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【小説 失格のエンジニア】最終話 やっと満たされた彼女<前編>

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「うそだ! 嘘だ! ウソだ!」

 雄一は人目もはばからず大声で怒鳴った。
 美穂は雄一がそういう反応を取ることが予測出来ていたのか、特に驚いた様子も無かった。
 代わりに目を伏せ悲しそうな表情をしている。

「じゃあ、あれもこれも全部、俺を利用するためだけにやってたのかよ!」
「利用......」

 その言葉に美穂は反応し戸惑う様子を見せたが、その後、再び目を伏せだんまりを決め込んだ。
 「副社長とデキている」という笠松の言葉がいまだに信じられ無いというか、信じたくない。
 だが、目の前の女の硬直した態度を見ているとそれが正解だというのがよく分かる。
 何より自分の心を弄んだということに怒りを感じ、腹の底に溜まっている様々な感情のごった煮が一気に噴き出した。
 彼女は彼女で雄一の怒りの嵐が収束するのをじっと待っているかのようだ。
 してみれば今日の食事会は彼女にとってみれば、雄一との私的な関係の決別、清算の会として臨んだものなのかもしれない。
 「自分を利用していた」そう考えればコンペ終了後からの、手のひらを返したような態度の急変も合点が行く。
 その彼女の色々は笠松の助言も手伝って、雄一の心の中に何かモヤついたような不穏な気分を生じさせていた。
 それは今の段階では言葉には言い表せないくらい漠然としたものだったが。
 何より今は、自分の心を利用した目の前の女に対して愛しさと同じだけの憎しみを感じていて、その方が心の中の大半を占めていた。

「何とか言ってくれよ! 何とか言ってください!」

 半泣きの雄一は時に脅すような、そして時に哀願するような感じで美穂に頭を下げた。
 周囲の客が不審気に二人の方を見ている。

「お客様......」

 店員が声を掛けて来た。
 これがきっかけとなり、雄一はうなだれるように椅子に座った。


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 翌日。

「有馬君、どうしたのよ。目が真っ赤じゃん」
「へ、へへ......、昨日、ドラゴンファンタジーやり過ぎちゃって」
「よくもまぁ飽きずに」

 本当は一晩中泣き明かした。
 赤く腫れた目をゲームのせいにしてごまかした。
 桜子はそのことについて特に疑ってはいないようで、黙々と作業に取り組んでいる。

「ねぇ、有馬君。サーバリプレースの開発環境っていくつあったらいいと思う?」
「そ、そうっすねぇ......」
「現行保守環境として一面、リプレースのテスト環境として一面、あと、現行の改修環境として一面って考えてるんだけど、どうかな?」
「は、はぁ......」
「おい!」

 上の空の雄一にいつもの鉄拳が降り注いだ。
 福島課長がニヤニヤと笑いながらその光景を見ている。
 これも指導のやり方だと思っているのか黙認状態なのだろう。
 そんな課長が突然、

「有馬、ちょっと来い!」

 雄一を自席に呼び寄せ、Yahooニュースの記事を見せた。

「食品業界最大手のレガシー食品は和菓子業界大手の府中屋と業務資本提携契約を締結し、XXXX年4月から府中屋を子会社化したと発表した。買収を通じて小売・外食店向けを中心に和菓子事業の拡大を目指す。府中屋は原点に立ち返り、レガシー食品の支援を受けながら年内の株式上場を目指す」

「こ......これって......」
「オペラキャピタルが手を引いたってことかもな」

 オペラキャピタルは府中屋の筆頭株主であり実質経営をコントロールしているようなところがあった。
 元々は今回の売上管理システムのリプレースは、オペラが竹芝システムに仕事をさせたいため発生させた案件だった。
 戦いの末にステイヤーシステムがその案件を勝ち取ったが、今後もオペラが情シスの窓口として雄一たちの目の前に立ち塞がるものと思われていた。

「う~む」

 福島課長が顎に手を当て、眉根を寄せ考え込んでいる。

「何困ってるんですか? あの邪魔なオペラと目白部長がいなくなるんですよ。これほど好都合なこと無いじゃないですか?」
「お前、楽観的だな。上の方の体制が色々と変わるぞ。もしかしたら目白部長よりやりにくい奴が天下りしてくることだってある」

