常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】第二十四話 on guitar 彼女

»

 雄一と中山はライブハウス『大欅』に着いた。

「ひゃあ、今日は凄い客だな~」

 会場に足を踏み入れた中山は、客の多さと熱気に驚いている。
 100人も入れば息苦しくなるほどの箱の中に、すでに80人は集まっている。
 まだ表にも何人かたむろしていたから、ライブが始まれば更にこの熱気は増すことだろう。
 アマチュアバンドでこれだけの集客はなかなか無い。
 雄一のキングジョージだけでこれだけの人数を呼ぶことは無理だ。
 であれば、対バンの客ということになる。

「有馬、大丈夫か? 相手はこんなに味方が付いてるんだぞ。それに引き換え俺たちはせいぜい3、4人位......」

 中山が緊張のあまり震え出した。
 そんな彼に自信を付けさせるかのようにこう言い聴かせた。

「大丈夫だ。今日までしっかり練習してきたし、ここにいる客、全部こっちに振り向かせてやるよ」

 対バンは前回と同じ、インディーズで人気急上昇中の『セクレタリアト』だ。
 雄一にとって因縁のあるバンドだった。
 だが、圧倒的不利なコンペを終え、今の雄一は負ける気がしなかった。
 彼らのスケジュールを調べて敢えて今日、同じライブハウスで戦うことを選んだ。
 自分を捨てたかつてのメンバーを見返してやりたい、その一心で今日この場所に臨んだ。
 もうすぐリハーサルが始まるということで、他のバンドも続々とやって来た。
 ステージではドリームシアターの完コピバンドで有名な「ドリ虫虫」が機材のセットを始めている。

「福井さん」
「おお」

 要塞みたいなドラムセットの真ん中でスツールに腰掛け、スネアのチューニングをしている男が顔を上げた。
 パーマ頭、革ジャン革パンツの五十がらみの男は、雄一の呼び掛けに大きく手を振った。
 立ち上がり、こちらに歩いて来る。

「久しぶりだな、雄一。どうだ、メンバーの方は見つかったか?」
「はい......それがまだでして」
「縁だよ、縁。こう言ったものは急いでも見つからない。頑張ってればその姿に相手が引き寄せられて来るものさ」
「はい」

 福井は雄一のドラムの師匠みたいな感じだった。
 彼は大欅のマスターと親友で、月一で大都会からゲストで来ている。

「仕事は忙しい?」

 左手でスティックをくるくる回しながら訊いて来た。

「はい、今、受注が取れるかどうかの提案作るのに毎日ほぼ徹夜でした」
「すごいなー。俺なんて常駐先で言われるままに働いてて、提案何て作ったことも無いよ」
「へへ、それほどでも」

 二人とも同じ業界だったので話は合った。
 福井は最近、やらかして本番データを飛ばしてしまったらしい。
 その対応で四苦八苦したのだそうだ。

「まあ、データベース担当の若い奴が何とかしてくれたけど。そいつは何かに目覚めたのか海外の方に行っちゃったなあ」
「すごいですね、その人。俺と同じ年位で海外ですかぁ」

 だが、今の雄一の頭の中にはシリコンバレーとかよりも、マディソン・スクエア・ガーデンやらの有名なライブ会場が頭に浮かんだ。

「いいか! 雄一! サンバキックはこうやってやるんだ!」

 福井は得意げにバスドラムを蹴って見せた。

「ユーイチ」

 福井師匠のドラムクリニックが一通り終わり、一息ついていると見覚えのある男らに声を掛けられた。

「なんだ、お前ら。リハの準備しなくていいのかよ」
「ははは、俺ら首になったんだよ」
「首?」

 雄一は懐かしさと憎らしさが入り混じった複雑な感情と共に、彼らの顔をまじまじと見た。
 キングジョージの元メンバーであるリュウジとツヨシだ。
 雄一を疑似解散という形で放り出し、自らはスズカとともに新しいドラマーと新バンド『セクレタリアト』を組んだ恨みのあるやつらだ。

「俺らじゃ使えないってんで、新メンバーと入れ替えられたんだ」

 そう言う元ギターのリュウジは酷く落胆している様子だ。

「そうか、それは残念だったな」

 雄一はリハの準備もあるので、ステージに向かおうとした。

「ユーイチ、ギター募集してんだろ? もう一度、俺と......」
「勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!」

 雄一の怒声はかなりの大きさだったが、福井のドラムの音もそれなりの大きさだったので、目の前にいるリュウジとツヨシの耳にしか届かなかった。
 だが、それで十分だった。

「お前ら自分の都合が悪くなったら人を切っておいて、今度は呼び戻すとか、どんだけ自分勝手なんだよ。そんな奴らと音出しても全然楽しくねぇんだよ!」

 リュウジはそう言われるのを予想していたのか、愛想笑いを浮かべペコペコ頭を下げている。

「そ......そうだよな。お前の性格だとやっぱ許さないだろうな、とは思ったんだ......」

 落胆するリュウジの肩をツヨシがポンポンと叩いている。

(そんな姿見せられたって、流されねぇぞ......)

