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【小説 失格のエンジニア】第十二話 CCBと、彼女を好きな彼

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 提案会議解散後、そのまま雄一は明日のライブに向けて、国道沿いのスタジオ「ポップロック」でドラムの練習していた。
 バンドを事実上解雇された雄一は、キングジョージとしてはユニットという形で明日のライブに主演する予定だ。
 ユニットというからには一人じゃない。
 もう一人メンバーがいる。

「すまん、仕事が忙しくて」

 中山が勢いよくスタジオに入って来た。
 彼の手にはエレキベースが握られている。
 ベースとドラムというユニットで主演する。
 流石にそれだと伴奏が無いということで、バックに雄一がプログラミングしたキーボードの音を流すことにした。
 歌はどうするかというと、雄一自身がドラムを叩きながら歌うことにした。
 雄一の実力だと歌を兼任しながら複雑なフレーズは叩けない。
 泣く泣く、簡単なリズムとフィルインで曲を作り直した。

「まるでCCBだな。白いメガネでもしてみるか?」

 雄一がドラムを叩きながら歌う姿を見て、中山がそう評した。

「何だそれ?」

 CCBを知らない雄一に、中山はスマホで彼らの動画を見せてくれた。

「かっけぇ!」

 雄一は高音のボーカルとその奇抜なファッションに度肝を抜かれた。
 何より「Romanticが止まらない」の歌詞はカッコいいと思った。

「だろ? オリジナルやるよりこれのコピーやったほうが受けんじゃね?」
「いや、俺たちはコピバンじゃねぇから」

 バンドに関して、雄一なりのポリシーがある。
 オリジナルしかやらないということだ。
 確かにライブで、皆が知っている曲のコピーをやれば受けることは受ける。
 だが、それに頼り過ぎてオリジナル曲が疎かになっては、バンドをやる意味が無いと思っている。

「じゃ、いくぜ!」

 ハイハットでフォーカウントを取る。
 中山はぎこちなくドラムに合せようとベースを弾いている。
 彼は何でも中学までピアノをやっていたそうだ。
 そのため、楽器に関しては勘所を押さえていた。
 とはいっても、ベースに触れたのは前回の練習と今回を含め二回目で、雄一が教えたダウンピッキングを使ったルート弾きで何とか着いて行っているという風情だった。
 ちなみにそのFERNANDESのベースは雄一が与えたものである。
 そうまでして、雄一はバンド活動を続けたかった。
 そこには何としても、自分を捨てて行ったスズカらを見返したい。
 そんな思いがある。
 そんな自分の欲望のために中山を巻き込んだ形になったが、当人は爽やかな笑顔でこう言った。

「まったく。お前はしょうがねぇ奴だな。俺がいないと何もできないのなっ!」

 彼にはいつか、お礼に女でも紹介しようかと思っている。


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 スタジオの休憩所は様々なバンドが練習の疲れを癒すためにたむろしている。
 木製の机が二つ置かれているだけの簡素なその場所に、雄一と中山は椅子に腰掛けドリンク片手に寛いでいた。
 壁には所狭しとライブ告知やメンバー募集のチラシが貼られている。
 その多くはこのスタジオで練習しているアマチュアバンドのものである。
 雄一はここのマスターに頼んで、こんな告知を貼ってもらうことにした。


 バンドメンバー募集
 
 当方Drum、Bass。
 キングジョージっていうバンドやってます。
 声のでかい女Vocal、カッティング、速弾きが得意なGuitar募集。
 Vocalは初心者OKだけど、兎に角、唯一無二の声を持つと思う人歓迎します。
 こちら、Drumはパワーヒッターでマジ音デカいです。(自称)
 Bassはまだ始めたばっかで初心者です。
 曲としては初期Xをパンクっぽく解釈した感じです。
 ライブは月二回やりたいです。
 アマチュアですが、プロ並みの活動をしていきたいです。
 連絡は↓。よろしく!

 mail xxxx@xx.xx.jp


「俺は今回限りのヘルプだぞ」

 勝手に正規メンバーとしてチラシで紹介された中山は呆れた顔をしている。

「つれないこと言うなよ。お前がいないとやっていけないんだよ」

 雄一は眉を下げ哀願するような顔を作った。

「そうやって、安田さんにも頼んでるんだろ?」

 いきなり仕事の話を振って来た中山に、雄一は戸惑いつつも合わせることにした。

「そうなんだよ。お前からも彼女に頼んでくれよ。あの人が凄いのはお前もよく知ってるだろ? あれだけの技術を持つ人がそれを生かさないのはこの業界にとって大きな損失だと思わないか?」

 中山といえば雄一がセントライト化粧品の障害の時、一緒にいたメンバーだ。
 すなわち、エンジニア桜子の姿を知る数少ない人間の一人である。
 そんな中山に桜子の謎追及について協力してもらいたいと思っている。

