常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第十五話 モツレバ煮込みと、オムライス、牛皿、コーンコロッケ、ヒジキ炒飯、おでん、醤油ラーメン、あとビール

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「おい! おい! ユーイチ」
「ん......ああ......」

 リュウジに肩を揺すられ、ここがスタジオの休憩室だということを思い出した。
 いつの間にか、頭の中が一カ月前の世界に戻っていた。

「リーダー、後はお前が決めるだけだ。ハルカにするか鈴鹿にするか」

 そう投げ掛けられ、雄一は思わずこう応えた。

「このままハルカを捨て、鈴鹿を選ぶということは、あいつらとやってることは同じじゃないか」

 リュウジは口を曲げ、ツヨシの方を向いた。
 ツヨシは「分からない」といった風に首を振った。

「なんだ? あいつらって?」
「俺がついこの間までいた派遣先のプロパーの事だよ」

 雄一は石野課長から受けた仕打ち、由紀乃が使えないからという理由で無下に切られたことなど、バンドメンバーに話した。

「ハルカは確かに歌は下手だ。だけど不器用なりに頑張っている。いい人材が現れたからって、そんなハルカを捨ててすぐに乗り換えるなんてそんなこと......出来る奴の気が知れねえ」

 不器用なりに頑張っている。
 自分で言ったその一言に、雄一は自分を重ね合わせてみたりしてちょっと自分に酔っていた。

「甘いこと言ってんじゃねえ」
「あぁっ!?」

 リュウジにバッサリ切り捨てられた雄一は頭に血が上った。

「綺麗ごとなんだよ、お前の言っていることは。仕事ってのは出来ない奴を食って行かせるほど甘いものじゃない。出来ない奴は切り捨てる。気に入らない奴は辞めるというまで追い詰める。上にだっていろんな思惑があるんだ。俺からすると、お前よりもその上司の方が正しいと思うぜ。働く大人としてはな。お前はタダの理想ばっかり言ってる駄々っ子だ」

 そう言いながら、タバコを挟んだ指先で雄一のことを指し示す。
 リュウジは小さい電気工事会社に勤めてる。
 そこで課長という立場だった。
 当然、働く者のスタンスが雄一と異なる。
 かなり忙しいらしく、仕事帰りによく油の付いた作業着のまま来ることが多い。
 今日も作業着にジーンズというラフな格好だ。

「なぁ、ユーイチ。冷静になって考えてみろよ。俺たち何のためにバンドやってんだ?」

 横でやり取りを見ていたツヨシが声を掛ける。
 皆、言わなくても分かっていることだから、あえて応えなかった。

「やっとチャンスが来たんだぜ」

 チャンスとは鈴鹿のことだ。
 彼女とさっきまで音合わせしていた。
 その時のことを思い出すと、今も鳥肌が立つ。
 爆音のキングジョージの演奏を突き破る様な歌声は、今は粗削りだけど練習次第で絶対メジャー級になるはずだ。
 雄一をはじめ、みんなそう確信していた。

「ユーイチ。お前はどっちにしてもハルカを捨てて鈴鹿を選ぶんだよ。だから、この際、開き直れ。このままダラダラと付き合わせてるほうが、あいつにとって失礼だ!」

 リュウジにそう言われた雄一の心には、何故か由紀乃の顔が思い浮かんだ。
 もしもメジャーデビュー出来て、曲が売れれば今よりも沢山の収入が期待出来る。
 もちろん収入が目的でバンドをやっているわけじゃない。
 自分たちの曲を多くの人に聴いて欲しいからやっている。
 収入アップはその結果ついて来るだけのものだ。
 だが、儲けが増えれば由紀乃の借金何て気にしなくてもよくなるし、彼女との将来を具体的に考えることだって出来る。
 今のエンジニアの安月給とは違い、由紀乃を幸せに出来るはずだ。
 そんな甘いことを疑いも無く考えていた。

「......分かったよ」

 顔を上げ、そう応えた雄一を見たリュウジとツヨシは笑顔になった。

「鈴鹿で、GOだ」


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 1月4日火曜日、11時。

 派遣先が決まっていない雄一は、福島課長からとりあえず自社に出社するように言われた。
 年明けの挨拶もそこそこに席に着く。
 だが特にやることも無く、社内ニート状態となり暇を持て余していた。
 やることがない。
 机の下で隠れて見えない両足はドラムのキック練習に励んでいた。

