常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第十三話 XXXX XXX!

»

 毎週水曜日は顧客とのワーキンググループが行われる。
 会場はシーバード社の10階会議室。
 出席者はPMである雄一、顧客側からは担当の三浦部長と情報システム部、経理部から一名、マリッジ事業部から二名ずつ参加する。
 顧客であるシーバードと元請けであるサガス・インフォメーションとでプロジェクトの進捗、作業範囲、費用の確認、連絡事項の展開などが会の目的である。
 ホワイトボードには『縁結びシステムプロジェクト・ワーキンググループ』と書かれている。

「では、始めます」

 司会の三浦部長が開会宣言をした。
 コの字型のテーブルに座るメンバーは軽くお辞儀した。

「じゃ、まず有馬さんから開発の進捗状況についてお願いします」
「はい。現在、進捗としてはリアルチーム、バッチチーム共に全体の40%です。今のところオンスケですが、来週、新開発サーバが搬入されるのでそちらの構築で多少工数を取られる予定です」
「7月中旬の結合テストには間に合いそうですか?」

 情シスの担当者である熊沢部長が質問する。

「はい。インフラチームが滞りなく環境構築してくれれば」
「開発は代替環境で行っているようですが、本来の開発環境で行わなくて問題ないのでしょうか?」
「はい。単体テストは本来の開発環境で行います。代替と本来の環境の違いはそこで修正します」
「なるほど」

 熊沢部長は雄一の説明に納得したようだ。
 だが、すぐにこう問い掛けて来た。

「色々と状況が分からないAIチームの方はどうですか?」

(やっぱ、訊かれるよな)

 誰しも面倒なものの報告は後回しにしがちだが、雄一もしっかりその法則は守っていた。

「電話で進捗会議に参加してもらえるように取り付けました。今度からは直接話が聞けるのでフォローもし易くなると思います」

 AIチームを擁するシロッコとサガスとの契約は、他のチームと異なるものだった。
 例えば、進捗会議には出席せずメールでの対応のみといったもの。
 進捗の遅れが出ていることを理由に、その辺りの契約を見直してもらったのだ。

「しかし、マッチングエンジンについては相当な遅れが出ているそうじゃないですか。電話で状況を聞いてどうフォローするつもりなんですか?」

 熊沢部長は具体的な対策を求めているようだ。
 シーバードの様々なシステムを管理する情シスの部長は、プロジェクトの管理に厳しかった。

「それは......」

 雄一はとりあえず状況だけ確認して対策はそれからだと思っていた。
 だが、熊沢部長は早急にこの場で返答を求めているようだ。

「あの......そんなにAIって必要なんでしょうか?」

 それまで黙っていたマリッジ事業部の担当者である女性が声を上げた。
 ベテラン相談員である寺山という女性だ。
 大仏パーマに厚化粧で、顔の真ん中に真っ赤な口紅を塗った唇がある。
 見たとこ50代といった感じだ。

「私たち相談員はお客様に詳しくヒアリングを行い、適切なアドバイスをし、これはと思うパートナーを紹介しています。それをAIに代替可能なのかが今も疑問なのです」

 彼女はそう言うと、隣に座る若い女性相談員の方を向き、同意を求めた。
 若い相談員は首を曖昧な感じで縦に動かした。

「ですが、要件定義の時からAIによるマッチング機能は決定事項ですし、それがシステムの売りなんですから......」

 と、雄一がそもそも論を言うと、彼女は反発した。

「そんなの現場の私たちに相談もなく、上層部で勝手に決めたことでしょうが。だいたい今のシステムだって使いにくいからほとんど使ってません。だから、私たちの知恵と努力で交際率や成婚率を上げてるんですよ。新しいシステムにAIが入ったからといって効率が上がるとは思えません」

 雄一はため息が出そうになった。

(いるんだよな......こういう元も子も無いこと言う人。今のやり方を変えたくないからって抗議するためにここに参加してるんだろうな)

