきたいのです」

 桜子から期待の言葉を掛けられた田原は頷いた。
 彼は顔を上げると、こう問い掛けた。

「それだけじゃないでしょ?」
「それだけとは?」
「知らん振りしないで下さい。私が今同じようなシステムでインフラに携わってるのを知っててオファーを掛けたんでしょ?」

 田原の口の端がニヤリと吊り上がっている。

「安田さん、あなたはどうしてそのことを知ったんですか?」
「どうしてって......田原さん、この業界意外に狭いのはご存じですよね。各案件の情報はこの地方都市に数千社ある中小IT企業の間で日々駆け巡っているんです。私があなたのことを知り、声を掛けたのは必然の結果なのですよ」

 桜子はそう答え、田原の目をじっと見た。
 藤澤は二人の緊迫したやり取りを目の当たりにして、息が詰まりそうになった。

「分かりました。ですが、そちらのオファーを受けるということは、我が社の社員一同、現行のプロジェクトを途中で抜けることになる」
「御社が抱えるリスクについては良く理解しています。ですから契約については......」

 桜子はそう言うと、契約書を卓の上に置いた。
 藤澤はそこに書かれている金額に驚いた。
 田原はそれを手に取り、こう言った。

「分かりました」


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 藤澤はプロジェクトルームで仕事をしながら思った。
 相変わらず酷い状況だが、ある人の登場で変わりつつあった。
 その人の名は、安田桜子。
 自分と同じ、元ステイヤーシステムの社員だ。
 藤澤は記憶を辿っても彼女が該社にいたことを思い出せなかった。
 それくらい、藤澤がステイヤーシステムにいた時期が短かったということだが。
 彼女がキャロット情報ブレーンに入社し、自分と出会ってから二週間が経った。
 突然引っぱたかれた頬が今も痛む。
 そんな彼女は、今ではこのプロジェクトのプロジェクトマネージャーになっていた。

つづく

登場人物などの各種設定

Comment(6)

コメント

桜子さんが一番

藤澤君・・・桜子さんを思い出せないなんて。ちょっと手が早いのが玉に瑕だけどこんな美人忘れないっしょw普通w

VBA使い

レク「リエ」ーション


誰も文句が言「え」ないのだった。


インフラ「専」任者を増強していかないと


「どちらから聞きたい?」
→「悪い」というデータしか無いレコード2件を Order by できるわけねーだろ(笑)


桜子さん、ブラックキャロットの中でいったいどんな立ち回りをしてPMになったんだ(;゚Д゚)

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


藤澤は入社初日に常駐先に派遣されて、社内にいたのは面談の時くらいでした。
歓迎会をやろうとした矢先に退職代行で辞めたという設定です。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


>Order by
並べるとマシな悪い方が先に来ます。

>PMになったんだ(;゚Д゚)

得意の無双で何でもありな展開で、いつの間にかなってることをこの後を書きます。

foo

> 桜子はそう言うと、契約書を卓の上に置いた。
> 藤澤はそこに書かれている金額に驚いた。

桜子は雄一のいる現場から、田原達をカネにモノを言わせて引っこ抜いたみたいだが、桜子は一体どういう絵を描いているのやら。これだと、一見シーバードから企業秘密を担当者ごとブッコ抜いて、松永達を得させるだけの作戦にも見えるが……? 推理を進めてみたいが、次回以降のパズルのピースが必要か、この状況だと。

湯二

fooさん。

コメントありがとうございます。

色々と推測ありがとうございます。
今のところ、結果だけ載せてこの後、つらつらと種明かしな感じです。
なんで敵に加担してるの?
とか色々ありますが、やはりそれなりの理由があってのことなのです。
ここにそれを書くと、ネタがバレてしまうので書けないのは残念です。

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