常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第九話 やれるところまでやりなさい

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 システム開発におけるテストというものは、作ったプログラムが設計書通りに動作するかを確認する作業である。
 と、同時にバグという名の動作不良を見つけ出す作業でもある。
 雄一が行っている単体テストは、数あるテスト工程の中でも最初に行われるものだ。
 単体という言葉が示す通り、一つの機能なり一つの画面に集中してテストを行う。
 ロジックの隅から隅までを通るようなテストデータとテストパターンを用意し、その一つ一つが期待値通りであるかを検証していく地道で非常に根気のいる作業だ。
 ここでどれくらいのバグを出せるかがポイントだ。
 何故なら、作成したプログラムに不具合があるはずという前提で単体テストは行われるからだ。
 そのためバグが全然無かったというテスト結果を提出した場合、ちゃんとテストしたのかと疑われることになる。

「なるほど......バグの改修依頼をして、完了を待ってる訳ね」
「うん」

 由紀乃は頷いた。
 バグが出たこと自体は問題では無い。
 むしろ、この後続く結合テストやシステムテストで同じバグが見つかる方が厄介だ。
 後工程に行けば行くほど同じバグの対応でも先に進んでいる分、手戻りが多くなるからだ。
 プロジェクト的に見ればここでの躓きは有益といえる。

「どうする?」

 由紀乃は、このまま待てばいいのかと尋ねて来た。

「ちょっと確認してみる」

 画面ID「M036」のPG担当は奈村だ。
 単体テストで見つけたバグの改修は、そのプログラムの作成担当に改修してもらう決まりになっている。
 単純に作った人間がそのプログラムのことを一番よく知っているから、という理由だ。
 ただ面倒なのは改修した後、バグの程度によってはテストが一から直しになることと、改修依頼は石野課長を通さないといけないということだった。
 窓口を一本化することでバグ発見率や改修率などを一元管理するのが目的だ。

「石野課長」
「なんだ?」
「M036のバグ改修を早く行うよう奈村さんに言ってください」

 雄一は石野課長の席まで行きそう依頼した。

「えっと......M036? バグ票は出したのか?」

 バグ票とはバグの内容を記載したシートのことである。
 これを石野課長に提出することでバグの改修依頼が受け付けられたことになる。
 雄一は由紀乃の元に戻り、問い掛けた。

「バグ票は?」
「出したよ」

 石野課長の元に戻る。

「出しましたよ」

 雄一にそう返されて石野課長は黙って机の上にあるバインダを開き、あるページで手を止めた。

「これか......」

 数秒間、目を落としこう言った。

「なになに? 必須入力項目に値を入力せずに検索ボタンを押下した場合、項目が赤く反転しない......だと。なるほど......」
「それ早く改修してください」
「奈村さんは他の改修やら、自分の単体テストやらで手を取られててさ、君らのところにまで手が回らないんだよ。少し待っててくれないかな」

 雄一は奈村の方を見た。
 彼は視線に気づくと申し訳なさそうに会釈した。
 石野課長はニタニタ笑いながらバインダを閉じ、雄一には見向きもせず自分の仕事を始めた。
 その様が、嘗められたようで腹が立ちこう言った。

「あの......少しってどれくらいですか? 俺ら他の人たちに比べて遅れてるんですよ。だから優先してほしいんですけど」
「遅れてるから優先してほしい? なに自分勝手言ってるの? 進捗が芳しくないのは君らのせいだろ。それで他の人たちが依頼している改修を後回しにしてくれって虫が良すぎないか?」
「そんな......」

 いつものように突っかかって行こうかと思ったが、止めた。
 この場合、石野課長の意地悪というよりも、改修担当の奈村が忙しいという不可抗力な部分がある。
 何より、今は時間がもったいない。
 落胆して戻って来た雄一に由紀乃が問い掛ける。

「どうしたの?」
「とりあえず、次の画面のテストを始めてくれないか?」
「うん......それはいいんだけど。有馬君、まだM037のテストデータ作成中でしょ? それが終わらないと私もテスト出来ないよ」

 由紀乃は雄一のテストデータを受けて単体テストを行う。
 次にテストするM037はデータ作成中で由紀乃に渡すことが出来ない状態だった。

「ちょっと休憩してくるね」

 つまり、M036のテストが待ちになったことで由紀乃に遊びが出来てしまったのだ。

「くっ......」

 怒りが湧いて来て思わず石野課長を睨みつけた。


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 翌週、12月20日(月)

