常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 演・ジニア】第三話 夢道場

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 定時17:30、礼奈は実太ラーメンを後にした。
 そのままバスに乗りバイト先である『ブルー・ジーン企画』へ向かった。
 都会から離れた郊外にそれはある。
 バスを降り、田んぼの中にポツンとあるトタン屋根の倉庫のような建物の中に入った。

「お疲れ様です!」

 礼奈は大きな声で挨拶した。
 自分をアピールするために大きな声で挨拶するようにと、ブルー・ジーン企画の社長から言われている。
 事務所にいるメンバーが一斉に礼奈のことを振り返り、口々に挨拶する。
 奥からチョビ髭で眼鏡のヒョロッとした男が出て来た。

「この前の怪人役、お疲れ様」
「浦口社長、突然休むなって野沢君に言っといて下さいね!」

 礼奈は痛めた足首をさすりながらそう訴えた。

「分かったよ。昨日のバイト代は多めにつけといてやるから。それより、メンバー集まってるから着替えて上がれ」


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 ブルー・ジーン企画は主にヒーローショーの企画、運営を行っている会社だ。
 ヒーローショーとはデパートの屋上やショッピングモールなどの舞台で、主に休日に行われる子供向けのショーのことだ。
 ヒーローというだけあって戦隊ものが中心だが、それ以外にアニメキャラクターのショーもやっていたりする。
 礼奈はジャージに着替えると、鉄の螺旋階段を上り二階の練習場へ向かった。
 すでに何人かが、週末のショーに向けて練習を始めていた。
 ブルー・ジーン企画の社員やバイトはここを『道場』呼んでいる。

「お疲れさ......、あっ! サボり野郎!」

 サボり野郎こと、野沢和弘は礼奈に気付くと裸足のまま逃げ出した。

「待て! コラ!」

 脱兎にすぐさま追いつき襟首を掴んで引き倒した。
 100畳くらいの広さの練習場は、投げ飛ばされたり、倒されても痛くないように畳敷きだ。

「あんたの無断欠勤のせいで怪人にされた私は、ヒーローだけじゃない、子供にもボコボコにされたんだからね!」
「す、すいません。賞の締め切りに間に合わせるために......」

 ボサボサの頭をかきながら、謝っている。

「漫画?」
「はい」
「なら、よし」 

 大学4年の和弘は漫画家を目指していた。
 礼奈は彼の新人賞に出す作品のネームを読んで、佳作くらいは穫れるんじゃないかと思っている。

<AI戦隊・パソコンジャー! 起動完了!>

 ラジカセから流れる音声に当て振りで演技する。
 ブルーは和弘。
 レッドは浦口社長。
 ピンクは礼奈。
 ポーズを取った瞬間、テーマソングが流れる。
 色分けされた戦隊モノのショーは毎週日曜日各地で行われる。
 毎週月、金曜日はそのリハーサルに当てられていた。

<ぐっへっへ。このフロッピーディスク怪人がお前らに負けるわけなど無い!>

 台本通り、怪人役の男が礼奈に襲い掛かる。
 礼奈はそれを避けると、怪人の後頭部に回し蹴りを食らわした。

「ぐへ!」

 男が立ち上がって来ない。

「おいおい、手加減しろよ!」

 ラジカセを止め、浦口社長が礼奈を叱った。


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 事務所の外にある二層式の洗濯機が、ゴトゴトと音を立てている。
 ナイロン製の黒タイツが泡まみれでグルグル回っている。
 敵側の戦闘員が着る衣装だ。
 その音がシンとした暗い夜空に響いている。
 洗濯機の横で礼奈は反省していた。
 さっきはついつい役に入り込みすぎてしまい、蹴りに力が入り過ぎてしまった。
 だが、すぐに思い直した。
 何たってピンクは空手の達人という設定なのだ。
 キレのある蹴りをしないとリアリティが無いし、観に来た子供も納得しないだろう。
 気を取り直し、明日からの役柄を予習しようと、スマホのライトをONにした。
 上柳部長からもらった用紙を開く。

 ・性格 :優しくて気が利くが、おっちょこちょい。真面目で愛嬌がある。
 ・スキル:普通レベル。SQLとプログラミングの基礎は分かる程度で可。
 ・立場 :勉強塾株式会社の社員。情報システムの研修の一環として子会社のstudy情報サービス株式会社に出向する。

「ふぅ......」

 「君はヒロインだ」と言われた時、それまでの怒りを忘れ素直に嬉しかった。
 礼奈にとってその言葉は殺し文句みたいなものだった。
 だが今になって冷静に考えると、それは人を騙すという事でもあった。
 そしてそれは、ターゲットの一生を左右するかもしれないという重いものでもあった。

