常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 スーパー総務・桜子】第四話 俺は馬!

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 プロジェクトルームに戻った雄一は、端末の前に座り込み考え込んでしまった。
 単体テストが全てやり直しということが分かっていたら、由紀乃とチームを組むなんて話には乗らなかった。
 調子に乗って安請け合いした数分前の自分を呪っていた。

「どうしたんですかぁ?」

 右隣に座っている由紀乃が呑気な顔して訊ねて来た。
 彼女のディスプレイにはさっきから同じ画面が映し出されている。
 マウスに乗せた手はピクリとも動かない。

(何も進んでねぇ......)

 雄一は溜息が出た。
 昨日は酒に酔った勢いと彼女にいいところを見せたくて、つい手伝うなんて言ってしまった。
 進捗会では皆の代表にでもなったつもりか、英雄気取りで石野課長を糾弾した。
 それは自分の進捗が進んでいるという裏付けと自信があったからだ。
 だが、今の雄一は振出しに戻された上に由紀乃という遊び人の面倒も見なければならない。
 さらに質が悪いのは差し戻された単体テストの山である。
 これをもう一度やり直すというのは、初めて取り掛かるよりも精神的な疲れを感じさせる。
 石野課長や根岸らプロパー連中の指摘を元に自分が作ったテストデータを確認してみると、やはり足りないということが分かる。
 だが、こういうことはもっと早く教えて欲しかった。
 雄一だって無能じゃない。
 最初の一つ目で指摘してくれれば、その後のテストでは同じところを気を付けることくらいは出来る。
 従って、14画面全てやり直しなどという無駄な作業だって防げたのだ。

「立山君」
「はい」

 先日お役御免となった佐々木の代替要員としてやって来た立山が、石野課長に呼ばれた。
 雄一の左隣に座っている彼はテストを中断するのが嫌なのか、億劫そうに立ち上がった。
 石野課長に促され部屋の隅のブースに移動した。
 間仕切りの隙間から窺うと、立山は何やら指摘を受けているようで素直にうんうん頷いている。
 30分後、疲れた様子で戻って来ると自席に着き溜息をついた。

「どうしたんですか?」
「いっやぁ、疲れました。単体テストのデータが足りないって言われてやり直しです」
「え?」

 雄一は驚きの余り声を上げてしまった。
 確か、立山はつい先週来たばかりで単体テストはまだ1画面目のはずだ。
 自分のように14画面集まったところで、まとめて指摘を受けたこととの差異に雄一は首を傾げた。

「まぁ、こうやって最初にダメ出しをしてくれるから、後の画面は手戻りなくテスト出来そうです」
「そっすか......」

 雄一がうつむき眉間にしわを寄せているのを見て、立山は言葉を掛けるのを止めた。

(あいつら、俺をコケにしやがって......)

 そう思った雄一はいてもたってもいられなくなり、石野課長の方にツカツカと歩いて行った。

「ちょっと話があるんですけど」
「あとでいい? 忙しいんだけど?」
「5分で終わります」
「......分かったよ」
「会議室に行きましょう」
「ここで話してよ。移動時間がもったいないでしょ」

 へらへら笑う石野課長に苛立ちを感じた。
 むしろ個室で話すより、周りがいる中でぶちまけてしまった方がすっきりするかもと思った。

「私だけ単体テスト結果の確認に時間差があるのは何故なのでしょうか?」
「ああ?」

 1画面あたりの単体テストの流れは以下の通りだ。

  1.テスト仕様書作成
  2.テストデータ作成
  3.単体テスト
  4.テスト成果物(エビデンス)作成

 1から4の工程を担当者が行う。
 最後に完成したエビデンスをプロパーである石野課長と根岸に提出する。
 雄一が主張したいのはエビデンスを提出した際、立山の時のようにすぐ確認してくれなかったことだ。

「私以外の人の単体テスト結果は受け取ったらすぐ確認をしてるのに、私だけ今まで対応した分を今日まとめて指摘するってどういうことですか?」
「我々は他の仕事もしている。受け取ってすぐに確認出来ないことだってある」
「だけど......それにしたって最初にテストした画面は一カ月前のものだし、それを今頃ダメ出しとかおかしいでしょ! 今まで何やってたんですか!?」
「それは君の方からフォローしてほしかったなあ」
「は?」
「我々だって人間だ。忘れることだってある」