 この日、当初の予定通りなら22.5画面まで進んでいたはずだった。
 だが、この時点で雄一たちのチームが完了させた画面は、40画面のうち18画面だった。
 大幅な遅れであり、時期的に見ても月末までに全画面完了は絶望的だった。
 世の中、上手く行かないことは24年間の人生の中で多少なりとも理解はしていた。
 だがこれほどまでとは思わなかった。
 雄一は毎日終電近くまで仕事して少しでも進捗を稼ぎたい気持ちでいた。
 そう腹をくくっていたのだが、ビルのセキュリティの関係で23時前までには締め出される。
 屈強な警備員が見回りに来ては、残って仕事をしている雄一に退社するよう促すのだ。
 拍子抜けした雄一は空白の時間が出来たことで、それを埋めるかのように由紀乃の店に毎晩通った。
 なけなしの収入と貯金を削り取っては、由紀乃に費やす日々が続いた。
 その由紀乃は、プログラムの改修による待ち時間が増えたことで徐々にアイドルタイムが長くなり、やる気というか気合を無くしていったかのようだった。
 そして我儘も多くなっていった。
 店に向かう雄一にLINEで

「府中屋の草団子買ってこい」

 だの

「ヤングマガデーの今週号買ってこい」

 だのと、パシリのように使う。
 まるで雄一の「好き」という感情を利用したかのような所業だ。
 店で接する時の態度もマンネリ化というか手抜き感がチラホラ露わになって来た。
 いい加減、雄一も当初の好きという気持ちは持ちつつも嫌気が差して来たのは事実だった。

「ネイルなんてしてっからキーボードが押しにくいんだよ! 外せよ!」

 と、何かの言い合いの後に激高して思わず怒鳴りつけた時もあった。
 その日はお互い口をきく雰囲気ではなくなったため、作業が著しく滞った。
 定時になり挨拶もせず帰っていく由紀乃の背中を見て不安になった雄一は、大量のプレゼントを手に店まで追いかけて行った。
 だが、そんな恋に盲目な雄一でも少し疑問に思うことが出て来た。

(キャバクラで毎日働いていながら、なんで30万程度の借金が返せないでいるんだ?)

 多少のやりくりをすれば何とかなる金額なだけに由紀乃がいつまでも借金のことを話題にしてくるのは不思議だったし、この話題が出る度に雄一は冷や水を浴びせられたかのような気分になった。


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「鳴尾君、改修依頼出したけどまだやってないの?」

 雄一はドリンクコーナーで缶コーヒー片手に問い掛けた。

「は?」

 鳴尾は不思議そうな顔をした。

「M039のバグだよ。君がPG担当したやつ。石野課長を通して昨日バグ票を出したんだけど」
「来てないよ」
「は?」

 今度は雄一が不思議そうな顔をした。

「来てないって、どういうこと?」
「だから、石野課長からバグ票なんて来てないよ」
「......なるほど」

(今度はこういうやり方で邪魔するか)

 雄一はそう思った。
 改修依頼の管理は窓口である石野課長が行っている。
 ということは、改修の優先順位付けに関する決定権は石野課長が握っている。
 だから、そのことに雄一は口を挟んでも「順番だから」と言われれば引き下がるしかない。
 恐らく奈村も石野課長に言い含められたのだ。
 由紀乃のバグ票に対する改修の優先度を下げるように、と。
 同じ様な手口で、鳴尾への改修依頼は石野課長の手で握り潰されているのだ。

「ちくしょう......」

 雄一は缶を握りしめた。
 その様子を見ていた鳴尾がこう言った。

「不思議だと思わないか?」
「何が?」
「だっておかしいじゃないか。何でプロジェクトメンバーの仕事の邪魔をするんだよ」
「そりゃ、石野課長が俺のことを嫌いだからだろ?」
「それもあるかもしれんが、やりすぎだろ。これじゃ本当に君の仕事を妨げてるし、プロジェクトとしてそんなことして何の得があるんだ。ある程度嫌がらせが済んだら、君をお払い箱にして代替要員を要求したり、切り替えて仕事を進めさせたりするだろ」
「俺が根を上げるのを待ってるんだろ?」
「君が根を上げるなんて考えられんな。いつまでそんな我慢比べをする気なんだ? あの人は。仕事として終わらなかったらリーダーとしての評価が問われるんだぞ。何でこんな矛盾したことをしてるんだ」

 鳴尾にそう指摘された雄一は、先日の福島課長と石野課長とのやり取りを思い出した。
 あの時、福島課長は鳴尾と同じ疑問を持ったのだろう。
 そして、代替要員の手配を提案したがそれについては「検討する」という返事と共にうやむやになったままだ。
 雄一が嫌いなら、チェンジを要求し提案に乗れば良かったのだ。

