常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】最終話 やっと満たされた彼女<後編>

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 一週間後。

 駅前の阪Qデパートの八階では定期的に催事が行われている。
 『デッカイ道物産展』や『ハカタ美味かもん感謝祭』とか、そう銘打ち地方の美味しい食べ物が一堂に介する。
 今週はニッホン各地の美味しいものが一堂に介する『全国うまいもんサミット』だ。

「安田さん、『椿』買ってきました。出来立てのやつは催事限定らしいですよ」

 催事場から少し離れたベンチに腰掛けている桜子に雄一はそれを手渡した。
 椿の花をかたどったアツアツの饅頭は、少し冷ましてから食べないと上あごを火傷しそうだ。

「美味い!」
「ですね!」

 あまりの美味しさに、思わず顔を見合わせた。
 この味なら美穂が感動したのもうなずける。
 府中屋の銘菓は催事場では引っ張りだこだ。
 レガシー食品が府中屋を買収した目的は、こういった場での人気にあやかりたいというのもある。
 よっぽど和菓子部門で全国展開をしたいのだろう。

「それにしても凄い行列ですね」

 府中屋の出展ブースには物凄い行列が出来ている。
 『鳳来の肉まん』、『宇宙の山ちゃんの手羽先』に負けないくらいだ。
 饅頭を一息に平らげ、茶で一息ついた雄一は桜子に問い掛けた。

「仕事のほうどうですか?」
「ん、まぁまぁかな」

 急いで食べた饅頭が胸に詰まったのか喋りにくそうだ。
 現在の桜子は以下のような流れで府中屋のプロジェクトに参画している。

  元請け :レガシーフード情報システム
  一次請け:シャコーテクノ開発
  二次請け:ステイヤーシステム→ここ

 彼女に直接の作業指示をしているのはレガシーフード情報システムというレガシー食品の子会社だ。
 いわゆる準委任契約というやつで仕事している。

「あんたのほうはどうなのよ?」
「毎日、毎日、残業ばかりで大変です。でも、まぁ人間関係は悪くないです」

 雄一はというと、桜子とは別の現場に派遣され同じような契約形態で仕事していた。
 彼にとって酷な話だったのは、府中屋の予算の関係からステイヤーシステムからは一人しかプロジェクトに参画出来ないということだった。
 そこで雄一、桜子どちらを採用するかという話になった。
 結局、技術力で勝る桜子だけが参画することになった。

「あの頑張りは何だったんでしょうね......」

 僅か一週間程だったが桜子と一緒に提案を作り、それを夜遅くまで検証していた日々が遠い昔のようだ。
 自分たちのしたことは無駄だったのではないのか、とも思う。
 大きな力とか権力とか金、そういったものに翻弄され自分たちの技術力は結局、無力なのではないか。
 そんなことを思うと虚無感に包まれる。

「無駄なんかじゃないよ。あの時の頑張りは、これからの君を助けてくれるんだよ」

 珍しく桜子が優しく慰めてくれた。
 涙腺が緩んで鼻の奥がジンとくる。

「そうですね。仕事で悩んだ時、これを見て今の言葉を思い出すことにします」

 雄一は小銭入れから500円玉を取り出した。

「何それ?」
「あの時の500円玉です」

 桜子がエンジニアに戻るかどうか、賭けの時使った500円玉だった。

「あんた、まだそんなの持ってんの? それで牛丼でも食べたほうがよっぽど仕事のためになるよ」
「いや、これは俺のお守りみたいなもんですよ」

 そう言い、大事そうに財布にしまった。

「それにしても、私と会いたいって言ってる人って誰?」
「まぁ、着いてからのお楽しみですよ。おっ、そろそろ行きましょうか」

 雄一は壁に掛けられた時計を見て桜子を促した。


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 19時。

「安田さーん、久しぶりです!」

 居酒屋の個室に通された二人を見て、カレンは声を上げた。
 彼女はふわっとした黄色いワンピースに黒いニーハイという出で立ちで、座敷にちょこんと座っていた。

「エンジニアに戻ったって、有馬さんから聞きましたぁ! おめでとうございます!」

 一人テンションが高いカレンを桜子は無言で指差し、雄一の方を向いた。
 雄一は黙って頷いた。
 桜子は喜ぶカレンをほっといて部屋中をキョロキョロ見回した。
 しまいには窓を開け、その下の植え込みまで確認し出した。

