常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 演・ジニア】第九話 リベンジXXXを利用して

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「最近パパの帰りが遅いからどうしたんだろうと思ってたんだけど、あなたと遊んでたんだね」

 大きな目でじっと礼奈のことを見つめた。

「パパって?」
「娘よ。あのコンピュータバカの。あっ、私はパパのこと影でそう呼んでる。戸田桃花っていいます。よろしく」

 早口でまくし立てるように自己紹介をして来た。
 桃花はターゲットと全く似ていなかった。
 母親に似たのだろうか。
 容姿は読者モデルレベルといったところか。
 学校内では相当モテていることだろう。
 だが、どうして礼奈がターゲットと付き合っている(振りではあるが)と分かったのだろう。

「最近、パパの帰りが遅いしママに嘘ついたりしてるみたいで怪しいから、今日こそ尻尾を掴んでやろうと会社を出て来た時からずっと付けてたの。そしたら案の定、あなたと一緒に飲み屋に入って行くの見たんだ」

 桃花は無言で礼奈にスマホを突き付けて来た。
 そこには二人が居酒屋に入って行く画像が映っていた。

「で、パパとどこまで進んでるんですか?」

 ズイッと詰め寄って来た。
 彼女の瞳がキラキラと輝いている。

「誤解です。わ......私は、戸田さんと同じ会社の同僚です。仕事で色々悩んでて......それで相談に乗ってもらってました」

 桃花は、苦し気に言い訳する礼奈を、頭のてっぺんから爪先まで眺めてこう言った。

「へぇ、根暗なパパでもこんな綺麗な人とお酒飲みにいけるんだね~。会社って面白そうなところ」

 顎に手を当て、感心したようにうんうん頷いている。
 目の前の女子高生を見て思った。
 会社からこの実太ラーメンまで尾行して来たということは、何かを掴んでいるということだろうか。
 不用意な発言は会社のことがバレてしまうと思い警戒していると、桃花は礼奈の先に立って歩き出した。

「ここじゃ何だから、ちょっとお茶でもしません?」


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 礼奈の前に珈琲が運ばれて来た。
 クリームを入れ掻き混ぜながら、どう弁解したものかと考えていると目の前に座っている桃花はシロノワールを食べ始めた。
 二人は駅前のコメダワラ珈琲店で向かい合っていた。
 桃花は唇に付いたソフトクリームを舌でペロリと拭うとこう言った。

「五月ってまだ夜はちょっと寒いじゃない。そんな中、居酒屋の前でパパとあなたがいつ出て来るか、今か今かとヤキモキしながら待ってたんだから。勘弁してよね。そしたらあなた一人が店から出て来た。それも泣きながら。で、失礼だけど電話してる内容も聴いちゃったの」
「電話?」
「そう。電話。『これ以上、人を騙したくありません』とか言ってたよね。それ聞いてピーンと来たんだ、私。この人、スパイかなんかだって。パパを騙すように誰かから依頼されたんだろうって思った。で、罪悪感でもうやめたくなったんだなって。この後、パパにしようかあなたにしようか迷ったけど、あなたの後を付けようと思ったの。パパを問い詰めるよりあなたについて行った方が面白そうだったから」

 桃花の瞳は話している間ずっと輝いていた。

「......何度も言いますけど、私はただの......」
「しらばっくれないでよ」

 向かいに座っている桃花が身を乗り出したかと思うと、礼奈のカバンに彼女の手が突っ込まれていた。
 その手を素早くカバンから手を引き抜くと、指と指の間に挟んだものを礼奈の目の前に持って来た。

「大都会は人がいっぱいいて何されても分からないでしょ。尾行している時、信号待ちしてるあなたのカバンに入れといたの」

 それは小型のマイクだった。

「盗聴......」
「そう。全部聞かせてもらったわよ。こう見えても将来の夢は探偵なんだから」

 名簿係の徳永のことも、上柳部長との会話も全てこの目の前の桃花の耳に入っていたということか。
 と言うことは、ニッホンコンサルティングの存在自体もバレてしまったことになる。

「私たちが戸田さんを騙している目的も、知ってるのね」
「知ってるも何も、全部聴いちゃったもん」

 礼奈は観念して全てを話した。
 と言うよりも、ずっとこのことを誰かに話したかった。
 戸田良夫を騙して会員情報を盗まざるを得ない状況に導き、どういった行動をとるかを試しているということ。
 その結果がクライアント企業にとってどれだけ重要かということ。
 今まで一人で秘密を抱えて来た。
 秘密はバレてしまったが、不思議と気持ちはスッキリとしていた。
 恐らく、目の前にいるターゲットの娘に全て話すことで孤独から抜け出すことが出来たからだろう。

