常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 演・ジニア】第七話 初恋の人

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 駅前の焼き鳥屋『チキン男爵』、礼奈はそこでターゲットと待ち合わせていた。
 予約していた席に案内される。

(まだ来てないか......)

 十九時に待ち合わせのはずだが、打ち合わせが押しているのだろうか。
 取りあえず着席して待つことにする。
 卓の上に置いたスマホが振動した。

<すいません。業務との打ち合わせがやっと終わりました。今から向かいます。>

 戸田良夫からのLINEだ。
 職場からこの店まで歩いて十分くらいだ。
 もうすぐ男の人と二人きりでお酒を飲むことになる。
 それは礼奈にとって、初めてのことだった。
 緊張が腹の底から湧いて来る。
 ずっと大人数の飲み会しか参加してこなかった。
 それは礼奈が奥手だからというのと、もう一つ理由があった。
 カバンから『右近の力』の瓶を取り出した。
 飲む前に飲む、ウコン2000mg配合。
 ラベルには右近という侍を模したキャラクターが酒の瓶を持って「悪酔しないで候!」と宣言している。
 ギリッと蓋を回し開け、一気に飲み干す。

「はぁ~」


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 大学の頃。

「お前の演技はあれだ、大根だよ。大根。大根に目鼻が付いたみたいなもんだよ」

 バンドサークルの有馬雄一が、焼き鳥のハツを片手にそう言った。
 顔が真っ赤で酔いが回っているのがよく分かる。

「あんたのドラムだってリズムキープがヨレヨレで聴けたもんじゃないよ」

 礼奈もこの日は相当飲んでいた。
 酔いに任せて、雄一の肩まである長い髪をひっつかんだ。

「おお! またこの二人がやり合ってるぞ!」
「いいぞ! やれ!」

 皆が囃し立てる。
 居酒屋の個室は試合会場となった。
 礼奈が属する演劇サークルとバンドサークルはイベントがある度に、打ち上げと称して合同で飲み会をしていた。
 演劇サークルは公演の時、バンドサークルから楽器を借りていた。
 逆にバンドサークルは学園祭のライブなどの時に、演劇サークルから衣装を借りていた。
 つまり、お互い様の関係だった。

「また出禁になる店が増えるな」

 誰かがそ言うと、周囲からどっと笑いが怒った。

「いててて! やめろ!」

 渾身の力で雄一の髪をブチブチと何本か引きちぎった。
 礼奈は酒に酔うと自分でも何をしているか分からなくなるのだった。


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 いつも周りが止めるまで乱闘は続いた。
 雄一はいつもちょっかいを出してきたが、礼奈はそれを嫌だとは思わなかった。
 まるで小学生の男の子が好きな女の子に嫌がらせする、そんな感じで受け止めていた。
 そんな彼は礼奈と同じIT業界に就職し地元に帰ってしまった。
 「いつかバンドでデビューする」と言い残して。
 結局、二人で飲みに行くことは無かった。
 度々誘われてはいたが、礼奈は断っていた。
 悪酔いして暴れるなんて、大勢で飲む場所なら冗談でも済まされるが、二人きりの時はシャレにならない。
 それが原因で嫌われるのが怖かったから誘いには乗らなかった。
 そして、一緒に飲んでみたい男は雄一だけだったので、今の今までどの異性と二人きりで飲んだことは無かった。

(有馬君......)

 スマホを手に取り、LINEメッセージを打ち込んだ。

<久しぶり。仕事はどう? こっちは>

「遅れてすいません」

 見上げると、ターゲットがそこにいた。


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「ビール、串盛り合わせ、お待ち」

 作務衣に前掛けの店員が注文の品を卓の上に置いた。

「お疲れ様です。戸田さん」
「どうも」

 キンキンに冷えたビールでまずは乾杯する。

「昼間の件、ありがとうございました」
「はい」

 昼間の件とは、礼奈が業務チームの橋本にデータベース変更依頼の多さを指摘したことだ。

「新入社員の竹丸です! まだ入社してそんなに経ってませんが、仕事を精一杯覚えるのでよろしくお願いします!」

 別の席では新人歓迎会でも行っているのだろう。
 張り上げるような初々しい声と共に拍手が沸き起こる。
 礼奈は思った。
 せめて就職するならするで、もっとまともな会社に入りたかった、と。
 敷かれたレールから脱線したかったけど、結局出来なかった自分はどこに向かっているのだろう。