「それ、次の役?」
「えっ、これは......」

 いつの間にか隣に和弘がいた。
 彼の切れ長の目が、用紙に注がれている。
 ブルー・ジーン企画は、浦口社長が旗揚げした劇団『スパイダー・マーズ』が元になっている。
 ニッホン大学の演劇サークルに所属していた社長は卒業と同時に、スパイダー・マーズを主宰した。
 だが、それだけでは食べて行けず友人などから出資を受けてブルー・ジーン企画を起業した。
 ヒーローショーも舞台に立つという意味では演劇の勉強にもなるし、動きは殺陣の練習にもなる。
 今ではショーがメインになってしまったが、それでも年二回は劇団としての公演も行っている。

「漫画、賞穫れるといいね」
「ありがと」

 ブルー・ジーン企画には礼奈のように劇団からの流れでバイトとして入って来た者も多い。
 それだけに、会社の道場は劇団の練習場としても使用されていたし、将来は女優や俳優になりたい者が自然と集まって来ていた。
 そんな雰囲気を嗅ぎつけてか、夢は異なるが和弘のような人間も参加するようになっていた。

「それにしても、井筒さんがまさかフツーに会社に入るとは思わなかったですよ」
「ああ、そうね」

 礼奈は黒タイツを脱水層に放り込んだ。

「やっぱ、オーディションに落ちたからですか?」

 礼奈は何も応えなかった。
 その代わり、頭の中には父親の顔が浮かんだ。


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 次の日、礼奈はstudy情報サービスに出社した。

「まずはメンバーを紹介しようかね」

 花房部長が声を掛け、プロジェクトの主要メンバーが会議室に集められた。

「今日からプロジェクトに参画する井筒礼奈さんです。彼女は我々の親会社である勉強塾の社員です。情報システムの研修のために出向されて来ました。皆さん、親会社の社員だからって遠慮せず厳しく指導してやってください」

 花房部長は冗談交じりに礼奈を紹介した。
 クスクスとした笑いが起き場が和んだ。
 そのお陰で礼奈はすんなりと自己紹介に入れた。

「四月から勉強塾の社員になった井筒礼奈です。期間限定ですが御社で研修を受けることになりました。皆さんの足を引っ張らないように精一杯頑張って行きたいと思います」

 深々と頭を下げると、パラパラと拍手が起きた。
 礼奈はメンバーの中にターゲットである戸田良夫がいないか見渡した。
 居た。
 ホワイトボードの横で控えめに手を叩いている。
 一瞬、礼奈と目が合い目礼した。

「じゃ、うちのメンバーを軽く紹介しよう」

 花房部長に促され、礼奈から向かって左端の男が自己紹介を始めた。

「インフラチームのリーダーで滝野といいます。井筒さんはうちのチームでデータベースの修業をしてもらうということで、よろしくお願いします」

 礼奈は会釈した。
 花房部長の調整で礼奈はインフラチームに所属することになった。
 そこにはターゲットである戸田良夫がいるからだ。
 十数人いるメンバーが順繰りに自己紹介していく。

「業務チームで設計をやっています枝川です。親会社からの要件変更が多くて大変です。何とかしてください。よろしくお願いいたします」

 周囲からドッと笑いが起こった。
 study情報サービスは主に親会社である勉強塾から仕事の発注を受けている。
 礼奈が所属するプロジェクトは、勉強塾が運営する塾や通信教材に関する会員管理システムや成績管理システムなどの保守、メンテナンスが主な仕事だ。
 
「業務チームのリーダーで橋本です。前任のリーダーが突然抜けて引継ぎも無いまま四苦八苦してやってます」

 太ったスポーツ刈りの橋本は細い目をチラと戸田良夫の方を向いた。
 戸田良夫は目を逸らした。
 礼奈は思った。
 恐らく戸田良夫の後任がこの橋本なのだろう。
 そして、二人の人間関係があまり良くなさそうなのが何となく分かった。

「インフラでデータベース管理者をやっている戸田です」

 それだけ言うと会釈し自己紹介を終わらせようとした。
 
「それだけ?」

 と、橋本が嘲笑うように言った。

「もっと色々あるでしょうに。データベース管理者をやることになった経緯とかさ」

 周囲の空気が硬くなった。
 橋本が戸田良夫のカサブタを無理やり剥がそうとしている。

「おい橋本」
「はいはい」

 花房部長にたしなめられ、橋本は嫌味をやめた。

「じゃ、皆、仲良くしてやってくれ」


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 五階のプロジェクトルームに戻った礼奈はフロアをざっと見渡し、その人の多さに驚いた。
 10個ある机の島にそれぞれ12、3人ずつ座っている。

「うちのプロジェクトだけでこのフロア全部貸り切ってます。まあ複数のシステムを同時に開発、保守してますからね。インフラチームは全てのシステムのサーバ、ネットワーク、そしてディスクの面倒を見ています」

