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【小説 スーパー総務・桜子】第十六話 このドロボー猫

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 次の日、雄一は会社を休んだ。
 こんな顔じゃ会社に何て行けない。
 何より女のことで顔面を殴られたなんて、桜子に知られたら男としての沽券に関わる。

(あの女を絶対見つけ出してやる)

 そう心に決めた雄一は自室のノートパソコンに向かい、女の足跡を探していた。
 ブラウザを立ち上げ、「川崎由紀乃」と打ち込む。
 同じ名前の女が何人も検索ワードに引っ掛かった。
 その中に、あの女に関する情報が無いかを目を皿のようにして探す。
 だが、あの女の情報、画像は見つからない。
 そこで雄一はひと工夫することにした。

「由紀乃 エガオヲミセテ」

 リターンキーを押す。
 見覚えのある顔が検索に引っ掛かって来た。
 まず『エガオヲミセテ』のホームページ。
 店側も急な退店でホームページの更新が遅れているのだろう。
 そこには彼女のプロフィール画像がまだ残されていた。

yukino.jpg

 ★一問一答プロフィール
 Q.彼氏は?
 A.いません。募集中です(笑)
 Q.趣味は?
 A.食べ歩きかな。仲良くなったら一緒に行きたいな。
 Q.特技は?
 A.高校までやってた水泳。最近、やってないから体がなまってる(-_-;)
 Q.チャームポイントは?
 A.自分で言うのも何だけど、目、かな?
 Q.ニックネームは?
 A.ユキノッピ。中学の時からそう呼ばれてる。
 Q.何か一言
 A.一緒に楽しい時間を過ごしましょー☆ 待ってるね!(⌒∇⌒)

 数分経って、じっとプロフィール画像を見入っている自分に気付いた。

(まだ......俺は......)

 もしかしたら彼女はLINEを誤ってアンインストールしたか、スマホを買い換えただけなのかもしれない。
 それで連絡出来ない状態なだけなのかもしれない。
 またいつものようにメッセージが来たりして。
 あの苦汁の日々をお互い励まし合い一緒に過ごして来た、そんな仲じゃないか。
 雄一は彼女のために頑張って来たし、彼女もそれに応えようと必死だったはずだ。
 そんな思いが強く湧き上がって来た時、こう思った。

(会いたい、会いたい、会いたい)

 金を取り戻したい訳じゃなく、もう一度会いたいだけなのだ。
 心の奥底にある本当の想いを確認出来た雄一は、俄然、打鍵にも力がこもった。
 だが、捜査に大きな進展は無かった。
 雄一という名の小さな筏は由紀乃という名の島を目指すが、インターネットという広大な海をただ漂うだけだった。

「雄一、雄一」
「なっ、なんだよ! 入るときはノックしろよ!」

 母親の京子が突然、部屋に入って来た。
 気分転換に再生していたエロ動画を見られまいと、ノートパソコンの蓋を勢いよく閉じた。
 だが、音声だけは漏れ聞こえていた。

「まったく、この子は......」
「うるせーな! 何だよ!」
「早く病院に行きな」
「大丈夫だよ! 赤チンぬっときゃ治る」
「あー、まったく口ごたえばっかだね、この子は。子供の頃は素直だったのにね」

 京子はお茶を雄一の机に置くと、居間に戻って行った。
 そのお茶を啜ることで人心地着いた雄一は、流石に邪険に扱い過ぎたと思い謝りに行こうと居間に向かった。
 小さな背中を丸めて座り込んでいる母親を見て、問い掛ける。

「何してんだよ」
「あんたの子供の頃の写真見てたんだよ。あの頃はゆーちゃん、ゆーちゃんなんて呼んだら飛びついて来て、可愛かったよ」

 京子はそう言うと、黄ばんだ古い写真を見せた。
 幼児の頃の雄一が子供用のミニカーにまたがっている。

「やめろよ」

 照れ臭いので外に出て昼飯でも買いに行こうとした時、ふと思い当たった。

(ゆーちゃん......そうか。ニックネームか......)

