常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】第十一話 彼女の過去を知る彼女

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 翌日--

 海に浮かぶ人工島。
 人々はその島をソフトパークと呼ぶ。
 最先端の技術を追求するIT企業がその本拠をここに置いている。
 通称、我が国のシリコンバレー。
 パークの中心にそびえたつ60階建てのソフトパークセンタービルは、国の情報産業の振興に寄与するため、国や県と民間企業が出資して設立された。
 そこに入居する「タイキソフトウエア」が、雄一の今日の目的地だ。

(ここで、働いてたんだよなぁ......)

 天高くそびえ立つビルを見上げ、雄一は感慨にふけっていた。
 ここにエンジニア桜子がいたと思うと、憧憬や近寄りがたい気持ち、色んな思いが絡み合い複雑に込み上げて来た。


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「どうぞ、こちらへ」

 受付の女性に促され、会議室に通される。
 壁にはドラゴンファンタジー関連のポスターが貼られている。
 ラノベやアニメ化されメディアミックスもバッチリだ。
 主人公の女キャラが勇ましく剣を構えた図が印象的だ。
 出されたお茶に手を付けることも無く、緊張して待つ。
 今日の雄一はエンジニアじゃない、営業担当としてここに来た。


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 二時間前--

 雄一は周りを見渡した。
 桜子がいないことを確認すると、福島課長にこう頼んだ。

「安田さんの職務経歴書を貸してください」
「何だ突然」

 福島課長は怪訝そうな顔をした。

「今からタイキソフトウエアに行ってきます。そこで彼女の経歴書が必要なんです」

 雄一はドラゴンファンタジーというヒントと富士子の証言から、四年前の桜子がタイキソフトウエアのDFプロジェクトにいたということを突き止めた。
 調べるとタイキソフトウエアは株式会社アイアンキングの子会社だった。
 恐らくゲームの企画、販売はアイアンキングで、開発は子会社のタイキソフトという役割になっているのだろう。
 糸口をつかんだ今、彼女がいた場所、秘密の本丸に攻め込みたい。

「ステイヤーシステムとタイキソフトウエアに商流は無い。お前のやりたいことは分かるが、タイキが相手にしてくれるのか? それとも、馬場テクノロジーさんに間に入ってもらうか?」

 馬場テクノロジーとは、四年前に桜子がタイキソフトウエアに派遣された時、間に入った所謂名義貸しだけの会社だ。

「その心配はありません。もう先方に連絡して約束を取り付けましたから」
「仕事はやっ!」

 雄一は今日の明け方、タイキソフトウエアに人材紹介をしたいとメールで問い合わせたのだ。
 アイアンキングやタイキソフトウエアを調べる過程で、それらの会社がフリーエンジニアサイトや求人サイトで人を募っているのを見掛けた。
 ゲームが大ヒットし人が足りないのだ。
 バージョンアップとイベント追加が毎週のように行われている。
 特にゲームプログラマやデータベースエンジニアを求めていることが良く分かった。
 雄一としてはそれらの情報だけで、十分相手にしてもらえると踏んだのだ。

「却って、馬場テクノロジーさんの名前で行くと門前払いされる可能性がありますから」
「どういうことだ?」
「安田さんは馬場テクノロジーの人として仕事して、何か問題があってDFプロジェクトを離れたんでしょ? だからその名前はもう出せませんよ。今回はうちみたいに相手に名前が知られてない方が好都合です」

 福島課長は納得したかのように大きく頷いた。


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「お待たせしました」

 挨拶とともに会議室に入って来たのは、長身で眼鏡の女だった。
 スラリとした身体に黒いスーツがよく似合う。
 戸が閉まるとともに、ポニーテールのうなじの後れ毛が少しなびいた。
 鼻筋が通った整った顔をした所謂美人というやつか。
 彼女は抱えたバインダを机に置くと、一礼し名刺を差し出した。

「DFプロジェクトのマネージャーの浦河美雪です」

 年は雄一よりちょっと上くらいに見えるが、その若さで有名なゲーム開発プロジェクトのPMとは恐れ入った。
 と同時に、この女が桜子の過去と秘密を知っていると思うと、ゾクッと鳥肌が立った。

「ステイヤーシステムで営業やってます。有馬雄一です」

 手の震えを抑えながら名刺を渡す。
 そんなこと気にすることも無く美雪は名刺を受け取ると、早速、こう問い掛けて来た。

「有馬さんは、ドラゴンファンタジーのことは知ってますか?」
「はい! もちろん! 四年前からインストールして遊んでます」
「ありがとうございます」
「googleマップを使った陣取りゲームってところがいいですよね! その場所まで行って敵を攻撃するっていうシステムが如何にもこれから戦いに行くぞっていう気分にさせてくれてサイコーっす。あと実際に歩き回るんでダイエットにもなってます」

