常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第十七話 Break the lifeline

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 開発リーダーの近藤は、キャロット情報ブレーンの社員だ。
 藤澤は彼の後に付いて会議室に入った。
 近藤は小脇に抱えていたバインダを卓の上に置き、こう促した。

「座って」

 藤澤は近藤の向かいに座った。
 近藤の目は酷使し過ぎのせいか充血していたし、クマも出来ていた。
 見たとこ30代前半の男で手足は細いが腹だけが樽のように出ている。
 長めの黒い髪は後ろでちょこんと束ねられている。

「藤澤君、君に彼女はいるかね?」
「は、はい」

 こうして面と向かって話すのが初めてなのに、いきなりプライベートのことを突っ込まれて少々驚いたが、正直に答えた。

「じゃ、君にこういうシステムは関係ないか」

 そう言うとバインダを開いた。

<結婚情報サービス会員管理システム開発プロジェクト>

 要件定義書の表紙にはそう書かれていた。

「プロジェクトについて説明する」

 ページをめくりながら、システムの概要について話し始めた。
 顧客であるOGR.comはインターネットサービスを展開するニッホン国のIT企業である。
 同業界一位のシーバード社とはライバル関係にある。
 該社が今年の10月から結婚情報サービス業を始めようとしている。
 ついては運営していくうえでサービスを提供しかつ、会員を管理するシステムが必要になった。
 そこで急遽、人が集められプロジェクトが結成された。
 システム開発を請け負ったのは目黒ソフトウエア工業。
 キャロット情報ブレーンは体制的にはその下に位置していた。
 説明を聞きながら藤澤はふと思った。
 ステイヤーシステムの時、同じようなシステムに携わったな、と。
 巡り巡って結局同じ様なシステムに辿り着いたということか。
 懐かしさと同時に、今までの足掻きは何だったのかと、藤澤は徒労を感じた。
 昔観たCUBEという映画を思い出した。
 正方形の部屋が沢山ある異空間に閉じ込められた主人公たちが、右往左往しながら仲間割れしたり犠牲を出しながら脱出を試みるといった内容だった。
 結局、辿り着いた結論が『スタート地点の部屋にいればいい』というもので、正に今の自分と同じ結論だったのだ。
 この映画の表現していることと、今の自分の思っていることが結び付き、この世の真理みたいなもの感ぜずにはいられないのだった。

「そういえば君はシーバードの同じようなシステムに関わっていたそうじゃないか。たった一週間くらいのようだが」

 近藤は思い出したかのように言った。
 一応、業務経歴書に目は通してくれているようだ。

「はい」
「ま、同じようなシステムだと思ってくれ」

 同じ業界のライバルであるシーバードに対抗してOGR.comはこの事業に参入することを決めたらしい。
 シーバードのシステムは今年11月1日にリニューアルされる。
 OGR.comはそれに先駆けること10月1日に、サービス開始とシステムをリリースさせることが目標だった。
 システム全体の構成や流れはシーバードのそれと、ところどころ違いがある。

(AIを使わないんだ)

 藤澤は説明を受けながらそう思った。
 大きく異なるのが、シーバードは高価なAIによるマッチングを売りにしているが、OGR.comは単純なルールベースによるもので対応しようとしていた。
 その代わり、シーバードよりも安い会員料を売りにしようとしていた。
 シーバードは営業店で対面という形でサポートを行うが、OGR.comは営業店や相談員といった人員を配置せず、あくまでネットだけで会員登録から活動のサポートまで行うようだ。 
 最低限の機能だけのシステムと人を抑えることによってコストカットを実現出来た。
 そのせいか、藤澤はOGR.comのそれとシーバードのそれとを比べた時、OGR.comの方が二段、三段格落ちしたような印象を持った。
 それでも構築しなければいけないものは山ほどある。
 現在、要件定義から詳細設計まで終わり開発に入っている。
 細かなものまで含めると画面数は100もある。
 バッチは30ほどある。
 来週には7月になる。
 つまり10月のカットオーバーまでに3ヶ月しかないのだった。
 藤澤はプロジェクトルームにいた人間の顔を思い出した。
 生気を失い目の前のことにしか気が向かない状態になっている理由が分かった。
 全ては、こなさなければ行けない物量と、それに見合わない短納期に追い詰められていたのだった。

「これが君のスケジュールね」

 近藤は画面名と日程が書かれた用紙を差し出した。

(逃げたい......)