 雄一は自室に戻ると、検索欄にこう打ち込んだ。

「川崎由紀乃 キャバクラ嬢 ユキノッピ エガオヲミセテ」

 『エガオヲミセテ』のホームページにあった由紀乃のプロフィール。
 ニックネームのところに「ユキノッピ」とあった。
 絞り込める情報として、これだけあれば由紀乃に近づけるのではないかと思った。

(ビンゴ......)

 検索結果には雄一の思った通りの情報が並んでいた。
 由紀乃はユキノッピというアカウントでSNSを謳歌していた。
 それは、彼女のインスタ映えを目論んだ画像だったり、書きかけて止めたブログだったり、Facebookの日記だったり、twitterのつぶやきだったりした。
 そして、それらは雄一を落胆させるものばかりだった。
 例えば、彼女がホスト風の男と楽しそうに酒を飲んでいるインスタ画像。

takkun1.jpg

 付属のメッセージには「たっくんの店で楽しく飲んでる」と記されている。

 もう一つ、一緒に行ったと思われる旅先での浴衣姿の画像。
 「今日はたっくんとお泊りクリスマス会」とのメッセージが。
 それらの画像は、雄一にとって辛い現実を突きつけて来た。
 そういえばクリスマスはあれほどお願いしたのに、会ってはくれなかった。
 全てはこの『たっくん』の存在が原因だったのだ。
 この『たっくん』という男が何者かは知らないが、由紀乃が雄一といる時には見せたことが無い無邪気な笑顔であるということから、恐らく彼氏であろうことが推測される。

「ううう......」

 自端末の前で頭を抱え込んだ。
 インスタ映えしたその画像を見続けていると、理想の由紀乃像がガラガラと音を立てて崩壊して行くのが分かる。
 そして、そのガレキはすぐに怒りへとビルドアップされていった。
 ふとスマホを見た。
 由紀乃からの連絡はやはり、ない。
 そして、真新しいキャバクラ店の前で由紀乃とたっくんが万歳している画像。

takkun2.jpg

 「たっくんのお店が遂にオープン! 色んなところからお金集めるの大変だった。。。私も今日からここで働くよ!」とのメッセージ。

 これが決定打となった。
 私大に通う弟と妹がいるとか嘘だし、借金があるというのも嘘で、雄一の金は由紀乃を通してこの男に貢がれていたのだ。

「許さん!」


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 電車で揺られること一時間。
 雄一が住む県で二番目に大きな駅に降り立った。
 既に空は暮れ掛かっていて、黒い影となった建物をバックに夕日が沈もうとしていた。
 駅を出てすぐの繁華街へと向かう。
 たっくんこと由紀乃の彼氏が経営しているキャバクラ店『I will love again.』はこの街にある。
 アーケード型の長い商店街を抜け、歩道橋を渡る。
 ネオン街の中を歩いて行くと目的地が見えて来た。
 まだ開店したてらしく、店の前には花輪が置かれている。

「いらっしゃいませ」

 ボーイに案内され店内に入る。
 暖かい色の間接照明と黒を基調とした調度品、踏むとふかふかとした心地よいカーペット。
 全体的に落ち着いた内装だ。
 奥の席に案内された。
 席についた雄一に対し、ボーイは片膝をつき丁寧に指名をどうするか訊いて来た。

「おすすめは?」
「はい。こちらの『ゆき』さんは当店一番の人気です。可愛らしくトークも抜群です」

 通常、店の良さを知ってもらうために新規の客にはその店の人気嬢を割り当て、常連になってもらおうとする。
 雄一もそういう思惑で、店内No1を推薦されたのだろう。
 写真を見ると『ゆき』は由紀乃そのものだった。
 
(『ゆき』だと、ふざけやがって)

