常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第七話 私が変えて見せる!

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 翌日、12月11日(土) 18:00。
 とある居酒屋の個室にて。

「桜子ちゃん、お久しぶりですね」
「こちらこそ鶴丸課長、お元気そうで何よりです」

 桜子は向かいに座っている頭髪が禿げ上がった太鼓腹の男に頭を下げた。

「東海社長は?」

 鶴丸課長は桜子の隣に座る福島課長に問い掛けた。

「すいません。東海は急用が出来てしまって......申し訳ありません」
「何だぁ、残念だなあ」

 そう言うと鶴丸課長は一気にグラスの中のビールを飲み干した。
 すかさず、桜子は空になったグラスにお酌した。

「ところでおたくの有馬君、あれにはどうも今回の仕事は荷が重そうだね。サルノ・クリエイティブから上がって来た彼の進捗状況を見たけど、とても遅れているし何より技術力の無い女と組まされているのも気になる」
「そのことで、昨日、分かったことがあります」
「はて、なんですかそれは?」
「石野課長ことサルノ・クリエイティブはB派の息が掛かった業者かと、思われます」

 福島課長は昨日の石野課長との面談でのやり取りを話した。
 プロジェクトのリーダーという立場でありながら、雄一の仕事を邪魔する矛盾。
 そして、代替要員を提案した時の曖昧な返事。

「なるほど......こっちでも内部で調べてたけど、やっぱりその通りだったか」
「はい。鶴丸課長の思惑通り、単体テスト工程を遅らせ失敗させることが目的のようです」
「一体どういうことですか?」

 桜子は不思議に思い、二人の会話に割って入った。

「桜子ちゃんにも知っておいてもらった方がいいかもな。石野課長は、単体テスト工程をわざと失敗させようとしている」
「え?」
「テストを失敗させることで自分の評価を上げようとしているんだ」

 それが何故、評価を上げることになるのか。
 桜子には意味が分からなかった。
 それをフォローするかのように鶴丸課長が話し出した。

「私が所属する目黒ソフトウエア工業・物流システム部には私ともう一人、課長がいてね。それぞれ別の派閥に属している」

 鶴丸課長は手帳を取り出し、そこに図を描きつけながら説明を始めた。

「二人の課長はそれぞれ対立する別の派閥に属している」
「はい」
「私はA派、もう一人の課長XをB派としよう」

 図を描いたページをビリっと破き、卓に置いた。

体制図.png

「今、プロジェクトの体制はこうなっている」

 桜子はその図をしっかりと見た。

「我が社としてはプロジェクト内で二つのチーム、A、Bでそれぞれ競わせることでシステムの品質を上げるやり方を取っているんだ」
「切磋琢磨ってやつですか」
「うむ」

 桜子が上手いこと当てはまる言葉を言ったので、鶴丸課長は満足そうに頷いた。

「だが、それは表の理由で、裏には競わせることでどちらのチームのリーダーを部長にするかというレースを行っている」
「つまり......鶴丸課長はチームAのリーダーとして、チームBのリーダーであるX課長に勝って部長に昇格したいということですか?」

 鶴丸課長は無言で頷いた。
 桜子は悟った。
 それを確認するかのように、こう問い掛けた。

「下請けとはいえ同じチームに属する石野課長がテストを失敗させようとしているのは、X課長ことB派の一員だからですね」

 対立派閥に属する石野課長は、今回の破壊工作が上手く行けばB派の上層部から何らかの報酬でも得られるのだろうか。
 それこそ単体テスト工程の失敗で下がった評価を覆せるだけのものを。
 鶴丸課長曰く、元々、サルノ・クリエイティブは外注候補では無かった。
 だが、本来候補だった会社が都合で対応出来なくなり、急遽、該社にお鉢がまわったとのことだった。