 「人間だもの」と弁解されても、許せることと許せないことがあると雄一は思った。

「我々は自分の仕事をしながら、都合6人いるメンバーの単体テスト結果を確認してるんだ。忙しい中、つい忘れてしまうことだってある。そこをフォローしてこそのプロジェクトチームなんじゃないの? 私だって物じゃない、人間だ。ぞんざいに扱わないでくれよ」

 と、ニヤニヤ口調で言ってくる。
 雄一は自分が放った言葉を都合良く、からかいついでに石野課長が使ったことに腹が立った。

「......にしたって14画面もある単体テストの確認が漏れてることに、一カ月も気付かなかったっておかしいでしょ?」
「君の報告の仕方にも問題あったよ」
「はぁ?」
「進捗会で君は『20画面中、14画面完了です。少し進んでます』と報告した。私はその報告を真実だと思って受け止めた」
「そ、それは、石野課長が単体テストの結果を受け取ったのに何も応答が無いから、俺はOKなのかなって思ったんですよ」
「あのね、単体テストは私か根岸が結果に対してOKを出したら完了となるんだ。それを君は無視して毎週の進捗会で完了と報告していた。ということは、君は私たちが確認するのを忘れているのをいいことに嘘の報告をしていたのだよ」

 石野課長は自身の管理責任を棚上げし、いつの間にか雄一を悪者にしていた。
 皆、耳をそばだててこのやり取りを聴いているようだが、誰も雄一の味方をしてくれない。
 雄一は認識が無かっただけで嘘なんてついた覚えはない。
 石野課長こそが嘘を付いているのだ。
 こんな手の込んだわざとらしい嫌がらせをする理由はただ一つ。
 雄一を切りたいからだ。
 単体テストの確認を遅らせて手戻りを多くするのも、由紀乃と組ませて高負荷掛けてくるのも、そのためだ。
 色々と自分に突っかかって来る雄一に対しての復讐なのだ。

「もう無理です。出来ません」

 そう言って謝る雄一の姿をメンバーに披露することこそがこの男の本懐だった。

「おいっ!」

 突然、雄叫びを上げた雄一を皆注目した。

「フォロー、フォローってあんたら管理者でしょうが。それを担当者に責任転嫁して、自分たちは何やってんだ!」

 周囲の空気がビリビリと揺れた。
 もう止まらなかった。

「こうなったら40画面キッチリ終わらせてやる!」
「偉そうに......当たり前の事だろ」
「すいませーん、石野さん、おられますか?」

 運送業者がコピー用紙を台車に乗せてやって来た。
 石野課長はそれに応対するため、言い合いはここで中止となった。
 腹の立った雄一は周囲にそれをアピールするかのようにドスドスと歩き、ドリンクコーナーへ向かった。


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 煮えくり返ったハラワタを冷やすために缶コーヒーをグイっと飲んだ。
 宣言してはみたものの雄一の中で対策があるかというと、特になかった。

(全部で40画面あるうち完了したのが4画面。ということは残りは36画面。例えば1画面を1日で完了させたとしても単純計算で36日掛かる。休日出勤したとしても12月末までに間に合わない。......ならば、1日で2画面を完了させればどうか? これなら18日で完了出来る)

「休日出勤はしなくてもよさそうだな......」

 雄一はスマホのカレンダーを見ながら呟いた。
 今日は、12月2日だ。
 今日を予定に入れないとして、祭日、年末休み、土日を差し引くと、12月の稼働日数は18日間。
 なるほど、これなら平日の残業のみでカバー出来そうだ。
 予定通りいけば休みを使う必要がない。
 バンド練習にも影響がなさそうに見える。
 落胆した気持ちに少し光が差したようで、ちょっと前向きな気分になれた。
 が、この予定には余裕というものが全く無いことに思い至ると、また少し落ち込んだ。
 ちょっとでも遅れが出れば土日を潰すことになるし、実力的に疑問符が付く由紀乃がどれくらいやってくれるのかという博打要素も含んでいる。

「はぁ......福島課長にでも相談してみるか」

 遠くから、コツコツと足跡が聞こえる。

「有馬君」

 小銭入れ片手に鳴尾がやって来た。
 自販機でインカコーラを買うと、パシュっとそれを開けグビリと飲みだした。
 二人はしばらく音楽についての雑談をした。
 そうして雄一の気分が和んできたところで、鳴尾はこう言った。

