常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第十話 甘ったれるんじゃない!

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 プロジェクトルームに戻った雄一は、早速、プログラム改修のことについて石野課長に文句を言いに行った。

「忘れてた。すまなかった」

 いつものように言い合いになるかと思っていたが、素直に謝られ拍子抜けした。
 続けて「嫌がらせ」の本当の理由について問い詰めようと思ったが、雄一の方としても確たる証拠が無いためこれ以上追い詰めることが出来なかった。
 予想に反して、その後、雄一たちの単体テストは滞りなく進んだ。
 バグ票を上げればすぐに改修が済んだプログラムがSVNにアップロードされるようになった。
 それをチェックアウトしテストを進めている。
 この全く真逆の対応に、石野課長のあからさまな態度が匂って来て腹が立った。
 どうあがいたところで雄一は当初の目標である「月末までに40画面完了」というノルマを達成出来る見通しは無かった。
 ここまで追い詰めれば雄一の進捗はもう月末には収まらないと敵側も思っているのだろう。
 嫌がらせして進捗を阻止するのだって手間が掛かる。
 あとは普通通り流して、月末にでもネチネチ問い詰めるつもりなのか。
 ただ雄一の方も手をこまねいて座死を待っていたわけでは無かった。


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 二日後、12月22日(水)。
 早朝5時。

「お疲れ様です。サルノ・クリエイティブの有馬です」

 ビルの裏口のチャイムを押し、インターホンで警備員を呼び出した。

「あいよ」

 中から声がし、六十代ぐらいと思しき白髪の警備員が内側から扉を開けた。

「朝早くから頑張りますね」
「はい! 仕事に燃えてますんで」

 警備員はサルノ・クリエイティブのプロジェクトルームの鍵を雄一に渡した。
 部屋の扉を開け、誰もいない部屋に入った。
 壁にある電気のスイッチを押すと、部屋の蛍光灯が一斉にパパパと点く。
 しかし、自分が本当に所属する会社の名を名乗れないという情けなさは、何とも言えないものある。
 そんな気分を振り払うように、

「はじめるか!」

 と、気合を入れた。
 昨晩は由紀乃の店で飲み、アフターで飯を食べて家に帰った。
 寝たのは2時だ。
 睡眠時間は3時間を切っていて眠くて仕方がない。
 だが「やるしかない」と、再度気合を入れ、腕をまくる。
 Eclipseを起動し、自分が担当しているテスト画面のプログラムをSVNからチェックアウトした。
 詳細設計書とプログラムを見比べながらテスト仕様書とテストデータの作成に取り掛かった。
 朝の誰もいない職場は、静かで割込みも無いせいか仕事が捗った。
 寝不足とはいえ一回寝たことで頭の中がすっきりしている。
 早起きは三文の徳というが、朝のこういった時間は考える仕事に向いている。
 始業9時までの4時間をこうして有効活用することで、兎に角、ノルマをこなそうと目論んでいた。

「凄い! 結構進んでるじゃん!」

 朝9時半過ぎに出社して来た由紀乃は進捗表を見て驚いている。
 40画面中、20画面完了していた。
 だが、当初の予定ならこの日までに25.5画面完了しているはずで、まだ遅れを取り戻せてはいない。
 それでも雄一は何とかなると思っていた。
 ここにきて自分と由紀乃の生産性が上昇しているのを実感していたからだ。
 以前は1画面完了させるのに8時間要していたが、今は5、6時間で完了出来るようになった。
 考える作業と、単純作業の二つに分けて、それぞれを分担をしたことで作業効率が上がったのだ。
 同じような作業を繰り返して行けば頭を切り替えるオーバーヘッドが無い分、時間の節約になる。
 考える前に手が勝手に動くレベルにまで達していたのだった。
 それに加え、石野課長が油断してか、嫌がらせの手を抜いてくれたことも功を奏していた。

「これなら今週土日は出なくていいよね!」

 と、彼女は楽観的過ぎるセリフを吐く。
 その言葉に多少の苛立ちを覚えた。
 だが辛うじて、怒鳴りつけることだけは我慢した。
 感情に任せた結果、嫌われるのだけは御免だ。

(このペースでいけば40画面達成出来るかもしれない)

 そう希望を胸にすることで、自分で自分の機嫌をコントロールした。

「ちょっとトイレ」

 由紀乃はコンビニで買って来たと思われるクリーミーラテを自席に置くと、席を立った。
 化粧直しにでも行くつもりか。
 それにしても遅れて出社しておきながら、手の込んだクリーミーラテなんぞ買って来る神経が癇に障る。
 自分は朝5時から仕事しているので、それと比べて余計に腹が立って来た。
 戻ってきたら、やっぱり怒鳴りつけてやろうかと思った。

「あれ? データが消えてる?」

 データベースにログインし、今日のテストを行うために仕込んでおいたデータを確認した。
 だが、テスト対象の部品分類マスタ画面、その画面が参照する部品分類マスタテーブルに仕込んでおいたデータが0件になっている。

「どしたの?」

 メイクを整えた由紀乃が戻って来た。
 隣の席に座り、雄一と一緒にディスプレイを覗き込む。

「もう! 自分で消したんじゃないの?」
「そんなわきゃねーだろ!」

 仕方なく昨日作ったInsert文をもう一度、部品分類マスタテーブルへ流し込む。
 だが、その後もデータベースのデータは定期的に消去されていた。
 その都度、作業を中断しデータを入れ直していた。


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「有馬君、それは石野課長の新手の嫌がらせなんじゃないか」

 ドリンクコーナーで鳴尾はインカコーラ片手にそう言った。

(そこまでやるか......)

