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【小説 演・ジニア】第五話 役作り

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 礼奈は悩みながら土曜日を過ごし、日曜日を迎えた。

(やってやる)

 と上柳部長に挑発され決心はしたが、具体的にどうすればいいかまでは思いつかなかった。
 気分が落ち込んでいてずっと家で過ごしたいが、そうも言ってられない。
 今日はショーの日だ。

「朝ごはん買って来て」

 朝五時ブルージーン企画に着くなり、浦口社長からそう言われ三千円を渡された。
 事務所の奥では他のメンバーが忙しそうにワゴン車に荷物を積み込んでいる。
 礼奈はショーに参加するメンバーを確認した。
 今日は日曜朝八時から放送されている子供に大人気の『AI戦隊・パソコンジャー』のショーである。
 ショーの内容は、悪の組織『リベンジャー』から遣わされた女スパイがリーダーのレッドを誘惑することで、巨大ロボに関する機密情報を盗み出すというストーリーだ。
 戦隊役三人、怪人役一人、戦闘員役二人、司会一人、あとサポートで一人。
 役に対して人数が足りないので、当然一人二役の者もいる。
 礼奈はピンクと女スパイの一人二役だ。

(ここでもスパイとは)

 礼奈は思わずフッと笑いが出てしまった。
 この八人で現地までワゴン車で移動する。
 移動中に朝食を済ませることになっているので、今から買いに行くという訳だ。


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 田んぼ道を歩きコンビニに向かう途中、薄暗い空にうっすらと朝日が差して来た。
 春の早朝はまだ暖かい中にも冷たい風が混じっていて、爽やかで心地いい。

「んー」

 と、礼奈は伸びをした。
 仕事の方は中々うまい考えが浮かばない。

(よし! 今日は仕事のことは忘れよう!)

 ショーで暴れてストレスを発散しようと思った。


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「あれ? 俺の分は?」

 信号待ちの時に運転担当である浦口社長が、自分のパンが無いことに気付いた。

「あ、すいません」

 いつの間にか仕事の事ばかり考えていて、うっかりしていた。

「いいよ。次のパーキングで買うから」

 そのまま車は発進した。
 今日は県境にあるショッピングモールでのショーだ。
 荷物と八人がぎゅうぎゅうに押し込まれた中古のワゴンに揺られ、1時間ほど高速に乗り現地に着く。
 開店前の朝八時。
 従業員用の入り口付近にワゴンを止め、荷物が入った段ボール箱を下す。
 中に入っているのは怪人の着ぐるみや隊員の身体に付けるプロテクターといった衣装類や、戦隊が使用する剣や銃といった武器など、やたら重いし、かさばるものばかりだ。

「はい、首から掛けて」

 浦口社長が人数分の入店証を貰って来た。
 引っ越し業者よろしく段ボールを抱え店内に入る。
 モールの中央にある広場には、既に舞台が出来上がっていた。
 広場から上を見ると、ガラス張りの天井まで吹き抜けになっていて、二階や三階からもショーを見下ろすことが出来るようになっている。
 礼奈は舞台に立ち、自分の立ち位置を確認した。
 幅10メートル、奥行き5メートルくらいの板敷の舞台はそれほど大きくないので、あまり激しい動きは出来なさそうだ。

「よろしくお願いします」

 浦口社長は様子を見に来たモール側の担当者に挨拶した。

「こちらこそ」
「今日のメンバーです」

 紹介された礼奈たちは口々に挨拶する。

「一回目は11:00、二回目は14:00からです。今日はポイント五倍デーの日なんでお客さんが相当来ると思いますんで、よろしくお願いします」
「了解です。ところで今日の昼飯は?」
「社食で鉄板ハンバーグ用意してますんで」
「へへへ、楽しみだなあ」

 担当者と浦口社長はお互い慣れた感じだ。
 一行は舞台の横にテントを設営し、その中に荷物を運びこんだ。
 PA機材を設置し、衣装を壁に掛けて置く。

「じゃ、まずリハーサルな」

 浦口社長が声を掛け、全員舞台に上がった。
 開店前の静かな店内にラジカセの音声が鳴り響く。

<俺のせいだ......俺のせいでゲーツ博士がさらわれ、ロボの秘密まで盗まれてしまった>

 レッドになり切った浦口社長は舞台の真ん中で頭を抱えた。

<ほんとだよ。どーしてくれんだよ! お前はリーダー失格だ!>

 ブルーになり切った和弘が両手を広げ、客席に向かってレッドに対する不満を爆発させる。
 それを見て礼奈は思った。

(女スパイは簡単にレッドを騙すことが出来たけど、現実はそう簡単にはいかないよなあ......)

