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【小説 スーパー総務・桜子】第十八話 俺は嫁一筋

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 自社に行く道すがら、桜子はこの34万円を株で200万円にまで増やしたいと考えていた。
 それは鶴丸課長のあの一言があったからだ。

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「ああ......あれからデータは増え続けてるよ。だから、アドバイスして頂いた通り表領域の拡張を考えてます。まずディスク増強を申請して、予算も通ったよ」
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 これが本当なら、売上予測データが増え続けているということになる。
 ヘイロー自動車の来期の売上は相当なものだということが予測出来た。
 そして、ヘイロー自動車の20XX年の決算発表は明日だ。
 そのタイミングで来期の売上予測も発表される。
 桜子が持っている情報が彼女だけが知りうるものなら、今のうちにヘイロー自動車の株を買うことで近い将来売却益が見込める。
 自社に着き、パソコンの電源を入れトレードソフトを起動した。
 ヘイロー自動車の株価チャートを見ると、1株800円台を行ったり来たりしている。
 桜子は雄一の残業代をそれにつぎ込んだ。
 1株800円、1単元100株。
 4単元、つまり400株購入したので、32万円掛かった。
 これがどこまで育つか見ものだ。

「おっ、財務担当、精が出るな」

 後ろを通りかかった福島課長が声を掛けて来た。
 経理と財務も担当している桜子は、会社の金の一部をこうして運用に充てることを任されていた。
 だが、今回は雄一個人の稼ぎを使って利益を出そうとしている。
 雄一の尻ぬぐいは雄一自身の金ですべきだという思いからだ。
 前場、株価に目立った動きは無かった。
 そして後場。
 目立った動きは無い。
 そのまま大引けとなり、その日の取引は終わった。
 そして午後4時。
 ヘイロー自動車の決算発表が行われた。

  ◇株式経済ニュース
   1月7日(金) 16:00
   ヘイロー自動車は20XX年度、本決算の発表を行った。
   売上11兆5,000万円(前年同期比14.3%増)、営業利益5,400億円(5.5%増)、純利益2,400憶(6.0%増)となった。
   売上高が過去最高を更新した。
   配当を従来予想から1株あたり100円増やし250円にすると発表した。
   また、来期の売上予測についても発表され、こちらについては20兆円を超えるとのこと。


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 週明け。

 出社と同時にトレードソフトを起動し、ヘイロー自動車のチャートを確認する。
 先週金曜日のニュースが好材料となり、ヘイロー自動車の株価は寄り付きで一気に上昇した。
 1,000円を超えたところでストップ高となり、その日の取引が終了となった。
 そして、翌日、翌々日と、ヘイロー自動車にとって好材料となるニュースが次々と発表され、連日のストップ高となる。
 これに加えて、機関投資家などの煽りもあり多数の個人投資家が乗って来た。
 約一週間前、桜子が1株800円で購入した株は、金曜日には1株5,000円にまで成長していた。
 つぎ込んだ32万円が200万円になったわけである。

「おいおい、どこまで上がるんだ?」

 福島課長が桜子の肩越しにチャートを覗き込んだ。
 そして欲が出て来たのかこう付け加えた。

「この勢いならまだ上がるだろ。もう少し買い足したほうがいいんじゃないのか?」
「課長、「もう」はまだなり、「まだ」はもうなり、ですよ」

 人生も相場も思い通りに行かないという格言だ。
 桜子は思う通りいっている今のうちに売り抜けようと思っていた。
 何より目標額である200万円に到達した。

「ここが、やめ時」
「おっ......おい!」

 福島課長が止めようとするのも無視して、桜子は売り注文を出した。
 持っていたヘイロー自動車の株は全て売却された。

「あ~あ......」

 残念そうにする福島課長をしり目に桜子は優雅に緑茶を啜っていた。
 それから数分後、インターネット上にこんなニュースが躍っていた。

  ◇Net速報ニュース
   1月14日(金) 14:00
   ヘイロー自動車の会長でカリスマ経営者として知られるオコリンボ・マユゲが金融商品取引法違反の疑いで逮捕された。
   大都会地検によれば、20XX年の連結会計年度における金銭報酬が合計約100億円であったにもかかわらず、合計約30億円と記載した有価証券報告書を提出した疑いがもたれている。