「浦河さん何て連れて来てないですよぉ!」

 桜子はやっと席に着いた。

「良かった。あの女の顔見たら反射的に手が出そうだからね」


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 飲み会の間中、桜子を師と仰ぐカレンは沢山の技術的な質問してきた。
 二人の間には過去のしがらみや長いブランクといったものが全く感じられなかった。
 今日も一緒に仕事した先輩と後輩が、帰りにちょっくら飲みに行ってるかのようだ。
 雄一は見ていてそう思った。
 カレンとの約束は、果たすことが出来た。

「あー、楽しかった!」

 桜子が大きく伸びをしながらそう言った。
 満月が彼女の黒い髪を白く照らしている。
 時計の針は23時を回っていた。
 居酒屋を出てカレンと別れた。
 雄一と桜子は春とはいえ、まだ肌寒い中、川沿いを歩きながら駅を目指して歩いていた。

「それにしても、安田さんが今の職場で楽しそうに仕事出来てるみたいで良かったです」
「私がリーダーになって好き勝手やってるからね」

 そう言ってくれることだけが唯一の安心だった。
 幸いレガシーフード情報システムは無茶をさせるような会社では無かったし、美穂が色々と口添えしてくれたのか桜子は自由にインフラ作業が出来ているようだ。
 桜子の単価が高めに設定されているのも、美穂なりの罪滅ぼしなのかもしれない。
 何はともあれ、リーダーとしてその手腕を発揮しているのは雄一にとっても喜ばしいことだった。
 サーバリプレースは今年九月までという短納期だったが、彼女のお陰で前倒しで進んでいた。

「約束、果たせなかったからそのことが気掛かりだったんで......」
「気にしないで」
「え?」
「どういう形であれ、この仕事は自分が関わったものだから最後までやり通そうと思ったの。君が勝ち取ってくれたものでもあるしね」
「安田さん......」

 彼女がここまで自分に心を開いてくれたことや、礼を尽くしてくれることに言葉も出ない。

「それに......君と一緒に仕事してて思ったんだ」

 彼女は足を止め、雄一の方を向いてこう言った。

「やっぱり、私にはこれなんだってね」

 続けて、恥ずかしそうにこう言った。

「ありがと」

 酔った桜子を見るのはこれが初めてだった。
 赤くほてった顔を見ると、妙な気分になった。

「きゃっ!」

 雄一の胸の下に桜子の形の良い頭がある。
 彼女の足元でカエルがピョンピョン跳ねている。
 それを避けようと雄一に飛びついたのだろうか。

(結構、可愛いとこあるな......)

 そう思った瞬間、衝撃を感じ目の前が真っ暗になった。
 星が見えた。

「不純なこと考えたでしょ」
「そ、そんなこと無いですよ!」

 確かに一瞬そう思ったが、それを素直に言ってしまうともう一発喰らいそうだから自分の中で握りつぶした。
 

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 半年後。

「約半年の常駐生活、ご苦労さん」

 常駐先から自社に戻って来た雄一を、福島課長は労った。

「まったくですよ。酷いもんです。もうクタクタですよ」
「分かった、分かった。愚痴は後で飲みながら聴くから。それよりも安田は?」
「ああ、電話したら府中屋で納品が終わって、今向かってるところだって言ってました」
「よし、来たら会議室に連れて来てくれ」
 

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「集まったな」

 目の前に座っている雄一、桜子、中山に福島課長はこう言った。

「サードステージ食品工業の案件が取れた。自社でプロジェクトチームを組み設計から開発までうちで一括で行う。有馬と安田に今日来てもらったのは他でも無い、二人に主要メンバーとして参画してほしいからだ」

 次の案件は何だろうと期待と不安な日々を過ごしていた雄一はそれを聞いて安心した。
 と、同時に疲れた体にやる気がみなぎってきた。
 福島課長は自分たちの常駐案件が終わるタイミングを見越して、自社で一括請負出来る仕事を探していたのだ。