 と、思いつつも雄一としては、リュウジのギターが喉から手が出るほど欲しかった。
 かつて一緒にバンドをやって来た仲間でもあるし、自分のドラムとの相性がいいのも分かっている。
 対バンであるセクレタリアトに一泡吹かせる可能性だってグッと上がる。
 だが、一度裏切られた身としては、どうしても簡単に「はい、そうですか」と受け入れることは出来なかった。
 自分にだってプライドがある。
 仕事では自分の嫌いな相手とだってやっていく心づもりだが、ことバンドや音楽に関しては自分のポリシーを曲げたくない。
 そこまでやらなければ、創作ということを行う意味が無いと思っていた。

「どけ」

 何者かが、凹だリュウジを壁の隅に追いやった。

「おっと、どっかで見たことある顔だな」
「あ?」

 雄一と目があった何者かは、セクレタリアトのリーダーであるフトシだった。
 スズカを引き抜き、雄一を排除した張本人でもある。

「今日はよろしく頼みますよ」

 我ながら大人気ないなとは思ったが、雄一は相手の余裕一杯の挨拶に応えなかった。
 フトシに続いてスズカが雄一など目に見えていないかのように、スッと通り過ぎて行った。
 その後を更にリュウジとツヨシに取って代わったメンバー二人が付いて行く。


---------------------------------------------------------------

 セクレタリアトの音は素晴らしかった。
 雄一は聴き入ってしまっている自分にハッと気付いて、何とも言えない嫉妬を感じた。
 以前聴いた時よりも重低音が強化され、若干スラッシュメタルの要素も取り入れられていた。
 兎に角、曲のテンポが爆速な上にそれを引っ張るドラムの手数が多く、疾走感が前面に押し出されている。
 ただそれだけじゃない。
 ギターとベースの実力が半端ないのだ。
 ギターは、リズムがかっちりしているうえに、抒情的なフレーズを随所にちりばめているので、聴いていて心地いい。
 ベースは、独自のうねる様な音で良い意味で曲に黒さというか怪しさを付け加えていた。
 その上にスズカの透き通るような声が被さる。

(こりゃ、リュウジやツヨシが首になるのも仕方ないな......)

 と、雄一は思った。
 隣で中山が白目になっている。
 余りの実力差を前に恐れおののき、ベースを持つ手が震えている。 

ブルルル

 ポケットのスマホが鳴り出した。
 何事かと思い、取り出してディスプレイを見ると美穂からのLINEだった。

<ごめんなさい。今日、仕事で忙しくてライブ行けません>

 雄一は失意の底に突き落とされた。
 大きく鳴り響いているはずの音が消え、自分が静寂の中に一人立たされているような気になった。

「有馬君!」

 と、桜子に声を掛けられるまで、その白い静寂の中で我を失っていた。

「や、安田さん......来てくれたんですね!」

 雄一が応えるより先に中山の方が応えた。
 彼は顔を赤らめ、桜子の方をじっと見入ってしまっている。
 中山と桜子のことはどうでもいい。
 雄一としては、今までライブ皆勤賞だった美穂が今日に限って来れないということのショックがデカい。
 コンペが無事終わり、彼女からの労いの言葉すら貰っていない。
 そりゃ、仕事だから仕方ない面もある。
 だが、今まで仕事を調整して応援に来てくれていた美穂が、今日の様な特別な日に現れないという事実は雄一をして、彼女の心が一体どこに向いているのかと不安にさせるには十分だった。

「私たち、来月からシービー・ミュージックエンターテイメントからデビューします」

 曲と曲の間のMCでスズカがそう発表した。
 ファンの間では割とリークしていた情報らしくそれほど驚きの声はしなかった。
 代わりに、待ってましたとばかりに声援が大きく鳴り響いた。
 雄一は自分に対して不甲斐なさを感じた。
 スズカが自分を置いてメジャーデビューしたという事実。
 それも自分を捨てて短期間での出来事だ。 
 スズカと雄一は数年間、一緒にやって来たがそういうチャンスが一度も無かった。
 抜群の歌唱力を持つ彼女がいるのにメジャーデビュー出来ないのは、運が足りないだけだと思っていた。
 でも、そうじゃなかったのだ。
 セクレタリアトでスズカがデビュー出来たということは、それまで一緒にやって来たキングジョージが彼女の才能を生かしきれていなかったということだ。
 つまりは、雄一が足を引っ張っていたのだった。
 美穂のこともあるが、スズカの発表も複雑な心に一発衝撃を与えた。