「賑やかですね」
「そうですね」
「井筒さんって、何年目、何ですか?」
「え? えと......」

 思わず今年入ったばかりです、と言いそうになり思いとどまった。
 新人がデータベースにインデックス作ったり、テーブル変更依頼を整理出来るとは思えない。
 役のプロフィールには経験年数の設定は書かれていなかった。
 自分で考えろという事か。

「に......二年目です」

 自分の年恰好からこのくらいが妥当だと判断した。

「へぇ、二年目ですか。すごいですね」

 恐らく、礼奈のスキルのことを言っているのだろう。

「私は無下に業務からの依頼を突っぱねて来ました。だから相手が納得しないことが多かった。でも、ああやって証拠を出せばちゃんと論理的に説得出来るもんなんですね。いやぁ、この年で勉強になりました」

 酔いが回って来て気分がいいのだろうか。
 ターゲットはいつもの堅物な感じが抜けて来て、砕けた感じで話してくれるようになった。

「私の会社はシステムを発注する立場になることが多いんです。だから、ベンダーを如何に上手く使うか、そういうことばかり研究しています」

 礼奈はそう答えたが、もちろん、勉強塾で仕事をしたことは無い。
 だが、会社の事業内容と規模、そしてシステム開発を子会社であるstudy情報サービスへ丸投げしていることから、だいたいの仕事内容は想像出来た。

「さすが勉強塾の社員ですね。私たちは上手く使われているという訳だ」

 戸田良夫は自嘲気味にそう言ったが、表情は明るかった。
 早くも二杯目のビールが卓に置かれた。

「どちらかと言うと私は技術屋なんで、人を動かすより自分が動いてモノを作りたいんです」

 酒の席で自分のことを語りだしたということは、礼奈に心を開き出したということだろう。
 仲を縮めるなら今の内だ。

「もう少し戸田さんのことを聞かせてください」

 礼奈は自分の黒い瞳にターゲットがしっかりと映り込むくらいに、じっと見つめた。
 ターゲットの表情に男としての感情が滲み出て来たような気がした。
 礼奈はこれは演技だと自分に言い聞かせ、最大限の好意の眼差しを相手に注いだ。

(雄一君と一緒に飲んで見たかったな)

 湧いて来るそんな思いを打ち消した。

「私はもう少しはっきりとモノが言えればいいんですけどね」
「言えてるじゃないですか」
「いや、まだまだですよ。今はインフラチームのメンバーと言う立場だから言えてるけど、業務チームのリーダーだった頃は全然ダメで」

 ターゲットは三杯目のビールを飲み干し、四杯目を注文した。
 相手のペースに合わせて礼奈は熱燗を注文した。
 ターゲットは業務チームのリーダーだった頃を語りだした。
 メンバーをまとめ切れずスケジュールの遅延を招いたこと。
 品質が気になり全てを把握したくて技術的な細かいことに首を突っ込み、メンバーから反感を買ったこと。
 顧客である勉強塾との調整が上手く行かず、設計に手戻りが発生したこと。
 増員をしたが新しいメンバーへの教育にオーバーヘッドが掛かり、費用が超過してプロジェクトが赤字になったこと。
 その全てに耐えきれなくなって、倒れることで逃げたこと。
 彼にとって、全てが苦い思い出だった。

「いやぁ、お恥ずかしい。こんな失敗ばかりの話で」
「そんなことないです。頑張っても無理なことは世の中に沢山あります。結果的にスケジュールは遅れたけど、顧客のこともメンバーのことも考えすぎてのことなら、戸田さんは優しい人なんですよ」
「そうですかね」
「そうですよ。それに、今は立派にインフラチームでデータベース管理者としてやってるじゃないですか」
「そう言ってもらえたら嬉しいです。チャンスをくれた花房部長には、ホント頭が上がりません」

 戸田良夫は技術職に復帰させてくれた花房部長に恩を感じているようだ。
 そしてこう続けた。

「実は私、今、試用期間なんですよ」
「試用期間?」
「今年の五月末までは、データベース管理者としての試用期間なんです。花房部長が私の仕事振りを見て正式採用するかどうか決めるんです」

 礼奈は花房部長との採用面談を思い出した。


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 約一週間前。
 study情報サービス株式会社の本社が入っているビル。
 地下一階の喫茶店で、花房部長に向かい合う形で上柳部長と礼奈は座っていた。

「契約は六月一日まで」

 花房部長はそう言った。

「またえらく中途半端ですね」
「それには理由がある」

 上柳部長の疑問に対して、花房部長は応えるように手帳を開いた。
 その日には「本番データベース移行作業」と書かれていた。

「六月一日に予定している作業で、うちの戸田がデータベース管理者に適任か判断する」

 ターゲットはこの日、本番データベースに触れることになる。
 その様子をサーバルームに仕掛けた隠しカメラで監視する。
 ターゲットがサーバルームで一人になった時、会員データを盗めばゲームオーバー。
 盗まなければデータベース管理者として正式採用となる。
 どちらにしても、この日で礼奈の初仕事は終わりを迎える。


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(戸田さんからすれば六月一日は試用期間が終わった直後になる。一番気が緩んでる時に試すなんて......)

