ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

イノウーの憂鬱 (57) 設定より規約

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 「そ、それなら、この接種希望日の作りはどうですか」しばらく考えた後、浦西氏は画面をスクロールさせた。「社員さん本人と同じ場合は省略可能、また7 月15 日で18 歳未満は接種不可能ってやつですよ。もっと前の段階で絞り込むべきのが親切ってもんじゃないですか」
 「あの」マリが、ぼくを押しのけるように進み出た。「具体的にはどうするべきだと言うんですか?」
 「え、ああ、そうですね」女子社員だから、と甘くみたのか、浦西氏は少し余裕を取り戻したようだ。「たとえば、個々の項目を入力させる前にですね、本人と同じ接種日を希望されますか? はい/いいえ、みたいな選択をさせて、はいだったら、家族の入力欄には接種希望日を出さないとか。余計な入力が減りますよね。違いますか?」
 「......」
 このおっさん、何言ってんの? ぼくに向けたマリの顔にはそう書いてあった。音声化しなくても、それぐらいの表情は読み取れるようになっている。ぼくは小さく首を振って答えたが、その沈黙を都合良く解釈したらしく、浦西氏は勢いよく続けた。
 「18 歳未満も同じですよ。最初に18 歳未満の希望者が家族にいますか? と訊いておいて、いるんだったら警告メッセージ出すと親切だと思いますよ」
 「え、あの」シノッチが困惑顔で言った。「18 歳未満の接種はできません、と注意書き書いておくのではダメなんでしょうか」
 「プロ視点で言わせてもらえば、それは不親切ですよ。そんな注意書きは読み飛ばすかもしれないじゃないですか。あらゆる事態を想定して、手を打っておくのがプロフェッショナルな設計というものなんです」
 「でも、確認ボタン押したときに、年齢チェックしてるはずですが......」
 「まあ、それはそれで有効ですがね」浦西氏は仕方なさそうに認めた。「でも、最初に警告出しておけば、間違える率が減るじゃああーりませんか」
 「ちょっと待ってください」忍耐が限界に達したらしいマリが叫ぶように言った。「そんな選択させる方が、逆に混乱するじゃないですか。どうやったら入力しやすいかぐらい、ちゃんと考えて画面は作ってるつもりです」
 「ああ、あなたが作ったんですか」浦西氏はバカにしたように短く笑った。「それって、単に、そういう画面制御が面倒だからそう言ってるんじゃないですか? それとも、そこまでの画面制御が実装できないとか?」
 「ちょっと言い過ぎではないかしらね」夏目課長がなだめるような口調で言った。「笠掛さんは、Web 画面を勉強してきているそうです。現にシステム開発室でリリースしたシステムの画面は、ほとんど笠掛さんの手によるものなんですよ」
 「それは失礼しました」夏目課長に向かって頭を下げた浦西氏は、しかし舌鋒を緩めようとはしなかった。「少し知識が不足していると感じましたので。こういうことは、やはりね、場数を踏んでいかないと、なかなか身につかないものなんですよ」
 「なるほど、そういうものなんですね」
 「どんなエンドユーザが、どんな入力をするのか不明である以上、どんなニーズにも対応できるように設計しておく。これがプロというものです」
 黙って聞いているのも限界だった。
 「浦西さん」ぼくは冷静に訊いた。「CoC ってご存じですか? 念のために言っておくと、クトゥルフの呼び声じゃないですよ」
 「は?」浦西氏は呆気にとられたように首を傾げた。「何のことですか?」
 「Convention over Configuration のことです。訳すと、設定より規約、となります。ご存じないですかね。わりと有名な考え方なんですが」
 「あ、ああ、あれね」浦西氏は何度も頷いた。「CoC なんて言うから何かと思っちゃいました。もちろん知ってますが、それがどうかしたんですか」
 「IT システムコンサルの方には釈迦に説法でしょうが」ぼくは続けた。「ここにいるメンバーは、ソフトウェアの設計については素人なので簡単に説明しておきます。設定より規約、というのは、本来はフレームワークの基本概念のようなものです。昔のフレームワークは、アプリケーションの動作を決定するのに、大量の設定ファイルを記述する必要がありました。それは面倒だし、間違えやすいし、仕様の変更などでも修正が発生するし、ということで、最近は一定のルールを決めておいて、それに従っていれば設定ファイルは不要、というフレームワークが主流です。たとえば、さっき笠掛さんが、フォーム上の入力項目にname が付いていることを説明していましたね。このフォームでは、name とデータベース上の項目名が一致させてあります。それがすなわち、規約です」
 この省略した説明では、ピンとこなかったメンバーが大部分だったらしく反応は薄かった。互いの理解度を探り合うように顔を見合わせている。ぼくは例を考えた。
 「たとえば、そうですね、自動販売機のロジックを設計するとしますね」
 ぼくはホワイトボードに自動販売機の外枠を示す長方形を書くと、全員に向かって質問した。硬貨、または紙幣を入れて、ドリンクを選んだ後、続けて2 本目を買えた方がいいのか、それとも1 本目を買ったらおつりが出てきた方がいいのか。
 「そりゃあ」下園さんが言った。「続けて買えた方がいいんじゃないの?」
 「うーん、そうですかね」友成さんが考えながら言った。「あたしなら普通は1 本しか買わないから、そのままおつりが出てきてくれた方が嬉しいですけどね」
 「そう、人によってニーズは違いますね。通勤途中に1 本だけ買う人もいるし、朝のコーヒーとランチ用の野菜ジュースみたいに2 本買う人もいますね。買い出しか何かで10 本まとめて買いにきた場合もあるかもしれない。全ての人に満足してもらうなら、こんな感じのボタンが必要になります」