「ラストナンバー」

 スズカがそう言うと、最後の曲が始まった。

「ふぅん」

 桜子がその曲を聴いている。
 特段驚いた様子も無く、淡々と耳を傾けているようだ。

「若干、ギターがキッチリしすぎてて、ちょっと粗い感じが欲しいかな」

 曲終わりで彼女はそう評した。


---------------------------------------------------------------

「キングジョージです! 今日は楽しんで行ってください!」

 雄一はドラムの脇に備え付けられたマイクで客席に呼び掛けた。
 ステージの方を向いているのは、桜子と福井、あとリュウジとツヨシだけだった。
 後はステージに背を向けたセクレタリアトのファンたちで、彼ら彼女らはメンバーと仲良くやり取りしている。

(ちくしょう......)

 雄一はスティックを握りしめ悔しさに耐えた。
 ショックから立ち直ろう、劣等感から立ち直ろう、そのことに必死だったがそう思えば思うほど自分に自信が持てなかった。

「有馬! やるぜ!」

 中山の一言でハッとなる。
 彼の眼は炎が宿ったかのように赤く燃えていた。
 目の前の桜子にいいところを見せるために、すっかりやる気になっていた。
 肩から下げたFERNANDESのベースが照明に照らされ、光り輝いた。

「分かった!」

 そうだ。
 こんなことで落ち込んでたって仕方が無い。
 いつだって不利な状況でやってきた。
 今日のコンペだってそんな状態から、勝ち負けの勝負をしてきたんだ。
 やれる。
 自分にそう言い聞かせた。
 掴みの曲『凱旋』のフォーカウントを取る。

「イエ~い!」

 福井が盛り上げるために拳を突き上げて掛け声を上げた。
 その姿に有難さを感じた。
 だが如何せん、ドラムとベースだけであとは打ち込みというサウンドは、先ほどのセクレタリアトの音を聴いた後では物足りないのか他の客は中々振り向いてくれない。
 だが、二曲目、三曲目を通して、雄一のドラムを叩きながらの必死の歌声と、下手クソだが何かに向かって訴えかけてくるような中山のベースは人々の心を掴み始めた。
 徐々にステージの方を振り向く人が増えて行った。

「今日来てくれた俺の尊敬する人のために曲を作りました」

 途中のMCで雄一は桜子の方に目を向け、そう言った。

「聴いてください。『流星』」

 それはエンジニアである彼女を称える歌だった。
 その音と歌詞を聴いた人々は、音に導かれるようにステージに向かって歩いて行く。
 演奏に夢中だった雄一は、ふと客席を見た。

(いない)

 桜子がいない。
 せっかく彼女のために書いた曲なのに、どこに行ったのか。
 間奏に入った。
 ギターの生音が欲しいところだが、泣く泣くここは打ち込みである。
 音の厚みが失われ人々は少し興が覚めた様な感じになった。
 その時、ステージ袖からエレキギターの音が鳴り響いた。
 その音に一瞬ビクついた雄一だったが、袖から出て来た者の姿を見て更に驚いた。
 その女はグラサンとマスクに黒髪、黒いワンピースという出で立ちで登場した。
 肩からはフェンダーのストラトキャスターを下げている。

(こ、この人は......!)

 雄一が会いたがっていた「イングヴェイ弾いてみた」の動画の主がそこにいた。
 彼女は曲に合せてアドリブでギターソロを弾いている。
 一音一音がクリーンで際立っていて聴き取り易い。
 何より即興で考えたとは思えないフレーズは曲を更に深く盛り上がるものにしていた。
 動画の主は演奏の手を止めることなく、ゆっくりステージ真ん中まで歩いて行った。
 ライブハウス側も気を利かせて彼女にスポットライトを浴びせた。
 セクレタリアトのファンたちは、彼女の演奏に度肝を抜かれている。
 自分の歌声にしか興味を示さないあのスズカまでもが、瞬き一つせずステージ中央の主役の演奏に聴き入っている。
 やがて曲が終わり、辺りが静寂に包まれた。
 怪しげな紫色のライトに照らされた彼女は、おもむろにタッピングを始めた。
 残像が見える程のスピードで両手の指をギターの指板に叩き付け、有り得ない複雑なフレーズを奏でた。
 それに応えるように自然発生的に地鳴りのような歓声が起きた。
 彼女もその歓声を上回る程の爆音でラウドネスの『Crazy Nights』のリフを弾き出した。

(俺の目に狂いは無かった!)

