今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P25.黒と白(8) [小説:CIA京都支店]

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初回:2019/11/06

登場人物

これまでのあらすじ

 黒井工業の社長と、白井産業の社長が裏取引してるという情報を元に、P子と城島丈太郎、そして浅倉南と山村紅葉(クレハ)が動き出した。白井産業へ侵入した城島丈太郎と山村紅葉(クレハ)は、金庫の書類の撮影に成功した。丈太郎はP子と書類を精査した結果怪しい箇所を見つけ、再び白井産業へ侵入することになった。

18.ブツの隠し場所

 P子に言われるがまま、再び白井産業に侵入することになった丈太郎は、まだデバイス開発室に返却していなかった電動キックボードを使うことにした。むやみに歩き回る必要もなければ、侵入する時間も調整できる。今度こそきちんと夕食を取ってから出かけることが出来る。

 丈太郎は、侵入の準備を整えながら、今朝の様子を思い返していた。

 P子と一緒に探していた金庫の書類を写した写真の中に、社長室の入っている事務棟の図面があった。事務棟は4階建ての建物で、社長室は3階にあった。4階部分は全て会議室になっており、一部が給湯室になっていた。会議室に来るお客様にお茶を出したりする場合に使うのだろう。

「ここをちょっと見て」

 P子に即されるまま丈太郎はその画像を見た。が、何もわからない。P子は少し微笑みながら(「ヒントが欲しい?」)と言ってきたが丈太郎は断った。

 1階の図面に丈太郎とクレハが監禁された半地下の倉庫と、1階ロビーが書かれている。2階の図面のフロアは、半地下の上の階と、一般的な事務所が書かれている。1階ロビーは吹き抜けになっていたので、その部分はフロアが無かった。社長室のある3階と、会議室の4階は、普通にフロアが書かれていた。

 3階の図面と4階の図面を見比べても不審なところはなかった。

「あ!」

 不審なのは2階の図面だ。半地下がある分、その上の部分と、通常の2階フロアの間に段差があった。吹き抜け部分があるので、そのいびつな構造に気づかなかったが、それぞれの階の上階の3階は、普通に段差のないフロアが広がっている。2階と3階の間に、半地下の段差を埋める『何か』があるのだろう。

「半地下で段差を作って、2階と3階の間に、1.4m以下の収納スペースがあるのよ」

 丈太郎が気づいたことを察知して、P子が指摘した。その倉庫部分は、社長室の真下に位置する。もちろん、社長室から出入りできる構造だと思われるが、逆に社長室から倉庫経由で逃げ出せるように別の出入り口があるはずだ。今回は社長室に侵入せずにその出入り口を探して入り込めばよい。構造上、出入り口と思われる場所の目星はついていた。

 丈太郎は必要な道具を用意して、出かける事にした。

19.ブツの内容

 クレハは隠しカメラの画像から社長あてのメールの内容を確認したり、金庫の書類を撮影した画像をためすがめつ眺めていたが、何も得られなかった。

「どんな感じ?」

 その様子を見ていた浅倉南もたまりかねて声をかけて来た。

「南先輩、情報が足りないのか、分析能力が低いのか、さっぱりですぅ」

「そうね~」

 浅倉南はそういうと、写真やメールを確認していたが、何か見つけたのか、

「『ノーウッドの建築業者』ね」

 とだけ言って、笑顔でその場を立ち去った。

 クレハには何のことかさっぱりだったので、とりあえず検索してみた。『ノーウッドの建築業者』(※1)とは『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されていた短編小説の事だった。そう言えば、浅倉南は根っからのシャーロキアン(※2)で、ロンドンのベーカー街221Bまで出かけて行って、そこでMi6にスカウトされたという話を聞いたことがある。

 あらすじを確認して、金庫の書類を再確認したクレハには真相がわかった気がした。(「さて、丈太郎さんは気づいたかな?」)たぶん、気づいていると思う。そうすると今晩また忍び込む予定だと思った。

(「先に忍び込むのか、同じ頃に忍び込むのか、丈太郎さんから横取りするのか...」)

 まあ、バッティング(butting)するのは避けたい所だし横取りは気が進まないし...