「そうだな。お前の言う通り、確かに不思議だよ。何で彼女がその卓越したエンジニアリングを隠すのか」

 雄一は中山から共感を得たことで、いい気分になった。
 だが、彼はこう続けた。

「ただ、人間にはいろんな事情があるし、触れちゃいけない部分もあると思うがね。それが彼女を傷つけることになるなら、見て見たくないか!?おく方がいいと思う」

 低い声で呟くようにそう言う中山を見て、雄一はいけ好かない奴だなと思った。
 女に優しい自分にでも酔いしれているのか。
 協力してくれるかと思った雄一は、期待が外れたことで多少の苛立ちを覚えた。
 こいつは何もわかっちゃいない。
 切羽詰まった雄一には桜子の力が必要なのだ。

「お前......いやに安田さんのこと気遣ってるじゃねぇか......。あっ、もしかして......」
「何だよ?」
「彼女のこと好きなんだろ?」
「ちょっ......何だぉ!」

 分かり易い奴だ。
 カマをかけてみたら見事に引っ掛かった。
 こいつの考えはよく分かった。
 それならそれで、やり易い。

「お前、あの時、こう言ったよな『こっちの雰囲気のほうがいいな』って」
「あ、ああ......」

 中山が覚醒した桜子を見た時、そう言っていたのを雄一は覚えていた。

「お前の彼女を気遣う気持ちは表面的で中味の無い偽りの優しさだ! そんなものは彼女のためにならない。あの人は技術者に戻りたがっているんだ。だけどその糸口がつかめないでいる。彼女がエンジニアを辞めた理由、それが分かれば本当の彼女に近づくことが出来る! 本当の彼女の姿をもう一度見てみたくないか!? 見てみたいだろ!」

 大演説の雄一に、中山は気圧されたようだ。
 無言で頷いている。
 雄一は自分の味方になった中山に、今までの桜子調査状況を話した。
 行き詰った捜査が、この男の閃きで進展するかもしれない。
 中山が喋り出した。

「DFプロジェクトにいた女マネージャーは安田さんのことを蛇蝎のように嫌ってたんだろ? それはやっぱり彼女がそのプロジェクトで何か問題を起こしたからだと思う」

 ここまでは雄一の考えと同じだ。

「ああ。俺も安田さんがエンジニアを辞めた理由はそこにあると思っている。だが、彼女は有能なエンジニアだった。そんな彼女が、どんな問題を起こしたっていうんだ? 四年経っても根に持たれるほどの重大な何かを彼女が起こした......俺はそれが不思議でならない」

 雄一の考え、発想はここで止まってしまっている。

「有馬、有能だからって問題を起こさないわけじゃないさ」
「どういう意味だ?」
「なんでも出来るってのは、それはそれで弱点でもあるんだぜ。例えば、そんな奴がリーダーになったとして部下が全然出来ない奴だったとする。有能なリーダーはそいつにやらせるより、自分がやったほうが速いと思って自分が手を出しちまう。始めはスケジュール通りスムーズに行くが、時間が経つとどうなるか? 下が育たないままだから、全部自分でやりつつリーダー業もしなきゃならない。いずれプロジェクトは回らなくなる。自分しかわからないことだらけ。引き継ごうにも誰も分からない。そんな時、プロジェクトの重大な遅延や障害が起きたらどうなるかな」

 雄一は中山が言うことを、黙って聴いていた。

「その現場で安田さんに沢山の仕事が集中していたとして、それが許容量を超えた時、何かとんでもないことが起きたんじゃないか」

 周りが無能で、桜子が有能な技術者だった場合、全てを彼女が抱え込んでいたとしたらどうなるか?

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「そこで何かまあ時には大声で、偉い人や管理者らしき人に意見したり、活発に仕事していたようです」
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 富士子の言葉が蘇った。
 中山の仮説が正しければ、属人化の果てに、彼女は自分が作った聖域が仇になって死んでしまったのではないか。

「四年前だよな」
「ああ」
「ドラゴンファンタジーに何か障害があったとか、記録が無いか? ネットニュースでもいい。新聞でもいい。間接的にでも何か分かるんじゃないか」

 中山の言う通りだ。
 過去のニュースに重大な事故や問題についての記録が残されているかもしれない。
 その事故が彼女と繋がりかあるかどうかは分からないが、少しでも秘密に近づけるかもしれない。

「その女マネージャーも鬼じゃあるまい。そうやって事前に調査したうえで、誠意をもって安田さんのことが知りたい、その思いを伝えればいつか話してくれるんじゃないか」
「ありがとう中山」
「早く、彼女の本気の姿が見てぇな」

 親身になって相談に乗って、ヒントまでくれる同僚に心底感謝した。

「雄ちゃん。目立つところに貼っといたよ」

 遠くで二人の様子を見ていたマスターが声を掛けて来た。
 会話がひと段落したのを見計らっての事だろう。
 雄一が依頼していたメンバー募集チラシをスタジオの入り口の目立つ場所に貼ってくれていた。

「マスター。サンキュー!」

 スポーツ刈りで、たれ目の温厚そうなちょび髭マスターは満足そうに頷いた。
 これでも昔は、デスメタルバンドで火を吐くパフォーマンスをしていたらしい。
 自分のチラシの少し離れたところに、見慣れたチラシが貼られていることに気付いた。
 それは、キングジョージのライブ告知のチラシだった。
 かつてのメンバー、スズカ、リュウジ、ツヨシそしてユーイチの四人の写真が載っている。