「もしかして......単なる嫌がらせ以外にも、何か別の理由があるんじゃないか?」

 石野課長が雄一の仕事を邪魔することで得することがあるとすれば、それは一体何なのか。
 それが分かれば打開策に繋げることが出来るかもしれない。

「根岸さんにそれとなく訊いてみたらどうだ?」


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 雄一は根岸へのメールをしたためるため、端末の前に座った。
 送信ボタンを押そうとした時、受信ボックスが点灯した。
 これからメールしようとした相手、根岸その人からのメールだった。
 開封すると、話したいことがあるという旨の内容が書かれていた。


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 昼休み。

 職場近くのコメダワラ珈琲店に入ると、先に根岸が来ていた。
 手を上げ、席に来るよう促してくる。

「やあ、忙しい中ごめん」
「大丈夫です」

 笑顔で迎えてくれた根岸を見て、雄一は何だかホッとした。
 彼はプロパー側で石野課長の目もある中、派遣外注である雄一のことを何かと気に掛けてくれていた。
 ここ最近の雄一の大変さを見かねて、相談に乗ろうと思ったのだろうか。

「何か仕事大変みたいですね」
「はい。中々、思うように進まなくって......自分たちのせいだけでも無いと思ってるんですがね」
「ほほう」
「......と、いうことで石野課長が何のために俺を邪魔しているのかが知りたいんですよ」

 雄一は単刀直入に話を投げ掛けた。
 根岸は顎に手を当て考え込むような仕草を取った。
 頼んだコーヒーが運ばれて来た。
 お互いそれを啜った。

「私は立場上、多くのことは言えないが......」

 根岸はそう前置きすると、こう続けた。

「上のつまらない事情で君が不幸な目に合っている、それだけしか言えない。それを謝りたい」

 石野課長とは違い、プロパーとはいえ若干雄一の味方のように思える根岸は相談に乗ってくれはした。
 だが、話の歯切れは悪く、やはり彼はプロパー側の人間で、本当の事情を語ることは出来ないのだろう。

「......そんな。俺は自分が何でこんな目に合っているのか知りたいし、プロジェクトとして仕事が失敗するようなことを見逃している根岸さんが不思議でならない」
「うん。分かっています」

 辛そうに頷いた。

「一つ言えることは......君は無理せず、やれるところまでやりなさい。ということです」
「どういうことですか?」
「石野課長の嫌がらせは変わらない。君の仕事を完了させないことが目的だからです。だから、全てを終わらせることなんて考えずに、君は適当にやれるとこまでやりなさい」
「何ですかそれ!?」

 雄一は馬鹿にされたようで腹が立った。

「何言ってっかわかんないっすよ! 俺は自分の仕事を終わらせるって宣言したから頑張ってるだけだし、それに対して邪魔されるのが腹立つだけだ。正直プロジェクトとしてとか、サルノ・クリエイティブがとか、自分の会社がとか何てどーでもいいし! どうせ単体テストまでの契約だから、この大規模プロジェクトが失敗しようが俺は知ったこっちゃないっての! でも、ここまで嫌がらせされて、そのまま何も出来ずに終わったら俺の負けだ。それだけは嫌だ。俺は俺のためにやってんだ!」

 あと、由紀乃に好かれるため。
 そして、怒り。
 やり場のない怒りが湧いてきて、じっとしていられなくなった。
 飛び出すように店を後にする。
 赤信号で止まり、ふと冷静になる。

(金払ってなかった......)

 と同時に、大事な味方も失ったような気がした。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

今週は2回更新ありがとうございます。

VBA使い

なんか、追われてる雄一みたいな更新ペース?(失礼)


前回書こうと思ってた感想ですが、うちの会社にもスーパー総務(男性)がいます。

総務と言っても、前職でシステム関係のスキルは身に付けてるし、総務関係の効率化・電子化は進めてるし、社内システムの中長期的な展望を見て人材配置の提言も積極的にする人で、尊敬してます。

湯二

桜子さんが一番さん。

コメントありがとうございます。

今週はまさかのもう一回です。

湯二

VBA使いさん。

コメントありがとうございます。

早く終わらせて、次の全く別のものを書きたいなあと。


一人情シスみたいな感じの方ですね。
そして総務も分かると、完璧じゃないですか。
色々変えようとすると内部の人間ともめたりすることもあると思いますが、巻き込む力と泥臭いコミュニケーション、そしてタフさが無いと出来ないですね。

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