「有馬さんは、コンピュータに結婚相手を選んでもらいたいですか?」
「は、はい?」

 雄一は不意を突かれた。

「戸惑っているところを見ると、あなたもAIなんかに大切な人を選んでもらいたくないんですよ」

 寺山の質問に頭が一瞬真っ白になっただけだったが、彼女はそうとは受け取っていないようだ。
 だが、寺山の言う人間のきめ細かい対応についての話を聞かされると、もしかしたらやはりAIより人間のほうが優れてるんじゃないかという気がしてくる。

「その人の希望通りの人を紹介するだけが仕事じゃないんですよ。私たちは結婚したい人の心を掘り下げることで、本当に合う人を探すのが仕事なんです。これはAIには出来ないと思います」

 将棋や囲碁はAIが勝つ時代だし、株の取引の一部はAIが担っている。
 将来的にほとんどの仕事が人間からAIに置き換わるのかもしれない。
 だが、この相手探しということに関しては予測がつかない人間の心を扱っている分、AIよりも人間のほうが優れているのかもしれない。
 ベテラン相談員の寺山の言葉はいちいち雄一の心に響いた。
 そのせいで、今回のリニューアルの根幹であるAIマッチングエンジンの必要性に揺らぎを感じたのは事実だった。

「キチンとしたメリットとデメリットを説明していただけないかしら。そんなんじゃ協力なんて出来ませんよ」

 雄一は何も発言が出来なかった。
 結局、次回のワーキンググループまでにAIチームの遅れをどう取り戻すのかと、寺山への説明は持ち帰りとなった。


---------------------------------------------------------------

 その日の夜20時。
 桜子に詫びを入れるため、雄一はコメダワラ珈琲店に来ていた。
 先について雑誌をめくっていると、ガランとドアベルが鳴り白い半袖ブラウスに黒のタイトスカートの桜子が入って来た。

「お待たせ」

 彼女は手を振りながら雄一の向かいに座った。
 表情は月曜のことを気にしているのかどうなのか分からない。
 つまり無表情だった。

「この前は弱音を吐いてすいませんでした」

 まずは頭を下げた。

「いいよ」

 雄一はその言葉に顔を上げると、目の前には笑顔の桜子がそこにいた。

「良かった~。ありがとうございます。ある意味、殴られるより泣かれるほうが怖かったですから」
「どういう意味?」
「い、いや、深い意味は......」

 余計なことを言ってしまったと思い、口に手を当てていると桜子は呆れた様子でこう言った。

「兎に角、今後は私の前で二度と弱音や愚痴を言わないこと。どうしてもの時は隠れてやりなさい」
「はい。大丈夫です。安田さんのためにだけじゃなく、自分のためにPMをやるって決心しましたから」

 桜子は腕を組み、無言で頷いた。

「君のせいで私はエンジニアに戻ったんだから。ちゃんと責任取りなさいね」

 責任--。
 その言葉に雄一はゾクリと来た。
 つい昼間に成婚だの合う人だのの話をしていたので、余計に言葉の裏を勘ぐってしまい一人ゾクゾクするのだった。

「バカ」

 そう言われ、目が覚めた。

「お待たせしました」

 二人の前に珈琲が置かれる。

「ところで安田さん。AIに詳しいですか?」
「え?」

 雄一はAIチームのことと今日の寺山とのやり取りについて話した。

「AIで相手探しかぁ......面白いね」
「仕事でやってたら別に面白くないですよ」
「その人はAIより人間の方が優れてるって言ってるけど、よっぽど自分の仕事に自信があるんでしょうね」

 桜子は珈琲を一口啜ると、こう続けた。

「何度かAIブームは起きたけど、今回のは割と本物っぽいわ。その理由としては、各人がスマホやタブレットなんかのモバイル端末を持ったことが一つ。そして、大容量のデータ解析が可能なサーバ技術の発達が一つ」
「つまり......どういうことですか?」
「大量のデータを集めて分析出来る基盤が整ったってこと」

