社内SEの実態を公開

表裏一体

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23:30

オフィス内には私以外は誰も残っていません。2年前にSIerから大手企業の子会社に転職してきた元SEの私。入社後の業務内容をあまり確認せずに、給料がよく安定した会社という理由で決めました。採用されたときはうれしかったです。地元の母親も喜んでくれました。それなのに......

「去年導入したクラウドサービス。なかなか使いこなせなくてね。君、前職で経験あるんでしょ。バシッと開発導入よろしくたのむよ!内製化でスピーディーにね!」

入社するといきなり内製すると言われました。前職でそのクラウドサービスの構築の経験があります。だからSE出身の私を雇ったのかもしれません。メンバーは?と聞くと、まずはやってみてある程度形になってきてから考えようとの事です。何もわからない中、丸投げされてしまいました。

周りの方々に助けてもらって、なんとか要件は取りまとめて概要は見えてきたものの、技術に詳しいのは私だけ。最低でも3人は開発できるエンジニアが必要ですと上司に伝えると、

「いきなり3人も増員できない。できるところまで一人でやってくれ。社長もある程度システムの概要が見えてくれば増員も認めてくれるよ。」

毎日17時頃までは通常業務も平行で行いながら、残業でシステム開発を進めるしかなくなりました。行き詰った時にアドバイスしてくれる人もいません。ネットを駆使してなんとか開発していきます。孤独を感じます。

ある日、人事担当から会議室に呼ばれました。残業が規定時間を大きく超過していると。一人で開発しろと言われていると言っても、上司とよく業務分担を話し合ってくださいとしか言われません。

上司に相談すると

「もう少し形になるまで頑張ってくれ。残業ほどほどに。」

と矛盾することを言われます。通常業務は他の人に任せてもいいのか聞くと

「人員が限られているから、全部はちょっと難しいね。とにかく、なんとか踏ん張ってくれ。」

何もしてくれない上司に失望しながらも、転職したばかりなので、あまり大きなことが言えず。

「プロトタイプはいつできるんだ!」

半年もすると上司から毎週の課会で責められるようになりました。何を言っても早くしろとしか言われません。周りのメンバーも飛び火するのを恐れて助けてくれません。社内に味方がいない転職者の身。情シスに転職したことを後悔しました。


平日は終電近くまで残業し、1時間かけてアパートに帰って寝るだけの生活です。土日は母親の様子を見に実家に戻ります。実家へは電車で1時間半ほどの距離。父親は5年前に亡くなりました。一人暮らしの母親の買い物と掃除を手伝い、日曜にアパートに戻ってくると、消えてしまいたくなります。地元に戻るほど東京から離れているわけでもなく、実家の近くに仕事があるわけでもありません。母親が病気なわけでもありません。自分の置かれている環境が中途半端だと勝手に思い悩み。自分がどうしたいのかもわかりません。仕事から解放される理由を外に求めている自分がいます。

日曜日、母親と晩御飯を食べていると、
「ずいぶん顔色悪いようだけど、ちゃんと寝れてる?毎週来なくても大丈夫だからね」
大丈夫と笑って返事をしながらも、日曜の夜が恐ろしくてたまりません。それなのに、仕事のことが頭から離れません。あの処理をどうするのか、データ項目どうしようか。そんなことを考えながら一人暮らしのアパートに帰ります。

転機は突然訪れました。
本社の情シスの人が、子会社のシステム監査をしに来たのです。眼鏡をかけた長身の40代と思われる男性。優しそうな感じもしますが、時折鋭い視線が恐ろしいです。上司が会議室呼ばれて1時間くらいしてから、情シスのメンバーも個々に呼ばれました。私の番になり、恐る恐る会議室に入りました。

「今、困っていることありますか?」

全く予想していなかった質問に困惑しました。他のメンバーにも同じなのか?上司とは何を話したのか?この人はどこまで内情を知っているのか?疑問は尽きませんが、差しさわりのない範囲で困っていることを話しました。転職して2年、今は業務システムのプロトタイプを作っていて、進捗が思わしくなくて困っている点を話すと、

「そうですか、大変ですね。どうです、来週本社の情シス、見に来ませんか?よければその後、食事しながら交流会でもいかが?あ、私はお酒飲めないですがね。あなたは飲んでも飲まなくてもどちらでもいいですからね。」