 そう思い至った時、石野課長のほくそ笑む表情が脳裏に浮かび怒りが爆発した。

「思いの他、君の進捗が上がって来たから手を変えて妨害しているんだろう。有馬君、早く石野課長がそんなことをする本当の理由を掴むしかない」

 そうアドバイスされても、雄一にはその手掛かりが無かった。


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 雄一は定期的にテストデータが消去されることについて、石野課長を問いただした。

「あれはインフラチームがテーブルの断片化を解消するためにデータを一旦truncateしたらしい。君には連絡が行ってなかったみたいだね」

 このプロジェクトではデータベースにORACLEというソフトウエアを使っている。
 単体テスト用のデータベースは遠隔地にあるデータセンターのサーバに構築されている。
 各下請け会社はネットワーク経由で各プロジェクトルームから、そのデータベースに接続しテストを行っていた。
 つまり、データベースだけは会社を越えて共有していることになる。
 ORACLEのことに詳しくない雄一は石野課長の言っていることが半分も理解出来なかったが、どうやらデータベースのパフォーマンス改善のためにデータ消去を行ったらしい。

「こっちはそのせいでせっかく作ったデータが消されてその度にテストが止まったんです! 向こうにそれを伝えてください」
「それは無理だ。インフラチームは別で動いていて向こうのスケジュールというものがある」
「それならせめて、データをメンテナンスする日を事前に教えてください」
「それは約束出来ない。インフラチームは遠隔地にいるんだ。こっちへの連絡が遅くなることだってある」

 ちなみに、インフラチームだけは外注では無く目黒ソフトウエア工業が請け負っていて、データセンタに常駐しているそうだ。

「メールなり電話なりがある時代に、連絡が遅くなるだとかつかないだとかそんなことあるわけが無いでしょうがっ!」

 雄一のスケジュールを遅れさせるために行った新たな嫌がらせだ。
 たまらず、周囲にこの所業を大声で訴えた。

「おいおい、物騒なことを言うんじゃないよ。証拠はあるのかい?」
「くっ......」

 確たる証拠がない雄一はここで口をつぐむしかなかった。
 ただ、言えることは今までの流れからやはり石野課長が何かやっていることだけは確かだった。

「石野課長、鶴丸課長がいらっしゃいました」

 根岸が二人の間に割って入った。
 石野課長は席を立ち、受付まで自ら向かった。

「テストも佳境でみんな頑張ってくれているんですよ」

 石野課長はそう言いながら鶴丸課長をプロジェクトルームへ招き入れた。
 雄一がこの太鼓腹の禿げ上がった親父を見るのは二回目だ。

(この前みたいな定期検査か?)

 最初に出会った時は「頑張れよ」と声を掛けられた気がする。
 その場面が頭の中に蘇った時、雄一は咄嗟に行動に出た。

「鶴丸課長! 聞いてください!」

 雄一は鶴丸課長の前に立ち塞がり、そう叫んでいた。

「何だね! 君は! 失礼じゃないか!」

 横に立つ石野課長が慌てて雄一を制止しようと手を出すが、それを振り払いこう続けた。

「そこにいる石野課長は、俺に恨みがあるのか何かの理由があるのか分からんのですが、俺の仕事を阻んでくるんです。これはプロジェクトにとって由々しき問題だし、鶴丸課長だって下請けがこんなことやってて問題ですよね! 鶴丸課長、前俺に言ったじゃないですか! 仕事頑張れよって。俺は今それをしたくてもそれが出来ない状況に追いやられてるんです!」

 止めようとする石野課長を何度も振り払いながら、それまでの石野課長の行いや自分の窮状を訴え続けた。
 周りのメンバーはあっけに取られて何も言えないか、自らの仕事に専念する振りをして聞き耳を立てているかのどちらかだ。
 石野課長としては雄一が突然、鶴丸課長に直談判するとは予想していなかったのだろう。
 ただ、慌てふためいている。
 雄一としても石野課長の本当の狙いが掴めない八方塞がりな今、何とか現状を打開したかった。
 本来のルートを通り越して話すのは気が引けた部分もあったが、今は外聞も何も気にしたもんじゃないと思った。
 目の前にいる男は、組んだ腕を太鼓腹の上に乗っけたまま目をつぶって雄一の言葉を聴いている。
 その様子を見て、まずはまともに話を聴いてくれたことに雄一はホッとしたが、次に出て来た言葉に驚かされた。