 ネット通販の購買データを吸い上げることで、個人におススメを紹介するショッピングサイト。
 道行く人々のスマホデータから位置情報を吸い取り、その行動パターンを分析し適切な場所に出店計画を立てる飲食業。
 スマホで決済されたデータから何が売れているのかを、天候、季節、年齢、性別、時間帯ごとに分析し、仕入れのタイミングを割り出す小売業。
 渋滞情報をやり取りし最適な経路を導き出すカーナビ。

「こういったことって、昔のAIブームの時は無理だったの。だから一過性のもので終わった」
「なるほど。勉強する元データが豊富でなければ、AIも頭が良くなれませんからね」
「今のAIはその問題をクリア出来ているし今後も発展していくと思うのよ。スマホ持ってるみんながセッセと情報提供してくれるからね」

 今回のプロジェクトで使用されるAIは、登録者のデータを基に適切な相手を決定するものだ。
 桜子の言うことが正しければ、そのデータが多ければ多いほど精度は上がるはずだ。

「ま、AIが大量のデータを解析して出した結果と相談員の経験と知識が出した結果、どっちが優れていたのかは、付き合った者同士しか分からないけどね」
「確かに......」
「どこが提案したのか知らなけど、AIによるマッチングって言うと今時だし大衆にウケがいいから運営会社も予算を組んだんでしょ」

 桜子はプロジェクトでのAIの使い方についてはどちらでもない意見のようだ。
 「これだけは言っておく」と言い、最後にこう付け加えた。

「万能なものなんて世の中にはないから。AIでも人間でも」


---------------------------------------------------------------

 翌日朝9時。
 雄一はシロッコ社を訪問した。
 三浦部長には一言「PMになったので挨拶しに行く」と伝えた。
 そのついでに作業状況も聞こうと思った。
 現場から歩くこと10分、都心から少し外れた海が見える場所にシロッコ社の事務所はあった。
 二階建ての小さな自社ビルだった。
 事前に電話をしていたので、すんなりと受付から中に通された。
 会議室で担当者を待つように言われ、お茶を出される。

「お待たせしました」

 低い渋めの声がした。
 会議室の扉が開き、髭面の男が入って来た。
 パーマが掛かった茶髪で長身。
 恐らく40代くらいだろうが、細身の黒スーツで若く見える。

「社長の里野です」

 名刺を渡された。
 雄一も名乗り名刺を渡す。

「開発リーダーの部屋に案内します」

 その男に案内され開発部屋へ行く。
 螺旋階段を上がり、二階へ。
 廊下の突き当りにある部屋まで付いて行く。

「秋華、入るぞ」

 里野社長はコンコンと二回ノックし、ドアノブを回した。
 雄一の瞳に、背を向け事務机に向かう女性の姿が映る。
 白いソックス、紺色のスカート、紺色の上着に、紺色の襟が乗っていて白いラインが数本入っている。
 黒い髪を左右二つに分けてそれぞれ結んでいる。
 「はい」と振り返ったのは、どう見ても高校生くらいの女の子だった。


---------------------------------------------------------------

 同じ頃、ログアウトの社内にて。

「困ったなぁ、この短期間で二社目なんて私も初めてですよ」

 松永は腕を組み、苦笑いを浮かべた。
 それを向かいに座る藤澤は渋い顔で見た。

「何とかしてくれませんか」
「はい......何とかするのが私の仕事ではありますが......藤澤さん。私にもメンツってもんがあるんですよ。立て続けに私と付き合いのある会社を裏切る......否、辞めてもらっては私も先方に合わす顔がなくってね」

 松永は眉を垂れ下げ情けない表情を作って、分かってくれよと言わんばかりに頭を下げた。
 藤澤は今週月曜から新しい会社に勤め始めた。
 だが、わずか二日後の水曜日にもう辞めることを決心してここにいる。