「ちょっと、ちょっと」

 肩を叩かれ、後ろを振り返ると無表情の桜子がそこにいた。

「暇なのはわかるけど、貧乏ゆすりがうるさいからやめてね」

 さすがにドラムの練習ですとは言えず、小さく謝っていると机の上に分厚い本を数冊置かれた。

「『データベース入門』、『ORACLE MASTER』......何ですかこれ?」
「福島課長が次は君にデータベースの仕事をさせたいって言ってるから、参考になりそうな本を用意したの」

 開いてみると赤線や書き込みが沢山してあった。

「なんかすごい書き込みがしてあるんですけど、誰のですか?」
「......もう辞めてった人が残してったやつ」

 少し間があった後、桜子はそう答えた。


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 その日の昼休み、星屑珈琲店にて。

 「ユーイチからお茶誘ってくれるなんて初めて」

 そう言うと、ハルカは嬉しそうにメニューを目に落とした。
 赤く染まった頬におかっぱの髪がパラリとかかった。

「なんでも好きなもの頼んで」
「ホント? ありがとう」

 本当は雄一の懐事情では、好きなものを頼ませるというのは辛いところだった。
 だが、重たい宣告をこれから告げられる相手に、コーヒー一杯だけでは悪いなと思った。

「コーヒーでいいよ」
「それだけ?」
「うん。だってユーイチ、お金あんまり持ってないでしょ? 私に借金してるし」

 そう言われてみると、雄一はスタジオ代3,000円をハルカに借金したままだ。

「だから、割り勘でいいよ」

 ハルカはにっこりと笑った。
 それを見た時、初めて「こいつこんなに可愛かったっけ?」と思い、多少戸惑った。

「で、今日は何なの?」
「え?」
「話があるから呼んだんでしょ?」
「あ、ああ......」

 リーダーという立場上、こうして何人ものメンバーに首を宣告して来た。
 何度繰り返してもこの場面だけは緊張する。
 それは自分が切られる側になったことがあるから、相手の気持ちがよく分かるというのもある。
 しかし、ここは心を鬼にしなければならない。

「実は新しいボーカルが見つかったんだ。すまないがハルカには抜けてもらいたい」

 包み隠さず本当のことを話した。
 それを黙ってハルカは聞いていた。

「分かってたよ」
「え?」
「だって、ネットの掲示板でメンバー募集してたの見たもん」

 ハルカが言うにはバンド名は伏せているが、キングジョージと分かる募集記事をネットで見つけていたのだそうだ。

「......と言いつつも、私も掲示板で自分に合うバンドを探してたんだ。お互い浮気してたなんてお笑いだね」
「そっか......」
「ほんと、切られる前にこっちから切ってやろうとしてたのにね」

 ハルカは腹を抱えて大笑いした。
 つられて雄一も笑った。
 そのせいで気持ちがずいぶん楽になった。

「一年くらいだったけど、楽しかったよ」
「ハルカ......」
「あっ、あの3,000円は餞別だからね。返さなくてもいいよ」

 そう言うと伝票を取り立ち上がった。

「でも、ここよりいいバンド、見つからなかった」


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 その日の夜。

「由紀乃さんは、もう辞めました」
「え?」

 キャバクラ『エガオヲミセテ』で、いつものように由紀乃を指名した雄一はボーイにそう返された。
 つい昨日まで一緒に店で話したり、アフターで食事したりしてたじゃないか。
 そんな話、一度も出てこなかった。
 慌ててスマホを取り出し、LINEを起動し由紀乃のアイコンを探す。
 だが、それは無かった。
 厳密に言うと、アイコンは簡素な人型のシルエットになっていて、名前のところには

<<メンバーがいません>>

 という記載のみであった。

「由紀乃は......あいつは......どこに行ったんですか?」
「さぁ、個人的なことなので。分かりません」

 ボーイは雄一が客じゃないと思ったのだろうか、冷ややかな対応をして来た。


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 夜の繁華街を行く当ても無くフラフラと歩いていた。
 全てを取り除けば、スマホの通話アプリで繋がっていただけの関係で、それすらも千切れれば何も残らない。
 そんな細い一本の線で結ばれたような脆弱な関係だったということに気付かされた。
 元々、店で使う予定だった二万円を握りしめ、雄一は一杯飲み屋に駆け込んだ。
 壁際のカウンター席に座る。