 その言葉を聞いて、昨日のモヤモヤとした気分が蘇った。

「有馬君、府中屋さんから電話。またいつもの障害だって」

 と、桜子が電話を持って来た。

「またブロック破損ですか」
「そうみたい。リプレースするまで出続けるとなると対策を考えたほうがいいね」

 彼女は腕を組んで考え込んだ。

「ディスクだけ一時的にリプレースするとか、せめて障害対応だけでも自動化したいわ」
「分かりました。対応が終わった後にでも提案して見ます」

 モヤモヤを振り払うように雄一は自社を飛び出した。


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「対応終わりました」

 会議室で経理部のメンバーと打ち合わせしている美穂に声を掛けた。

「ありがとうございます」

 彼女はホワイトボードに向かい何かの予定を書きながら礼を言った。

「あの......障害対応について提案があるんですけど、あとでお時間よろしいでしょうか?」
「すいません。メールで展開してもらっていいですか。ちょっと今日時間が無くて」

 彼女とあんなことがあった後、久々に会うのは気まずかったが、仕事は仕事と自分に言い聞かせた。
 美穂がここのところ目白部長の代わりにリーダー的な立ち回りをしているのは、府中屋買収の件が絡んでいるのか。
 業者として色々訊きたかったが、それも難しそうだ。


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 事務所を後にし正門に向かって歩いていると、同じくしてキャリーバッグをゴロゴロ言わせながら出て行こうとしている男に出くわした。

「なんだ、君かあ」

 目があったその男は目白部長だった。

「ニュースは見たか?」
「はい......」
「なら話は分かってるな。これでお別れだ。短い間だったが、ありがとう」
「え?」

 礼を言われると思わなかった雄一は少々驚いた。

「冷静になって振り返ると今回は勉強になることが多かった。自分より弱いものを嘗めてはいけないということ......」

 何か一言多いなと思いながらも、雄一は礼を言われたことは素直に嬉しかった。
 あのコンペの後、オペラキャピタルの提案パクリ疑惑の調査が行われたらしい。
 結局はっきりしたことは突き止められなかったが、これがオペラ派を追い落とす起爆剤となった。
 一気呵成に副社長派が内部をまとめ上げ、レガシー食品への交渉を進めた結果、今日のニュースとなった。

「まぁ、レガシー食品には我々が保有する府中屋の株を、少し高めに買い取ってもらったがな」

 色々と交渉したようで、オペラとしてもそこは儲けが出るように話を進めたようだ。
 オペラはオペラで金さえもらえれば何でもいいのだろうか。
 府中屋はオペラキャピタルとそれほど関係が悪化することも無く手を切ることが出来た。
 レガシー食品としても余程府中屋が欲しかったのだろう。
 府中屋としても大企業のグループに入ることでゆっくり時間を掛けて上場を目指すことが出来る。
 何より美穂が望むような昔ながらの府中屋として。
 すべてがwin-winというか、まるく事が収まったように見える。
 ただ、空恐ろしさを感じるのはそれが自分たち末端の人間に知らされずに行われていたということであった。
 関わるすべての人間にとって、物事が友好的に収束するなんて滅多にない。
 だから、最終的に何らかのツケを払わされるというか不都合を受けるのは自分たちなのでは無いか、という嫌な気分が心に差し込んでくる。

「目白......さんはこれからどうするんですか?」
「私はこれから大都会に戻って別の案件に携わる。君は......これから頑張ってくれよ。ていうか......頑張れる場所があるのか、という前提だが」

 そう言い残して目白部長は去っていく。
 その後姿を見ながら雄一はモヤモヤの正体がつかめて来た。

(今度は自分たちが排除される)

 美穂の望み通りオペラキャピタルとその取り巻きは排除された。
 それは雄一の提案が引き金になった。
 そこで雄一の役割は終わったのだ。
 もう用済みだ。
 裏を返せば、今度は雄一たちステイヤーシステムが排除される。


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 翌日。

 卓の上には府中屋とステイヤーシステムが交わした保守契約書が置かれている。
 それを挟む形で雄一と桜子、そして美穂が向かい合って座っている。

「契約解除......」

 美穂にそう告げられ、オウム返しに雄一はそう呟いた。
 隣に座っている桜子は特に表情を変えることも無かった。

「ニュースなどで知っていると思いますが、府中屋はレガシー食品の傘下に入りました。従って今後は親会社であるレガシー食品の意向を取り入れる必要があります」

 その意向とやらでステイヤーシステムは契約解除されるのか。

「用済みになったら......ポイですか?」

 雄一は絞り出すような声で美穂を睨みつけそう言った。
 彼女の胸に垂れ下がっている名札には「情報システム部 課長 新山美穂」と書かれている。
 副社長派に属し裏で色々と動いていた彼女はその若さで管理職に出世していた。
 いずれは副社長と結婚して一部上場企業となった府中屋の社長夫人にでもなるのか。

