常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第十七話 ダメな息子ですがよろしくお願いします

»

 翌日、1月6日木曜日。
 朝8時半。

 誰よりも早く出社する桜子は、毎朝、皆の机を拭いて回るのが日課だ。
 資料などを出しっぱなしにしている机は、その位置をずらさないように配慮して拭く。
 ゴミ箱のゴミを集め集積場まで持って行く。
 一仕事終え、自端末の前に座って暖かいお茶を啜り、人心地着いたところで自分の仕事に手をつける。

「おはよう」
「おはようございます。福島課長」

 時計の針は8時50分を指していた。
 始業は9時。
 内勤の社員がそろそろ出社してくるころだ。
 とはいっても、ほとんどの社員が派遣先に常駐しているので自社に出社してくる者は、社長と桜子と福島課長、そして雄一しかいない。

「安田、交通費精算頼む」
「はい」

 福島課長が旅費精算書を片手に桜子の元にやって来た。
 手に取った精算書に書かれた行き先を見てこう尋ねた。

「データセンターに行って来たんですか?」
「ん、ああ......荒尾証券のAPサーバにトラブルがあってな。ほら、うちの佐賀が常駐してるところ。ミドルのバグが原因で急遽パッチをあてることになって作業に立ち会ったんだ」
「深夜までお疲れ様です」

 精算書と一緒に提出されたタクシーのレシートには、深夜2:00に乗車したことが記録されていた。

「社員が散らばってると面倒見るのも大変だよ。うちも早く請けの仕事なり、サービスなり、パッケージ開発なりを自社でしたいもんだな」

 そう冗談っぽく言い、桜子の真向かいの席に座り缶コーヒーの蓋を開けた。
 桜子は会計ソフトを起動し、旅費のデータを入力した。
 社員30名程のステイヤーシステムは言うまでも無く小さい会社なので、総務である桜子が経理も兼任していたのだった。

「給与明細は?」
「用意してます」

 月末締めの給料は毎月月初の5日に振り込むことになっている。
 つまり12月分の給料は、昨日1月5日に各社員の口座に振り込まれている。
 桜子の月初の仕事は、各地に散らばる社員へ給与明細を配りに行くこと、そのついでに、社員の様子や困ったことが無いか訊くことだった。

「そういえば、有馬は?」

 福島課長は壁掛け時計を見ながら言った。
 針は9時を過ぎていた。

「今日はどうしたんでしょうね。まだ連絡が無いです。昨日は風邪だって言ってましたけど......」
「まったく。まだ首にされたショックでも引きずってるのかねぇ」
「そんなことは無いと思いますよ......もしかしたら」
「何か思い当たるのか?」
「まあ......」

 桜子は雄一の給料前借りの件、そして、由紀乃という女のことを思い出していた。
 あの後、結果を確認していないが無断欠勤をしているということは、きっとそのことで何かがあったに違いない。

「課長、私、今から有馬君の家に行って来ます」


---------------------------------------------------------------

 自室の布団の上で昨晩の敗北と屈辱を思い返し、悶々としていた。
 愛していた女の裏切り、そしてその女は雄一の惨めを笑った。
 金のこともそうだが、男としてのプライドを傷付けられたことがいつまでも雄一を苦しめていた。
 会社に行く気にもならない。

「雄一、安田さんって方がお見えだよ~」
「いないって言ってくれ」

 二日連続での欠勤だ。
 スマホを見ると桜子からの着信が多数ある。
 総務として心配なのは分かるが、まさか家まで押しかけて来るとは思わなかった。
 ドアに耳を当て様子をうかがう。
 しばらく経っても物音がしないので、居留守が成功したかと思った。
 寝ている状態から座った状態になった雄一は、布団の上でエロ本を開く。

「何してるの?」
「わぁ!」

 桜子は雄一の肩越しにエロ本を見ていた。

「中学生か? 君は」
「なに人の部屋に勝手に入って来てるんですか!?」
「なに二日も欠勤してるんですか?」
「......それは」

 返事に窮していると、母親の京子がお茶を持って入って来た。

「どうぞ、お構いなく」

 桜子がそう会釈すると、京子は嬉しそうに

「ダメな息子ですがよろしくお願いします」

 と、何を勘違いしているのかニコニコしながら出て行った。

「顔、どうしたの?」
「え......ああ、階段から激しく落ちて......」
「ふぅん」

 桜子は雄一の顔を覗き込んだ。
 雄一はドキドキしてきた。
 自室でかつ布団の上で二人、座り込んで見つめ合っている図は、何か間違いでも起こしそうだ。

「体にはアザも傷も無いのに?」

 ジャージから見える素肌の部分には傷一つ無かった。
 見え透いた嘘はあっさりバレた。

「まぁ、察しはつくけどね。どうせまた女の事でしょ」

 雄一は観念した。
 桜子の前では嘘も何もかも見破られる。
 雄一は由紀乃に金を持ち逃げされたことや、その場所を突き止め取り立てようとして返り討ちにあったことなどを話した。