「外注選定については、こちらの思い通りに行かないことが多くて色々不自然なところはあったが、まぁキックオフも迫っていたし仕方ないところもあった」

 鶴丸課長は悔しそうな顔をして焼酎をあおった。

「石野課長が有馬に嫌がらせをしているのは、ただ単に私怨以外にも、そういった事情からというのもある」

 と、福島課長が付け足した。

「嫌がらせ......」

 桜子は昔を思い出し、嫌な気分になった。

「チームAの単体テスト工程を失敗させ、チームBを微差で勝たせることがB派閥の目的だ。この微差って言うのが重要で、あまり大きく失敗させるとわざとらしいし、何より顧客からクレームが来て目黒ソフトウエア工業自体の評価が下がる。あくまで、工程が遅れたのは鶴丸課長の管理責任として取り上げ、鶴丸課長の評価を下げることが出来れば敵の思惑通り。それを阻止するには、全て有馬の頑張りに掛かっている」

 福島課長はそう言うと、手酌でビールを注いだ。
 雄一は敵のターゲットにされたのだ。
 全然出来ない奴でもダメだし、出来すぎる奴でもダメだ。
 この計画というか演出には、適度な能力でそこそこ頑張る役者が必要なのだ。
 同時に石野課長が気に食わない奴であることが望ましい。
 派遣をとっかえひっかえ入れ替えていたのはそのせいだろう。
 そして適任が見つかった。
 それが雄一だったのだ。

「そこで、桜子ちゃん。君にお願いがあるんだ」
「何でしょう?」
「有馬君がいくら頑張ってもこの調子だと敵の思い通りだろう。だから......」
「申し訳ありませんが、それは出来ません」

 鶴丸課長が言い終るのを防ぐかのように、桜子はキッパリと断った。

「君ほどのエンジニアがその力を発揮しないなんてもったいない。それに何故、突然総務になったんだ。全く理解出来ん」

 断られた鶴丸課長は思い通りに行かず憤慨しているのか、酔った顔が更に真っ赤になった。

「私は総務という仕事に誇りを持っています」

 更にキッパリとそう続けて宣言され、鶴丸課長は何も言えなくなった。
 実際、桜子が雄一に代わって派遣されれば、40画面、否、その倍だって数日で容易くこなしてしまうだろう。
 だが、彼女はあれほどこだわっていたエンジニアを辞めた。
 今は総務、つまり全体の管理者という立場からこの業界を変えようと決めたのだ。
 気軽にエンジニアリングには戻れない。

「......それに」
「それに?」
「有馬君のせっかくのやる気を削ぐわけには行きません」


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 1時間ほど前、ステイヤーシステムの事務所にて。

「......そんなわけで、色々と苦労しています」

 雄一は桜子に窮状を訴えた。
 土曜日ということもあってか、事務所には二人しかいない。
 西日が桜子の肩まである黒い髪を金色に縁取っていた。
 雄一の目にはそれが綺麗で眩しく映った。

「有馬君。君は間違ったことは言っていないよ。そりゃ私たち雇われの人間が噛みついてきたら上の人間は苛立つでしょう。でも、そこで嫌がらせで対抗してくるような奴は相手にしなくていいし、相手にする必要もないわ」
「安田さん......」

 自分の味方に出会えたような気がした雄一は、思わず胸に熱いものがこみあげて来た。
 鼻がツーンとなり目頭が熱くなる。

「でも、そうは言ってもこのままの状態って訳にも行かないわよね」
「そうなんです。どうにかなりませんか?」
「有馬君はどうなりたいの?」
「どうって......そりゃもちろん、今自分がふられた仕事をキッチリ締め切りである今月末までに終わらせたいです。一緒のチームである川崎さんの分も含めて」

 桜子は腕を組み、考え込む姿勢を取った。

「その一緒のチームの人は思い切って別れた方がいいよ」
「別れるなんて、そんなっ!」

 突然、劇薬のような一言を浴びせられた雄一は頭に血が上り、思わず桜子を怒鳴りつけてしまった。

「チームを解散して別々に仕事したほうがいいっていう意味で言ったの」

 桜子は呆れたような顔をして、雄一を制した。

「いや、川崎さんも可哀想な身分なんです。俺が一緒にやってやらないと彼女がお役御免になっちまう......」
「有馬君。甘いこと言ってんじゃないの。君は負債を都合よく押し付けられたのよ。話を聞いてると彼女はこの短期間では君の役に立つ存在までには成長しないよ。ここは恥を忍んで現場のリーダーに頭を下げて担当を元に戻してもらうこと! 自分の仕事に注力出来る環境を作るのが優先」
「そんなこと、彼女と一緒に仕事してない安田さんには分からないですよ!」