「突然、怒鳴るからみんな驚いてたぞ」
「すまない。けど、いくら気に食わないからって、あんな嫌がらせしていいわけないだろ」
「君の態度にも問題あるよ」
「な、なんだよそれ? 俺はあの人に対して正論を言ってるまでだぜ」
「そういうのがダメなんだよ。確かに立場はプロパーの方が上だから腹の立つ対応を取られることもある。だけど、有馬君がそれを言う立場じゃないし、言ったところで変わらないよ」

 高卒でこの業界に入ったという鳴尾は、雄一よりも五年ほど先輩だ。
 だからこそ、年は一緒だが雄一に色々とアドバイスすることが多い。

「言っても変わらないってどういうことだよ?」
「プロパー側が気付いて直さない限り、僕たちへの対応は変わらないし、変えたいと思うなら有馬君自身が上の立場というか石野課長よりももっと大きな会社に入って偉くなって、上から業界から変えていくしかないんじゃないかな」
「そんな......」
「あまり目立つことしてると......やり返す前に切られて、ハイ、終わりだぜ」

 鳴尾はそう言うと、首を切る動作をして見せた。

「けど、まぁ兎に角、僕もあの人のやり方には文句言いたいけど言えない一人として、有馬君が川崎さんと頑張って大逆転するところを見てみたいよ」
「じゃ、力を貸してくれよ」

 鳴尾は自分の立場もあるのか、話を逸らすようにこう言った。
 
「一つだけ言えるのは、やっぱ川崎さんがどれくらい動いてくれるか......それ次第だな」

 2人で1日あたり2画面終わらせる計画を立てていたが、鳴尾にするとそれは夢物語らしい。
 もっと現実を見ろということなのだろうか。

「まず彼女の実力がどれくらいか見極めて見たらどうだ? そこが分かってないと割り振りも計画も立てられないだろ?」
「確かにそうだな」

 現に由紀乃は4画面ほどテストを完了させている。
 その時のテストのやり方をヒヤリングしたり、成果物を確認すれば彼女の実力が分かるかもしれない。


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 プロジェクトルームに由紀乃がいない。

「ああ、川崎さんなら早退しましたよ」

 隣の立山が教えてくれた。
 色々と訊きたいことがあったのに、まさか帰っているとは。

(くそっ......仕事が遅れているっていうのに、それに......これから一緒に共同でやっていくのに一言も無く帰るなんて)

 と苛立ちながらも、彼女と今日の夜もまた会う口実を見つけては一人、ほくそ笑んでいた。
 店に行き、今日の早退のことを厳しく問い詰めてやろう。
 それから優しい感じで、これからの仕事の進め方をリーダーっぽく話して頼り甲斐のあるところを見せつけるのだ。

(飴と鞭を使い分け、彼女をものにしてやる)

 と、後になって振り返ってみれば、赤ん坊が大人に喧嘩を売る様な無謀なことを疑いも無くやっていたものだ。
 男の扱いについてはその手の商売の女は、雄一が想像するよりも長けている。
 そんなことも知らず、雄一は明るい気分になっていた。
 自分にその日のご褒美を与えることで、今日を乗り切れる。
 まるでニンジンをぶら下げられた馬のように。
 
つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

根岸らプロパー連「中」の


私だって物じゃない「、」人間だ。


一カ月も気付かなかったって「おかしい」でしょ?
→「可笑しい」は「面白い」の意味の時だと思います。


隣の「立山」が教えてくれた。


由紀乃の 4画面完了 も、ホントに石野課長が完了と認識してるか怪しいですな。


立山さんへの指摘事項、仮に雄一と似た内容なら、15分もあれば話が終わると思いますが、30分もかかったのは、石野課長がまたネチネチ言ってたんだろうな(疲)


かく言う私も、石野課長みたいなダメ出し、すいませんm(_ _)m

湯二

VBA使いさん。

校正ありがとうございます。
今週は色々と多かったですね。。。


>ネチネチ


それだけ丁寧に教えてたってことでしょうか。
嫌がらせのバリエーションを考えるのも大変ですな。


>かく言う私も、石野課長みたいなダメ出し、すいませんm(_ _)m


いえいえ、毎度、コメントと校正ありがとうございます。
これがないとクオリティが上がりません。

桜子さんが一番

有馬君、、、キレすぎw

湯二

桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。


兎に角、自分に不都合なことは大嫌いなキャラクターで、カルシウムが足りてないので怒りっぽいです。

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