 クレハは先に忍び込むことにした。まだ、夕方だったので車で乗り付けて、事務棟の正面ロビーから入っていった。社長秘書に直接連絡を取って面会を依頼したが社長は不在だった。当然のことで、事前に社長が不在と言う事を確認してから秘書に電話したのだった。

 ちょうど定時を少し回った頃で事務棟の人の出入りが活発だったが、単なる来客と思われたのかクレハは誰の気にも留められなかった。クレハはトイレを借りる風を装って2階まで行き、2階と3階の階段の踊り場にメンテ用扉がありその中に入っていった。そこには配電盤などが格納されていたが、そのさらに奥に扉があった。

 隠し部屋自体は、天井高は低かったが部屋面積は結構広かった。パっと見た感じでは倉庫になっていた。スチール棚が設置されており段ボール箱がいくつも置かれていた。天井...といっても、1.4m以下の高さしかないが、その天井部分に梯子が設置されており、上のフロアに通じている様であった。図面上では社長室の一角に位置するはずだった。

 クレハは倉庫の東西・南北をレーザー距離計(※3)で測定した。そして、スチール棚で埋め尽くされているはずの壁が、図面より3m弱短い事を確認した。その壁を丁寧に見ていき一部がスチール棚ごと開くことを確認した。

 その隠し部屋には、金庫を持ち込めなかったからなのか、鍵付きの棚が5個も置かれていた。

(「そんなに厳重にしなくてもいいのに...」)

 クレハはその棚を順番に開けていった。2つの棚には札束がぎっしり詰まっていた。次の棚には半分だけ札束が入っていた。残りの2つの棚には、金の延べ棒が置かれていた。

(「やっぱり金か...」)

 予想はついていたが、現物を見るとがっくり来る。同じMi7の同胞が裏稼業で違法な商売をしていたなんて...

 クレハや浅倉南の所属するMi7では、違法な活動をしていないと言い切れないが、日本政府とも非公式ではあるが連携しているので、日本やイギリス政府の国益に結び付く範囲で留めている。

 クレハはそれらの写真を撮って、金の延べ棒を1本だけ持って帰ることにした。

20.丈太郎の成果

 丈太郎は夜中に白井産業の事務棟に侵入した。2階と3階の踊り場のメンテ用扉から配電盤のある倉庫に侵入した。奥に行くと扉が見えた。その中が隠し部屋だった。天井高は低いが部屋自体は広かった。あちこちにスチール棚が設置されており、丈太郎はあっちこっちの棚に置いてある段ボールや書類入れの中身を確認したが、目ぼしいブツは見つけることが出来なかった。

 隠し部屋があるはずだと思った丈太郎は、スチール棚をひとつづつ確認していった。その中の一つのスチール棚が壁ごと動くことを確認した。その壁をスチール棚ごと開いて奥の部屋の中に入ると、鍵付きの棚が5個置かれていた。

 全てが鍵付きのその棚を、丈太郎は順番に開けていった。どの棚にも何も入っていなかった。

(「これ程厳重に隠してある所に何もないはずはない...クレハさんが先に来たのか...」)

 丈太郎は自分の読みの浅さに意気消沈したが、あきらめがつかなかった。

「ん?」

 棚の一つが2重底になっているのを見つけた。底をめくると金の延べ棒が1個だけ残っていた。

(「クレハさんのお情けか...」)

 丈太郎はその金の延べ棒を持って帰ることにした。

 翌日、P子に金の延べ棒を見せた。

「やっぱりね。成分を詳しく分析しないと判らないけど、ヨソノシステムさんから巻き上げた金のフロアパネルの原材料だと思うわよ」

「でも、結局のところ、白井社長と黒井社長が癒着している証拠を見つけることが出来ませんでした」

「いいんじゃない?癒着してないっていう証拠も見つかってないんだから」

「悪魔の証明(※4)は難しいですからね」

「で、どうします?」

 丈太郎はまだ報告書を作成していなかった。依頼主である黒井工業技術部長の新田さんには全てを伝える必要があるだろうが、白井社長と仲間である浅倉南には、すべてを伝える義理はない。とはいうものの、丈太郎から見ると、クレハが残してくれた金の延べ棒が無ければ決定的な証拠を掴む事が出来なかった。

「南さんへは、別に報告しなくてもいいんじゃない」

 P子は、自前の水筒からごぼう茶をコップに注ぎ一口飲みながら言った。(「心配しなくてもクレハさんからきちんと報告が入ってるわよ」)