 滝野の説明を受けながら、礼奈は自分の席に案内された。
 インフラチームの島はフロアの一番奥にあった。

「戸田さんの隣です」

 そう促され席に着いた。
 ターゲットの横になるように花房部長が調整したのだろう。
 丁度、戸田良夫は席を外していた。

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「流れは私と花房部長で決めている。毎日のお前の報告を受けて指示のタイミングを決める。指示を受けたらその通りに動け」
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 出社する前、実太ラーメンの地下で上柳部長にそう言われた。
 礼奈がどう動くか脚本が既に用意されているかのようだ。
 インフラチームの島には数人のメンバーが席について端末に向かっていた。
 戸田良夫が戻って来た。

「どうも」

 礼奈に会釈し自席に着いた。

「戸田さん、今日からあなたの元でデータベースを学んでもらう井筒さんです。井筒さん、分からないことがあったら戸田さんに色々訊いてください」
「はい。よろしくお願いしますね。戸田さん」

 礼奈は にっこりと、戸田良夫に挨拶した。
 彼は無表情でそれに応え、仕事の話をし始めた。

「今からちょっと開発環境で作業があるんです。手を動かしながら環境について説明します」

 戸田良夫は手帳を片手に、さっさとプロジェクトルームを出ていった。
 礼奈は置き去りにされた形になった。

(おいおい、冷たいなあ)

 礼奈もその後について行く。
 六階へ上がり、端末室へ入る。
 白い床と壁で囲まれた部屋は、無機質で外の光はブラインドで仕切られていた。
 中央に長机があり、その上にノートパソコンが三台。
 戸田良夫は左端のノートパソコンの前に座った。

「この三台は開発環境のサーバに接続出来るように設定されています。開発サーバ自体は七階にあります。ちなみに、本番環境には接続出来ないようにしています」
「どうして本番環境はここからアクセス出来ないんですか?」

 作業の手を止め、端末から礼奈の方に目を向けてこう言った。

「一言で言うと、御社にとって重要な会員データを守るためです」
「データを守る......」
「本番環境のサーバは、ここから30kmほど離れた郊外のデータセンターにあります。それならここから接続出来たほうが便利だと思うでしょう」
「はい......」
「ですが、ここだとセキュリティが甘過ぎる。この部屋はIDカードさえあれば入れてしまう。つまり、なりすましだって可能だ。何より、どんなメンバーも出入り出来るんです。誰かが気の迷いでデータを盗むことだって出来てしまう。反対に、データセンターなら指紋認証と虹彩認証による二重扉、そして選ばれた人間しか入れない。こことは大違いです」

 言い終ると、端末に向き直り作業の続きに取り掛かった。
 突然、手が止まった。

「まったく、誰だ? 本番環境の資料をデスクトップに置いたのは」

 戸田良夫はデスクトップにある「本番環境接続手順.xls」という名称のファイルをゴミ箱へドラッグし、削除した。

「今のは?」
「多分、誰かが置き忘れたファイルです。本番サーバのIPアドレスが載っているんです」
「どうしてそんなものがここに?」
「ここから本番環境に接続出来ると思った輩がいるんでしょう。恐らく業務チームの誰かかな。ここからは開発環境にしか接続出来ないって何度も言ってるのに」

 戸田良夫は腹立たし気にそう言った。

「業務チームは公開していないrootのパスワードもいつの間にか知っていたりする。さっき捨てた資料もインフラチームのフォルダを漁って見つけて来たのでしょう。井筒さん、彼らには注意してください」
「はいっ!」

 礼奈は甲高い可愛らしい声でそう応えたが、ターゲットである良夫はそれに軽く応えただけで終わった。
 演技とはいえ、自分が酷く場違いな態度を取ったことが恥ずかしくなった。

つづく

次回は5/7に掲載予定です。

Comment(2)

コメント

VBA使い

あんたの無断欠勤「の」せいで


前任のリーダー「が」突然抜けて


データを盗むことだっ「て」出来てしまう


足首痛めてるのに男子大生に追い付き、回し蹴りで男性スタッフを昏倒させるとは、、、桜子さん並みに強いですねw
仕事掛け持ち&演技ってとこは、由紀乃みたい。


野沢くん、もしかしたら森本くんと漫画繋がりで関わりがあるかも?

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


強い女性に、バカな男が振り回される、そんな話ばかりしか書けないし、これからも書いて行きたいです。


>仕事掛け持ち&演技ってとこは、由紀乃みたい。

登場人物がIT以外のものに浮気というか、別のことしてるのはお馴染みの展開ですね。


>野沢くん、もしかしたら森本くんと漫画繋がりで関わりがあるかも?

絡ませようかどうしようか迷うのですが、終わりだけ決めて真ん中はボンヤリで、いつも書いているので、寄り道もあるかもしれません。


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