常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】第二十二話 彼女の反撃

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 会場に入るなり、雄一は目白部長の方を見た。

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「そうそう、そうやって怒りのパワーを提案書に還元してくれよ。期待してるよ」
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 先日、そう励まされたことに違和感を感じていたが、つまりは良い提案を横取りするために自分たちを利用していたのだ。
 それに気付かずまんまと嵌められた自分は愚かだと思う。
 が、そんな自分よりさらに愚かで、かつ怒りを感じるのは目の前にいる目白部長や竹芝、そのバックにいる役員どもだった。
 そしてもう一人、笠松を睨んだ。
 雄一の視線に何かを感じ取ったのかすぐに目を逸らした。
 不正を働き、人の手柄を横取りしている輩に雄一は何としても鉄槌を下さねばと思った。
 壇上に立ち、プレゼンの準備を始める。
 ちら、と桜子の方を見る。
 彼女は「行ってこい」とばかりに無言で頷いた。

「では、ステイヤーシステムさんお願いします」

 そう促され、雄一は挨拶をしプレゼンを始めた。
 さっきの竹芝とほぼ同じ提案だった。
 だがその内容は、上辺だけをなぞった竹芝のものとは異なり、微に入り細を穿つものだった。
 説明を聴いている者たちも納得している様子だった。
 明らかに竹芝の時と聴衆の反応が違うことに目白部長は眉をひそめている。

「先程、竹芝さんが答えられなかった可用性についての質問にお答えします」

 雄一は自動起動の仕組みが停止した場合の対応について発表した。

「データベースの自動起動を行う常駐プログラムが停止した場合、それを起動させるプログラムを用意します」

 『データベース自動起動プログラム』を『監視するプログラム』を作る。
 そのプログラムはcronから五分に一回起動されるように設定した。
 もしも、『データベース自動起動プログラム』が停止した場合、少なくとも五分後には監視プログラムによって起動が行われる。

jidoukansi1.png

jidoukansi2.png

jidoukansi3.png

 説明し終った後、目白部長の方を見た。
 苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
 新堀は、悔しさからか端正な顔を歪めている。

「質問があります」

 オペラ派の役員と思われる人々から多数の質問が来た。
 揚げ足を取るようなものも多い。
 その一つ一つに雄一は答えることが出来た。
 初めてのプレゼンではそれらの質問に答えることが出来なかった。
 今回は違う。
 陥れようと質問したほうは逆に納得させられるような回答を示され、すごすごと矛先を収めるしかないのだった。

「もうひとついいかな」

 そう手を上げたのは副社長だった。

「物理的な問題、例えばディスクやメモリの破損とかでデータベースがダウンした場合、再起動すれば使えるものなのか? そこを直さないと起動すらできないと思うが」

 反オペラ派の副社長が相手になるとは、雄一にとっては意外だったがそこについても検討済みだった。

「物理的な問題が起きたことが原因でダウンしたら、自動起動プログラムだと上がって来ません。ご指摘の通り、原因を取り除いてから手動で再起動です。そこはRACでもシングルでも同じです。このプログラム自体がソフトウエア的な監視を専門としていて、人為的なミスでデータベースを落としたとか、共有プールが一杯で落ちたとか、ORACLEのバグで落ちたとかそういうに対応しています。御社のデータベースはここ数年ダウンはしたこと無いという実績があり、あくまで可用性を担保するうえでの保険の保険みたいな仕組みです」
「なるほど。ありがとう。竹芝がそのことに言及してくれないから気になってたんだ」

 副社長は雄一の理解度を試しつつ、有利になるよう援護してくれたのだ。
 その様子を見ていた目白部長が唇を噛んで悔しそうだ。
 ふと美穂の方を見ると、彼女が副社長の方を向いてニコニコしている。

