常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第九話 イレズミ事件

»

 桜子を悲しませたことを後悔した月曜日から、3日後の木曜日。

「谷中さん、ちょっと時間ありますか?」

 雄一は一人残業をする谷中を会議室に誘い出した。

「色々大変みたいですね」

 そう労いの言葉を掛けた。
 時計の針はもう22時を指している。

「ありがとうございます」

 谷中は頭を下げた。

「何か問題とか抱えてませんか?」
「問題......ですか......」

 顎に手を当て考え込んだ。
 代替開発環境が出来て、今週から開発フェーズに入った。

「いつも谷中さんだけ遅くまで残っているから、どうしたのかなと思って」

 他のチームはオンスケなのか定時には帰っている。
 そして、バッチチームのメンバー二人も帰っている。
 一人残された谷中だけが夜遅くまで仕事していた。
 雄一も遅くまで仕事しているのでその様子がよく分かった。

「何でも相談してくださいよ。俺はPMなんだから」

 と、笑顔で自身を親指で指し示した。


---------------------------------------------------------------

 昨日の午後9時。
 
 雄一がハイハットで刻むリズムに、ツヨシのベースが被さる。
 リズム隊の上でリュウジのギターには好きなように動いてもらう。
 3人組になったキングジョージは国道沿いのスタジオ『ポップロック』で練習していた。

「なんか、最近リズムが安定してるな」

 休憩室で、缶コーヒー片手にリュウジがそう言った。

「そうそう。俺もやり易かったよ」

 リュウジに同意を求められたツヨシもそう言った。

「ほ、ほんとか?」

 いつも走り過ぎると注意を受ける自分のプレイを評価された雄一は嬉しくなった。

「何かあったのか? 練習方法を変えたとか?」
「いや、練習のやり方はこれまで通りだ。家に帰ってルーディメンツを1時間。あとは曲に合わせてフィルインとか各リズムを一通り」

 雄一のようなマンション暮らしの住宅事情では、ドラムセットによる練習は行えない。
 これらのメニューは全てドラムパッドという疑似楽器で行われていた。
 だから生のドラムに接するのはスタジオ練習かライブの時だけであり、本物を前にしてこれまでの欲求不満を吐き出すように叩く。
 その興奮のせいで多少リズムが走ることもあった。

「まあ、最近は仕事が忙しいからこの限りでは無いけど」

 と、練習のことについて謙遜した。

「練習時間が少ないのに上手くなっているのは不思議だな」

 リュウジは煙草の煙を吐き出し、そう言った。
 話題にする程、雄一のプレイが良かったのだろう。
 それは裏を返せば今までの雄一のプレイが安定していなかったということだ。

「まぁ、強いて言うなら仕事内容が変わったくらいかな」
「ほほぅ」
「俺さ、PMになったんだよ」
「何だ? PMって?」
「プロジェクトマネージャー。つまり全体を管理する役になったんだ」
「そっか!」

 リュウジは手を叩いた。

「プレイヤーから管理者になったのがプレイに影響してるのかもな」
「なるほど、そうかも」

 リュウジとツヨシはして顔を見合わせ、納得しているようだ。

「どういうことだよ?」
「そのPMっていうのはメンバー一人一人の面倒を見る管理者なんだろ? だったら自分よりもメンバーのことを第一に考える。つまり、ドラムと一緒ってことじゃねぇか」

 楽曲の基礎となるリズムを刻むドラムは縁の下の力持ちでもあるが、同時にギターやボーカルなどの上物を引っ張る管理者でもあるのだ。
 ドラムのテンポやリズムが乱れれば上物だって乱れるし、逆にドラムがしっかりしていれば上物だって安心してプレイ出来る。

