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【小説 スーパー総務・桜子】第六話 俺を頼れ!

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「これはこれは、福島課長。今日は一体どんなご用件ですか」

 石野課長は会議室に入って来るなり、着座して待っている福島課長と雄一に丁寧に挨拶した。
 雄一だけに接する時とは大違いだ。

「すいません。今日突然電話して、時間とっていただけるなんて」

 福島課長も椅子から立ち上がり丁寧にお辞儀する。

「ははは、テストも佳境に入って来ているので時間が無い。手短にお願いしますね」
「了解です」

「コンコン」とノックの音と共に、根岸が四人分の湯呑が乗ったお盆を持って入って来た。
 彼はお茶を配ると、石野課長の隣に座った。
 各会社の人間が二人ずつ向かい合って座る形になった。

「今日は有馬のことについてなんですが......」

 と、福島課長はおもむろにカバンから一枚の紙を取り出した。
 それは雄一の週次報告書だった。

「これが、どうかしましたか?」
「有馬から聴きました。この時間は受け付けられないということを。その理由を聴かせてください」

 石野課長はウンザリしたような顔をし、雄一にした説明とほぼ同じ内容を福島課長にも話した。
 その間、雄一は福島課長の様子をうかがっていた。
 別段、感情を表に出すことも無く真っすぐ耳を傾けているようだ。

「......従って、それは受け付けることが出来ませんな」
「しかし......石野課長、我々としては当初、有馬を担当者としてここに派遣した。それが途中からリーダーという人の面倒を見る立場になった訳ですよ。そこに対する考慮がまるっと抜けてませんか?」

 福島課長は雄一のことを指し示しながら言った。

「どういう意味ですか?」
「だから言った通りですよ。リーダーとしてメンバーを管理する工数、これが当初の単価には入ってないでしょ。担当SEとしての単価で契約したままだ」
「要は、契約を今から見直せってことですか?」
「そこまでは言いません。そちらとしても途中から契約を変えるのは面倒だと思いますしね。だからせめて有馬がつけた残業代をリーダーとしての単金として認めてやってください。お願いします」

 福島課長はそう言って、卓に手をついて頭を下げた。

「あなた、契約書を良く読みましたか」

 石野課長は冷ややかにそう言った。

「有馬さんは準委任契約、つまりSESでここに来ていただいています。成果物に対する責任を負わない代わりに、ぶっちゃけ、契約時間内ではどんな作業でもやってもらう契約なんです。つまり、リーダーとして作業しても当初の単価は変わらないし、変える道理も無い。それに残業しろなんて指示もしてない」

 雄一は準委任だのSESだのという言葉はネットで見たことはある。
 それらの言葉が、あまりいい意味で使われていないということも知っていた。
 そして、自分がそれに該当するということを初めて知った。

「しかし、そんな杓子定規でいいんですかね。もっと融通を効かせて譲るところは譲る。ちょっとはそんな心が無いと意外に狭いこの業界でやっていけませんよ」

 会社としてとりっぱぐれる訳には行かない福島課長は食い下がった。
 だが、石野課長も負けじと反論して来た。

「そもそもリーダーになれなんて言った覚えはない。作業が遅れてる者同士で協力してやればリカバリ出来るからやってみたらどうかと提案したまでだ。有馬さんはリーダーになったと勘違いしているだけで、我々からすると担当者と同じです」

 その言葉に耳がピクピクと痙攣した。
 グッと拳を握りしめ怒りに耐えた。
 目の前にいるこの男を殴り飛ばしたいと思った。
 だが、福島課長のメンツもあるのでここは我慢した。

「そうですか......。じゃ、訊きますが、何故、石野課長は有馬に対して仕事が遅れるようなことをするんですか? 普通はプロジェクトの仕事を完成させるためにメンバーにストレス無く働いてもらうのがリーダーの仕事じゃないんですか? 例えば単体テストの結果確認にしても、何で有馬だけすぐにやってもらえなかったんですか?」

 石野課長は福島課長の問い掛けに対し、雄一に返した時と同じような返答を繰り返した。

「そんなに有馬が嫌なら、別の人間をよこしましょうか?」

(え?)