 ボーイの後を、白いシルクのドレスを着た『ゆき』がゆっくりと歩いて来る。

「はじめまして。ゆきです」

 由紀乃は顔を上げた瞬間、目を丸くした。
 殴られて腫れ上がった顔面は遠目からだと雄一と判別出来なかったのだろう。
 だが近くで見た時、それと分かったようだ。

「よぉ」

 彼女もそこはプロなのか動揺の色を瞳から消し、雄一にすり寄る様に座った。

「何か飲みますか?」
「この店で一番高い酒」
「懐具合は、大丈夫なんですか?」
「おい、笑わせんじゃねぇぞ。今日の飲み代はお前が払うんだからな」

 雄一は由紀乃に向かって凄んだ。

「あはは。お客さん、冗談が上手いですね」
「冗談じゃねぇさ。俺から借りた金の一部で、お前は今日の俺の飲み代を払うんだ」

 遠目からは普通に見える二人のやり取りを、ボーイが見張っている。
 由紀乃が灰皿の位置をテーブル左端に持って行くことで「客がヤバい奴だ」ということを告げているのだ。

「......どうしてここが分かったのよ」

 声を潜め由紀乃が問い掛ける。

「俺はITエンジニアだぜ。インターネットを駆使して調べ上げたんだ」

 9割はgoogle先生の力なのだが、そこは伏せて置いた。

「兎に角、今日は俺から借りた100万円を返す約束をしてくれ。それまで帰るつもりはない」
「ある時払いの催促なしって言ってたじゃん」
「言ったさ、言ったけどな、あれは俺とお前が付き合うっていう前提で言った言葉だ。裏切りが分かった今となっちゃあ、そんな約束は即破棄だ」
「笑える。借用書も無いし証拠も無いでしょうに」
「てめぇっ!」

 雄一は怒りに任せて由紀乃に掴みかかろうとした。
 だが、背後から何者かに両肩を押さえられ深々と椅子に座らされた。


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「おいガキ、お前のやってることはストーカーっていうんだよ」

 雄一はバックヤードの硬いコンクリートの床に正座させられ、たっくんに説教されていた。
 黒いスーツに金髪のたっくんは一見するとやり手の実業家にも見えるが、鋭い目つきからはどこかヤクザっぽさも感じさせる。
 たっくんの冷たい瞳に見据えられ、雄一は闇社会の隙間、その突っ込んではいけない箇所に手を入れてしまったのではないかと多少怖気づいてた。
 そんな頼りがいのある彼氏の後ろで、由紀乃が電子タバコ片手に事の成り行きを見ている。

「ちょっと職場で仲良くなったからってな、調子に乗ってんじゃねえよ」
「由紀乃さんは俺から金を借りてるんです。それを返してほしい。ただそれだけです」

 蹴り飛ばされたパイプ椅子がロッカーにぶち当たり派手な音が鳴り響いた。

「人の彼女を気安く名前で呼ぶんじゃねぇよ!」

 その衝撃と音に雄一は思わず肩を震わせた。

「......確かに、だけど」

 雄一は恐怖を振り払おうと必死だった。
 ここで訴えをやめれば相手の思う壺だ。

「俺は川崎さんが家庭の事情で金が困ってるとか、過去の辛い出来事が原因で借金したこととかに同情したから金を貸したんだ。何とかしてあげたかったんだ。それを......」
「そうだよな。お前の言う通りだ。由紀乃は金に困ってた。それをお前の100万円が助けてくれたんだ」
「え?」

 たっくんはさっきまでの恐ろしい態度が嘘のように、眉を下げ笑顔で雄一の肩に手を置いた。
 まるで取調室で犯人を尋問する刑事が、飴と鞭を使い分けているかのようだ。
 硬軟織り交ぜて雄一を懐柔しようとしているのが分かる。

