常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第十二話 男ってバカね

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「へ?」

 石野課長は素っ頓狂な声を上げた。

「バグ票もここに置いておきますね」

 10画面分のテストで発見されたバグは20件あった。

「ちょっ、ちょっと待て......まずそのバグ改修の方が先だろ。それを踏まえてテストした結果を出しなさいよ」
「仰る通りです」
「だ......だったら......」

 先週までの桜子とは違う。
 石野課長はそう感じたのか、声が震えている。

「バグは自分で改修しました」
「はぁっ!? そんなの認められん! 私が受け付けてから担当に改修してもらうのがルールのはずだ!」
「ルール?」

 そんなものがここに存在していたということがお笑い草だった。
 雄一を陥れるためにそのルールを利用していたのはどこのどいつだ。

「石野課長。月末までに全画面の単体テスト完了させる。それがこのプロジェクトチームのミッションですよね? 違いますか?」

 誰もが作業の手を止め、二人のやり取りを見ていた。

「これまでのルール通りやっていたら事が進まないし間に合わない。そう判断したから私は自分で改修しました。改修内容が正しいかどうかはPG担当者とレビューすることで担保を取ります」
「このチームのリーダーは私なんだ。勝手にやり方を変えないでくれないか?」

 石野課長は目の前の紙束を忌ま忌まし気に見た。

「あなたのやり方が悪いから、この時期にこれだけの物量が手つかずで残ってたんでしょ?」

 桜子は存在感のある紙束を指差した。

「今は過去のルールにこだわる状況じゃありません。仕事を完了させるためにやり方を改善する、端折るところは端折る。皆を巻き込んでそれを指揮するのがリーダーの仕事でしょ」

 そう切り捨てられた石野課長は苦々しげに反論した。

「......このやり方で、目黒ソフトウエア工業と話はついてるんだ。今更......」
「請負契約なんだから、やり方について元請けの顔色何てうかがう必要ありません。成果物だけ出せばいいんです!」

 そして、紙束に手をついてこう言った。

「ではお願いします」


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 雄一はCDを焼いていた。
 あるビルの中の一室、そこには彼だけしかいない。
 四畳半ほどの物置のような部屋で、古いデスクトップパソコンを使い一枚一枚手焼きだ。

「ふー」

 椅子の背もたれに身を任せた。
 朝から5枚ほど焼いた。
 サルノ・クリエイティブを首になったその日、福島課長の車に乗せられ面談へ連れて行かれた。
 辿り着いたのはこの部屋。
 どんなプロジェクトなのか名前も内容もよく分からない。
 面談といっても大した質問も無く、採用となった。
 年内までのスポット的な役割だし、仕事内容がただ単にCDを焼くだけという内容なので、採用する側も大人しく働いてくれそうなら誰でも良かったのだろう。
 首になり落ち込んでいた雄一は大人しい羊に見えたのかもしれない。

「インストールメディア」

 と、テプラで打ち出したラベルを焼き上がったCDに貼り付けた。
 そして、次のCDを焼く。
 それの繰り返しだった。
 全国各所に散らばっている作業員にこのCDを送付してインストール作業を行ってもらう。
 年末までにノルマの200枚を達成しなければならない。
 1枚完成させるのに10分ほど掛かる。
 1時間で6枚。
 8時間で48枚。
 年末休みまでに終わらせる必要がある。
 だから少し残業しないと間に合わない。
 端末が一台しかないから並列で行えないのが辛い。
 単純作業で楽なのは楽なのだが、余りに退屈で時間が止まったかのような錯覚に陥る。
 そんなことだから余計なことをつい考えてしまうのだった。

「由紀乃......」

 誰もいないから、呟いてみた。

ブルルル。

 机の上のスマホが振動している。
 ディスプレイを見ると、今まさに思いを馳せていたその人だった。

「もしもし。俺だけど」
<あ、私です>

 店通いは続いていた。
 昼間出会うことが無くなり、夜が更に待ち遠しくなった。
 由紀乃は派遣会社も首になった。
 暇なのか、雄一が仕事中なのも気にせず電話を掛けて来る。
 雄一としては退屈な仕事の合間に来る由紀乃の電話は、砂漠の中のオアシスのようでありがたかった。

<あのさ......前、話してたじゃん。覚えてる?>
「う......うん」
<いよいよ、返さなきゃいけなくなったんだよね>
「......分かった。今日の夕方、駅前の喫茶店にいるから」

 ドライブから焼き上がったCDがポンと飛び出してきた。

<雄ちゃん。ありがと>

 理由はどうあれ、ご出勤前の由紀乃と会うのはこれが初めてだった。
 初めての同伴という嬉しさで手が震え、CDを取り落としてしまった。
 それを拾い、机の上に置く。
 そして、ポケットから財布を取り出し現金を確認した。

(昨日の大都会記念さえ勝っていたらな......)