「モツレバ煮込みと、オムライス、牛皿、コーンコロッケ、ヒジキ炒飯、おでん、醤油ラーメン、あとビール」

 メニューを左から読み上げて行く。
 割烹着のおばちゃんが呆れ顔で注文を受ける。
 出来上がった物から次々テーブルに置かれ、それを無心に食い進めていく。
 ヒジキ炒飯を食べているところで腹が急に満腹になったことを脳が伝えて来た。
 だが、雄一はやけ食いを止める気は無かった。
 この際、同じ惨めなら、とことんまで惨めになりたいその一心で、体が悲鳴を上げようが全ての料理を平らげてやろうと思っていた。
 借金を肩代わりしてまで女に尽くしたのに虫けらのように捨てられた自分が、どんなに意味のない存在か見定めなければ気が済まない。
 そうやって自分を苛め抜くことで一種のカタルシスというか、こんなに不幸なのは自分だけだという唯一無二の中学二年生みたいな感覚に酔いしれていた。

「ごふっ」

 テーブルに突っ伏しそうになる。

「お代はいいから、もうやめときな」

 顔を上げると割烹着のおばちゃんの二重顎が見えた。
 雄一は、バン! と、テーブルに一万円札を叩きつけるとおばちゃんを無視して店を後にした。
 中途半端な哀れみで、自己満足の自己陶酔に水を差されたことに苛立ちを感じた。


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 更に夜は更け、雄一は風俗街に迷い込んでいた。
 急に人肌が恋しくなりどこかの店に飛び込もうと思ったが、一万円ではどこも相手にしてくれない。
 何度も同じ通りを未練たらしく行ったり来たりする雄一に、仕方なしという態である店の女が声を掛けて来た。

「一万円でいいですよ」

 前金ということで全財産を手渡した。
 路地奥の更にその奥まで案内される。
 暗がりの怪しげな引き戸の向こうに人影が見える。
 戸を開けてもらうと、絨毯に三つ指をついてお辞儀しているネグジェ姿の女がいた。

「おこしやす」

 女の顔を見て雄一は驚いた。
 その年輪の重ね具合は、自分の母親以上の年はいっていると思われた。

「ぎゃあああ」

 雄一は逃げ出した。
 所詮、自分を苛め抜くという覚悟もその程度だと分かった時、別の意味で惨めになった。
 惨めの極みにもなり切れない、仕事も途中で切られてみたり、バンドもいつまでたっても変わらない。
 全てが中途半端。

(このままでいいのか......)

 電柱にもたれながらそう思った。
 冷たい風に吹かれたのと走ったことで、多少酔いも覚め冷静さを取り戻せて来た。
 結局、由紀乃に手渡した金は100万円にまで膨らんでいた。
 当初は30万円だけの借金だったが、あれこれ話を聞いているうちに借金は一カ所の金融機関のものだけでは無いということが分かったのだ。
 今考えると、由紀乃としては一度でも肩代わりしてくれた雄一が、絶好の鴨に見えたのだろう。
 そこから雄一の気持ちを利用した搾取が始まったのだ。
 雄一は方々から金を工面した。
 スネアドラムを売り払い、キックペダルも売り払った。
 今はスタジオのものをレンタルしている。
 付き合っている(本当は付き合ってないが)女性が困っていると言って母親からも金を借りたし、愛読している漫画『殺し屋1』、『宮本から君へ』、『寄生獣』、『柔道部物語』、『幽遊白書』なども全巻売り払った。
 深夜は交通整理のバイトもしたし、工場で焼きそばパンを作ったりもした。
 そんな苦労の結晶を、あの女は持ち逃げした。
 そりゃ、ある時払いの催促なしと甘いこと言っては見たが、それは今後も二人の関係がずっと続くからという前提の話だ。
 連絡を一方的に断たれ音信不通となった今、何としても金を取り返さなければならない。

「よし!」

 雄一は自らに気合を入れると『エガオヲミセテ』へ向かった。


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 店の裏口付近にある自販機で由紀乃を待つ。
 もしかしたら、辞めたというのは方便で、実はまだのうのうとこの店で働いているやもしれぬ。
 かつて、アフターでの待ち合わせに使った甘酸っぱいその場所で、女が出てくるのを今か今かと待っていた。

「おつかれー」

 何人かの私服に着替えた女が出て来た。
 その中に由紀乃はいない。
 それから数分置きに、ポツリ、ポツリと女が出て来るが由紀乃はいない。

(やっぱ......いないのか......)