「お前はただ単に金を渡して由紀乃を助けた。いいことしたね。それだけで十分じゃねぇか」
「じゅ......十分じゃねぇ! 俺は騙されたんだ! 金の使い道が第一違うじゃねぇか!」
「おいおい、なんの言いがかりだよ」
「俺はこの店の資金のために、あの女に金を貸したんじゃねぇ!」

 雄一はたっくんの肩越しに由紀乃を指さした。

「あの金はちゃんと妹と弟、そして借金の返済に使ったわ」

 たっくんの庇護のお陰で由紀乃は臆することがない。
 ふっくらとした桜の花びらを思わせる可愛い唇から、平気で嘘を吐く。

「嘘つくな! インスタの画像が証拠だよ」
「そんなの証拠にならないって。それにね、さっきも言ったように借用書も何もないじゃない。だから、そもそもあなたは私にお金を貸したかどうかの事実も証明出来ないわけよ」
「......くっ」
「元々、そんなお金が存在したことも誰も証明出来ない」

 雄一はあまりの発言に呆れてものが言えなくなった。
 職場であれ程おっちょこちょいだったのに、私利私欲の悪知恵となると頭の回転が速くなるようだ。

「川崎さん。俺たち、物のように扱われる酷い現場で一緒に......あれ程......苦労して一緒にやって来たじゃないか」
「今度は泣き落とし?」
「そうじゃなくってさ......」
「あなたも連中と一緒よ。結局、女は金で何とかなる『物』としか見てなかったんでしょ。だから私にお金を渡したんだろ。使えないからって人材をとっかえひっかえしてるあいつらと同じだよ。あんたは」

 全てがそうだったかといえば異なるが、確かに多少そんな気持ちもあった。
 結局、ハルカを切って鈴鹿を入れたのも心の奥底ではメンバーを物だと思っていたからだろうか。
 何より、最も忌み嫌っているあいつらと一緒にされた雄一は奥歯を噛み締めた。

「ついに正体を現したなこのドロボー猫が! てめぇからは絶対とりっぱぐれねぇからな! 覚悟しろ!」
「おいおい、そこまでにしとけよ」

 黙ってやり取りを見ていた彼氏こと、たっくんが片手で雄一の襟首を掴んで軽々と持ち上げた。
 窒息しかかり苦しさの余り地面に着いていない両足をばたつかせる。
 その様を見て由紀乃が腹を抱えて笑っている。
 雄一は屈辱感にまみれた。

「もうストーカーしませんか?」

 ドスっと一発腹に衝撃が伝わり、息が出来なくなる。

「ストーカーしませんか?」

 もう一発、みぞおちに入った。
 涙がこぼれ出る。

「し・ま・せ・ん・か?」

 雄一が返事をしないので、たっくんは拳を引き搾り殴る構えを取った。

「し......しません......」

つづく

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コメント

VBA使い

殴られて腫れ「た」上がった


そこは伏せて「い」置いた


これじゃ明日も休みですな。
有休残数が心配。

atlan

ドロボウ猫って、ちょっと使い方が違うかな?

湯二

VBA使いさん。

コメント、校正ありがとうございます。


新人だから有休もそんなに与えられてないでしょう。
兎に角、有休の前借なんてものがあれば使ってるでしょうね。
それか、GWは10連勤とか。

湯二

atlanさん。


コメントありがとうございます。


この場合は、化け猫辺りが適切だったかもしれません。
ドロボー猫だと、彼氏を取られた女が、略奪した女に対して言う言葉ですね。
まあ、主人公の語彙力だと使い間違いもあるということで。。。

匿名

雄一がバカにしか見えない。
DQNとマトモにやり合うだけ時間の無駄だろうに。
腹にジャンプは必須だろうに。

湯二

匿名さん。


コメントありがとうございます。


腹にジャンプで思い出したのですが、昔ビーバップハイスクールでそんなシーン有りましたな。
あの時は、拳に10円玉を握り込んでたはずです。

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