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【小説 しょっぱいマネージャー】第十話 闇営業

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「何でも好きな物頼んでください」

 雄一はメニューを谷中に手渡した。
 二人は会議室から、職場近くの居酒屋『養父の瀧』に席を移した。

「じゃ、取りあえずビールで」

 注文して数分経ってからキンキンに冷えたビールが卓に置かれた。

「お疲れ様です」

 揃ってそう言い、ゴキンと乾杯をする。
 お互い一口飲んで一息つくと、谷中の方から口を開いた。

「野平部長の前にPMがいたのは知ってるでしょ?」
「はい」

 1月から4月までは要件定義と設計という上流工程が行われていた。
 その時のPMのことだ。
 雄一が5月のGW明けにプロジェクトに参画した時には既に退任していて会ったことも無い。

「その人、まあ名前は前川っていうんですけど、あの二人は前川さんを再びPMにしたいって考えてるんです」

 野平部長が公開処刑されたのも、雄一が追い落とされようとしているのも全て、そのPMを返り咲かせるためなのだろうか。

「そうなんですか......あの二人が言うことを聴くってことはよっぽど優秀な人だったんですね」
「前川さんはサガス・インフォメーションの社員で優秀なPMでした。あの人は数々のプロジェクトを優秀な成績で納め、あの人の元で働きたいというパートナー企業が沢山いたと聞いています。私もその一人でした」
「何でそんな優秀な人が外されたんですか? まさか、自分から辞めたとか?」
「いいえ」

 谷中は一息つくとこう言った。

「前川さんは闇営業がバレて、会社から懲戒処分を受けたんです」


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 藤澤の転職先であるYSホットラインサービスは、都心から離れた住宅街の中にあった。
 マンションの2LDKの1室をオフィス用に改修したと思われるその内装は、とてもIT企業のそれとは思えなかった。
 和室の一室にパソコンが3台雑然と置かれ、その内の1台しかネットに接続されていなかった。
 キャビネットなどの事務用品の類も無く、書類などは家庭用のラックなどに放り込まれている。
 面談でここに来た時から、自分の選択は間違っていたのではないかと早くも後悔していた。
 が、今更後にも引けないし住めば都との言葉を信じて今日まで5日間通った。
 だが、それももう限界に達していた。

「藤澤君、今日もよろしく頼むよ」

 社長である角田から声を掛けられたが、あえて返事をしなかった。

「何だそんな態度は?」

 角田社長はくたびれたスウエット姿だ。
 ここは社長の自宅でもあるのだ。

「こんなに遅くまで毎日、連絡待ち何て意味ないっすよ。ここは社長の家なんだから、あなたが連絡を受ければいいじゃないですか?」

 時計の針は既に24時を指していた。
 入社以来、藤澤はこの和室で朝9時から日付が変わるまで、毎日一人過ごしていた。

「私は明日朝が早いんだ。後藤君の連絡を受けるのが君の仕事なんだから、真面目にやってくれ。何なら泊ってくれてもいい」

 試用期間中の藤澤に残業代は出ないのだった。
 藤澤がここで与えられた仕事は主に二つ。
 まず、与えられたテキストでの研修と称した自主勉強だった。
 そしてもう一つは、別の現場で働く後藤という社員のサポート業務だった。

ブルルル。

 その後藤から電話が来た。

<今日は特にないよ>
「それなら、もう少し早く連絡してもらえませんか」
<すまん、すまん。こっちも忙しくて>

 電話は一方的に切られた。
 藤澤は拍子抜けするとともに、怒りが湧いて来た。
 やることが無いなら無いで、分かった時点ですぐに連絡して欲しかった。
 後藤は別の現場で本番環境に触れることが多いらしい。
 その現場の方針で、本番作業を行う際は作業内容や対象機器を記載した作業申請書を作成し運用監視室に提出する必要がある。
 そういった煩雑な事務作業を藤澤に電話で依頼していた。
 その依頼が来るまで、彼は何時までも帰ることも許されず待機させられたままだったのだ。