「有馬さん、すいません。こちらの都合ばかりで。契約書に書かれているとおり違約金はきちんと払います。それと、うちとの契約は今月で終了ですが、来月からは別形態で契約を結んでもらうつもりです」
「どういうことですか?」
「レガシー食品の子会社であるレガシーフード情報システムという会社があります。そこと受託契約を結んでいるシャコーテクノ開発と派遣契約を結んでもらいます」

 つまりはこういうことだ。

  発注者 :府中屋
  元請け :レガシーフード情報システム
  一次請け:シャコーテクノ開発
  二次請け:ステイヤーシステム

「ふざけんな!」

 雄一は客先であることも忘れ怒声を上げた。
 美穂に対する怒り、自分の知らない間に話を進めていた副社長やその他の人間たちへの怒り。
 何より、桜子に申し訳が立たない。
 彼女にはその能力を如何なく発揮できる場所を提供する約束で、エンジニアに戻ってもらった。
 そう、夢を一旦捨ててまで。
 だが、これではドラゴンファンタジーと同じだ。
 雄一の思い描いていた活躍の場を桜子に与えることが出来ない。

「これがポイ捨てじゃなくて何なんだよ! 散々俺らから甘い汁吸いつくしておいて味が無くなったからってゴミ箱行きかよ! やってることはお前らの嫌ってるオペラと同じことだろーが!」

 もはや美穂への未練は無かった。
 自分たちの力、エンジニアの力だけではどうにもならないものへの怒り、それに抗うことが出来ない無力さだけが心の中を埋め尽くしていた。

「有馬! ここは客先よっ! 言葉を慎みなさいっ!」

 流石に客の目の前なので、桜子は雄一に鉄拳制裁を加えることは無かった。
 その一喝で雄一は我に返った。

「新山さん」
「はい......」
「私たちは府中屋さんから直接仕事がもらえるという前提で今回の提案を作りました。そこをお忘れなく」

 桜子を見つめる美穂の目の色が変わった。
 何より、オペラのパクリを見破りそれを逆手に取って勝ち上がって来た女だ。
 ただ感情に任せて喚き散らすだけの雄一とは物が違う--そう思ったのか警戒しているのが分かる。

「あなたにプライドというか良心があるなら、私は特に異論はありません」

つづく


次回、後編は明日公開です。

Comment(4)

コメント

通りすがり

毎週楽しく拝読させて頂いております。
ひとつだけ気になる点があります。

有馬君の社会人にふさわしくない言葉遣いが非常に気になります。
客先で大声、顧客に対する言葉、こんな人間がまともな仕事を出来るわけがないと思います。
技術があれば、その他は何でも良いと言っているように受け取れます。
SEは何があっても冷静であるべきだと思います。

VBA使い

それを逆手に取って勝「っ」ち上がって来た女だ。


DBダウンは数年間ないのに、ブロック破損はしょっちゅうって、そんなもんなんですかね。
データ用ディスクだけ調子悪いのかな?

湯二

通りすがりさん。

コメントありがとうございます。


>有馬君の社会人にふさわしくない言葉遣いが非常に気になります。
指摘ありがとうございます。
正にその通りです。
暑苦しく押しつけがましいキャラクターを考えたらこうなってしまいました。
現実なら普通にアウトです。
続編ではこの辺が弱点になるようにしたら面白いかなと思いました。

湯二

VBA使いさん。

校正ありがとうございます。
うむ、肝心なところでミスってましたね。。。


>DBダウンは数年間ないのに、ブロック破損はしょっちゅうって、そんなもんなんですかね。
データ用ディスクだけ調子悪いのかな?


開発環境では経験あるんですが、ブロック破損しててもデータベースは起動してたってことがありました。
その時は、業務データが乗ってるブロックでした。
SYSTEM表領域なんかに割当たってるブロックが壊れてたら落ちるかもしれませんね。

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