21.クレハの昇格

 クレハは報告書を作成して、浅倉南に提出した。

 白井社長は、材料買い付けと称して、香港で大量の金を買い付けて一旦韓国の空港で入国審査を受けずに乗り換えエリアで観光客を装った運び役に日本へ持ち込ませる。韓国を経由させるのはすでにそういうルートが確立していたからだ。つまりシステム化されていた。(※5
 本来なら日本に持ち込むときに消費税を支払うことになるが手荷物などに紛れ込ませて支払わない。これを買取店には消費税分を上乗せして売る為、消費税分が丸ごと利益になる。買取店が転売して商社が輸出する場合、国から消費税分の還付があるので、この金塊は元の場所に戻ることになる。それをもう一度輸入すると...(※6

 ただし、密輸入の罰金が引き上げられた(※7)ことと、韓国から日本への観光客も激減したため、最近はおとなしくしている様だった。もちろん、消費税が10%に引き上げられたことで利益幅も増えるため、もうしばらく様子を見た後は再開する予定だったようだ。

 さらに、この金をヨソノシステムの社長である余園次郎氏の裏金として用立てていた。余園次郎は金を通常の買取店から購入することが出来なかったので、白井社長から買っていた。正確にはフロアパネルにする加工代も込みで契約していたので正規の代理店に販売するより利益が出ていた。

「クレハさん、よくやったわね。ただ、CiAの丈太郎君も事実を掴んだ様ね」

「そのようです。思った通り優秀な方でしたよ」

「本当?」

 浅倉南は、クレハがワザと丈太郎君の為に情報を残したと思っていた。ただ、情報は残したが証拠は残していない。証拠と言うのは大量の現金と金の延べ棒の事だった。

「所で、あの写真に写っていたお金と金の延べ棒はどこに隠したの?」

「あの倉庫のフロアって、フリーアクセスになってるんです。で、とりあえず全ての現金と金をその下に隠しました。」

「良い判断ね。CiAの丈太郎君に見つかってたら全て持ってかれたかもね」

 浅倉南は、今回のクレハの働きに満足していた。クレハの報告書とともに、矢沢部長に説明しにいった。

「矢沢部長。今回の山村さんの働きですがスパイとして十分な働きだったと思います」

 クレハの報告書を見ながら矢沢部長はうなづいた。

「所で、矢沢部長は今回の件、どこまでご存じだったんですか?」

「さあね」

 矢沢部長は言葉を濁したが、何となく全て知っていたのではないかと南は思っていた。もちろん最初は矢沢部長も関係しているんじゃないかと疑っていたが、その逆だったようだ。以前、回収した金のフロアパネルの出所がどうもMi7も関係していて、それを追跡していくと白井社長に突き当たったが証拠がなかった。そこで調査をしようと考えた矢先に、今回の話が舞い込んできたので、乗っかった、という所か?

(「もしかすると...」)

 もしかすると、Mi7が同胞である白井社長を勝手に探るわけにもいかないので、CiAが探るように仕向けたのか?だとすると、黒井工業技術部長の新田さんも矢沢部長の差し金...なのか?

 浅倉南としてはその辺りを追求しても得られるものが無いので、それ以上考えることを辞めた。

「所で」

 矢沢部長は浅倉南が視線を戻してきたのを確認して、話を切り出してきた。

「山村さんを連絡係から正式な諜報員として本部に届けておくよ」

≪完≫

======= <<注釈>>=======

※1 『ノーウッドの建築業者』
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%89%E3%81%AE%E5%BB%BA%E7%AF%89%E6%A5%AD%E8%80%85

※2 浅倉南は根っからのシャーロキアン
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/05/p05_cia.html
 P05.南の秘密 [小説:CIA京都支店]

※3 レーザー距離計
 https://www.amazon.co.jp/dp/B07VW7GB4D

※4 悪魔の証明
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%88%E6%A5%B5%E7%9A%84%E4%BA%8B%E5%AE%9F%E3%81%AE%E8%A8%BC%E6%98%8E
 消極的事実の証明

※5
 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3978/
 2017年5月23日(火)
 金塊 闇の"錬金術"~私たちの税金が奪われる~

※6
 https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_tyosa-jiken20190103j-01-w480
 【図解・社会】金地金の密輸スキーム(2019年1月)

※7
 https://www.tabisland.ne.jp/news/tax/2018/0302.html
 2018.03.02
 金の密輸入の罰金引上げ

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