 前回に引き続きデープコンバットに賭けた雄一は、見事に散った。
 残ったのはハズレ馬券だけだった。

(まとまった金が欲しい)

 雄一はスマホに手を伸ばし、電話帳から自社の番号を選択した。

<はい。ステイヤーシステムです>
「有馬です」
<なんだ。お前か>

 電話に出たのは同期の中山だった。

「安田さんに代わってくれ」
<え、いないよ>
「いつ戻って来るんだよ?」
<行き先は......研修になってるぞ。しかも年内はずっと>

 そう言えば彼女はたまに総務や経理の研修で、自社を留守にしていることがあった。
 それが今とは、何ともタイミングが悪い。

「分かった。ありがとう」

 雄一は着信履歴から桜子の番号を探した。


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「すまん、後にしてくれ」
「そこに置いといてくれ」
「あー、くそっ......」

 石野課長はエビデンスの確認作業に忙殺されていた。
 単体テストフェーズの納品物は何といってもこのエビデンスだ。
 それだけにこの確認作業には、請け負った企業のプロパーとして責任をもって行わなければならない。
 時にはテストデータを用意して自身で画面を動かしたりもした。

 先週までは予定通りいっていたーーはずだった。

 桜子が一度に10画面分のエビデンスをぶつけて来る前までは。
 元々想定していない物量が納期直前にって来たのは、相当なインパクトになったようだ。
 それに加え他のメンバーのエビデンスも次々と机の上に積まれていく。
 今や石野課長自身がチームのボトルネックとなっていた。

「課長、タバコはここでは......」

 根岸にそう指摘され、口にくわえていたタバコをゴミ箱に捨てた。
 相当苛立っている、それは誰の目から見ても明らかだった。
 かつては雄一や桜子を単体テストフェーズ失敗の原因にしようとしていた。
 だが、今となっては自分自身が失敗の原因になろうとしていた。
 石野課長が桜子を睨みつけている。
 山と積まれた紙束の間から送られてくる視線を、桜子はずっと無視していた。
 彼女は自作のExcelマクロを起動した。

データ作成ツール.png

「こいつのお陰ね」


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 缶コーヒー片手にドリンクコーナーで休憩していると、根岸が鳴尾を連れて現れた。

「お疲れ様です。安田さん」
「根岸さん、お疲れ様。土日はありがとう。あと鳴尾さんも」

 桜子は二人に頭を下げた。

「いえ、いえ。お役に立てて嬉しいです」

 と、根岸が答えた。
 二人には土日に来てもらい、単体テストとエビデンスの整理を延々と行ってもらった。
 もちろん石野課長には秘密だ。

「ところで、10画面分のテストデータをよくもまあ......金曜日の一日だけで用意出来ましたね。どうやったんですか?」

 インカコーラを自販機から取り出しながら鳴尾が問い掛ける。

「鳴尾さんはテストデータを作る時、何を参考にしていますか?」

 桜子は逆質問した。

「画面設計書、あとプログラムに書かれたSQLですね」
「私も手動でやるならそうします」

 横で聞いている根岸が、何事か閃いたかのようにこう言った。

「自動化したんですか?」
「はい」

 頷くと、こう続けた。

「VBAマクロでちょっとしたツールを作りました。自動的にテストデータの元になるInsert文を作成してくれる......そんなマクロを」
「ほう、それは夢のようだ」