「社長!」
「何だ?」
「こんな働かせ方して、ブラックそのものじゃないですか?」
「贅沢なこと言ってんじゃないよ。本来なら行く当てのない君を松永さんがどうしてもと言うから雇ったんだよ。ちゃんと研修だってさせてるじゃないか?」
「今時、こんな使い古されたVBのテキストで研修は無いでしょ? しかも自習って! 講師くらい付けてくださいよ!」
「あのねぇ、私たちが若いころは一人で勉強したもんだよ。プログラミングが好きなら一人でも出来るはず」

 そう言い含められそうになった時、雄一の顔が浮かんだ。

(あの人は、荒っぽかったけどそれなりに色々と教えてくれたな)

 不意に懐かしさが湧いてくるとともに、今更戻れないという後悔の念も湧いて来た。

「せめて、後藤さんにもう少し早く連絡するように言ってくださいよ!」
「それは難しいな。彼の仕事は24時間対応で、いつ本番作業が入るか分からん」
「じゃ、せめて......」
「新人の頃は黙って仕事してればいいんだ!」

 強引に話を打ち切り、ドカドカと足音を立て自室に戻ろうとする角田社長の背中を睨みつけ、こう言った。

「こんな仕事やってられるかよ! あんた雇用主なら社員の事もうちょっと考えろや! 働き方改革って言葉も知らんのか!」

 角田社長は何も言わず、ピシャリと襖を閉めた。
 藤澤は決心した。


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 週明け。

「ははは。そんなことで悩んでたんですか?」
「は、はあ......」

 藤澤はYSホットラインサービスへの辞意を、松永に伝えた。
 松永はそれを笑顔で受け止めてくれた。

「では、代行の手続きは今回も私が行います。ただ......」
「ただ?」
「二回目以降は一回目と違ってちょっと費用が掛かるんですよ」

 そう言うと、料金表を取り出した。
 一回目、3000円だったのが、二回目以降、十万円になっている。

「そ、そんな......」
「そんなに驚かないでください。私も天職を見つけるための転職はどんどん奨めているが、辞められる側としては採用に掛かった費用が無駄になるという事なんです。特に私が紹介する企業さんは今後も我が社と付き合いがある。そう言う意味で、まあ謝罪の意味で接待も必要なんです。その為の費用が料金に含まれていると考えてください」
「は、はぁ......」

 結婚資金として貯めていた定期を切り崩すしかない。
 と思った時、脳裡に「名前どうする?」と笑顔で訊いて来る若葉(藤澤の彼女)の顔が浮かんだ。

「そんなに落胆しないでください。次は藤澤さんにもっとピッタリの企業さんを一緒に見つけましょう」

 松永は藤澤の肩にポンと手を置き、励ました。


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 同じころ、雄一は会議室で三浦部長と向かい合っていた。

「確かに。シーバード社は子会社であるサガス・インフォメーションをはじめ、全グループ企業に副業を認めているのは確かだ」

 終身雇用が崩れ、多様化が叫ばれている世の中において企業が社員の副業を容認し始めているのは必然の流れだった。
 特に大企業ほどその傾向が強く、聞いた話によると本業より副業の方が稼ぎがいいという事例もあるという。

「うちの場合は、他の業界での経験を本業でも活かしてもらいたいと考えている。つまりはシナジー効果を期待しているんだ」

 というもっともらしいことを三浦部長は口にするが、企業としては副業を認める姿勢を見せることで優秀な人材の流出を防ぎたいという保守的な側面もあった。

「なるほど。社員の副業に期待する割には、どこかのエンターテイメント企業みたいに、その管理はお粗末じゃないですか?」
「ん......何が言いたいんだ?」

 怪訝そうな表情を浮かべる三浦部長に、雄一はこう言った。

「前川さんの事ですよ」
「前川?」
「優秀なPMだったそうですね。あなたもこのままプロジェクトを続けさせたかった。ただ、前川さんの場合、副業を行っていくうえで反社会勢力との繋がりがあった。それを見抜いた時は後の祭り。もうずぶずぶの関係だった。企業としては見て見ぬふりは出来ない。だから......シーバードとしては......」

 一旦言葉を切り、こう言った。

「トカゲの尻尾みたいに切り捨てた」

 雄一は谷中との先週のやり取りを思い出した。


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「闇営業?」
「そう」

 谷中は頷くとこう続けた。

「前川さんは、管理も上手くて私たちを自由にさせてるようでキッチリ締めるところは締めていた。だからやり易かったんです。顧客に対してもハッキリとノーが言える人だったから本当に理想のPMでした。前川さんと何度か仕事したことがある池江さんや田原さんは、前川さんを信頼しきっていましたし、今回のプロジェクトも前川さんがPMだから張り切っていたんです」