57-1.png

  「これで1 本買う人も、複数本買う人にも親切な設計になりました。じゃあ、もう少し考えてみますか。5 本買う人でも、同じドリンクを買う人と、違うドリンクを買う人はいますね。同じドリンクを買うなら、5 回ボタンを押させるのは不親切かもしれません」
 僕は図を追加した。

57-2.png

 「それなら」湊くんが面白そうに言った。「3 本はお茶で、2 本はコーヒーかもしれないですね」
 「確かに」ぼくは苦笑した。「じゃあ、こうしますか」

57-3.png

  ルールを理解したらしく、メンバーたちが"親切設計"のアイデアを出し始めた。
 「売り切れの場合もありますね。5 本買おうとしてるのに、4 本しかなかったら悲しいですよ」
 「でも、連続購入ボタンを押してくれれば、その時点で売り切れメッセージ出せるけど、1 本ずつ買ったら出しようがないですね」
 「あ、それなら最初に同意を求めましょうよ。売り切れで買えない場合がありますが、よろしいですか? みたいな」
 「いいね。親切だ」
 「真夏であんまり冷えてないのが出ることあるじゃん? あれ、何とかならないかな」
 「真冬で生ぬるいのもがっかりですね」
 「温度表示、追加しましょう」
 「俺もいいかな」伊牟田さんまで参加した。「たまに買うのを間違えることがあるんだよね。だからキャンセル? 返品? そういうのができると嬉しいね」
 「なるほど。それなら、ボタン押したら、確認メッセージ出しますか。午後の紅茶を1 本購入します。よろしいですか? とか」
 「ならいっそ、買い物かご方式にしたらいいんじゃないですか。ボタン押したら、カートに入っていって、取り消しもできる」
 「もちろん本数と合計金額も出して」
 「季節の変わり目だと、ホットとアイスが混ざってることあるから、確認のときそれも足してほしいですね」
 「気温とか天気で、今日のお勧めとか出るといいんじゃないですかね。何買うかな、って迷うときあるんで」
 「イノベーション自販機でしたっけ、そういうのってありますよね。東京駅で見たことあります」
 次々に生み出されるメーカーの人間が聞いたら苦笑しかねない要望を、ぼくはホワイトボードに書き続けた。最近は手で字を書く機会が極端に減っているので、途中で手首が痛みはじめた。見かねたマリが手伝ってくれなければ、いくつかは書き漏らしたかもしれない。
 「これぐらいにしておきますか」
 ホワイトボードの上から下まで、ボタンと文字列で埋まったところで、ぼくは宣言して要望の奔流を止めた。茫然とホワイトボードを見つめている浦西氏に声をかける。
 「浦西さん、どうですか?」
 「え?」
 「浦西さんが仰った"親切設計"の実例ですよ。完璧な自販機だと思いませんか」
 浦西氏はふてくされたように顔を背けた。それを放っておいて、ぼくは改めてJV 準備室のメンバーに向き直った。
 「もちろん、こんな自販機が実在したとしても、誰も使おうとはしませんね。過剰な設計です。実際の自販機は無数の設定の代わりに、前提条件が決められています。ボタンを押したらすぐドリンクが出る。何本も買うときは、その数だけボタンを押す。買ったドリンクをキャンセルすることはできない。それがつまり規約です」
 「おつりは?」
 「ああ、それはたとえば設置場所とかで決まるのかもしれないですね。駅前で9 割以上の人が1 本しか買わないから、1 本買ったらおつりがでる。ショッピングモールで家族連れが多い場合は、連続して買う率が高いからおつりは返却レバーを下げたら戻る、とか」
 「それも規約?」
 「これはどちらかというと設定ですかね」ぼくは肩をすくめた。「内部に切り替えスイッチ設けるだけで済みますから。自販機の構造には詳しくないので、実際、どうなってるのかしりませんけど」
 「なるほど」腕を組んで頷いたのは大石部長だった。「受付フォームで言うと、接種希望日や18 歳未満をいちいち訊くのは、むしろ不親切、と言いたいわけだな」
 夏目課長が狼狽したように大石部長を見た後、何か言え、と言わんばかりに浦西氏を睨んだ。浦西氏は慌てて反論した。
 「わ、私はソフトウェア設計の基本的な概念の話をしてるんです」気の毒に声が裏返っていた。「プロなら、あらゆるシチュエーションを想定して設計すべき、という話をしただけです。全て、何から何まで設定を盛り込めなんて言っとらんじゃないですか。適度にユーザビリティを考慮して......」
 「ユーザビリティ?」マリが身を乗り出した。「接種日が本人と同じかどうか、18 歳未満がいるかどうか、最初に選択させるのが、浦西さんの言うユーザビリティなんですか?」
 「プロの視点からすれば、そうなんですよ。私はそれを教えてさしあげようと......」