「ふぅん......」

 お茶にも手を付けず雄一の話をじっと聴いている。
 二人の間に長い沈黙が漂った。

「俺......正直、もう金のことはいいんです」

 最初に口を開いたのは雄一からだった。

「何で?」
「楽しい思い出のために払ったと思えばそれで......」

 桜子は何も応えなかった。
 同情してもらいたいと思った雄一は、特に慰めの言葉も掛けられなかったことで一人取り残された気分になった。

「あっ、これ君の12月分の給与明細」

 桜子から封筒を受け取った雄一は中を開いて確認した。
 いつも通りの給与明細。
 先月と同じ額が記載されている。

「ありがとうございます」
「分かってるよね」
「......はい」

 明細に記載された金額は振り込まれていない。
 先月、前借りしたからだ。
 雄一は虚しくその明細を見つめるだけだった。

「楽しい思い出? 嘘ばっかり。笑わせないでよ」

 桜子の怒気が籠った声に雄一は思わず「はっ」と息をのんだ。

「その明細を見て、君は悔しいとは思わないの!?」
「そ、そりゃ悔しいし腹も立ちますよ! でもどうしようもない! ......今回ばかりは」
「一回殴られただけで、弱気になってんじゃないの!」

 バシッと万年床を叩くと埃が舞った。
 その埃はカーテンの間から差す陽光に照らされて、桜子の周りでキラキラと光った。
 
(綺麗だ......)

 桜子を見て素直にそう思った

「私は君に怒ってるんじゃない。君をこんな目に合わせた奴らに怒っているのっ!」

(この人なら何とかしてくれる)

 確かにそう思った瞬間だった。

「君には、そんな惨めな思いをさせたまま、仕事してほしくない」

 そう言い残すと桜子は部屋を後にした。


---------------------------------------------------------------

 雄一については特に次の仕事も決まっていないので、心の傷を癒してもらうために今週と来週は休ませることにした。
 桜子は職場に戻ると、自分の端末の前に座りexcelを起動した。

 100万円と打ち込む。

 雄一が持ち逃げされた金は総額100万円。
 これを全額取り戻す。
 社員に気持ち良く仕事してもらう事こそが、総務としての仕事だと思っている。
 イコール、全額取り返すことで彼の屈辱を晴らしてやること、それが自分の任務だった。
 どうやったら取り戻せるかと考えた時、まず一つの壁にぶつかった。
 雄一が金を貸したという証拠が何も無いということだ。
 現在のところ、雄一の証言だけで、事実を証明するものは何も無い。
 否、全くないわけでは無い。
 有ると言えば、有る。
 それは由紀乃とのメールのやり取りだ。
 桜子はサルノ・クリエイティブに派遣されていた時、こんなこともあるかもしれないと、雄一と由紀乃の間で交わされたメールのやり取りをzipに固めて自分のメールアドレスに転送していた。
 断片的ではあるが金のやり取りを匂わせる履歴がある。
 だが、証拠としてはやはり弱い。
 そして、借用書など無いので当然、裁判になったとしても勝ち目は無かった。
 だが、仮にそんなものがあったとしても裁判何て時間と費用が掛かることを、桜子はするつもりは無かった。
 ここはシンプルに、かつ相手に制裁を加える形で取り立てたいと考えていた。

(何かいいアイディアはないものか......)

「安田」

 福島課長が声を掛けて来た。

「今日、鶴丸課長と飲みに行くんだ。仮払いで接待費を3万程くれないか」
「はぁ? あの人は有馬君と私のことで借りがあるんですよ。なんでそんな人にお酒を奢ってやらないといけないんですか?」
「まぁそう言うなよ。うちみたいな無名の小さい会社はな、大きな会社と仲良くしとかないと仕事がもらえないんだよ」
「うちだって、佐賀さんや大迫さんみたいな技術力のある人がいます。図体だけデカくて技術力の無い人売りだけが取り柄の目黒ソフトウエア工業やサルノなんかに仕事が流れることが気に食わないし、それがこの業界の問題だと思います」

 桜子が朝から熱っぽく語るので、福島課長は若干まいったなという感じの顔になっている。

「安田、お前だって分かってるだろ。結局会社の名前、大きさ、そんなものを基準にしてお客さんも発注先を選んでるんだよ。それは長年培って来た信頼とかノウハウとかがあるからだ。うちにはまだそれが無い」
「課長、やれば出来るんです。やらせてもらえなければ信頼もノウハウも無いじゃないですか」
「まあまあ......」
「チャンスを持ってこれないのは営業の怠慢ってもんですよ」

 こういう話をするたびに、桜子は自分が一人派遣されていた時のことを思い出すのだった。
 誰にも頼ることが出来ない現場で、一人心細い思いをしたこともある。
 桜子が自社請負にこだわるのはこういった理由からというのもある。