 テストデータは全ての検索パターンを網羅しなければならない。
 自動化するなら、ツール内でそれをプログラミングとして実装する必要がある。

「私も一度挑戦してみたんですが、検索パターンを洗い出すのをプログラミングするのが難しかったんです」

 そんな根岸に、桜子は手帳を取り出し図を描いて見せた。

「例えば、こういった検索項目が3つある画面の場合、テストデータのパターンは最低いくつ必要でしょうか?」

検索画面.png

「ほう、クイズですか」

 根岸は手帳を取出し何か書き付け、それを差し出しこう言った。

検索パターン.png

「この8パターンかな」

 その答えに桜子は頷くとこう言った。

「要は今、根岸さんが頭で考えたことをプログラミング化出来ればいいわけです」
「確かにそうだが、ツールのインプットに適した情報が無かったんですよね。それで作るのを断念しました」
「相手はプログラミングですからね」
「安田さん。そうなんですよ。詳細設計書を元にしてデータを作らせるにしても、定型フォーマットで書かれていないからツールに読み込ませることが出来ない」

 システムにしてもツールにしてもアウトプットを得るためには、インプットとなる情報が必要だ。
 根岸が言うには、アウトプットとしてテストデータが欲しいのだが、その元になるインプットに適したものが無いとのことだった。

「根岸さん、ひとつだけありますよ」
「なんですかそれは?」
「テーブル設計書です」
「ふむ。確かに定型で書かれているけど、検索パターンについては、そこから読み取ることが出来ません」

 テーブル設計書にはテーブル名、項目名、型、桁数、インデックス情報などが記載されている。
 フォーマットが統一されていて、どのテーブルでもそれに則って記載されている。
 ツールに読み込ませるにはうってつけの素材ではあるが。

「何を仰いますか。テーブル設計書をよく見てくださいよ。検索パターンがしっかり書かれています」
「弱ったなあ......」

 根岸は頭を掻きながら、鳴尾の方を向いた。
 鳴尾も小首をかしげた。

「このシステムのテーブルにはちょっとした特徴があるんです。そこさえ掴んでしまえば、テーブル設計書を元にツールでテストデータを作成出来ます」
「その特徴って? 教えてくださいよ。私たち手伝ったじゃないですか?」

 鳴尾がニヤニヤしながら訊いて来た。

「検索項目になっている項目には必ずインデックスが張られています」

 桜子は二人の理解度を、その表情から推し量ろうとした。
 そして、こう続けた。

「先程の例に挙げた画面に紐づくテーブルの設計書は、こうなっているとしましょう」

テーブル設計書.png

 根岸はテーブル設計書と自身が描いたデータパターンを見比べた。

「そうか!」

 納得したかのように手を叩いた。

「何か分かったんですか?」
「鳴尾さん。検索パターンになっている項目とインデックスが張られている項目が一致しているんだ」

 鳴尾は各種資料に目を落とした。

「検索パターン1はA、B、Cを検索項目としている。かたや、インデックス1はA、B、Cをインデックス項目として使用している。なるほど......テーブル設計書のインデックス列を読み込んで、テストデータの元になるInsert文を作るロジックを組めばいいのか」

 二人が理解した様子を見て、桜子は雄一よりも理解力があるなと思った。

「そうです。まるでテーブル設計書に検索パターンが書かれているのと同じことです。これを元に人手でデータを作るか、自動でデータを作るか......それだけのことです」

 そして、こう言った。

「実際は検索パターンを網羅したデータだけじゃ足りません。各項目の最大、最小桁数を考慮したデータや、英数字、全角半角が混じったデータなどバリエーションを散りばめたデータも必要です。ツールには、そこまで出来るように実装しました」
「すげぇな......そのツール。もうちょっと汎用的にすれば商品になりますよね」

 鳴尾がため息をついた。

「どうぞ。後でメールで提供しますので好きなように使ってください」
「え! いいんですか!?」
「はい。その前にこのプロジェクトメンバー全員で使ってもらって感想を聞いてみたいですね」


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 ツールが出回ったことにより、メンバーの作業効率が上がった。
 完了したテストのエビデンスが、石野課長の机に積み上がっていく。
 いよいよあぶれてきた分を根岸がサポートしていた。
 その様子を眺めながら、桜子は根岸に対して、すまないと思った。

「ふああ」

 桜子は伸びをし、欠伸をした。
 石野課長が繰り出してくる妨害策はことごとく封じて来たが、根岸の話によるとまだ一つある。
 それを逆手に取り、石野課長を追い落としたい。
 その為にはもう少し情報が必要だ。
 そこで、雄一が残していったメールを漁ることにした。
 かつて雄一と一緒に仕事をしていた女、川崎由紀乃とのやり取りが残されていた。