「PMに取り組む意識が、お前のプレイに影響を与えているのは間違いないな」

 リュウジは感心したように何度も頷いた。
 プロジェクトマネージャーとしてまだ日は浅いが、確かに上物であるリーダー達が動いてくれるために色々考えたし行動もして来た。
 それらは全てが上手く行ったわけでない。
 担当者だった頃とは異なる難しさを感じているが、その苦労した分がまさか自分のバンド活動に影響するとは思わなかった。

<<次はセクレタリアトでーす>>

 カウンターに備え付けてあるテレビからの音声に、一同振り返った。

「おっ、ミュージックステーショナリーだ」

 ツヨシがそう言った。
 民放の老舗音楽番組だ。
 画面には黒いスーツで統一したセクレタリアトのメンバー4人が階段を降りるところが映っている。
 中でも目を引くのはボーカルのスズカで、彼女は黒かった長い髪を銀色に染めていた。
 サングラスがトレードマークの司会のモリタさんが、スズカにマイクを向けた。

<<初登場だね。緊張してる?>>
<<......>>
<<デビューシングル、オリコン3位だって。すごいね>>
<<......>>

「スズカのやつ、相変わらず素っ気ないな」
「緊張してるんだろ」

 雄一をはじめ、スズカに捨てられたメンバー達は口々にテレビに向かって好き勝手言っている。
 GW明けにメジャーデビューしたセクレタリアトは、プロモーションも兼ねて破竹の勢いでテレビやラジオに出まくっている。
 その映像を見る度に、雄一は何だか置いてかれた様な苦い思いをするのだった。
 音楽番組はほとんどがカラオケであり楽器に関しては当て振りだということが唯一の救いだった。
 実際の演奏を目の当たりにして、嫉妬に狂うことは無い。

<<トリはイレズミの二人です>>

 北欧からやって来た女子高生二人のテクノポップDUOだ。
 アルバムの売上が全世界で1憶枚。
 今日はこの大物ゲストがニッホン初登場ということで、既にインターネットで話題になっていた。
 はっきり言って、セクレタリアトは影が薄かった。

「あれ? いない」

 ツヨシが画面を指さした。
 曲が始まるというのに、イレズミの為に組まれたセットに本人たちがいない。
 カメラが慌てた様子でモリタさんの方を映す。

<<イレズミが楽屋から出て来ません>>

 呆れた様子でそう言った。
 色々問題行動が目立つ彼女たちだったが、これもまた何かの悪い演出なのだろうか。
 長いCM明け、モリタさんはこう言った。

<<イレズミがとうとう楽屋から出て来ませんでした。そこでセクレタリアトに演奏してもらいます>>

 カメラがイレズミが踏むはずだったセットに立つセクレタリアトを映した。
 ドラムセットとアンプが用意されている。
 今回のゲストはアイドルなどのカラオケ対応の演者ばかりだった。
 時間を埋めるために曲が必要だが、同じ曲をもう一度カラオケでという訳には行かない。
 そこで、生演奏が出来るセクレタリアトに白羽の矢が立ったのだろう。
 突然のハプニングで緊張と不安が交錯する異様な雰囲気の中、曲紹介が終わらないうちに演奏が始まった。

「おおっ......」

 テレビのチャチなスピーカからでもその音圧が伝わって来て、思わず雄一は呻った。
 「大欅」で対バンした時よりもレベルが上がっている。
 本来なら登場するはずだったゲストの穴を埋めるべく急遽演奏することになったとは思えない程の、安定した乱れの無いプレイは雄一をして嫉妬を通り越して憧れすら感じさせていた。
 銀髪をなびかせながら歌うスズカは、雄一たちと過ごしていた時とは一線を画すほどの美しさと存在感を手に入れていた。
 モリタさんを始め、他の演者や観客も巻き込んで総立ちの大盛り上がりのうちに放送はブチッと終わった。
 しばらく三人共口も聞かず、ぼんやりとテレビを見ていた。

