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第460回 キャリコンが浸透しないワケ

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 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 先日、ある研修を行っていた際、受講された方から質問を受けました。日本にキャリコンという考え方が出来、国家資格まで整備されてきているにも関わらず、まだまだ多くの企業でキャリコンは認知されていません。そういった現状についてどう思うか? といった質問だったのですが、その時、私は自分の考えをまっすぐお伝えしました。今回は私が考えるキャリコンの現状から未来について書いてみたいと思います。

■「キャリコンにも責任の一端はある」

 厚労省はキャリコンに関する制度を整備しました。キャリアコンサルタントが国家資格制になり、現時点で登録者数が5万人を超えています。厚労省はキャリアコンサルタントを10万人育成するを計画を立てているそうです。そういった状況にもかかわらず、キャリコンの置かれている状況はまだまだ厳しく、企業内でキャリコンを組織的に実施されている所は少ないのが現状です。

 このことについて、その原因は国の施策がうまくいってないからでは? という声が聞こえてくるかもしれませんが、私は「キャリコンにも責任の一端はある」と考えています。

 例えば、企業でキャリコンを導入しようとすることを考えてみてください。経営層はキャリコンなんて知らない前提に立った時、キャリアコンサルタントはキャリコンのことをどのように経営層に説明するのでしょうか?

 「個人の生き甲斐ややり甲斐を通じてキャリア形成すること、それを社内で実現することが社員にとって必要なんです! 」といった所で、返ってくることは「それは儲かるのか? 」です。

 「キャリア形成をすることで個人のモチベーションが上がり生産性がアップします! 」と答えようモノなら、「その根拠を示してください」と言われるのがオチです。もし、キャリアコンサルタントがその質問に答えられなかったとしたら、経営層から見たキャリコンというのは単なる福利厚生の域を出ない施策となってしまいます。私はこれが企業におけるキャリコンの現状だと考えています。

 実際、キャリコンを導入されている企業の中ではボランティアの形でキャリコンを導入されている所があります。それは会社の資源を使ってキャリコンをすることの難しさを表していると言えるのではないでしょうか。

■キャリコンの未来を考える

 ただ、厚労省もいろいろ施策を打っています。その中の一つにセルフ・キャリアドック制度(SCD制度)ががあります。

 SCD制度は2016年、職業能力開発促進法が改正・施行されたことに伴い、労働者に職業生活の設計(キャリアプラン)と能力開発について自ら責任を持つよう促し、企業には従業員に対するキャリアコンサルティングの機会確保と能力開発の支援を求めたことからスタートしており、社内の人事制度、キャリコンとの両輪によって社員のキャリア形成~組織、企業の発展が促されるようなインフラを作り、運用していこうというモノです。詳しくはこちらをご覧ください。

 こういった施策がもっともっと世間一般で浸透してくれば、企業もキャリコンに意識を向けるようになるかもしれません。しかし、それを実際に導入するところまで踏み込むためには、キャリアコンサルタントの力が必要になります。

 その時、キャリアコンサルタントに求められる力は何か?

 私は経営に関する知識だと考えます。なぜキャリコンが企業にとって必要になるのか? キャリコンを導入した企業がどのような姿になるのか? それが企業にとってどのような利があるのか? そういったことを数字という根拠で示すことが求められると思うのです。それができないと経営層と会話ができず、結局は経営層の一存になってしまわざるを得ないように思います。

 だからこそ、これからのキャリアコンサルタントは経営に関する知識を身に着け、経営層と数字で会話できるようになることが求められるのではないでしょうか。そういったキャリアコンサルタントが増えてくれば、自ずとSCD制度の導入への道が切り開かれていくのではないかと思います。(こういったことを「環境への働きかけ」と呼びます)

 逆の言い方をすると、そういったことができるキャリアコンサルタントが育っていかないと、いつまで経ってもキャリコンが浸透する未来は見えてこないのではないかと思います。つまり、ここから先、キャリコンが普及していくかどうかは、私たちキャリアコンサルタントの行動一つにかかっているのではないかと、私自身は思っています。

Comment(3)

コメント

ちゃとらん

いつも楽しく拝読させていただいています。


受講生も、なかなか手厳しい質問をされますね。
実は、私もそれに類した質問(疑問)を持っています。
『キャリコンの使命は何か?』『キャリコンの顧客は誰か?』という問いです。
これは、ほぼ同じで、要するにキャリコンの価値を認めて『誰がお金を払うのか?』という問いになると思います。


例えば、ある相談者をキャリコンした結果、転職したほうがその人の為になると思われたときに、転職を薦めるのか、部署変更でお茶を濁すのか…みたいな場合、相談者に寄り添って転職を薦めるキャリコンに企業はお金を払うでしょうか?


逆に言えば、相談者には転職を薦めたうえで、企業にはなぜ彼(彼女)が転職せざるを得なかったかを報告し、今後どうあるべきかを考えるきっかけを作る(経営層へのキャリコン?)まで踏み込んだ対応が出来れば、企業も社員も幸せになれる?のかもしれません。


やはり、経営者視点を持ったキャリコンの重要性は高そうですね。

キャリアコンサルタント高橋

ちゃとらん


こんにちはー。
いつもコメントありがとうございます。


> 『キャリコンの使命は何か?』『キャリコンの顧客は誰か?』という問いです。


私も、この問いは企業領域で働くキャリコンにとって大きな命題だと思っております。


そもそも、キャリコンには憲章があり、その第1条には以下のように書かれています。


「キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングが、相談者の生涯にわたる充実したキャリア形成に影響を与えることを自覚して誠実に職務を遂行しなければならない。」


これに準えると、キャリコンは相談者ファーストでなければなりません。しかし、企業領域で働くキャリコンにとって相談者ファーストになってしまうと、時としてちゃとらんさんのおっしゃるような離職に繋がる可能性もあります。実はこれも経営層にとっては頭の痛い話で、こういったことが起こりかねないのでキャリコンの導入に踏み切れない企業も良く聞きます。


ただ、この話は今に始まったことではなく、昔から現場では良く言われていたことでした。


私個人の考えですが、企業領域に働くキャリコンにとって、個人のキャリア形成は第一に考えなければならないものの、それが結果的に企業が指し示すキャリアパスと整合が取れるようになることが求められると思っています。でなければ、企業側がキャリコンを導入するメリットがないからです。。。


そのためには、企業側でも社員のキャリアパスを踏まえた人事制度や等級制度のを整備する必要がありますし、そのためには経営層、人事、キャリコンが三位一体となって制度設計や組織開発をしていかなければならず、ここにSCD制度の難しさがあると思っています。

ちゃとらん

判りやすい説明、ありがとうございます。


私も古い人間なので、すぐに転職…より、まずは頑張ってみる(改善要望を出しながら)派なのでキャリコンさんに現状の相談を行うとともに、経営層、人事部との橋渡しまでしていただければ、非常に助かります。


また、その会社でのキャリアパスがどうしても見つけられない場合、お互い納得のうちに(円満転職)できれば、何かの機会にお互い助け合える関係が構築できるかもしれません。


企業にとっての顧客の為…の前に社員の為…があり、その為のキャリコンがある…みたいな関係が構築できれば、いいなと思いました。

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