 「プロプロって偉そうに」マリは鼻を鳴らした。「別に教えてくれなんて頼んでませんけど。それに、そんなセンスのない設計がプロだって言うなら、プロなんかになりたくないです」
 「失礼ですが、浦西さん」ぼくは訊いた。「コンサルと言われましたが、どういった分野のIT システムがご専門なんですか」
 「ええ? それは......」浦西氏は言い淀んだ。「いろいろですよ」
 「さっきBootstrap がどうとか仰ってましたが、Web 系のシステムもやってらっしゃるんですか?」
 「ええ、まあ」
 「そういえば名刺を頂いていなかったと思います」ぼくは浦西氏に近寄った。「差し支えなければ頂戴できますか」
 「いや、あいにく切らしてるんで。それに、ほら、こんなご時世ですから、名刺なんかはあまり使わないんです」
 「そうですか。では、フルネームを教えていただけますか?」
 「え?」浦西氏は警戒するようにぼくを見た。「どうしてフルネームを?」
 「どういう経歴の方なのか確認したいと思いまして」
 「それは個人情報ですし......」
 「教えていただけない? まあ、いいです。シノッチさん」ぼくはシノッチに声をかけた。「入館登録データって参照できますよね」
 マーズ・エージェンシーに出入りする社外の人間は、例外なく入館登録を行うことになっている。会社名、氏名、入館時刻、訪問先、理由などを登録しなければならない。入館データは総務課が管理し、定期的にチェックをしているらしい。入館記録のみで退館記録がない、などの不正データが発覚すると、担当者は叱責の上、始末書を書かされる。管理職であれば譴責処分だ。夏目課長が手続きを省略しているとは考えにくい。
 「ああ、はい」シノッチは頷いた。「できますよ」
 「今日の入館登録から、浦西さんを検索してもらえますか?」
 夏目課長が制止したいような素振りを見せたが、シノッチは意に介さず、社内Wi-Fi に接続したタブレットを操作し始めた。実際は検索するまでもなかったようだ。日曜日とあって、入館者自体がほとんどいないからだ。すぐにシノッチは浦西氏のフルネームを口にした。
 「浦西ヤスヒコさんで登録されてます」
 ぼくはスマートフォンを取り出すと、検索をかけた。隣でマリも自分のスマートフォンを操作している。JV 準備室のメンバーも数人が同じ動作をしていた。
 「あ、これだ」マリが言った。「Twitter アカありました。今日の昼につぶやいてますね。これから初仕事で横浜行ってきます! って......初仕事?」
 「インスタもありますよ」湊くんも結果を報告した。「初仕事って、こっちにも上がってますね。ん? 卒業しましたってあります。6 月ですね。えーと、サイクロン......なんだこれ」
 何となく聞き覚えがある名詞を耳にしたぼくは、いくつかの単語を付け加えて検索をかけた。結果はすぐに出た。SEO 対策のためか検索結果のトップに表示されていたのだ。
 「サイクロン・エンジニア短期養成スクール」ぼくは名称を読み上げた。「聞いたことがあります。オンラインのプログラミングスクールですね、これは。浦西さん、ここを卒業されたんですか? 今年の6 月に?」
 「いけないですか?」浦西氏は開き直ったように答えた。「卒業したことは証明できますよ」
 「さっき、プロって威張ってたじゃない」もはや敬語を使う必要性を感じなかったのか、マリは問い詰めるように低い声を出した。「オンラインスクールで勉強しただけで、プロなんて名乗ってたわけ? 実務経験あるんですか?」
 「......」
 「初仕事って言ってるぐらいだから」下園さんが軽蔑したように冷笑した。「ないんじゃないの。実際ないんだよね? 6 月に卒業したばっかなんだからさ」
 浦西氏は答えなかった。顔が蒼白になり、視線が上下左右にさ迷っている。
 「未経験者大歓迎」ぼくはサイトのトップページを読んだ。「最短、4 週間コースで、誰でもIT エンジニアになれる」
 「IT 業界への転職成功率99% 以上」湊くんも同じページを見ながら言った。「年収20% アップを確約。へー、すごいな」
 「何が悪いんですか?」浦西氏は開き直った。「私はちゃんと勉強したんだ。高い授業料を払って、システム開発の知識を身につけた。プロを名乗る資格はありますよ。今どき、ネットで勉強するのなんて珍しくもないじゃないですか。OJT なんかで何年も下積みの社畜生活するなんてバカげてますよ」
 「誰も悪いなんて言ってないじゃないですか」
 ぼくは冷静に返したが、聞いているのかいないのか、浦西氏はなおも主張を続けた。
 「だいたい、あんたら、社内プログラマで、プログラミングぐらいしかやってないって聞いてますよ。私みたいに、ちゃんと体系的な知識を持ってないでしょ。私は上流工程からWeb マーケティングまで勉強したんです。もちろん最短の4 週間コースなんかじゃない。4 ヵ月のプロフェッショナルコースです。実務経験なんか関係ないですね」