「では、あと5分ほどありますが、ここで発表者を変わります」

 雄一は壇上を降り、代わりに桜子が壇上に上がった。
 その様子に周りがざわついた。
 まさか、あんな若い新卒みたいなのがプレゼンするとは思っていなかったのだろう。

「よろしくお願いします」

 彼女は一礼した。
 長くてツヤのある黒い髪が前に垂れる。
 顔を上げる。
 切れ長の目はしっかりと前を見据えていた。

「では、始めます」

 桜子は壇上のパソコンを操作し、資料をプロジェクタに映し出した。
 それは雄一も見たことが無いものだった。
 そこにはこう書かれていた。

<サーバスペックを落とすことで、リプレースのコストを下げる>

 会場内が更にざわついた。


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 30分前のドリンクコーナーにて

「竹芝に勝てる隠し玉、そんなものあるんですか!」
「聴こえるよ」

 桜子は口元に人差し指を当てた。
 雄一は驚きの余り、周囲を気にせずつい大声で応えてしまった。

「す、すいません。でも、そういうことは早く教えてくださいよ。それに、スパイがいたことも教えてくれれば、俺だってこんなに不安にならずに済んだのに」
「始めは教えようかと思ったけど、やめた」
「何で?」
「有馬君が一生懸命提案を作らなくなると思ったし、何より安心した君の雰囲気が相手に伝わるのは良く無いと思ったの」
「俺って信用されてないんですかね......」

 雄一はビンタされてヒリヒリする頬に冷たい缶コーヒをあてて冷やした。

「そういう訳じゃないのよ。君だけじゃなく、私も含め人間全般そうだから」


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(これがその隠し玉か!)

 雄一も初めて知る内容に、彼女が一体何を企んでいるのか不安になった。

「竹芝さんはサーバのスペックを上げるって言っているぞ」
「会社が違うだけでそんなに見積もりが違うなんてどういうことだ?」

 一部の役員達が壇上の桜子に疑問や不安の声を浴びせた。
 その声に当の桜子は動じることは無かった。

「おかしな話ではありません!」

 周囲を一喝するように桜子はピシャリと言い切った。
 毅然とした態度でハッキリとものを言う桜子を見て、雄一は数日前のやり取りを思い出していた。


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 6日前--

 提案会議終了後。

「有馬君、今から戻るよ」

 自社への道中で桜子がそう言った。

「戻るって?」
「さっきまで会議していた場所」

 コメダワラ珈琲店に戻り、何か話すことでもあるのだろうか。
 それってもしかして......

「勘違いしないで、提案の打ち合わせをしたいだけよ」

 と、あっさり期待を裏切られた。

(いやいや何を考えてたんだ。俺には美穂さんがいるじゃないか)


 コメダワラ珈琲店に戻り、一旦、珈琲で一息つく。

「新山さんと笠松さんは呼ばなくてもいいんですか?」

 桜子は黙ったまま小さくうなずいた。

「新山さんは、売上管理システムは全社員数が使用する可能性があるって言ってたわよね」
「はい。売上管理システムって、他システムからも間接的に参照されるんです。例えば、在庫管理システムや経理システムとか。それらのシステムは経理部以外の部署や工場の社員が使うこともあるそうです」

 府中屋は複数のシステムを抱えていて、それらが複雑に絡み合っているのだった。

「全社員数って何人?」
「確か800人位......かな」

 つまり800人が同時に使用する可能性がある。
 それは単純に考えて800人が同時にサーバ接続することを意味していた。

「私が入る前に君が作った提案書を読んだけど、サーバスペックは現行踏襲って書いてあるわ。その理由って何?」
「全社員が同時に使用してもサーバが耐えられるようにするためです」

 桜子は雄一に向かって手を差し出しこう言った。

「現行サーバの設計書見せてよ」

 そう依頼され、カバンから各サーバの基本設計書や詳細設計書、パラメータシートなどを桜子に手渡した。
 それをパラパラとめくる。
 そして、CPU、メモリの試算根拠が書かれたページで手を止めた。

「前提、各サーバのメモリ、CPUのスペックは全社員800人が同時にシステムを使用した時の人数で算出する」

 そこに書いてある一文を呟いた。

「設計当初から、全社員同時接続を想定してサーバスペックを見積もったのね。ちなみに設計したのは、うちじゃなくて別の会社みたいね」

 設計書をパタリと閉じ卓の上に置いた。

「有馬君、今のサーバの稼働状態が気にならない?」
「そうですね」

 桜子がそこまで気にしているのは、何か理由があるからなのだろう。
 だが、もうサーバスペックについては提案を固めてしまっている。

「提案を説明するうえでの材料として、そう言う情報を持っておきたいだけよ。さすがに設計根拠が『現行踏襲』だけじゃお粗末でしょ。何か突っ込まれた時、現行の稼働状況を把握していれば妥当な答えが返せる。これだけで印象が変わるんだから」
「なるほど!」
「まずは、各サーバからデータを集めて来て」