「それにしても、うちのパパがハニートラップの対象になってたなんてね。そんなに重要な人物だったんだ」

 桃花はカフェオレにスプーン五杯分の砂糖を入れ、美味しそうにそれを飲んだ。
 フーっと息をつき、礼奈に向かってニコリと笑った。
 二人の間に奇妙な連帯感が芽生えた、そう礼奈は思いたかった。
 桃花は二つ目のシロノワールに手を付けた。
 さっきから甘いものばかり大量に飲食している。
 その細い体のどこに、それらの糖分や脂質が消費されているのだろうと不思議に思った。
 そう思える余裕が出て来る程、礼奈の気持ちはどこか楽になっていた。

「色々、喋ってくれてありがと」

 桃花はそう言うと、盗聴マイクを人差し指と親指で摘まんで潰した。

「あっ」

 礼奈は思わず声を上げると、桃花はニコリと笑い摺り合わさった人差し指と親指をゆっくりと引き離した。
 間に挟まっていたマイクが元の形に戻って行く。

「ゴム製のマイク。今どきのは良く出来てる」

 そう言いながら、何度も指でマイクをプニプニともてあそんだ。
 そのプニプニは精密機械では無く、ただのゴムの塊だった。

「それって......」
「あはは。ブラフに騙された。カマかけたら全部話してくれたし。そんなお人好しじゃ、人なんて騙せるわけないよ」

 桃花はブラウスの袖からゴム製のマイクを手際よく出し入れしてみせた。
 手練れのマジックを見ているかのようだった。
 年下の小娘に騙され、全てを告白した礼奈は屈辱と恥ずかしさから顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「こういうことも出来ないと探偵になれないからね。ちょっと自分の力試しに利用させてもらいました。ごめんなさい」

 手を合わせ謝るポーズをとるが、顔は満足気な笑顔で満たされていた。

「......桃花さん」
「はい?」
「ある意味お父さんの危機だと思うんです。この話を聞いたあなたは娘としてどうするつもりですか?」

 もうこうなったら秘密を共有した桃花を味方にすべきだと思った。

「どうするも何も、パパがどうするか静観するだけよ。パパがあなたに騙されていることも知らず会員データ盗んで取っ捕まろうが、踏みとどまってエンジニアを続けようが、それはパパが決めた運命だもの」

 出会った時からどうも達観したところがある娘だと思っていたが、ここまでサトリを開いていたとは中々大したもんだ。
 礼奈はそう思った。

「お父さんを何とかしてあげたいと思わないの?」
「そう思うなら、あなたがパパの元から去ればいいじゃない」
「......確かに、そうしたいけど、それは出来ない」

 私から辞めると言ってしまえば、大将の夢が消えてしまう。
 礼奈の目に大将の悲しむ顔がちらついた。
 それは出来ない。

「10%」
「え?」
「私がパパを助けたい気持ち」

 たったの10%か、と礼奈が落胆した時、桃花はこう続けた。

「ママを悲しませたくない気持ちが90%。だから、協力しよっかな......」
「ホントに!?」
「でも、条件がある」


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 六月一日。
 システムのオンライン時間帯が終了した夜、二十時。
 データベース変更作業を行うため礼奈と戸田良夫はデータセンターのとある一室で端末に向かっていた。
 お互いWBSを見ながら作業内容を確認する。
 礼奈は目の前のターゲットの顔を見て問い掛けた。

「作業時間はどれ位を予定してるんですか?」
「一時間です」

 ターゲットの顔と桃花の顔を見比べてみて、改めて全然似ていないと思った。
 おまけに性格も正反対だ。
 真面目で不器用な父親は真っすぐ過ぎるくらい礼奈の方に心を奪われていた。
 そして、家庭のことも顧みず運命のこの日を迎えてしまった。
 反対に桃花の方はざっくばらんというか、女子高生とは思えないくらい肝が据わっている。
 今日の作戦も彼女は嫌がってはいたがそれは表面だけで、内心楽しんでいたはずだ。
 そんなことも知らない父親は、卓に置かれた手順書を指し示しながら作業のおさらいをしている。
 作業としては主に、