なんか、会話が噛み合っていない気もしますが、ちょっと興味もあります。でも、仕事が詰まっているのに、本社に行く時間とれるのか疑問です。上司が許可を出すとも思えません。

「そうそう、言い忘れましたが、今日からシステム開発少しお休みしてくださいね。上司の方にも了解はとっていますから大丈夫です。しばらくはドキュメント整備しておいてください。」

いったいどうなっているのでしょう。上司に聞くと、やはりしばらくシステム開発は停止らしい。理由は本社からの指示とのことです。

数日後、本社の人から日程調整のメールが来ました。食事のお誘いもあり、嫌いなものや食べられないもの、お酒が飲めるか、飲めないか、喫煙の有無まで聞いてきます。随分徹底しているようです。本社は色々と厳しいのでしょう。

本社へ訪問の日。大きなビル、すごい人数の社員、最新の設備。なんだか恐縮してしまいます。本社の情シスは50名程度の人数がいます。ネットワーク関連のチーム、OA関連のチーム、セキュリティ関連のチーム、と各チームを紹介してくれました。

「最近はAIとかRPAとかが話題だから、ここが次世代システムチームね。私もいるここが業務システムチームです。」

システムを構築するところから、導入後の維持保守までの流れを説明してもらいました。ここでは内製をしていないようです。色々聞きたいこともありましたが、食事をしながらということで、近くの中華料理店に移動しました。

本社の方々から色々なアドバイスや、他の子会社の状況、気を付けたほうがよい人など、面白おかしく話をしてもらって、とても有意義で楽しいひと時を過ごせました。本社の人からは余裕を感じられます。

久々に他の人と食べる食事はとてもおいしく、なんだか涙が出そうです。デザートの杏仁豆腐を食べながら、チームリーダーの方が話始めました。

「できるだけお金をかけず、自分たちの要望を通して、手早くシステムを導入したいと思う気持ちは理解はできます。そうやって個人の犠牲によってできあがった素晴らしいシステムは確かに存在します。一時は喜ばれますが、属人化したシステムは業務の変更についていけず、ブラックボックスになって、お荷物システムになっていく。内製を否定するわけではありませんし、外注を推奨するわけでもありません。その会社の基幹となる業務を担うシステムは、どういう体制でコントロールしていくのか、会社として方針を決めてほしい。あなたの上司にはそう伝えてあります。」

優しそうな人柄ですが、鋭い視線で何もかもお見通しだったのかもしれません。恐ろしさを感じました。

次の日の朝一、上司から緊急ミーティングがあると会議室に集められました。

「今までシステム開発のために作った成果物をまとめて、外注先候補に見積依頼を出し、比較検討を行い、委託開発に切り替えることにします。今までの内製の方針とは180度異なりますが、自らが開発する意気込みで作成したドキュメントはクオリティーが高く、外注に切り替えても有効と考えます。属人化するような体制では、長い目で見た場合......」

長い演説が続いていますが、本社からの圧力で方針を変えさせられたのでしょう。一人で開発する私の苦しみは解放されました。

この方針転換ですが、短期的には業務負荷が減り助かりましたが、新しい立場で仕事をしなくてはなりません。私にベンダーマネージメントが出来るのでしょうか......
今は開発が苦しいですが、完成するまで耐え切れれば、社内に存在価値を示すことが出来るかもしれません。完成せず、品質悪ければ一人デスマーチ......


どちらが良いのか、表裏一体です。

Comment(2)

コメント

山無駄

あくまで私見ですが、ベンダーの立場からするとベンダーあがりの情シ担当者は、あまりたちがよくありません。ユーザ企業の業務プロパではないので、自分の会社の業務に詳しくありません。そのくせ、ベンダーの事は良くも悪くもしっているので、納期や価格を、他社はどれくらい、ウチはスピード重視だから、と嫌な感じで値切ってきます。加えて業務主管側には何も言えないので、無理難題をそのままベンダーに丸投げし、失敗があると自分たちへの謝罪を求め、ねちっこく言われます。
内製するにしろ、外注するにしろ、作る者にたいして、ヒト・モノ・カネを出さず、夢のシステムを短納期で作らせようとプレッシャーをかける体質はあまり変わらないと思います。
属人化を危惧するならば、内製化すべきです。低コストで作らせ、保守費をケチったためにベンダーが面倒を見切れなくなったシステムをどうにかしてくれ、という案件は意外とおおくあります。

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