 この一報でヘイロー自動車の株価は急落した。

「安田。鮮やかな引き際だったな」
「偶然ですよ」

 またも優雅に、今度はハーブティーを啜っている。

「これは会社のお金じゃなく個人のお金でトレードしています」
「個人の金?」
「有馬君の残業代です」

 桜子は雄一の置かれている状況、そこに至るまでの経緯、株取引の原資となった残業代のことなどを話した。

「なるほど。あいつを助けるためにやってたのか」
「課長も女の人には気を付けてくださいね」

 そう悪戯っぽく笑うと、福島課長は

「俺は嫁一筋だから、キャバクラ嬢になんて入れあげん!」

 と、反論をして来た。

「さてと、この200万円を下ろしてきますね」

 数十分後、現金200万円が入った封筒を手にして桜子は戻って来た。

「おいおい、幾らなんでも現金は危険じゃないか?」
「危険? 多少の危険は冒さないと。これから勝負する相手は、目の前に札束が無ければ勝負に乗ってくれないような奴らです」
「まったく、お前は......」
「おっと、この勝負に必要な人を呼ばなきゃ」

 そう言うと、桜子はスマホを取り出しある番号に電話を掛けた。


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 その日の20時。

「桜子ちゃんから飲みの誘いが来るなんて、夢のようですよ」

 駅で待っていると、嬉々とした様子で鶴丸課長がやって来た。
 相変わらず脂の乗った禿げ上がった頭。
 そして、出っ張った腹がズボンのベルトで締めあげられて窮屈そうだ。

「とっておきの店があるんだ。是非そこで」

 と桜子の手首を掴み、ノリノリで連れて行こうとする。
 それを振り払い、キッパリこう言った。

「すいませんが、今日は私、行きたい店があるんです」
「ほほう」
「取りあえず電車に乗りましょうか」


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「桜子ちゃん、一時間も掛けてこんな隣町まで来て一体何だっていうんだい」

 流石にスケベが目的の鶴丸課長も不審そうに問い掛けて来た。

「ふふふ......鶴丸課長、今日は私より綺麗な女性とお酒が楽しめますよ」
「え?」

 色々と質問してくる鶴丸課長を適当にあしらいながら、目的地を目指す。
 アーケード型の長い商店街を抜け、歩道橋を渡る。
 運動不足の鶴丸課長は息を切らしながら遅れまいと付いて来る。
 ネオン街の中を歩いて行くと目的地が見えて来た。

「ここです」

 キャバクラ店『I will love again.』、ここが今日の目的地だ。

「だって、これは......」

 店の看板を見て目を白黒させている鶴丸課長にこう言った。

「ここで、借りを返してくださいね」


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「いらっしゃいませ」

 そうボーイに迎えられた鶴丸課長は「うむ」と軽く会釈し店内へと進んで行った。

「あっ」

 その後を付いて行く桜子を見て、ボーイが小さく驚きの声を上げた。

(ほー)

 初めて行くキャバクラというものは桜子にとって珍しい光景だった。
 シャンデリアや、革張りのソファー、大理石の舞台にはグランドピアノが置かれている。
 真ん中にはシンボルのように、ミロのビーナスのレプリカが置かれている。
 桜子のことをボーイが珍しそうに見ている。
 鶴丸課長という男が一緒とはいえ、女がキャバクラに来ることなどほとんど無いからだ。
 傍目から見れば、いやらしい上司が部下の女性を店に連れて来てその反応を楽しんでいる、そんな風にも見える。
 奥の席に案内される。
 ボーイが片膝をついて指名はどうするのかと尋ねて来た。

「ん~っと」

 鶴丸課長は渡された革張り製の重厚なメニューを開いた。
 あれだけ桜子と飲みたがっていたのに、鶴丸課長は郷に入っては郷に従えのノリなのか、他の女を品定めしている。

(まったく。男ってやつは単純ね)

 メニューにはドレス姿でポーズを取った女の写真が並んでいる。

「この、サヤカちゃんがいいかな」
「お客様、お目が高いですね。この子は当店でも人気の......」
「ちょっと待って!」

 ボーイと鶴丸課長とのやり取りに桜子は割って入った。

「この『ゆき』って人、綺麗ですね。私この人がいい」
「えっ......桜子ちゃん......」

 女なのにキャバクラに行きたいと言い挙句に指名までしようとする桜子のことを、鶴丸課長は驚いた様子で見ている。

「いえ、そういう趣味があるわけじゃなくて、単純に綺麗な人とお酒を飲みたいんです。綺麗でいられる秘訣とか、肌の手入れの仕方とか聞きたいし」

 そう言ってごまかした。
 雄一から聞いた話では、由紀乃は『ゆき』という名前で通しているらしい。
 彼女の特徴は聞いていたし、事前にホームページの画像でも確認した。
 間違いない。
 ゆき、が由紀乃だ。