  ・データベース監査停止作業
  ・テーブル、インデックス追加作業

 それぞれに三十分ほど時間を与えられていた。

「まずは運用監視センターにいる運用チームにメッセージ抑止の連絡を入れます」

 そう言うとスマホを取り出し電話を掛けた。

「お疲れ様です、戸田です。今から移行作業を開始します。つきましては今から一時間、データベースサーバを監視対象外としてください」

 数分のやり取りの後、スマホを切ると礼奈に向き直りこう言った。

「本番移行作業の時はこうしてメンテナンス対象のサーバを非監視にします。メンテ中は平常時と異なるメッセージが発生する場合があるんですが、それはメンテによるものだから無視してもらうんです」

 つまり、これからはデータベースサーバからどんな警告がログに出力されようとも、それはインシデントとして上がらないことを意味していた。
 移行作業時のお約束までもが、個人情報を盗むことを手助けしているかのようだ。

「じゃ、始めましょうか」

 戸田良夫は端末の前に座りTeraTermを起動した。
 礼奈は隣で手順書を拡げ、ペンを片手にチェックを入れていく。

「データベースサーバのIPアドレスXXX.XXX.XXX.XXXを入力し、SSH接続してください」

 ダブルチェッカーの礼奈の指示通り、ターゲットは操作をする。

「sqlplusにsysユーザで接続」

 データベースにログインし、データベース監査を停止するコマンドを打ち込む。
 これで会員データにSQLでアクセスしても何も痕跡が残らない。
 つまり、やりたい放題だ。

「あの、戸田さん。私......」
「ゴホゴホ」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ......すいません。サーバルームは乾燥してて喉が痛くなって。ちょっとお水を買って来てもらえませんか?」
「え、は、はい」

 小銭を渡された。
 本当は礼奈はトイレと称してこの場を一旦離れる予定だった。
 そのつもりでいたのだが、逆にターゲットからこの場を離れるように命じられた。


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 無機質な白い壁に天井、窓も無い。
 空調の音だけが鳴り響いている。

(戸田さんは、やる気だ)

 サーバルームを出て、長い廊下を歩きながら礼奈はそう思った。
 恐らく今頃、会員データを抽出するSQL文でも実行していることだろう。
 礼奈の見積もりでは二百万件のデータをファイルに出力後、ダウンロードしてUSBに入れるまでに十分は掛かる。
 サーバセンターを出て最寄りの自販機で水を買って戻るのにもだいたい十分は掛かる。
 ターゲットは礼奈のいない間に全てを終わらせる気だ。
 戻って来た礼奈は予定通り、ターゲットのUSBを確認する。
 拒まれても無理やり執行するし、拒めば拒むほど怪しまれるだけで、どちらにしても一部始終は隠しカメラで撮られている。
 取り上げたUSBの中に会員情報が格納されていれば、そこで終わりだ。
 耳の奥に、花房部長の言葉が張り付いている。

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「確かに戸田は会員データを盗むための準備をしているのかもしれない。それでも信じてやらなければ。ここで止めてしまってはテストの意味が無い」
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 上柳部長はこう言っていた。

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「甘いな。ここで止めては意味が無い。最後の最後でターゲットがどんな判断したかまでを見届けなければ意味が無い」
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 そこまでやる必要があるのだろうか。
 結局、人は欲望の前にはひれ伏すしかない生き物で、それを試す意味なんてどこにも無いと思った。
 礼奈自身がターゲットにとっての欲望の対象となっていたのだから、それを一番よく理解していた。
 最悪な結果が分かっていたから、それを阻止したい。
 そうすることが、礼奈の中で腑に落ちたのだから仕方がない。
 どうすれば阻止出来るか。
 欲望が吹き飛ぶほどのショックを与えるしかない。
 礼奈はスマホを取り出した。

「もしもし、桃花ちゃん」
<あっ、そろそろだね>
「うん。お願い」
<おっけー>

つづく

次回で最終回です。5/31(金)公開予定。

Comment(2)

コメント

VBA使い

あら、もう次で終わりなのね。


こういう流れになるとは思わなかったけど、礼奈のキャラが湯二さんの小説の主人公らしさも出てますね。
ハードル上げましたが、あっさり越えられてしまいましたm(_ _)m

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。


結局、優柔不断な主人公になってしまってます。
一旦終わりということで、別の形でまたやるかもです。


>ハードル上げましたが、あっさり越えられてしまいましたm(_ _)m

何とか飛び越えれたかなあ。
短いわりに書くのにやたら苦労しました。

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