 雄一は福島課長の顔を見た。
 無表情で何を考えているか分からない。
 何故、今そのタイミングでそういった提案が出るのか、雄一は訳が分からなかった。

「検討させてください」

 だが、石野課長はそう答えた。
 ここは雄一をお払い箱に出来るチャンスで喜ぶべきところのはずだ。 
 雄一は石野課長が即答しないことに違和感を感じた。

「おい、有馬!」
「はい!」
「お前、残業したいだけしろ! 残業代青天井だ! その代わりこの仕事絶対終わらせろよ!」

 福島課長は石野課長への当てつけのようにそう言うと、雄一の背中をバンと平手で叩いた。


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 一階エントランスまで移動し、福島課長を見送る。
 一人になるのは不安だが、仕方ない。

「礼なら俺じゃなくて安田に言っておけ」
「え?」
「お前のこと心配してたぞ。顔色が悪かったとか、健康診断にも行けないほど仕事が忙しいのかとか......あと、この週報な。あいつが見せてくれたから、俺もお前の異変に気付いたんだよ」

 知らなかった。
 桜子は仕事のためじゃなく、人として雄一を心配していたのだ。
 心の中で悪態を吐いていたことを、後悔した。

「それに、あいつは元エン......、総務だから全体的な視点でアドバイス出来ると思うぞ」


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 20:40。

 雄一はその日の仕事に自分なりの区切りをつけ、帰ることにした。
 昼間のあれこれで疲れていたし、何より今日はバンドの練習がある。

「お、バンド?」

 プロジェクトルームを出てエレベーターを待っていると、根岸に出くわした。
 彼は雄一が持っているスネアドラムを指さしてそう言った。

「はい。これから練習です」
「へぇ、僕も昔やってました」
「そうなんですか!? パートは何だったんですか?」
「ギター。ま、遊びみたいなもんだったけど」

 雄一は根岸という男に好感を持った。
 いや、正確に言うと数日前、丁寧に単体テストについてレクチャーしてくれた時から印象が変わって来ていた。
 当初、顔はカッコいいがそれが却って冷たい感じに映っていた。
 が、今、目の前にいる彼はリラックスしているのか明るい笑顔の親しみやすい好人物といった感じだ。

「頑張ってください」
「はい」

 恐らく仕事とバンドのことを指して言っているのであろうその言葉を、雄一はありがたく受け取った。


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「定時に向けて爆進。
 もう誰も止められない。
 そう、俺は定時カッキリに帰ると決め......ゲホゲホ!」

 ハルカはマイクを持ったまま曲の途中でせき込み、歌えなくなった。
 雄一が演奏を止めると他のメンバーもそれに倣った。
 その場に駆け寄り声を掛ける。

「ご、ごめん」
「無理するな」

 雄一にそう慰められたハルカは、おかっぱ頭を照れ臭そうに掻きながらペコペコしている。
 その様子をリュウジとツヨシが呆れた様子で見ている。
 もう何回も繰り返されている光景だ。
 彼女は高音を出そうとすると、喉がつぶれて歌えなくなるのだった。
 キングジョージは爆音なので、多少音程が狂っていても高音が出て声がでかいボーカルであることが望ましかった。
 だが、ハルカはどれ一つそんな要素を持っていなかった。
 真面目に練習して来ることだけが取り柄だったのである。

「ホント、ごめん。ウララさんみたいに歌えなくて......」

 ウララとはハルカを紹介して脱退していった前のボーカルの事だ。

「気にすんなって!」

 そう言いながら、雄一は壁掛け時計を見た。
 時計の針は23:00前を指していた。
 そろそろ次のバンドのためにスタジオを明け渡さないといけない。
 それに何より、今日はこれから由紀乃の店に行かなければならない。

 カウンターで今日の清算を行う。

「じゃ、2時間で一人2,000円ずつね」

 マスターに言われ各自財布の中から金を出す。
 キングジョージは原則、割り勘だ。
 雄一は自分の財布の中身を見て、はたと考え込んだ。

(ここで2,000円払うと、足りなくなる......)