 「その成果が"親切設計"なの?」マリが嫌悪に似た視線をぶつけた。「あたしには、ただの難癖にしか聞こえなかったなあ」
 「それがプロの設計というものです。あなたにはわからないかもしれませんがね。私はただ、正しい設計のあり方を説いただけで......」
 「説いたあ?」マスクで顔の下半分が隠れていても、マリの怒りは口調だけで明らかだった。「誰がそんなこと頼んだっての? 確かにあたしは経験が少ないけど、おたくよりはまともな画面を設計する自信はあるよ。それに、たとえどれだけ知識があっても、おたくからは何も教わりたくなんかない。誰もがそうであるように習いたいのは、実力と才能のあるヤツからだけだぜ、ってジョセフも言ってるじゃん」
 「あー、そう」浦西氏は顔を赤くして怒鳴った。「そうですか。じゃあ、せいぜい独学でがんばってくださいな。まあ、この会社の中だけの狭い世界だったら、それでも通用するかもしれませんね。いつか、他の会社のプロと仕事するとき、自分の未熟さを思い知るでしょうよ。夏目さん、私はこれで失礼させていただきます。どうも歓迎されていないようですし、プロの意見は尊重されていないようですから。請求書は送らせていただきます」
 夏目課長は小さく頷いただけで、引き留めようともしなかった。浦西氏は慌ただしく帰り支度をすると、ぼくとマリを憎々しげに一瞥し、足音も荒く立ち去っていった。
 不快な人物がいなくなった後、室内の視線は自然と夏目課長に集中した。非好意的なものばかりで、夏目課長の部下である友成さんも例外ではなかった。この会社では、上司の失態に同情する部下は少数派だ。
 ぼくも醒めた心で、うつむいている元上司を見た。一時はシステム開発室の管理者だったくせに、その実力を正しく評価していなかったらしい。おそらく時間の制約から、あんな素人同然の似非コンサルしか手配できなかったのだろうが、それでも何かを証明できると期待し、見事に外したのは自業自得でしかない。
 「さて」淀んだ空気を一新するように、斉木室長が手を叩いた。「テストを続けますか」
 「いや」大石部長は片手を挙げると、ゆっくり立ち上がりながら言った。「その必要はないんじゃないかな」
 「お待ちください、部長。その......」
 夏目課長がすがりつくような目で見たが、大石部長は冷たく見返した。
 「一体、何を見せるつもりだったのか知らないが、君の想定とは違う結果になったようだ。これ以上、テストを行う必要はないと思うね。違うかな」
 「......」
 「とにかく、明日の朝には、総務から全社員に通知を出すことは決まってるからね。受付フォームはもう、これでできてるんだろ?」
 「できてます」ぼくは答えた。「結果の出力機能はまだですが、それは水曜日までにできてればいいので、明日にでも作る予定です」
 「ん」大石部長は頷くとカバンを掴んだ。「しかるべく粛々と進めてください。じゃあ、お先に」
 もはや夏目課長には目もくれず、大石部長はさっさと会議室を出て行った。少し遅れて、夏目課長も慌てて後を追いかけていった。きっと、少しでも自分の失地を回復しようと試みるのだろう。
 「何がしたかったんですかね、あの人」呆れた声でマリが呟いた。
 ぼくは首を横に振った。とにかく今日の仕事はこれで終わりだな、と思ったとき、シノッチが立ち上がった。
 「あの」シノッチは躊躇いがちに言った。「せっかく集まってるんですから、もうちょっと画面デザインについて教えてもらえないですかね」
 「賛成」湊くんも同意した。「画面に何を入れて、何を入れてはいけないのか、そのあたりのコツなんかを知りたいです。うちの課でも役立ちそうですから」
 「そうですね......」
 画面デザインとなると、ぼくよりもマリにいてもらった方がいいのだが、これから講義をするとなると、おそらく映画には間に合わなくなる。マリに目をやると、同じ結論に達していたらしく、迷っているのがわかった。だが小さくため息をついただけで、マリはすぐに頷いた。
 「そういうことなら」マリは進み出た。「あたしの出番ですね。じゃあ、みなさん、座ってください。さっきの続きからやりますよ」
 JV 準備室のメンバーたちが座って準備を始める中、ぼくは囁いた。
 「よかったの?」
 「まあ5 回も観たし、薄い本も2 冊ゲットしてますから。今はこっちが大切。ですよね。こういうのは熱が残っているうちにやんないと冷めちゃいますから」
 「ありがとう。本当に助かる」
 「あ、あたしのことハグしたくなりました?」マリはにっこり笑った。「いいすよ、どうぞ。人目なんか気にしませんから」
 「ぼくが気にするんだよ」
 マリは小悪魔のような笑みを見せると、向き直って説明を開始した。