「やっぱ、すげえな......」

 ツヨシがポツリと言った。

「あ、ああ......。俺たちの手の届かないところに行きやがった」

 リュウジが震える手でタバコに火を着けた。

「俺......」

 雄一は興奮の中に希望を見出していた。

「PM、頑張ってみるよ」

 すぐさま立ち上がり、スタジオの扉を開けた。
 ドラムセットの前に座り、叩き出した。


---------------------------------------------------------------

「有馬さん......そう言って頂けるのは嬉しいんですが、あなただって色々大変なんじゃないんですか?」
「ま、まあ、そうですが」
「うちはうちで何とかやって行きますんで大丈夫です」

 谷中はそう言って話を打ち切り席を立とうとした。

「今のままじゃ、遅れを取り戻せませんよ」

 雄一が真顔で言うと、谷中の表情が硬くなった。

「谷中さんだけが夜22時過ぎまで残業してるのは何故なんです?」
「日中はメンバーの面倒を見ることで担当分が進まないんです。だからこうして残業して自分の分をやってます」
「それは嘘だ」
「え?」
「あなたは帰ったメンバーの遅れを取り戻すために残業してるんでしょ?」

 雄一は一枚の用紙を卓の上に置いた。
 ソースのバージョン管理ツールのスクリーンショットが印刷されている。

「プログラムの担当割り当て表からすると、例えばこの会員交際件数集計バッチの作成は藤田さんになっています。だが、このバッチのチェックアウト者は谷中さんになってるんですよ」

 印刷されたスクリーンショットを指差し、指摘した。
 証拠を突き付けられた谷中は言葉を飲み込んだ。

「あなたのチームメンバー二人は転職組で、この業界はまだ2年目。このプロジェクトの仕事をこなすにはスキルが圧倒的に足りない。でしょ?」
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
「PMとして、メンバーの業務経歴書に目を通し、スキルを把握しておくのは当然です」

 谷中はフーと息を吐くと、穏やかな顔でこう言った。

「隠しても無駄な様なので本当のことを言います。彼らは新人みたいなもんだから私が教えながらバッチを作ってもらってます。当然、日中は自分の分をやる時間はありません。そして、チームとしての遅れを取り戻すために定時後は彼らの分も対応しています」
「どうして彼らに残業をさせないんですか?」

 谷中は少し目を伏せて考え込んだ様子だったが、顔を上げるとこう言った。

「PMなら、私が所属するダート電機とサガスとの契約について知ってますよね。プログラミング工程は一括請けなんです。ただ実際の開発メンバーはうちの下請けに外注しているんです。彼らに残業させてでもノルマをこなさせたいのはやまやまです。だけど、彼らに際限なく残業させられるとうちとしては困るんです」

 当然、下請けの残業代はダート電機が払うことになる。
 それに歯止めがかからなければ最悪赤字だ。

「だから、こうして私が彼らの遅れをリカバリーしてるんですよ。私に関しては幾ら残業しても賃金に変わりはない。年俸制ですからね」
「そうは言っても、谷中さん一人じゃ遅れをリカバリーするどころか、無理し過ぎて体調を壊してしまいますよ」

 その言葉に彼は「ありがとう」と返事するも、

「でも他に方法なんてないんですよ」
「否、そんなことありません」
「え?」
「俺の移行チームとバッチチームを合体させて人的リソースを共有させるんです」

 人に関してはバッチチームはリーダーとメンバー合わせて3人。
 移行チームは、雄一と桂子の二人。
 雄一に関してはプロジェクトマネージャーも兼務になるので0.5人としても合わせて4.5人になる。
 単純に人が増えたからと言って進捗も比例するとは思えないが、これ以上遅れが拡がることは防げるはずだ。
 移行プログラムに関してはもう少し後から着手しても十分間に合うスケジュールだ。
 桂子に関してはスキルに疑問はあるが、氷河期からのリベンジを狙っている分やる気はあるはずだ。
 後は、藤澤が戻って来ることに期待を込めていた。