 雄一の手持ちは2万円しかなかった。
 由紀乃の店で飲むと指名料とチャージ込みでだいたい19,000円ほど取られるのだ。
 ここでスタジオ代を払うと今日の軍資金が不足する。
 現金主義の自分が手持ち不足という不覚にちょっとプライドが傷ついた。

「ごめん、今日給料日前で金がない......」

 申し訳なさそうに言う雄一に、ハルカがこう言った。

「もう、しょうがないなあ。私が出してあげるよ」

 さっきの恩返しでもあるのだろうか、ここは彼女が立て替えてくれた。
 リュウジとツヨシの方は先に払いを済ませ、喫煙室で一服しながらその様子を見ている。


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 店内に足を踏み入れると、奥の席で由紀乃が既に他の客と楽しそうに飲んでいる姿が見えた。
 ボーイに席まで誘導されながら、由紀乃の方をじっと見たが気付いていないようだ。
 彼女が来るまでの間、別の女が相手をしてくれた。

「ごめんね、由紀乃ちゃん、ちょっと大事なお客様が来ちゃって」
「こっちは予約の電話入れて来たのになあ」
「だって、雄一さんが今日突然来るって言うんだもん。あの娘だって、予定があるんだからね」

 そのヘルプ嬢は悪戯っぽく微笑むと、雄一の太ももを軽くつねった。

「いて!」

 タヌキ顔で愛嬌のある接し方をするその嬢のことも「いいな」とは思った。
 しかし、やはり雄一としては、わざわざ指名の電話を入れてまで来店した目的は由紀乃その人である。
 それに対していくら仕事とはいえ、別の客を優先していることに腹が立った。

「ごめんなさぁい」

 由紀乃が息を弾ませながらやっと雄一の席に来た。
 座るなり体を摺り寄せて来る。
 雄一は怒っていることをアピールするかのように、無言で体を引き離した。

「もぉ、駄々っ子か!?」
「ああ?」

 怒りをアピールする意味でつい強気に出てしまった。

「昼間の優しい雄一さんの方が好きだなー」

 雄一が引き離した距離の二倍ほど由紀乃は摺り寄って来た。
 つまりお互いの腕と腕がピタリとくっついたわけである。
 トリートメントの良い香りが鼻腔を刺激し、ボディクリームを塗りたくった風呂上りみたいなしっとりとした肌に雄一はすっかり、怒る気を無くしてしまった。

「しかたねぇな......」

 惚れた弱みもあったもんだと我ながらやれやれと思った。

「しっかし、由紀乃ちゃん......昼も夜も仕事して大変だね」
「そんなことないよぉ! 雄ちゃんが頑張ってくれてるから私は結構楽できてるよ。ありがと」

 夜はお互い呼び方が変わる。
 いつしか、昼間もこうやって親しくお互いの名前を呼び合いたい。
 それが今の雄一の夢だった。
 そう、今二人は金銭を介した疑似恋愛の最中だった。

「でも、やっぱ正直しんどいよね。進捗会の時、うつらうつら寝てたじゃん」
「あ、ああ......あの時はほら、部屋の中が暖かだったから」
「ねぇ、お金のことで困ってるなら、俺のこと少し頼ってくれても構わないよ」

 由紀乃は不意を突かれたようで、目を丸くさせた。
 今まで言おう言おうと思っていたことを今日思い切って言えたのは良かったが、その返答を待っている雄一は胸がドキドキしていた。