「あ、あの......課長、俺は一体?」

 名前を呼ばれなかった中山が自分のことを指差しながら問い掛けた。

「お前はセントライト化粧品がメインだから、サポートとして二人を支援してくれ」
「は、はぁ......」

 中山はチラリと桜子の方を見た。
 一緒に働けると思って少し嬉しいのか口元が緩んでいる。
 してみると、まだ彼女に未練があるのだろうか。

「有馬は業務チームのリーダーとして、安田はインフラチームのリーダーとして頑張ってくれ。メンバーは今年入った新人とうちと契約しているパートナーを付ける」

 雄一は桜子の表情が変わっていくのを確認した。
 口角が上がり、やってやるという気合に満ち溢れた目をしている。

「じゃ、今日はキックオフミーティングと行くか」


おわり

あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございました。
何とか年内に終われて良かったです。
毎回、校正してくれる読者さんがいたり、楽しみにしているというコメントをくれる読者さんがいたり。
その度に、話はこの方向で間違ってないんだなとやる気が出ました。
技術的な話が多かった回はコメント欄が多少盛り上がったのも、このサイトならではだなあと思いました。
そういう意味では、この作品は読者の方と一緒に作ったものなのかなとも思います。
あと(編)さんも。
ありがとうございました。
次はコラムで会いましょう。

Comment(8)

コメント

つき

お疲れ様でした。
今回も楽しく読ませていただきました。
毎週火曜が待ち遠しかったです。
余談ですが、私は現在プレを担当しており、
DBMSの価格や機能を比較することがあります。
Oracleは高信頼ですが高価ですね。
次回作も期待しております!

コバヤシ

お疲れ様でした。
毎回楽しく読んでいました。
さわやかな終わり方で個人的にはスッキリしてます。
コラムも楽しみにしてますー

湯二

つきさん。

コメントありがとうございます。
いつも楽しみにしていてくれたとは、嬉しい限りです。


>DBMSの価格や機能を比較することがあります。
Oracleは高信頼ですが高価ですね。


高いですよね。
各種オプション、サポート費用。
信頼性は高いですが、使いこなすのも大変ですし、新しいバージョンにバグはつきものです。
今、MongoDBも触っているのですが、かなり簡単というか取っ付き易きです。
プレ頑張ってください。
こっちは次回作を頑張ります。

湯二

コバヤシさん。

コメントありがとうございます。
楽しみにしていただき、ありがとうございます。


暗い終わらせ方だけは嫌だったので、こんな感じになりました。


>コラムも楽しみにしてますー
ネタ集めのため、しばらく小説はお休みかもしれません。
でも、思い付いたらすぐやるかもです。
原点はコラムなのでしばらくそっちをやるという感じです。

VBA使い

お疲れ様でした。
今回は(多分)ばっちしです(笑)


約束ってのは、第十九話の事かな?
府中屋の案件を人数制限の関係で一緒にできなかったから?


「全てのエンジニアがその力を伸び伸びと発揮出来る様な世界を作ること、それが今の私の夢なの」
次回作じゃないかもしれないけど、湯二さんの作風でこの壮大なテーマがどう語られるのか楽しみです。

湯二

VBA使いさん。

やった!
最終話で無事に、やっと合格出ました。
毎度、校正して頂いたおかげで、出版物でもない小説のクオリティが上がりました。


>約束ってのは、第十九話の事かな?
ですね。
まぁ、雄一としては桜子に請けの仕事として府中屋の案件を一緒にやりたかった、けどそれが出来なかったということです。
ちなみに私自身は請負だろうが準委任だろうが、否定する気はあまりないです。
どんな働き方だろうが人間関係が重要ですので。。。
ただ、物語として善悪があったほうがいいと思ったのでそういうことにしました。


>「全てのエンジニアがその力を伸び伸びと発揮出来る様な世界を作ること、それが今の私の夢なの」
>次回作じゃないかもしれないけど、湯二さんの作風でこの壮大なテーマがどう語られるのか楽しみです。

随分ハードルが上がった感じですが、自分で言い放ったことなので、責任は取りたいなあ、、、
という感じです。今は。

新米エンジニア

お疲れ様でした。
7月からエンジニアとして転職してエンジニアについて調べてるときに
検索に引っかかったのがこの「失格エンジニア」でした。
毎週楽しみに待ってたので終わってしまうのは寂しいですが、次回作があればまた読みます!

湯二

新米エンジニアさん。

コメントありがとうございます。


>7月からエンジニアとして転職してエンジニアについて調べてるときに
検索に引っかかったのがこの「失格エンジニア」でした。


こうやって見つけてくれるのはありがたいことです。


>毎週楽しみに待ってたので終わってしまうのは寂しいですが、次回作があればまた読みます!


毎週楽しみにしてくれる人が一人でもいてくれれば続けていきたいですね。
続編というか過去の話を書いたりしてるんで、お時間があれば読んでみて下さい。

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