 居酒屋の喧騒の中で、二人だけが神妙な顔で話し込んでいた。

「仕事が出来る人は外でも引く手あまたで、もちろん前川さんは副業もしていました。その中の一つに反社会勢力と繋がりのある会社があったんです」

 前川も最初はそんな会社だとは知らなかったらしい。

「副業で携わっているシステムが、どうやら関わってはいけないものだと分かった時はもう泥沼に足が嵌まった状態でした。抜けさせてくれと頭を下げても色々なことを知り過ぎた前川さんは執拗な脅しや懐柔とも取れる慰留を繰り返し受けました」

 つまりは、共犯者にさせられそうになったのだろう。

「遂に、前川さんは足を洗いました。ですが......」

 この先は言うのもおぞましいという感じで、谷中は口を開いた。

「抜けられた腹いせに、反社会勢力はこのプロジェクトが入っているビルに乗り込んで来たんです。まあ、流石に中には入って来ませんでしたが外で何時間もがなりたてて......」
「それで全てがバレた......と」
「はい」

 谷中は全てを語り終えると、グッとジョッキをあおった。

「今話したことは、前川さんが、私と池江さん、そして田原さんと最後に飲みに行った時に語った内容です」

 手の甲で口を拭きながらお代わりを注文する。

「......決めました」

 谷中は雄一を真っすぐ見ながらそう宣言した。

「もう戻ってこない人に期待したって仕方ないんです。今そこにいる、色々試行錯誤してくれる有馬さんに私は付いて行きますよ」


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「あれは仕方なかったんだ」

 三浦部長は吐き出すようにそう言った。

「それにしたって、副業を許しておきながらそれが反社会勢力と関わっていたからと言って切り捨てるというのは酷過ぎませんか? 元をただせば、個人個人の管理が行き届いていない状態で副業を認めた企業側に問題があるのではないかと思います」

 雄一は毅然と反論した。
 一見すると反社から報酬を受け取った個人にも問題はあるが、もっと根本的な部分に目を向ければそれを統括する企業の側にも問題はある。
 社員一人一人がどういった仕事を請け負おうとしているのか報告を受け、きめ細かく関わる会社の素性について客観的に調査すべきなのだ。
 それが出来ていなかったシーバードにも問題がある。

「確かにうちも非が無いことは無い。だがそれを認めてしまうわけにはいかないんだ。うちのような世に知れた企業が関わっているプロジェクトでそんな不祥事があっては、影響が大き過ぎる」
「だから切り捨てたんですね」

 三浦部長は黙り込んだ。

「多分、俺と同じ意見を池江さん、田原さんも持っているんです。だから、あれだけの実績を持った前川さんだけが悪者にされて切られたことを不服に思っている。だから、彼らは態度でそれを示しているんです」
「態度?」
「野平部長が何で倒れたのか、俺が何で彼らから厳しく当たられているのか、考えてみてくださいよ」

 顔の前に両手を組んで目をつむり、三浦部長は考え込んでいるようだ。

「分かった」

 目を見開き、こう続けた。

「この後の進捗会議は私も出よう。そして、彼らとしっかり向き合って話そう」

つづく

Comment(6)

コメント

桜子さんが一番

旬のネタ放り込んできましたね~w

匿名

作者さん、月のない夜は背後に気を付けてくださいね

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。

今回のシリーズは時事も少し取り入れようとしてます。

湯二

匿名さん。


忠告ありがとうございます。
しばらくは夜のジョギングを控えます。

foo

>  一回目、3000円だったのが、二回目以降、十万円になっている。

どんなエゲツない型ハメをしてくるかと思ったら、これはヒドい。初回のサービス料が格安だったのはこれが原因か。
あとはこれで利用者に転退職を繰り返させて借金を増やしていき、ケツの毛までむしり取ってタコ部屋or風呂屋送り、って寸法か。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


人間の欲は底が知れません。
だからこんなシステムが生まれました。
藤澤君は底なし沼にはまってしまいました。
唯一救われる方法は、本人が、気づくことなのです。

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