 そう落胆しかけた時、見覚えのある一人の女が出て来た。
 いつか、由紀乃が他の客から離れられない時に、ヘルプでついてくれたタヌキ顔の嬢だ。

「ひ、久しぶり......」
「有馬さん!」

 その女は雄一の突然の来訪に驚いたのか、丸い鼻の穴をひくひくさせながら後ずさった。

「由紀乃ちゃんが辞めたってホント?」
「え? うん」
「本当のこと言ってよ」

 雄一は迫った。

「ほんとだよ」
「どこに行ったか教えてくれないかな」
「彼女のプライベートのことだし、私もよく知らないし」
「何かほら、二人とも仲良かったじゃん。連絡とか取ってるんでしょ?」

 雄一は何だか自分がストーカーまがいのことをしている気になり、これでいいのかと思ったが、金を取り戻すためだと自分に言い聞かせた。

「有馬さん。そういうのお店の中だけにしてもらえませんか?」
「え?」

 営業中とはうって変わった硬い表情と態度に、雄一は怯んだ。

「あなたは、お金で楽しい時間を買った。彼女はお金をもらいその時間を提供した。それをお金を介さず、お店の外で求めるのはルール違反だし無粋ってもんですよ」

 それが大人の遊びの流儀というものか、何てそう物分かり良く引き下がれない。

「あの女は俺の金を持ち逃げしたんだ! 俺にはとっ捕まえて返させる義務がある! だから場所を教えてくれ!」
「下心でお金渡したあなたが、それをとやかく言うのは.........」

 気付くと、怒りで女の両肩を両手で握りしめ揺さぶっていた。

「吐け! 吐きやがれ!」
「いやー! やめてー!」

 雄一は後頭部に鈍い衝撃を感じた。
 思わず女から手を放し、フラフラと地面に手をつく。
 と同時に襟首を掴まれて引き立たされ、顔面に一発、固い拳を喰らった。

「しつけぇぞ! てめぇ!」

 店のボーイが倒れた雄一を一喝した。
 薄れゆく意識の中で、その声がいつまでも耳にこだましていた。

つづく

Comment(6)

コメント

桜子さんが一番

100万もですか!!少しコチラに融通してくれれば、、、桜子さんと飲みに行くのに(笑)

VBA使い

雄一をはじめ「め」、みんなそう確信していた。


リュウジにそう言わ「れ」た雄一の心には、


ネグ「リ」ジェ姿の女がいた。


下心でお金渡したのはあなたが、それをとやかく言うのは
→「のは」がいらない?


リュウジも、雄一の甘さを知ってるから、失格のエンジニア 編で泣きながら頭を下げたんかな。

匿名

気になりました2か所です。
ネグルジェ →  ネグリジェ
下心でお金渡したのはあなたが、それをとやかく言うのは...... → 下心でお金渡したあなたが、それをとやかく言うのは......

湯二

桜子さんが一番さん。

コメントありがとうございます。


>100万もですか!!少しコチラに融通してくれれば、、、桜子さんと飲みに行くのに(笑)

一生無いと思うけど、読者還元フェアとかあれば記念のQUOカードでも配りたいですね。

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。
校正ありがとうございます。
ネグリジェでしたか。。。
このサイトでまず出てこない単語ですね。


>リュウジも、雄一の甘さを知ってる
彼は人情はあるみたいです。
それにしても、
よく覚えておられますね!
今まで書いたものを時系列に並べて読んだことは無いけど、続編を書く時に一度読み直してみます。


湯二

匿名さん。


コメント、校正ありがとうございます。
修正しております。
あと、もうしばらくお付き合いください。

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