 ドラムセットの真ん中で、雄一は彼女の背中を見ながらそう確信した。
 自分との音楽性もばっちりだし、何よりこの実力ならセクレタリアトどころか世界を目指せる。
 そんな飛躍した発想を持たせるほどの存在感を彼女は示したのだった。

「え?」

 彼女は振り向くと、手振りで何かを示している。
 次の曲に行けと言う事か。

「ラスト行くぜ~!」

 『爆進王』はいつもライブで最後に演奏する曲だ。
 テンポはBPM210だが、今日の雄一は運命のギタリスト(あくまで雄一が一方的にそう感じているだけだが)と、共演出来て興奮していたせいもありドラムが走ってしまった。
 いつもの悪い癖でBPM230の鬼のようなテンポでリズムを刻んでいる。
 彼女は演奏したことも無い曲に対して、戸惑うことも無く即興で着いて行っている。

「殺す気か~!」

 中山が一瞬振り返り、そう言った。
 彼のダウンピッキングを繰り返す右腕が吊りそうだ。
 だが、トランス状態になった雄一にはそんなことは知る由も無かった。
 次第に中山はそのスピードに着いて行けなくなり、音の乱れが目立ち始めた。
 それが観客にも伝播したのか、誰もが皆、曲にノリにくそうだ。

ゴン!

 雄一は後頭部に衝撃を感じた。
 それはどこかで感じたことのある、懐かしい衝撃だった。
 何と彼女がギターのボディで雄一を殴りつけていた。
 雄一は我に返った。

(この人は、もしや......)

 雄一はテンポを徐々に落とし、客が着いて行けるまでに調整する。
 その様子を見た彼女は、雄一に向かってコクリと頷いた。
 幸い、この一連のやり取りは観客に好意的に受け取られた。
 演奏中にギターでメンバーを殴り、曲を立て直すということが一種のパフォーマンスだと観客が勝手に解釈してくれたのだ。
 ふと、客席を見るとスズカが雄一のプレイをじっと見ている。
 彼女の口元は『爆進王』の歌詞を口ずさんでいるかのように見えた。

「どうもありがと~!」

 全曲が終わり、客席に向かってスティックを投げた。
 それを見知らぬ誰かがキャッチした。
 雄一はそのスティックを今日ここにはいない美穂に受け取ってほしかった。
 それだけが心残りだが、ライブとしては大成功だった。
 セクレタリアトのファンを振り向かせることが出来たし、あのスズカも曲に聴き入っていた。
 何と言っても大成功の立役者は目の前にいるギタリスト、まだ名も知らぬ、否、もしかしたら既に面識のある『あの人』かもしれない。
 そんな彼女はそそくさとギターをアンプから引き抜き帰り支度を始めている。

「あ、あなたは......」

 雄一は彼女を呼び止めようと、肩に手を掛けようとした。
 それを払いのけた彼女はステージを飛び降り、客席を通り抜け出口に向かって走りだした。

「ちょ、ちょっと! 待ってくれよ」

 そんな彼女の行く手に回り込み、呼び止めたのはセクレタリアトのリーダーであるフトシだった。
 
「君、良いギタープレイをするじゃないか。もしよろしかったら僕たちのところで、まずはサポートとしてやってみないか?」

 あまりの図々しさと身勝手さにスズカ以外のメンバーが驚いている。
 まぁ、これくらいの図太さでないとメジャーに行けないのかもしれないが。

バシィ!

 恐らく今日このライブハウスで鳴り響いたどんな音よりも、大きな音が鳴り響いた。
 彼女は大きくスイングした右手を下した。
 数メートル先に吹っ飛ばされ気を失っているフトシに、彼女はこう言った。 

「節操のない奴、大嫌い!」


---------------------------------------------------------------------

 三日後--

 雄一は出社すると、いつもの通りグループウェアを起動しメールをチェックした。

「先日のコンペの結果について」

 そんな件名のメールが届いていた。
 雄一は震える手でそのメールを開いた。


つづく

Comment(2)

コメント

VBA使い

「以前」聴いた時よりも重低音が強化され


雄一はそのステ「ィ」ックを


私のコメント、またまた拾ってくださったんでしょうか?(笑)
福井さん、いいヒトだ(T∀T)

湯二

VBA使いさん。

いつもコメントと校正ありがとうございます。
今日の間違いはなかなか見つけるのが難しいと自分で修正してて思いました。


>私のコメント、またまた拾ってくださったんでしょうか?(笑)
福井さん、いいヒトだ(T∀T)


ファンサービスがポリシーです。
需要は無いと思うけど、福井さんのスピンオフでも書きましょうか。
そもそも本編をどんだけの人が読んでるのかもわからないけど(笑)

コメントを投稿する