 (続)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。

Comment(29)

コメント

匿名

初仕事トラウマ過ぎるだろw

匿名

プロw
いやー、実務経験ないプロwに付き合わされたら大変ですねw

h

私は初仕事でここまで出来るのは結構凄いと思いますね、
捨て台詞みたいになっちゃっていますが請求書の下りとか。
私が新人の頃を考えたらとてもここまで出来てなかったかと。

匿名

自身の傲慢さが招いた結果だから同情の余地がない…

オンラインスクール卒でも初仕事でも、
「俺はプロだ!俺の言うことが正しいんだ!」
みたいなスタイルじゃなければ彼にとっていい経験になったんじゃないかなあと…

匿名

「CoC ってご存じですか? 念のために言っておくと、クトゥルフの呼び声じゃないですよ」

この世界観の会話は狂っている

ロコ

それがすなわち、規格です
→話の流れからすると「規約」でしょうか?

マリちゃん、ジョセフのそんなセリフを選ぶとは結構マニアックですね

匿名

夏目さん、よしんばエースに入れても、すぐに潰されてダメになりそう…

匿名

伊牟田さんの馴染みっぷりがすごい

z

ちっさいサイクロンだったなあ…
 
>「少し知識が不足していると感じましたので。こういうことは、やはりね、場数を踏んでいかないと、なかなか身につかないものなんですよ」
これを口にできるメンタルは凄いと思う