 藤澤は自分に割り当てられた画面数を見てそう思った。
 一か月で10画面を作り単体テストを完了させる。
 それが彼に与えられたミッションだった。
 単純に1画面あたり2日の予定で線が引かれている。
 ざっと設計書を見てみたが、2日で終わりそうもない画面もある。
 例えば、項目数が50個も在り、かつ登録、削除、更新、参照といった各種ボタンがフルに揃っている詰め込み過ぎな画面もあったりした。

「すいません、近藤さん」
「何だ?」
「俺はORACLEもJAVAも初心者レベルで、SQLはGROUP BYの使い方だって良く把握していません。そんな俺にこれだけの画面を依頼されてもまず期限までには無理ですよ。他の人に依頼する方がプロジェクトのスケジュールにも影響がないのでは?」

 あくまで弱音ではなくプロジェクトのことを考えていますよ、という物言いで自分は身を引きたいということをアピールした。
 来たばっかりなんだからもう少しソフトなものからスタートさせてくれ。
 藤澤はこのハード目な設定に最初から逃げ腰だった。

「え? でも藤澤君。業務経歴書にORACLEもJAVAも出来るって書いてあるよね」
「だからそれは......」

 松永にアドバイスされて多少盛られた経歴を提出した。
 それが彼にとって裏目に出ていた。

「嘘ついてたの?」
「だからぁ......」

 しどろもどろの藤澤に救いの手を差し出すかのような笑顔で近藤はこう言った。

「大丈夫。分からないことはそこの本で調べればいいし」

 彼の指差す先にあるマガジンラックにはJAVAの本が並んでいた。

「それでも分かんなかったらその辺の人に訊けばいい」

 だが、職場は人に訊いて答えが返って来そうな雰囲気では無かった。

「それに、いざとなればバッファとして土日も取ってあるから有効活用していいよ」

 つまり、初っ端から土日休みなど無いのだ。
 藤澤は目の前が真っ暗になると同時に、また例の癖が心の底から湧いてくるのを感じた。


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「そんなのブレーカ落として水止めてやれば一発で出て来るよ」

 桜子はコーヒーを啜るとそう言った。
 秋華のことで困り果てた雄一はその日、自社に戻り桜子に相談したのだった。

「そんな強引な......」
「だって説得したって出てこないんでしょ。そんな我がまま娘にはライフラインを断つ。これで完璧」

 雄一は桜子のことを相変わらずだなと思った。
 その案は確かにありだと思う。
 だが、それは雄一が何とも思っていない相手に限る。
 雄一は秋華に嫌われたくない。
 だから、そんな強権発動な手は打つことが出来ないのだった。

「何? そんな浮かない顔して。私の名案に不満があるの?」
「いや......あまりに人道的じゃないというか......」
「あんたこの期に及んでまだそんなこと言ってんの? 今、プロジェクトの進捗が遅れそうな緊急事態なんでしょうが!」
「はい......」
「子供だろうが何だろうが仕事する上では対等よ。その娘が仕事をしないのなら、させるように仕向けるのがPMである有馬君の仕事なんだよ」

 桜子は切れ長の目を鋭く光らせた。
 だけど、秋華に強引な手は使いたくない。

「......なるほど」

 桜子は合点がいったように呟き、長い黒髪をかき上げた。
 自然に顎が上がる。
 小さな額が蛍光灯に照らされた。

「このロリコン」
「な、何ですか急に」

 雄一は慌てふためいた。
 その様子を見た桜子は呆れ顔でため息をつき、

「君は分かり易いなぁ」

 そう言ってこう続けた。

「その娘は、何だっけ? セクレタリアトだっけ? そのバンドのCD持ってるんでしょ?」
「はい。大音量で流してました」
「確か、あんたの知り合いがいるバンドだよね」

 かつてキングジョージで活動を共にしていたスズカのことだ。

「ま、十中八九この方法で出てくると思うよ」
「それってもしかして......」
「一番の難関は、君の知り合いが協力してくれるかどうかだね」

 この作戦を桜子は『北風と太陽作戦』と名付けた。

「ありがとうございます。けど......」
「けど、なに?」
「どっちかっていうと、天岩戸作戦じゃないですか?」
「何それ?」
「知らないんですか? その昔、天照大御神が......」
「あ~もういい。分かんない」

(この人、技術以外のことはほんと興味ないんだな)