「甘ったれるんじゃない!」

 大音量に周囲の空気がビリビリと震えた。
 その後、静寂に包まれる。
 鶴丸課長は雄一をしっかりと見据えている。
 
「君はエンジニアだろうが! どんな状況でも仕事を完成させてこそのプロなんだろ! それを周りの不備や行き違いのせいにして自分の仕事の遅れを責任転嫁するんじゃない!」

 雄一は鶴丸課長が味方になってくれるとばかり思っていた。
 客観的に見て石野課長の嫌がらせと分かる事象を述べ立てたのだから、絶対そうだと思っていた。
 だが、鶴丸課長はそれを一蹴した。
 単体テストのチェック遅れは、石野課長がリーダーとしてスケジュールが多忙なため仕方ない。
 改修の遅れは、他のメンバーのスケジューリングも考慮してのことなので仕方ない。
 そして今日のデータベース消去事件も、インフラチームが絡んでいたという理由が分かった今となっては仕方ない。
 鶴丸課長によって、全てが石野課長の嫌がらせでは無く不可抗力として片付けられた。
 その沙汰に、雄一の怒りはMAXを越えた。

「てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!」

 雄一は無意識のうちに鶴丸課長に掴み掛かろうとしていた。

「有馬さん! だめだ!」

 ぐっと体が後ろに引っ張られる。
 振り向くと根岸が自分を羽交い絞めにしていた。
 そこで雄一は荒い息で鶴丸課長を睨みつけたままとなった。

「石野課長!」
「はい!」
「彼は一体何者なんだ! 取り替えろ!」
「は......はい!」

 鶴丸課長はそう言い放つと踵を返し、部屋を後にした。


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 雄一は本日付でサルノ・クリエイティブとの契約を解除された。
 元請けの社員に対して危害を加えようとしたことは、理由はどうあれ客観的に見てあってはならないことだ。
 周りからも契約解除は当然の対応と判断された。
 そして、由紀乃もその日のうちに契約を解除された。
 彼女の場合は、雄一がいなくなったことが大きな理由だ。
 単純作業しか出来ない彼女は雄一という相棒がいなくなった以上、単体では使えないと判断され、打ち切りとなった。
 こうして二人は、

  単体テスト40画面中の20画面完了

 という実績を残し、プロジェクトから退場した。


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 12月24日(金)。
 
「安田桜子です。よろしくお願いいたします」

 石野課長に紹介された桜子は、メンバーに向かって深々と頭を下げた。

「色々有ってここを去った有馬君の後任として頑張ってください」

 そう言われ、席に促された。
 隣にいる立山に頭を下げ着席する。
 かつて雄一が座っていた席である。
 桜子は端末のスイッチを入れた。
 これも雄一が使用していたものそのままである。
 桜子は起動を待っている間、ここに至るまでのゴタゴタを思い出していた。

つづく

Comment(6)

コメント

桜子さんが一番

まさかの週3回更新!!そして桜子さん。リーサルウェポンじゃないすかー(笑)

VBA使い

週3更新、お疲れ様ですm(_ _)m


Eclips「e」を起動し(でも、ニッホン国みたく、わざとかも?)


隣にいる「立山」に頭を下げ着席する。


サブタイトルは桜子さんのセリフっぽかったけど、やられた。


今さらですが、バグもなく、テストケースも完璧なやつを3、4画面抱えといて、終了間際に一気に投げつけてやれば、石野課長を出し抜けたかも?

湯二

桜子さんが一番さん。

コメントありがとうございます。


頑張ってみました。
といっても、数話分書き溜めているのでそれを連続で出してみたり。
一週間に一回よりかは話のつながりが分かり易くなるのかな。


>リーサルウェポン
あと、出すか出さないか迷ったけど、やっぱ。

湯二

VBA使いさん。


Eclipsだと思い込んでいただけで、、架空の国の設定とかそういう面倒なのではありません。
しかし、プログラミングから遠ざかるとこういう勘違いが多くなりますね。


>隣にいる「立山」に頭を下げ着席する。
指摘ありがとうございます。
モブキャラの立ち位置とか出入り順だとかよく覚えてましたね。
すごいです。
話書く前に人の時系列みたいなのは軽く書くんですけどね……やっぱ抜けが出て来る。


>今さらですが、バグもなく、テストケースも完璧なやつを3、4画面抱えといて、終了間際に一気に投げつけてやれば、石野課長を出し抜けたかも?

所謂隠し玉ですね。
早い段階で置かれた状況を理解して、頭の切れる人間なら出来たかもしれませんね。
でもバカだからなあ。

VBA使い

確かに(笑)


「バカだからなあ」って言ってもらえる雄一は、作者に愛されてますね。

湯二

VBA使いさん。

作者も「間が抜け」てます。

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