<ちょっと! ブルー言い過ぎよ!>

 ピンクのセリフがラジカセから流れた。
 だが、仕事のことに意識を奪われていた礼奈はピンクであることを忘れ、アクションすることも無く立ち尽くしたままだった。
 ラジカセからは次々とピンクのセリフが流れ出してくる。
 後姿の和弘がラジカセの方を小さく指さした。

「あ......」

 慌てて演技するが、それは音とずれた滑稽な踊りのようだった。

「よし、次は飛ばしてアクションのところ、行くぞ!」

 浦口社長は時計を見るとそう言った。
 本番まで時間が押して来ている。
 狭い舞台をどう使うか確認することを優先したらしい。
 それもこれも、礼奈のせいで何度もやり直しが発生したからだ。

<AI戦隊・パソコンジャー! 起動完了!>

 ポーズをとると、続けてテーマソング流れだす。
 レッドの過ちをピンクは受け入れた。
 ブルーもそれを受け入れた。
 紆余曲折の後、三人は雨降って地固まる方式で一枚岩となった。

<そんな裏切り者のレッドなど見捨てて、このフロッピーディスク怪人と共にリベンジャーの仲間となれ>

 女スパイの正体は、このフロッピーディスク怪人だった。
 黒くてまっ四角な身体に手足が生えている。

<誰にでも過ちはある! それを受け入れて強くなるのが俺たち人間だ!>

 レッドを一番否定していたブルーが客席に向かってそう言い放った。
 このショーで最も伝えたいテーマがこれだった。
 客席の子供たちの目が感動でキラキラと輝くのが目に浮かぶ。
 だが一人、礼奈は冷めた思いでいた。

(戸田さんは過ちがバレたら首になるんだろうな)

<ぐっへっへ。このフロッピーディスク怪人がお前らに負けるわけなど無い!>

 台本通り怪人が礼奈に襲い掛かって来る。

「はっ......!」

 気付いた時、フロッピーディスク怪人の身体に貼り付けられているラベルが目の前にあった。
 そこには

「マル秘 機密情報」

 と書かれていた。
 礼奈は後頭部に衝撃を受け、目の前が真っ暗になった。


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「どうしたんすか?」

 テントの中で目を覚ますと、和弘の顔が目の前にあった。

「ご、ごめん」
「らしくないですよ」
 
 仕事のことに気を取られて上の空になっていた。
 礼奈はまだ痛みの残る頭を押さえながら起き上がった。

「おい、礼奈」

 浦口社長が缶コーヒー片手にテントに入って来た。
 それを礼奈に投げて渡す。

「お前、今日は無理だな」
「え?」
「他の事ばっかり考えてる。そんな奴を舞台に上げることは出来ない」

 浦口社長は出て行った。

「そ......そんな」

 本番まであと三十分しかない。

「おー、大分集まってますね」

 和弘はテントの隙間から客席を眺め、感心したような声を上げた。

「パソコンジャー! 早くー!」
「出てこーい!」
「起動完了!」

 子供たちの歓声が礼奈の耳に痛いほど届いた。
 何もかもが上の空の自分は、彼らの前に立つべきでは無いと自分を責めた。

「はぁ......」

 劇団の公演は年二回しかないが、ショーは毎週ある。
 礼奈は毎週ショーに出るのが楽しくて仕方が無かった。
 自分では無い何者かになり、人に見られ、喝さいを受ける時、自分はこの仕事が好きなのだと改めて確認するのだった。
 
「どうしたんですか? ホント、いつもの礼奈さんらしくないですよ」
「......うん」

 礼奈は和弘に自分が今悩んでいることを話そうかと思った。
 だが、それを話すということは自分が所属している会社の秘密を話すことになる。
 だけど、誰かに苦しんでいる自分のことを知ってもらいたいと思った。
 何かを秘密にして生きていくということは、孤独を意味していた。
 人は孤独の中を生きることは、到底出来ないのだった。