「もう。ちゃんと今日の接待で、仕事取って来てくださいね」
「分かったよ」

 桜子は金庫から金を出すとそれを福島課長に渡した。

「そう言えば『桜子ちゃんが来るなら俺が払う』ってあの人言ってたぞ」
「あのセクハラオヤジが!」

 あんな奴の世話になりたくないとは思っても、そこは下請け業者の悲しいところだった。


---------------------------------------------------------------

「がはは! 桜子ちゃんが来てくれるとは。こりゃ美味い酒が飲めそうですな」

 一人馬鹿笑いする鶴丸課長を、桜子は冷ややかに眺めていた。
 鶴丸課長は美味そうにグラスビールを一気に飲み干し、タン、と置く。
 福島課長が桜子にお酌するように目で合図する。
 仕方なくという感じで、ビールを注いだ。

「桜子ちゃんが来てくれたなら、今日は私のおごりですよ。隣に来なさい。楽しく飲もう」
「もう、奥様に怒られますよ」
「バレなきゃ、やってないことと一緒だわい!」

 こんなオヤジのために会社の金を使いたくない。
 そういった思いから仕方なくこの接待に参加した。
 だが、酒臭い呼気で絡んでくる酔っぱらった男の姿を見ていると、早くも嫌気が差して来てこの場を一刻も早く立ち去りたい衝動に駆られていた。

「そう言えば、ヘイロー自動車のプロジェクトはどうなりました?」

 何かと桜子にちょっかいを出そうとする鶴丸課長の気を逸らすために、福島課長が質問した。

「うむ。桜子ちゃんのお陰で単体テストフェーズは無事に完了出来た。Bチームよりも品質が良かったということで、顧客からも相当褒められたよ。今は年度末のリリースに向けて結合テスト中だ」

 流石に鶴丸課長は仕事の話となると真顔になった。

「お役に立てて嬉しいです」
「私も桜子ちゃんと飲めて嬉しいです」

 そう言いながらデレデレと肩に手を回して来たのでそっと振り払った。
 仕事が上手く行っているのか、相当気が大きくなっているようだ。

「あっ、鶴丸課長、この前私に相談した表領域の方はどうなりましたか?」
「ああ......あれからデータは増え続けてるよ。だから、アドバイスして頂いた通り表領域の拡張を考えてます。まずディスク増強を申請して、予算も通ったよ」

 売上予測データが増えているということは、ヘイロー自動車の来期の売上は相当なものだろう。

「おや、鶴丸課長、私を通さずに安田に何か仕事を振ったんですか?」

 福島課長がニヤニヤしながら意地悪な感じで問い詰めた。

「い、いやまあ、仕事って言うほどでもないよ。ちょっと話を聴いてもらっただけですよ」
「困るなあ。ちゃんと私を通してもらわないと」
「分かりましたよ。今度から、ちゃんとやりますよ」

 福島課長が鶴丸課長にこうして恩を売っている間、桜子は考えを巡らせていた。
 そして、閃いた。
 雄一の金を取り返す方法を。


---------------------------------------------------------------

 翌日、1月7日金曜日。
 桜子は出社する前に銀行に立ち寄った。

 34万円。
 今日の朝、サルノ・クリエイティブからステイヤーシステムの口座に振り込まれた金額だ。
 連中、相当出すのが惜しかったのか、今日やっと振り込まれた。
 それは雄一がサルノ・クリエイティブで稼いだ12月分の残業代である。
 この残業代だけで雄一の前借りは返済されお釣りも来る。
 だが、桜子はすぐに雄一にそれを渡す気は無かった。
 この金は、これから雄一の100万円を取り返すための資金になるからだ。
 
つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

桜子さんは萬田銀次郎みたいになるんすか?あと、鶴丸課長がうらやましい・・・w

VBA使い

桜子はサルノ・クリエイティブ「に」派遣されていた時


仮にそんなものがあったとして「も」裁判何て


何かと桜子にちょっかい「を」だそうとする


相当出すの「が」惜しかったのか


ん? ちゅーことは福島課長は実はステイヤーのNo.2?

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>萬田銀次郎
漫画ゴラクですな。
鬼のような取り立てで、エンジニアと全く関係ない話になってきています。


>鶴丸課長がうらやましい
セクハラオヤジにも制裁を加える予定です。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。
今回は、てにをはが多かったですね。
後から付け加えたところはやっぱり間違いが多いです。


>ん? ちゅーことは福島課長は実はステイヤーのNo.2?

そうなります。
部長がいないというか、最初から考えてなかったです。
あと、社長が未だに登場してないので、どこかで出したいなと思ってます。

桜子さんが一番

関西で萬田銀次郎というと漫画ゴラク?より断然Vシネマですw
よく日曜日の午後に見ます。

匿名

ん?業務上横領にならないようなストーリー期待してますw

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>漫画ゴラク
ミナミの帝王が連載されてた雑誌です。
VシネというとB級な感じでいい味出してそうですね。


ほう、関西の方ですか。
仕事がひと段落したら三都物語でもしたいもんです。

湯二

匿名さん。


コメントありがとうございます。


業務上横領とはいかないまでも、犯罪に近いことはするかもしれませんです。

コメントを投稿する