「そんなことしちゃっていいんですか?」
「何度も言う様に俺はこのプロジェクトのPMです。プロジェクトの問題を見つけたら対処する義務がある。そのために人を動かすことが出来るのはPMだけなんです。言い方を変えれば、皆さんが気持ちよく働くことが出来るように俺は引っ張って行くだけです」

 谷中は目を潤ませ何度も頭を下げた。

「ただ一つ、谷中さんにお願いがあります」
「何ですか? なんなりと」


---------------------------------------------------------------

 再び、昨日。

 バンド練習を終え、休憩室で雄一とメンバーは缶コーヒー片手に雑談していた。
 いい年の男3人が音楽以外で話すことと言えば、仕事の愚痴になる。

「メンバーが言うこと聞かないって? けどよ、ユーイチ。お前が担当者だった頃を考えて見ろよ。いちいち管理者の言う事なんて聞いてられなかっただろ?」

 リュウジにそう言われた雄一はかつて所属したプロジェクトの数々を思い出していた。
 帰ろうとしてるところに残業を強いられたり、障害対応で夜遅く呼びつけられたり、理不尽だと思うことも多々あった。
 だが、その時の管理者も今の雄一の様に思い悩みながらこれらの指示を出していたと思うと、今更ながら共感せざるを得ない。

「人間なんて立場が変われば言うことも変わるし、やることも変わる。それを相手に悟られちゃあ、動いてくれないよ」

 流石にリュウジは雄一より一足早く管理職を経験しているだけあって言うことにいちいち頷くところがある。

「けどよ、ユーイチの話を聞いてると、その歯向かってくるリーダー達って何かやり過ぎな感じもするよな。たかが作業の行き違いでそこまで管理者に責任を擦り付けて来るかな?」

 ツヨシがそう言うと、リュウジも頷きこう言った。

「そうだな。まるで......」
「おお」

 二人して顔を見合わせて黙り込んだ。

「何だよ、その続き! 詳しく」
「いや~、過去を蒸し返したくないし、なあ......」

 リュウジはツヨシに同意を求めた。

「泣きながら、また一緒にやろうって言ったのはどこのどいつだよ。俺たちにもう隠し事は無しだぜ」

 雄一にそう言われ、リュウジは仕方ないという感じで話し出した。

「その二人ってさ、きっとユーイチをPMから外したいんだよ」
「......そうか」
「俺たちさ、お前のことバンドから追い出したことあるだろ? だからその二人の行動がそこに繋がることも何となく分かるんだよ」
「つまり、どういうことだよ?」
「お前の下でやって行きたくないってことは、別のやつの下でやって行きたいってことなんじゃないかな」

 目の前のメンバー二人は「すまん」と頭を下げた。

「いや、俺はお前たちに礼を言いたいよ」


---------------------------------------------------------------

「これはプロジェクトをもっと円滑に運営するために、俺自身が知っておきたいことなんですが......」

 と、前置きしこう言った。

「池江さんと田原さんが、PMとして期待している人を教えてください」

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

俺たちにもう隠し事は「無し」だぜ


たった数話でここまで成長した雄一くん、尊敬します

湯二

VBA使いさん。


補完していただきありがとうございます。


>たった数話でここまで成長した雄一くん、尊敬します
主人公が成長しないと面白くないと思って、書いてます。

でも、展開早すぎるかな。。。

桜子さんが一番

「俺はこのプロジェクトにPMです。」→「俺はこのプロジェクトのPMです。」でしょうか?
桜子さんを救ってあげられるのも有馬君だけなんでしょうかね?
うらやましい・・・

湯二

桜子さんが一番さん。


コメント、校正ありがとうございます。


>桜子さんを救ってあげられるのも有馬君だけなんでしょうかね?
>うらやましい・・・

一応主役だし。
すれ違いながら近づいていく?みたいなベタな展開。。。
80年代のラブコメみたいで、うわっ、書いてて恥ずかしくなりそうです。


コメントを投稿する