「そんな......悪いよ......私なんかに」

 うつむき掠れた声でそう応えた。

「何言ってんだよ! 俺は由紀乃ちゃんのことが好きなんだよ!」

 彼女の両肩を両手でしっかりとつかみ、こちらに無理やり振り向かせてそう言い放った。
 ついに言ってしまった、と自分でも思った。
 が、何だか場違いなものを感じた。
 愛の告白をするなら、こんな関係じゃない、こんな場所じゃない、はずだ。
 自分は酷く無粋なことをしているような気がした。
 今言ったことを取り消して別の機会にやり直したいとも思った。

「......ほんとに、頼ってもいい?」

 涙目だが笑顔を浮かべた由紀乃は、そう問い掛けた。

「お、おう......」
「じゃ、今日、お店終わったら、ご飯でも食べて帰ろう。その時、色々......」

 雄一は体中から喜びという名の物質が駆け巡るのを感じた。
 昼間の疲れが一瞬で吹っ飛び、テンションが上がる。


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 この日を夢見ていた。
 満月を見ながらそう思った。
 雄一は一足早く店を出て彼女を待っていた。
 お気に入りとアフターすることは、その手の店に通う者の悲願でもある。

「待った?」

 白いセーターに薄ピンクのコートを羽織り、スニーカーにジーンズといったラフな格好の彼女を新鮮な気分で見つめた。
 由紀乃は雄一の先に立ち、「私の行きつけのバーに行こ!」と袖を引っ張った。

 カウンターに並んで座り、仕事の事やプライベートのことなど色々と会話した。

「私......いつかは、この商売辞めたいと思ってるの。だって一生続けられる仕事じゃないでしょ。そりゃ、将来自分のお店持つぞっていうんだったら別だけど......。だから、今から手に職かなと思ってコンピュータの仕事でもやろうかなって、それで今に至るの」

 由紀乃がこの仕事を始めた動機も聴き出せた。
 大学生の弟と妹のために夜は水商売をし、昼は自分の将来のために働く由紀乃に雄一はいじらしいものを感じた。

「だから、さっきも言ったじゃん。ITは俺が色々教えるし。お金のことは少しは頼っていいって!」
「ありがと。でも......お金の方は自分で何とかする......自業自得なとこもあるし」

 言い辛そうにしていたが、雄一が余りに食い下がるので由紀乃は仕方なくといった態で話し出した。
 彼女にはどうやら借金があるらしい。
 昔、彼氏に手酷い目に合った挙句、別れを告げられそれから多少の人間不信になったことや、そのストレスのはけ口として過剰な買い物をしたこと。
 それらが積み重なり彼女の負債となっていた。

「30万くらい......かな」
 
 言いにくそうな彼女を見て、雄一はリアルな数字だと思ったと同時に、それなら何とかなるかもしれないと思った。

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

変える通りも無い。
「道理」?


ネットで聴いたことはある。
「見たこと」の方がしっくりきます。


健康診断に「も行けない」ほど仕事が忙しいのかとか


「失格のエンジニア」でもそうでしたが、部下を気に掛けるだけでなく、
何かしら策を準備してしっかり交渉もする、
そんな福島課長が羨ましい。(部下を持っている身として)

桜子さんが一番

今日は桜子さんの出番が少ないので、ちょっと残念です。

湯二

VBA使いさん。

コメントと校正ありがとうございます。


確かにブラウザが読み上げてくれるわけじゃないので、見たこと、の方が正しいですね。
この辺りの表現はついサラッと書いて後で読み返しても気付かないことが多いですな。


なるほど、VBA使いさんには、この課長が理想的に見えるわけですね。
じゃ、もう少し活躍の場を与えてみますかね。(できれば)

湯二

桜子さんが一番さん。

コメントありがとうございます。


すいません。
来週から少しずつ出番が多くなり、後半はほとんど出場しますので、お楽しみに。

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