 11月4日 10:05 送信
 <お疲れ様です、有馬です。昨日は初めて川崎さんの店に行って楽しかったです! また行きたいです☆>

 11月4日 11;10 受信
 <お疲れ様です。川崎です。私も昨日は楽しかったです。でも高いお店なので無理しないでくださいね>

 「店」とは一体何なのか。
 その先を読み進めると、それが何なのか薄々分かって来た。

 12月13日 9:25 送信
 <お疲れ様です、有馬です。先週は初めてのアフターで感動した。それにしても由紀乃ちゃん酒強いなー。あと寝落ちしてて置いてかれたのはちょっとショック。。。またアフターしようね!>

 12月13日 10:51 受信
 <川崎です。うん。またね。>

 恐らく、由紀乃は飲み屋か何かの女なのだろう。
 その他にもメールを読んでみたが、その女とのやり取りが多い。
 雄一はその女にぞっこんのようで、一緒に働くことになったことを幸運とさえ思っていたようだ。
 端から見れば、商売女を追いかけまわしている滑稽な男の図である。
 ちなみに、一番知りたい妨害についての情報はほぼ無かった。

(ふぅ......)

 桜子は溜息をついた。
 男は何てバカな生き物なのか。
 時計を見れば針は12時を指そうとしていた。
 行かなければならない。
 その雄一と会う約束がある。


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 雄一は、つい先日まで由紀乃と一緒に仕事していた職場近くのコメダワラ珈琲店にいた。
 その窓際の席で、桜子と向かい合っていた。

「安田さん、研修に行かれてるんですね。知らなくて会社に電話しちゃいましたよ」
「あ、う......うん」
「結構難しい内容なんですか?」
「ん......うん」

 コクリコクリと頷きながら、歯切れ悪く答える桜子に違和感を感じた。

「それより、今日は何の用なの?」

 雄一のアイスブレークを断ち切る様に、桜子は本題に入ることをすすめた。

「はい......あの......」

 雄一は深々と頭を下げ、こう言った。

「給料の前借りをお願いします!」

つづく

Comment(10)

コメント

桜子さんが一番

ええーっ、給料前借すか。。。そんなキャバ嬢なんかヤメテ桜子さんにすればいいのに。

VBA使い

指揮するのがリーダー「の」仕事でしょ


石野課長は苦「々」しげに反論した。


納期直前に「降」って来たのは


桜子は根岸「に」対して、すまないと思った。


VBA使いとして、桜子さん、尊敬しますm(_ _)m
どうでもいいけど、由紀乃と桜子、飲み比べしたらどっちが勝つんやろ??

atlan

インカコーラの入ってる自販機・・・・

CDやDVDにテプラ貼るのは止めましょうよーー

湯二

桜子さんが一番さん

コメントありがとうございます。


一番身近にいる人の良さに気付かないパターン!
ありがち。

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。
校正ありがとうございます。
今週は多かったすね。読みにくくてすいません。


>VBA使いとして、桜子さん、尊敬しますm(_ _)m

こんなのあったらいいなと思って登場させてみました。
VBAさいこー。
EXCELはどんな現場にもあるし、ちょっとした自動化ならマクロが一番です。


>どうでもいいけど、由紀乃と桜子、飲み比べしたらどっちが勝つんやろ??

ギク!
最後の展開がある意味、先読みされている。。。

湯二

atlanさん。


コメントありがとうございます。


>インカコーラの入ってる自販機・・・・
よくマイナーなジュースばっかり入っててちょっと安い自販機ありますよね。
あれが置いてあります。


>CDやDVDにテプラ貼るのは止めましょうよーー
調べてみるとダメっぽいですね。
主人公の仕事やり直し。

通りすがり読者

> 幸一郎はCDを焼いていた。

誰!?って思いました…

atlan

一人月程度のコスト出せるなら自動でCD焼いてレーベル印刷してくれる機材は簡単に入手可能だから主人公クビにしましょう

湯二

通りすがり読者さん。

指摘ありがとうございます。

別の作品のキャラがでてしまいました。
混乱させてすいません。

湯二

atlanさん。

コメントありがとうございます。


14、5年前に同じような仕事してて、正に手作業で焼いてました。
なるほど、そんな機械があるんですね。

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