 今度は雄一が呆れ顔になった。

「ところで、藤澤の件どうなりました?」
「ん......ああ......まあまあだよ」

 桜子の歯切れが悪くなった。
 雄一は彼女の様子が急に変わったと思った。

「いつも話を聞いてもらってばかりだから......こんな俺だけど遠慮なく相談してください」

 触れてはならない部分に刺激を与えたのかと不安になり、後輩でありながらつい差し出がましいことを言ってしまった。

「うん、ありがと」


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 スズカは果たして来るのだろうか。

 雄一は半信半疑だった。
 スタジオにてドラムセットの前に座り、待つ。
 正面にはギターを弾いているリュウジと、ベースをチューニングをしているツヨシがいる。
 これにスズカがはまるとかつての仲間が揃う。
 彼女に助けて欲しいとメールしたのは昨日の夜のことだ。

「秋華はセクレタリアトのファンらしくて、ライブもよく行ってるみたいです」

 里野にも裏を取った。
 あの全てを寄せ付けまいとして作られた爆音の壁。
 秋華がセクレタリアトのファンで、中でもスズカの大ファンだったとは。
 雄一は、かつてスズカとバンド活動していたことを里野に言いそうになって思いとどまった。
 変に期待させてダメだった時、ガッカリさせたくない。

「大丈夫。あいつは来てくれるよ。返事が無い時はいつもOKだったじゃないか」

 指慣らしなのか、リュウジがピロピロとライトハンド奏法の練習をしながら励ましてくれた。

「素っ気ないのが、あいつの平常運転だからな」

 チョッパーの練習をしながらツヨシも励ましてくれた。

「ああ」

 雄一はスティックをスネアに向かって振り下ろした。
 スコーンと乾いた音が空気を貫通するように響いた。
 3人は顔を見合わせると、練習を始めた。
 それぞれの譜面台にはセクレタリアトの楽曲のスコアが置かれている。
 キングジョージの曲じゃないのが悔しい。
 だが、仕方ない。
 秋華をおびき出すためには、彼女がファンだと公言しているセクレタリアトで勝負するしかなかった。

(ムズイな......)

 練習すればするほどセクレタリアトの曲が難解だということに気付かされる。
 プログレみたいに変拍子やポリリズムが多用されている。
 バスドラムが2つあることを前提に作られている曲はツインペダルで対応した。
 余り使ったことが無いツインペダルで16分を連打するのは慣れるのに時間が掛かる。
 完コピは無理だと思った。
 今の実力で出来ないフレーズは簡単なものに崩していった。
 他のメンバーもあまりの難しさに、雄一と同じ考えに至ったのだろう。
 元の楽曲とは程遠い、ペラペラな演奏になっていった。

(こりゃ、ますますスズカの力が必要だな)

 雄一は待ち焦がれていた。
 時計の針は21時30分を指していた。
 連絡した時間をとっくに過ぎている。
 この作戦をやると決めた時から、セクレタリアトのホームページでスズカのスケジュールは調べた。
 彼女は今、ニューアルバムのプロモーションで雄一の住むこの地方都市にも来ている。
 3日ほど滞在し、テレビや、ラジオ番組に主演することになっていた。

バキィッ!

 シンバルを叩いた時、スティックが折れた。
 木くずを舞わせながら、扉の方に折れた先が飛んで行く。

「あ」

 丁度その時、扉が開き隙間から銀髪がチラリと見えた。

つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

>「そんなのブレーカ落として水止めてやれば一発で出て来るよ」
さすが桜子さんw。こうゆうの待ってましたw

匿名

北風と太陽作戦にこれ以上ないほどの違和感がある
天岩戸作戦ならわかるけど

VBA使い

人を抑える「に」ことによって


木くず「を」舞わせながら、


Break the lifeline
→最初、藤澤くんの境遇のことかと思ってゾッとした


元の楽曲とは程遠い、ペラペラな演奏になっていった。
→そこに、例のマスク女が参入し、元の楽曲をも凌ぐ演奏になるんでしょうね。
ついでに、スティックが当たって帰ってしまったスズカの代わりにボーカルまでやったりして。

foo

このまま次回は秋華も交えて即興メタルバンド結成の予感。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。
やっぱそのキャラクターに合ったセリフですよね。
アイディアをくださった方に感謝です。

湯二

匿名さん。


コメントありがとうございます。

天岩戸の話、調べてみました。
なるほど、秋華の籠城している部屋がまさに天岩戸ですね。
外で宴会をしておびき出すというのも、何だか一致しています。
原因を作った人たちはスサノオといったところでしょうか。
ちょっと内容を変えました。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


藤澤くんの境遇もこの後、Breakします。


>例のマスク女が参入
マスク女の登場まで読まれているとは、私の頭の中はすっかり読まれてしまっていますね。
だいたい考えていることはそんな感じです。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


>即興メタルバンド
そういう場面をいっぱい書きたいのですが、脱線しすぎると話が進まないので割愛します。

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