「ゆきさん......ですか。彼女は今、別のお客さんの相手で、少々お時間が掛かりますが」

 ボーイの視線の先には、恰幅の良い社長風な男と楽しく飲んでいる、ゆきこと由紀乃の姿がある。

「桜子ちゃん、私が選んだこのサヤカも綺麗じゃないか」
「いやだ! このゆきちゃんがいいっ!」

 桜子は駄々っ子のように足をバタバタさせ、由紀乃の写真を指さした。

「......分かりました」

 数分後、調整がついたのかボーイに伴われ、しゃなりしゃなりと由紀乃がやって来た。

「はじめまして、ゆきです」
 
 一礼して顔を上げる。

「まぁ、珍しい。女性のお客様なんて」

 由紀乃は桜子を見てそう言った。
 鶴丸課長と桜子の間にスッと入り込むように座った。

「よろしくお願いします」

 二人の顔を交互に見ながら、笑顔で会釈する。

(こりゃ、可愛いわ)

 桜子は素直にそう思った。
 雄一が惚れるのも無理はない。

「いけませんね。女性をこんなところに誘うなんて」
「私は誘ってない。この娘がどうしてもここに来たいって言ったんだ」

 そう言いながら桜子のことを指さした。

「もう、嘘ばっかり。モテてる自分を見せたいだけでしょ」

 鶴丸課長と由紀乃は、サルノ・クリエイティブのプロジェクトルームで一目でも面識があるはずだが、お互い気付いていないようだ。
 それは桜子にとって幸運なことだった。
 由紀乃は鶴丸課長をからかっている。
 そんな課長は、この時間を満更でもないという感じで顔をデレデレさせ楽しんでいるようだ。

「せっかくだからこの店で一番高い酒を頼んでやろう」
「ホント、嬉しい!」

 わずか数分で男を虜にしている。
 そんな才能を持つ女が、一瞬でもエンジニアを目指していたという理由が知りたい。
 桜子はそう思った。
 ロマネコンティをボーイが恭しく持って来た。
 三つのグラスそれぞれに深紅のワインが注がれた。

「カンパーイ!」

 客から高い酒を頼ませることが出来て由紀乃は嬉しそうだ。
 キャバクラ嬢は歩合給だ。
 高い酒の売り上げの一部がそのまま彼女の懐に入るのだろう。

「桜子さんも飲んでくださいよー」

 上機嫌の由紀乃が桜子にも酒を奨めて来る。

「飲んでますよぉ」

 そう言いながら飲んでるふりをした。


 宴も一時間過ぎた頃、桜子はおもむろに口を開いた。

「ゆきさん、いえ、由紀乃さん」

 由紀乃の酔ってトロンとした目が、一瞬カッと見開かれた。
 が、感情の機微を見抜かれまいと、すぐさま瞳から動揺の色を消した。
 鶴丸課長の肩にもたれかけていた頭を上げ、桜子の方に向き直る。

「ゆきの? そんな娘いたかしら?」

 そうとぼけながら手酌でビールを注ぎ、一気に飲み干した。

「うちの有馬がお世話になりました」

 由紀乃の肩がピクリと動いた。

「今日はあなたに返してほしいものがあります」
「桜子ちゃん、何、わけのわからんことをいっとるんだね」
「黙っててください! ここからは真剣勝負です!」

 酔っ払ってべろべろになっている鶴丸課長に一喝した。
 課長はシュンとなった。

「有馬の100万円、返しなさい!」

つづく

次回で終わります。(4/5(金)掲載予定)

Comment(12)

コメント

じぇいく

い、インサイダー・・・

匿名

あれ?これインサイダー…

桜子さんが一番

桜子さんがインサイダーなんて・・・今週の鶴丸課長はうらやましくありませんねw

匿名

犯罪だよこれ

VBA使い

二人の顔を交互に見ながら、笑顔で会釈する「。」


「感情」の機微を
まぁ、大金が絡んでるから勘定でもいいか(笑)

湯二

じぇいくさん。

コメントありがとうございます。


>い、インサイダー・・・

ごもっとも。

湯二

匿名2019/04/02 11:18さん。


コメントありがとうございます。


>あれ?これインサイダー…

もしかすると、ですね。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>桜子さんがインサイダーなんて・・・
社員のためとはいえ。


>今週の鶴丸課長はうらやましくありませんねw

おっさんはいよいよ酷い目に合う予定です。

湯二

匿名2019/04/02 12:58さん。


コメントありがとうございます。


>犯罪だよこれ
クライム・ノベル、なわきゃない。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。
いよいよあと一話何で、よろしくお願いいたします。


お金の事ばっかり書いていると、パソコンの変換がそればっかりになってきて、つい。
勘定のほうがある意味、伝わるのかな。

ももたん

>ヘイロー自動車の会長でカリスマ経営者として知られるオコリンボ・マユゲ


ここ読んだ時、名前に思わず吹いてしまいました。

湯二

ももたんさん。


コメントありがとうございます。
元祖のほうは四回目ということで、色々大変みたいです。

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