匿名

>いつか、他の会社のプロと仕事するとき、自分の未熟さを思い知るでしょうよ。
捨て台詞にきっちりブーメランを仕込む浦西プロ。

匿名

あまりCoCについて話しすぎるとsan値が下がりますよw

匿名

浦西さん初仕事でこれだけはったりをかませられるのは結構凄い。もしかしたら他業界で営業などの経験があるのかもしれませんね。

匿名

夏目さんの害悪さがすごい…
相対的に伊牟田さんがまともに感じる

匿名

スキルは無いけど、はったりだけで乗り切っていこうとする人マジでいるから怖いですよね。
問い詰めると逆ギレしちゃう辺りもあるあるでした。

匿名D

じゃあ浦西氏はの言をまるごと受け入れると、エンジニアというものは、
スクール卒業直後の価値が最も高い、実務経験なにそれ?
ってなことになってしまうと思うんだが。


夏目女史は、野心家ということだけど、
エラくなった自分について、どういうビジョンを持っているんだろう?
管理者の職務は、リソースの適切な配置。
リソースの評価、配置の場所の選定、どっちをとっても壊滅的なんですけど。
伊牟田グチ氏は、自分が今いる場所で友だちが作れる人なんですね。
宴会部長としては最適任なんだろうな。

匿名

マリかわいいよマリ( ´Д`)

匿名

Bootstrapのbtn-primaryの色指定キーワードの知識から始まって
何も見ずに (少なくともカンニングしている描写はない)「1' or '1' = '1';--」とか「'; drop database syainMaster; --」などと打ち込めるレベルの知識まで
たった4か月で叩き込んでくれるオンラインスクールってどこの虎の穴だよと思ってしまった

匿名

伊牟田さんと斉木さんは残るんだろうか

z

今更だけど、社員マスタ消したいならdrop databaseよりdrop tableの方が。なんて思ったり

匿名

「ぼくが気にするんだよ」
とは言ってるけど、ハグしたくなったのは否定してない件

匿名

門外漢なのですが、こういう画面の親切設計みたいなのはどんな用語で調べれば学べるんでしょうか?

リーベルG

ロコさん、ご指摘ありがとうございます。
「規約」でした。

エンジニア・H

>門外漢なのですが、こういう画面の親切設計みたいなのはどんな用語で調べれば学べるんでしょうか?

プログラミングの入門書籍でも登録フォームってよくあるのでそこをまずやって、
そのあとは世間に存在する色々なサービスの申し込み画面、登録画面などを参考にしていくのがいいかなあと思っています

匿名

浦西さん、つまりはキャリアゼロなわけで、よくそこまで言えたな。
自分だったら引き受けない。
社内開発してる人でも、自分よりスキル上というのは、現地に足を運ばなくてもわかりそうなもんなのに。

匿名

浦西はQ-LICに入ればそれなりの地位に行けたかもね

なんなんし

〉門外漢なのですが、こういう画面の親切設計みたいなのはどんな用語で調べれば学べるんでしょうか?

「ユーザビリティ」まんまていいんじゃないかな
昨今は「UX」(ユーザー体験)って用語が流行りだけとも
定義が専門家でバラバラなことをいいことに
UIデザインの人たちがUXって言ってるので混乱しそう

---
一応、UXの領域でも仕事してるので
今回の話はUIデザイナーがUXデザイナーのように
自分はプロだからと言われてる実体験と重ねて苦笑しかでない回でした(´・ω・`)

匿名

このあとTwitterやインスタで自分に都合よく改変した発言喚き散らして会社が風評被害にあいそう

匿名

CoCは「設定しなければ適切なデフォルトで動く」ことであり、「設定できる項目が少ないこと」ではないのでは。

浦西は結局「設定できることが足りない」とつっこんでるんだから、イノウーが結局「CoCだからこれでいいんだ」みたいに言ってるのはおかしく感じました。

> 実際の自販機は無数の設定の代わりに、前提条件が決められています。
CoCのたとえになってないですよね。Ruby on Railsだって「無数の設定」がありますよ。CoCだからそれを全部書かなくていいけど、書いて設定することもできる。

機械にたとえるなら「無数の設定が可能だけどデフォルトが決められてる」ものであるべきです。
エアコンやテレビのリモコンはどうでしょう。ほとんどのユーザは最初にみえてるボタンで満足するけど、詳細設定したけりゃ隠れているメニューを引き出してできる。しなくてもメーカーの決めた動作をする。

もちろん、浦西が足りないと言う項目が本当に必要か、もっともだとして実装するコストがみあうか、は別の話です。
が、イノウーが反駁にCoCをもちだすのがとんちんかんだと思いました。

匿名

> 「本人と同じ接種日を希望されますか? はい/いいえ、みたいな選択をさせて、
> はいだったら、家族の入力欄には接種希望日を出さないとか。
> 余計な入力が減りますよね。違いますか?」
 
その直前に浦西は、現システムで接種希望日が「社員さん本人と同じ場合は省略可能」であることを確認してますよね。
 
すると「余計な入力」って何のことでしょうか。

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