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「府中屋様の全社員数が800人。この人数が同時に使用することを想定して現行の各サーバスペックは見積もられています。ですが、これは本当に妥当な見積もりなのでしょうか。私はまずそこを疑いました」

 周囲を見渡しながらそう言う。

「サーバスペックを落とすなんて、一体何を考えているんだ? それが原因でシステムがダウンしたらどうする? 仕事が欲しいからって無茶な提案をしやがって、安かろう悪かろうは害悪でしかないんだぞ!」

 目白部長が反論した。
 だが、桜子は落ち着いている。

「まず、常識的に考えて全社員が一斉にシステムを使う状況は考えられません」

 その発言に周囲が騒然となった。

「800人の中には、社長や部長など役職者の方も含まれています。そういった方がシステムを頻繁に使うのでしょうか? それと、全社員が毎日全員出勤してるわけではありません。有休で休んでる方やシフトで昼勤、夜勤という方もいるはずです。そう考えたら、800人何て有り得ません。そういった前提に立つと、全社員同時接続などバカげた数字では無く、現実的な数字でサーバスペックを見積もることが出来るはずです」

 確かに。
 雄一は桜子の考え方に納得した。
 自分が遊んでいるドラゴンファンタジーはユーザ数が一千万人くらいいる。
 その全員が同時にゲームサーバに接続して遊んでいるなんてまず無いだろう。
 何よりそんな人数が一気に流入して来たらサーバがバーストしてサービス停止になる。
 サービスが停止したことは何度かあるが、そういった理由で落ちたという報告は今まで一度も無い。

「そんなもん机上の空論だ。実際には何が起こるか分からん。多く見積もっておいて安心安定に稼働させる方が大事なんだ」
「目白部長」
「な、なんだ?」

 桜子に初めて名指しされ、目白部長はたじろいた。

「じゃ、あなたは今後、設計するサーバに関しては毎回全利用者数でスペックを見積もるの? それが顧客にとって高コストでオーバースペックだったとしても」

 その一言で、周囲がシンと静まり返った。
 目白部長もすぐに言葉を返せない。

「情シスも兼任されてるなら、そこはもっと踏み込んでほしかったですね。それと、竹芝システムさんもね」

 桜子の視線を感じたのか新堀は顔をしかめた。

「このグラフをご覧ください」

 プロジェクタに折れ線グラフが表示された。
 「利用者数」と題されたグラフには、縦軸に利用者数、横軸には時間が取られている。

「この三日間での売上管理システムの利用者数を一分毎に取得しグラフを作りました」

利用者数.png

 さっきまで騒いでいた者たちが、そのグラフを目にすると一斉に黙り込んだ。

「分かっていただけましたか? 利用者は100人もいません」

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

説明「を」聴いている


竹芝も、OS機能でDB監視PGを見てあげる事ぐらい検討orその場で思い付かなかったのかな
技術的にはあんまり大したことないのかな?

湯二

VBA使いさん。

指摘ありがとうございます。
修正しました。

技術的にはパクリ集団なので、ほとんどないけど、ずるや政治的な根回しだけ上手いとかそんな感じですね。


この話も後数話で終わるから、色々と振り返ってるんですが、敵がもうちょっと技術的にしっかりしてた方がよかったかなとも思ってます。

匿名

毎週楽しみに読んでいます


なるほど、それが隠し玉だったのですね!スッキリしました

確かに「利用の可能性がある人数全て」での負荷見積もりはやりがちですね

お恥ずかしい話、自分も良くやります


竹芝さんの技術力に関してですが、先人の言葉にこんなものがあります

「悪役はわかりやすい方がいい」

湯二

匿名さん。

コメントありがとうございます。
毎週楽しみにしていただきありがとうございます。


>「利用の可能性がある人数全て」
これをやると際限が無いんですよ。。。
でもお客さんに訊くと、しっかり把握できていないからこう言う回答が返ってきます。
そういう時は、端末の台数とかで見積もったりもします。
この話のようにすでに動いているシステムなら実績値を根拠に話が出来ます。


>「悪役はわかりやすい方がいい」
ありがとうございます。
勧善懲悪で分かり易い話を作っていきたいものです。

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