「仕方ないじゃないですか! あの社長はこちらの小さなミスに何度も説教を加え、挙句の果てには俺のスキルでは到底出来ない高度なプログラムの作成を依頼してくる。出来なければ徹夜してもやれだなんて滅茶苦茶ですよ」
「藤澤さん。相手の悪いところばかり見つけようとするから、そういうことが自分の中で許せなくなるんですよ。小さなミスを直したいから説教をするのです。難しい仕事を与えるのは成長してほしいからです」
「とか言って、相手の勝手を都合良く受け取って馬鹿を見るのはこっちです。俺は入ったばっかりだしこの業界の経験は浅い。丁寧に指導してもらわねば困ります」

 松永は黙って聞いている。
 それをいいことに藤澤は続けた。

「だいたい、松永さん。俺はあんたに大金を払ってるんだ。それならそれでもっと優良なところを紹介してくださいよ。今まで連れて行かれたところは全部ブラックも甚だしい、それ以上の闇物件ばかりだ。何とかしてくださいよ」

 松永はそれでも黙っている。
 強気の藤澤は次の罵倒の言葉を頭に思い浮かべた。
 それを発しようとした時、

「XXXX XXX!」

 目の前の松永が、汚い言葉を呟いた。
 いつも明るく穏やかな彼の口から信じられない言葉が続く。

「ぶち殺すぞ。このゴミクズが」

つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

最近は退職するのに代行ってホントにあるんですね。
私は古いタイプ?の人間ですので藤沢君の方に問題があるように感じてしまいます。。。ジェネレーションギャップでしょうか。

今週の桜子さんは黒のタイトスカートですか。会ってみたいw
(妄想ばかりが膨らみますw)

VBA使い

頭が一瞬真っ白「に」なっただけだったが、


今まで連れて行「かれた」ところは


「あの......そんなにAIって必要なんでしょうか?」
→プロジェクト途中で根本の所に疑問が投げ掛けられること、あるある


「キチンとしたメリットとデメリットを説明していただけないかしら。」
→これ、雄一の仕事?
シーバードから言い出したのか、サガスからの提案なのか。

江戸川

ざわ・・・ざわ・・・・

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


代行があるってことを知ったのがこの小説を書くきっかけになってます。
警鐘を鳴らす意味で(偉そう)書いてます。
が、ブラックで辞めさせてくれないような会社に対しては、セーフティネットの役割も持っているのかなと思ってたりもします。
ただ、弁護士がいるところに依頼するのがお金がかかるけどいいのかなと思います。

>今週の桜子さんは黒のタイトスカートですか。会ってみたいw

ラノベだとこういう場面で、バーンと挿絵なんかが入るんでしょうな。

湯二

VBA使いさん。


校正とコメントありがとうございます。


あるあるネタを探して、プロジェクトマネージャーの教科書を読んでます。
あと職場はネタの宝庫です。


>→これ、雄一の仕事?

確かに。
雇われPMの雄一はAI導入のいきさつなんて知らないだろうし。
でもPMだから知っトク必要はあるんですよね。
ここは相談員のおばさんの言いがかりってことにしておくとして、上手いことその辺のエピソードを。。。

湯二

江戸川さん。


コメントありがとうございます。


次回からは希望の船編!

foo

伏せ字の内容は大体見当が付いた。やはりこれはそのままは載せられんか。

> 警鐘を鳴らす意味で
俺は退職代行業賛成派だが、こういうストーリーのような視点も提起できるか。
退職代行業は現時点では法整備も十分行き届いているとも言いがたいし、そこにつけこむ輩が出てこないとも限らないし。

湯二

fooさん。

コメントありがとうございます。


>伏せ字
やはりこの場所では、、、


代行業者があるというニュースを見て、常識なんて時とともに変わるものなんだなと思いました。
辞める時は自分の口で言うべきだと思いますが、会社によっては恐怖でそれも出来ない場合もあるのかもしれません。
そんな時、代行があれば救われる命があるのかもしれません。
おっしゃる通り、なんでもありにしないように、協定やら法整備は必要でしょう。
この小説みたいなのはさすがに出ないとは思うけど。

コメントを投稿する