「ね、野沢君さ」
「何ですか?」
「今度、劇団でITエンジニアの役をやるんだけどさ。これが難しくてさ」
「へぇ、そんなの僕聴いて無いですよ。脚本の依頼も来てないし」

 和弘が漫画家を目指していることを知っている浦口社長は、チャンスを与えるために彼に演目の脚本を依頼することがあった。

「兎に角、まだはっきりしたことは決まってないけどやることになったの」
「ふぅん」

 腑に落ちない感じだが、「で」と話を聴く態勢を取ってくれた。

「それでね、その役が、優しくて気が利くが、おっちょこちょい。真面目で愛嬌があるっていう性格なの。かつ、技術は普通レベル。SQLとプログラミングの基礎は分かる程度で......」
「ちょっと待って、よく分かんない用語が出て来たんですけど」
「あっ、ごめん」

 聴いてくれる人が出来たことが嬉しくてたまらなくなり、つい全てを喋ってしまいそうになった。

「......なるほど」

 礼奈の話を一通り聞いた和弘は、ブルーシートの上に胡坐をかき、腕を組んで考え込んだ。

「そういえば」
「何?」
「礼奈さんってコンピュータ関連の会社に入ったんですよね。だったらITエンジニアの役作りはし易いんじゃないんですか?」
「それがね、入ったのがフツーじゃない会社で」
「フツーじゃないって?」
「男を誘惑して来いって」

 和弘は目が点になった。
 つい口が滑った。

「ごめん、男を誘惑する役なんだよ」
「分かりましたよ」

 慌てて弁解する礼奈を見て、フッと息を吐くように和弘は笑った。

「僕はあんまり演劇に詳しくないんですけど、脚本を書かせてもらってるから多少アドバイスできるかもしれません」

 と、前置きするとこう続けた。

「その役の、経歴、過去、趣味、癖なんかを想像するのが役作りの基本ですよね。それを忘れてませんか?」

 「あ」と言い、礼奈は目を見開いた。

「礼奈さんは、優しくて気が利くが、おっちょこちょいで真面目で愛嬌があるエンジニアの役なんですよね。例えば、そんな人が何でエンジニアになったのか、コンピュータがどれくらい好きなのか、どんなシステムに携わって来たのか、将来はどんな立場になりたいのかとか考えるところから始めてみてはどうですか?」

 演じるということは、その人物になり切るということだ。
 それが今回は舞台では無く、職場という違いはあるが本質は同じだった。
 そのことにやっと気付いた。
 
「その役で誰を誘惑するんですか?」
「えっ? ええっ?」

 躊躇したが、相談することで気持ちが楽になって来た礼奈は、もっと楽になりたいと思い言葉を止めることが出来なかった。

「インフラチームで一緒に仕事してる人かな......」

 礼奈はターゲットのことを話した。

「真面目で堅物そうな人ですね」
「そうなの」
「この際、役だと思わず、本気で好きになって見たらどうですか?」
「そんなっ!?」
「本気じゃない人に、相手は騙されないですよ」

 今までは服装やメイクを変えてみたりと上辺だけで落とそうとしていた。

「そうすれば、相手が何をして欲しいのかもわかりますよ」

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

朝五時「に」ブルージーン企画に着くなり


この八人で現地までワゴン車で移動する。
→役は八人のようですが、スタッフも八人? 何が足りない?


子供に大人気の『AI戦隊・パソコンジャー』
→プログラムも必修化され、コンピュータ好きの子供が増えたらいいなと思います。
(というか、皆さんのITリテラシーがアップして欲しいです。)

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございます。


>→役は八人のようですが、スタッフも八人? 何が足りない?
戦隊役三人、怪人役一人、戦闘員役二人、司会一人、あとサポートで一人。

レッド、ブルー、ピンクの三人。
フロッピーディスク怪人一人。
戦闘員二人。
司会一人、サポート一人。(サポートは機材とか子供を列に並ばせたりとか)
で、
あと、女スパイが一人。
これが足りないので、主人公が一人二役になりました。


コンピュータの戦隊ものってあったかな。
とりあえず、番組内で炎上対策とかレクチャーしたりして。

VBA使い

なるほど、女スパイとフロッピーが別カウントだったんですね。分かりました。

湯二

VBA使いさん。


実際バイトしてたとき、二人一役はよくありましたよ。
男だけどピンクの役も……

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