 フーっと桜子は溜息をついた。

「......分かったわ」

 明日また来なさい。

 桜子はそう言い残すと事務所を出て居酒屋へと向かった。


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「彼はやる気になっています。そんな人間をこちらの理由で外すことなんて、私はやりたくありません。そのことが原因でせっかく火がいた彼のやる気を消したくないし、この仕事をやり通して力をつけてもらいたいです」

 言い切った後、喉が渇いた桜子はビールを一気に飲み干した。
 すかさず、空のグラスに鶴丸課長がお酌した。
 理由が色恋だろうが何だろうが、あのぐうたら社員がやる気を出してくれたことは喜ばしいことだった。
 ただ桜子はこの時、雄一の片思いの相手がキャバクラ嬢だということはまだ知らなかったが。

「鶴丸課長、まずは元請けの立場としてサルノ・クリエイティブに作業効率を上げるようにそれとなく指導をしたらどうですか?」
「うちとサルノとの間で、単体テスト工程は請負契約になってるんだ。やり方は向こう任せが原則で、うちから直接指示は出せないんだよ。まぁ、そうは言っても発注者が請負先の担当者に直接命令している場面はよくあることだけど。だけど、うちみたいな大きな会社がそれをやり過ぎるのは社会的な目もあるしコンプライアンスだとかうるさいわけです」

 鶴丸課長は眉を八の字にして困ったような顔をした。

「だから、もしもの時は頼むよ......桜子ちゃん」

 両手を合わせ、拝むような仕草をした。
 合わせた手の隙間から、哀願するような瞳が見えた。
 桜子はこういった政治的というか、魔窟のような世界に多少の嫌気が差した。
 訳の分からない上層部のイザコザや足の引っ張り合いで、末端の人間が振り回されることを想像すると酒がマズイ。
 そして、大企業の課長ともあろう人間が卑屈にも自分のような元エンジニアに頼み込まなければならないほど、欲している出世という目標がひどくちっぽけに見えた。
 何故、技術だけでまともに勝負出来ないのかと頭がいっぱいになった時、思わず端末に向かい手を動かしている自分を想像してしまった。

「ここはゴマサバが美味いんですよ。おーい!」

 話を変えようとしているのか、福島課長が店員を呼んだ。
 その後は、ここにいない東海社長を肴にした歓談となった。

「二十年前だよ。君のところの社長が『技術は下請けに任せきり、そんな人売りの会社はもう嫌だ』とか何とか言って辞めて行ったのは。まったく一本取られたね」

 ステイヤーシステムの東海社長と、鶴丸課長はかつて目黒ソフトウエア工業で同期だった。
 鶴丸課長は酔うといつもその時の話をする。

「それからすぐに、あいつはステイヤーシステムを興したんだ」
「へぇ......」

 同じ話とは分かっていながらも、桜子はいつも初めて聴いた時の様な反応をするように心掛けていた。

「まぁ、東海の思い通りに事は進んでいないのが現実ですがね」

 福島課長がそう言うと、鶴丸課長はガハハと笑った。

「そう簡単には、この業界のこと。変わらんさ。それはあいつが一番よく知っている」

 桜子はその言葉に反論するかのように心の中でこう叫んだ。

(そんなことはない。私が変えて見せる)

 決意を新たに、升に注いだ冷酒を勢いよく胃に流し込んだ。

つづく

Comment(4)

コメント

匿名

それが雄「一」だったのだ。


「明日また来なさい。」(かぎかっこが無い)


そんな人間をこちらの理由で外すことなんて「こと」


せっかく火が「付」いた

桜子さんが一番

オレも桜子さんにお酌してほしい!!w

湯二

匿名さん。


校正ありがとうございます。
直しました。


>それが雄「一」だったのだ。
雄ってだれだ!?
肝心のとこでミスってる。。。


>「明日また来なさい。」(かぎかっこが無い)
これは実はわざとなんですよ。
強調したいというか、そんな意図がありました。
すいません、わかりにくくて。


指摘ありがとうございました。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


お好みの桜子嬢を脳裡に思い浮かべて、お酌してもらってください。
来週も出番多いです。

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