今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

159.【小説】ブラ転11

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初回:2021/6/23

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.キックオフミーティング

 私(杉野さくら)は、早坂さんと連れだって、第二会議室を後にした。

 向かった先は、早坂さんの職場である社史編纂室だった。私は初めてなので、どこにあるかも知らなかったので、早坂さんの後ろを、ただ単に黙々と付いていくだけだった。その間、何の会話もなかった。

(事務作業は今まで通りって、やっぱり形だけのプロジェクトマネージャーなのかな?)
 二代目が、なぜ私に専属エージェント契約のオファーを持ってきたのか判らなかった。もしかすると、早坂さんを技術部に復帰させるためだけに私を利用した?なんて疑心暗鬼も芽生え始めていた。

「ここだよ」

 はっと我に返ると、なんだか小さな建屋の前に立っていた。左側のドアには電気室という表札が掲げられていた。右側のドアから中に入ると、なんとなく倉庫のような部屋に...いや倉庫そのものだろうか?荷物を脇にどけて空間を確保しているだけだった。

「こちらにどうぞ」

 段ボール箱を何重かに重ねて作った物をひっくり返した『椅子』を勧められた。

「あのー先ほどの事務作業の件ですけど...」

「ああ、ちょっと待って。秘書部の山本さんも呼んであるから...キックオフしなきゃね」
(呼んであるって?いつの間に?)

「待ってる間、コーヒーでも飲む?」

 その声掛けとほぼ同時に、ノックする音がした。

「どうぞ」

「遅れちゃって...急に呼ぶんだから...これでも結構忙しいのよ」

 山本さんは、笑顔で早坂さんに愚痴ると、私に軽く会釈をした。

2.作戦

「えーと。一応これでメンバー全員そろったという事で...では杉野マネージャーからどうぞ」

 私(杉野さくら)は、いきなり早坂さんから振られて戸惑った。だって、何も考えてなかったもん。二人の視線が痛い...

「あのー実はまだ何も考えてなくって...」

「まあ、そうでしょうね」

 山本さんがフォローしてくれた。フォローなのかな?

「実は、二代目から言われていることがありまして...」

(やっぱり...早坂さんとの間では、すでに作戦が練られていたってことね)

「杉野さんに好きにやらせてあげて欲しい...と」

(はあ?)

 私は、早坂さんを見た。真顔で言っている印象だ。山本さんはというと、笑顔を向けているだけだったが、私は理解しているわよ...という感じだった。

「好きに...って?どういう事?」

「そりゃ判んないよね。でも、思惑はあるようだけど言わなかったんだ。『私の知ってるさくらなら、きっとうまくいく』って言ってたよ」

(私の知ってるって、何も知らないくせに...。お坊ちゃまの考えることは判らないわ)

「とりあえず作戦会議なんだから、やりたいことを言ってみてよ」

 早坂さんに急かされて、ちょっと考えてみた。新しい事、技術的なことはよく判らない。詳しいのは事務作業くらいだし...まずは無駄な作業はなくしたいし、非効率なところは改めたい。何度か改善の提案を行ったが、誰も...まあ課長さんたちは、誰も手を貸してくれなかったし、技術部のメンバーも自分たちの仕事じゃないから、無関心だった。たった一人、マサシさんだけは、私の愚痴に付き合って話を聞いてくれたし、改善案をプレゼン資料にまとめる手伝いもしてくれた。そんな彼も、今はもういない...

 私がなかなか考えを整理できない様子を見かねて、山本さんが提案した。

「ねえ、いきなり好きな事って言っても難しいから、仕事上の不満を言ってみたら?」

「おう、それがいいよ」

 マサシさんの代わりに、二人に愚痴を聞いてもらう事になった。

3.改善提案

 杉野さくらさんの話を早坂さんは熱心に聞きながらパソコンにタイプしていた。とりあえず、愚痴を聞くだけ聞いて、まとめ作業は早坂さんが別に行うようだった。

 私(山本ユウコ)は、秘書部に戻ると社史編纂室で話し合った状況を、二代目に報告した。別に報告の義務はなかったが、二代目の真意を確かめたい衝動に駆られていたからだ。

「二代目、杉野さん...色々と愚痴を言ってましたが、どれも前向きでした。きちんと問題点を指摘し、対案と解決のための課題をきっちり認識されていました」

「だろ」

「早坂さんもその『愚痴』に口をはさむことなく、資料にまとめておられる感じでしたし」

「ほう、黙ってたか?彼ならその場で課題の解決案を提示するかと思ってたんだけどね」

「たぶん、そんなことをすると、杉野さんがなぜ今まで対応してこなかったのかと責められてる気になるんじゃないかと思いました」

「早坂君も進歩したね」

「所で、私感じたんですけど、杉野さんに改善案を出させて、早坂さんに実現させる...のは判るんですけど、これって商売になるんですか?」

「まあ、そこは早坂君や君の采配にかかっているかもしれないけど、少なくとも、今までは改善というと会社の為、顧客の為と言って、提案したからと言って直接的に個人の利益につながらなかっただろ。だから誰も本気で改善に取り組まない。非効率のまんまなんだ。せめて管理職が仕事として改善の指示を出すくらいで、現場からの意見じゃない」

「けど、自分たちに直接の利益につながるとすれば、みんな改善にもっと積極的になると思うんだ。改善するほど、自分たちの利益が増える。改善しない理由が見つからないだろ」

「なるほど、そんなもんですかね」

「そんなもんでしょ。あの二人に任せておけば、それをみんなに見せつけてくれると思うよ」

「私は用無しですね」

「いや、そんなことはない。彼らの改善は直接的なお金に結び付かない。自分たちの時間を確保できても...ね。彼らの改善の価値をお金に変えるのが、君の役目だと思うよ」

 二代目が言いたいことが何となくわかった。

「いや~楽しみになってきたよ」


======= <<つづく>>=======


 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚。
 秘書部:山本ユウコ
     二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週一で参加している。
 社史編纂室:早坂
     妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。

 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
    弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。

 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。



スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「愚痴ならいくらでもあるわよ」
 早坂:「あなたの愚痴は仕事上の愚痴じゃないだろ」
 P子:「バレた?」
 早坂:「さて、どんな改善案が出たのやら」
 P子:「『146.【小説】ブラ転4』で、さくらさんの仕事内容言ってたわよ」
 早坂:「経費精算、勤怠管理、部門でまとめて経理に提出...そのあたりか」
 P子:「電話の取次ぎや会議室の予約代行も行ってたみたいよ」
 早坂:「それ、書いてなかったけど、今作った?」
 P子:「てへ」※1

※1 てへ
 軽くグーを作って自分の頭をこつんとしながら、ペロッと舌を出します。遠くから見ると「シェー」に見えるのでご注意ください。

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