「おっと......このライブはもう終わったから剥がしとかないとね」

 マスターはバツが悪そうにそれを剥がそうとした。

「待ってくれ」

 雄一は写真をじっと見て、切ない気持ちになった。
 大学の時から数えて約四年このバンドを続けているが、このメンバーで活動して来た時期が一番充実していて楽しかった。

「何だよ。捨てられてもまだ未練があんのか?」

 中山がからかうように言った。


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「ドラゴンファンタジー 障害」
「ドラゴンファンタジー サービス停止」
「DFプロジェクト 事故」

 自宅に帰った雄一は、PCの前に座り思い付く限りのキーワードをgoogle先生に問い合わせて行った。
 検索結果は五万件ほどあった。
 上から順に検索結果を表示させていく。
 中にはページ自体が無くなっている物もあったが、いくつかは当時のまま残っていた。

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 【Game情報.net】
  『ドラゴンファンタジー サービス一時休止のお知らせ』
   オンラインゲーム「ドラゴンファンタジー」(以下、DF)の運営元であるアイアンキングは本日(XXXX年8月2日)、DFの日本サービスの現状と今後についての発表を行った。
   本作は、サーバーに致命的な不具合が見つかったため、7月31日より緊急メンテナンスが行われ、8月1日の時点で開発元であるタイキソフトウエアによってサービスの一時休止が伝えられていた。
   復旧の目途は現時点で立っておらず、運営元には利用者からの問い合わせが相次いでいるという。
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 四年前の、XXXX年8月2日、雄一はこの時、まだドラゴンファンタジーを始めていない。
 自分がプレイを開始する前に何か起きていたのであれば、それは知るはずも無かった。

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 【某有名ゲーマーのブログ MMO通信】
  『ドラゴンファンタジーで事故発生』
   最初にアイテムを購入しようとした時、画面がバグって先に進めなくなった。
   課金に使ったクリスタルは戻ってこなかった。
   現時点で分かっていることは、ゲームにログインすら出来ないということ。
   噂ではゲーム内のシステムを誤って停止させたとか、その際、データが飛んだとか。
   対応しているエンジニアは気の毒だと思うが、何より事故を仕出かした奴は針の筵だと思う。
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 【お昼の情報番組 お昼なんです!】
  某ITジャーナリスト
   「私もこのゲームやってるんですけどね。プレイヤーは全世界で五百万人位いるそうなんですよ。その人達の中にはこのゲームに物凄い時間とお金を掛けている人もいるわけです。
    このまま復旧しなければ、ゲーム内の仮想通貨であるクリスタルを購入した人達に対して運営元は何千万、いや何億もの損害賠償をすることになるかもしれません」
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 【某ネット掲示板】
  「バックアップは?」
  「運営元の責任だろ」
  「お前ら良かったな。これで廃人から卒業出来るぞ」
  「ドラゴンファンタジーの次回作にご期待ください」
  「俺たちの戦いはこれからだ!」
  「いや、まじで時間と金を返してくださいw」
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 同じエンジニアとして事故の当事者になったことを想像すると、雄一は背筋に寒いものを感じた。
 やはり何かが起きていた。
 それは想像を絶するものだったが、その発端となったのが桜子だったかまでは分からない。
 ただ、データベース絡みでありそうなことから考えると、彼女が何か関わっていたのかと勘繰りたくもなる。
 この二週間後、こんな記事が載せられていた。

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 【Game情報.net】
  『ドラゴンファンタジー サービス復旧のお知らせ』
   オンラインゲーム「ドラゴンファンタジー」(以下、DF)の運営元であるアイアンキングは本日(XXXX年8月16日)、DFのサービス復旧を発表した。
   本作は、8月2日からサービスを休止していたが、一部データを除き、バックアップからのデータ復旧が完了したためサービスをリニューアルさせて再開させた。
   お詫びとして既存ユーザには10,000クリスタルを無料配布し、新規ユーザーには☆五つのレアキャラを無条件で渡すキャンペーンを実施する。
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 このリニューアルキャンペーンにつられて、雄一はドラゴンファンタジーを始めた。
 リニューアルが過去をうやむやにするために行われたかどうかは定かでは無いが、過去にこんな事件が起きていたなんて、当時の彼は知る由も無かった。
 

つづく

来週はエンジニアライフ10周年を記念しまして、10にちなんだ小説を載せるためお休みいたします。(9/10掲載予定)

Comment(2)

コメント

VBA使い

ちょっ......何だぉ!
→「何だよ!」かな?


もう一度見て見たくないか!?
→「見てみたく」かな?


それは想像絶するものだった
→「を」


なんか、前作の福井さんがバンド関係で友情出演してくれそう。

湯二

VBA使いさん。

コメントありがとうございます。
いつも校正の方ありがとうございます。
修正させていただきました。


過去の作品の端役まで覚えていただきありがとうございます。
何か、この際、再登場させてほしい人がいたら、要望を。

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