 えげつないと思った。

「兎に角、データベース管理者として正式採用されるよう頑張ります」

 自身に言い聞かせるようにそう言った。
 そして、自らを鼓舞するかのように、グイッとビールをあおった。

「かっこいい」
「え?」

 戸田良夫は自らの手に重ねられた礼奈の手を見た。
 礼奈の掌には薬指にはめられた指輪の冷たさが伝わった。

(確か娘がいるって書いてあったな......。この人の年なら高校生くらい? いや、もしかしたら小学生とか)

 礼奈の罪悪感が相手に伝わったのか、戸田良夫は手を引っ込めようとした。
 が、礼奈はそれを力強く押しとどめた。

「よく考えたら私と戸田さんって二十歳以上違うんですよね。親子くらい年が離れてる......。私、父親と仲が悪いんです。だから、寂しかったんです。だけど、戸田さんを初めて見た時、優しいお父さんみたいだなと思いました」

 礼奈の頭の中は急速に回転していた。
 このままいけば......
 だけど恐れてはいけない。
 この人を騙して個人情報を盗ませて、自分のことを父親に認めさせる。
 それが自分の一番の目標じゃなかったか。
 アルコールで熱を持った脳みそで混乱しながらも考えた。

「でも一緒に働いてると、それは憧れっていうか......好きな気持ちに変っていってしまって......」

 飲みすぎて前後不覚になって来た。
 悪酔いして自分を見失い、思ってもみないことが恥ずかしげも無くポンポンと口から出て来る。
 こんなところで自分のデメリットが役に立つと思わなかった。

「お仕事、協力させてください」
「あ、ああ......だけど、その手は......」
「今日は帰りたくない」


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 チュンチュン......

 雀の鳴き声と、レースのカーテンから差し込む朝の光で目を覚ました。
 見慣れない天井が目に飛び込んで来た。
 白くて綺麗な天井。
 自室の茶色い昭和な天井とは違う。

(もしかして......)

 礼奈は自分の何かが失われた気がした。

































(あれ?)

 ベッドの中の自分は昼間の恰好のまま、つまりスーツ姿だ。
 隣には誰もいない。
 何より、体に触れられた感覚が無い。
 直感的に自分は何もされていないことを悟った。
 改めて部屋を見渡すと、ベッドはシングルサイズだし部屋の広さはどう見ても一人用のものだった。
 机の上に書置きがある。

<住所が分からなかったので、ここで休んでいただきました。 戸田>

プルルル......

 電話が鳴りだした。

「はい」
<おはようございます。フロントです。お連れ様から、八時半になったら起こすように言われて電話しました>
「......ありがとうございます」

つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

今回の小説は、なんだろう・・・なんだかモヤモヤします。

悪酔いして暴れる何て→悪酔いして暴れるなんて
でしょうか?

atlan

前の桜子さんのストーリーにここで絡んでいたのか

VBA使い

今の今までどの異性と「も」二人きりで


チャンスをくれた「に」花房部長には


思って「も」みないことが恥ずかしげも無く


敷かれたレールから脱線したかったけど
→でもその敷かれたレールがビッグサンダーマウンテン(しかもバーベキュー無し)に思えるのは私だけでしょうか?

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントと校正ありがとうございます。


>なんだかモヤモヤします。

モヤモヤの原因はいろいろ思い当たるんで、終わりに向かってスッキリさせることができればと思います。

湯二

atlanさん。


コメントありがとうございます。


一応架空の世界で同じ業界何でみんな生きてます。
パラレルワールド。パラレルワールド。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


バーベキューがあればどんなに救われたことか。
片輪外れたトロッコで、錆びついてる上に途中で途切れたレールに飛び込んで行くような。
レールに乗った堅実な人生を歩みたいものです。

VBA使い

すみません、安全バーの「バー」と打ったつもりが「バーベキュー」になってしまいましたm(_ _)m

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。


バーでしたか。
てっきり、ビッグサンダーマウンテンのオプションにバーベキューがあるのかとネットで調べたら、それっぽいページも出て来てそうなんだって思ってしまいました。
ふむふむ。

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