 雄一のあまりのドラゴンファンタジー愛に、美雪は最初、戸惑っていたが慣れてくると楽しそうに相槌をうち、ありがとうを繰り返した。

「さて......有馬さん。今日は良い人を紹介してくださるとのことで......」

 アイスブレイクはこれで終わりとばかりに美雪は声のトーンを落ち着かせた。
 雄一の胸に緊張が走る。
 ここからが勝負だ。

「はい。うちの社員で数名、有能な者がいますので、紹介させてください」

 雄一はクリアファイルから一枚の経歴書を取り出した。

「中山さんというんですね......」

 それを手にした美雪は誰に尋ねるとも無く、そう呟いた。

(中山、すまん)

 雄一は心の中で謝った。
 メールで約を取り付ける時に、紹介する人間が一人だけでは相手に物足りないと思われるのも不利だと思った。
 そこで黙って中山の経歴にも協力してもらった次第だ。

「へぇ、Javaの経験が長いですね。アプリケーションサーバの構築経験もあり。なかなかですね」
「弊社の次期エースですから」
「スマホ開発の経験は?」
「それが、えっと......」

 中山は入社以来、クライアント・サーバ系のシステム開発だったり、今はセントライト化粧品の保守だったりで確かスマホ開発の経験は無いはずだ。
 返事に窮している雄一を見た美雪はこう促した。

「では、次の方を......」

 表情一つ変えずに言う彼女を見て、なかなかシビアな女だと思った。
 これから提出する一枚の経歴書を見た雄一は、意を決してそれを目の前の女に差し出した。

「はっ」

 と聴こえそうなくらい、彼女が大きく息をのんだことが分かる。
 先程までの冷静な表情に戸惑いの色が浮かぶ。

「安田桜子......弊社のデータベースエンジニアです」

 実際、彼女の経歴書を見た時、雄一は驚いた。
 
 安田桜子 二十七歳。
 今から九年前、十八歳の時に工業高校の情報処理科を卒業後、ステイヤーシステムに入社。
 入社後、本人の希望によりインフラ系、特にデータベースの設計、構築プロジェクトに多数参画する。
 その中には大手ネット証券会社や公共系システムなど多岐に渡っていた。
 僅か二カ月だが、あのセントライト化粧品にも関わっていた。
 はっきり言って、二十代そこそこでこれだけの実績を作れたのは彼女自身の才能もあっただろうが、何より努力もしたのだろう。
 そして、四年前の二十三歳の時、DFプロジェクトに派遣される。
 そこで経歴が途切れている。

 美雪は顔を上げた。

「今回は、弊社が求めるスキルにマッチングする方はいなかったということで、またの機会に......」

 彼女がそう言いかけた時、雄一は卓に手を着いてこう叫んでいた。

「教えてください! 弊社の安田がどんな仕事をして、どうしてエンジニアを辞めたのか!」

 恐らく外の者にも聴こえたであろう大声で頼み込んでいた。
 だが、美雪は突き放すようにこう言った。

「どういうつもりですか? 私たちをおちょくってるんでしょうか。彼女は......このプロジェクトを無茶苦茶にした。そしてそれをそのままほったらかしにして去ってしまった。それが彼女のしたことです。そして......」

 私の部下を傷つけた。
 

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 足取りも重く、雄一はタイキソフトウエアを後にした。
 結局、あの後、何も訊くことは出来なかったし、何より美雪が席を立ってしまったのでどうしようもなかった。
 彼女は一体あのプロジェクトで何をしたのか。
 マネージャーが今も根に持つくらいの事とは、一体何なのか。
 謎は深まるばかりだった。
 だが、落ち込んでもいられない。
 策を変え出直してでも聴き出さなければならない。
 胸ポケットに入れたスマホが振動した。
 取り出して確認すると美穂からLINEメッセージが届いていた。

<待ち合わせして、コメダワラ珈琲店に行きましょう>

 昨日に引き続き同じ場所で、今日も定時後に提案チームの集まりがある。
 こちらはこちらで進めておかなければならない。
 それに、美穂に会えるとなると多少の元気も出て来た。
 

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 笠松が不機嫌そうだ。
 雄一が美穂を伴って現れたのを見ると、

「何で、わしに言ってくれなかったんだ」

 笠松が不機嫌そうだ。
 雄一が美穂を伴って現れたのを見ると、

「何で、わしに言ってくれなかったんだ」

 と、不貞腐れてしまった。
 何故気分を害されたのか。
 確かに事後報告は良く無いと思うが、美穂が仲間に加わることの有利性を説いても一向に聴く耳を持たない。
 笠松が部長だったころ、彼と美穂の意見が対立することはあったがそれ程仲が悪いようには見えなかった。
 それとは反対に福島課長は、美穂を笑顔で歓迎してくれた。
 黙り込み、たっぷりミルクコーヒーをがぶ飲みする笠松をしり目に作戦会議を進めた。

「まず今のサーバ構成を整理してみました」

 雄一はExcelで描いた一枚のプリント用紙を卓の中央に置いた。
 真ん中にデータベースサーバが一台。
 そこから下に線が伸び、アプリケーションサーバが一台接続されている。
 アプリケーションサーバには数本の線が伸びていて、そこにはパソコンの絵が数台描かれている。
 データベースサーバの横からも線が伸びていてバッチサーバに接続されている。
 これが現在の府中屋の売上管理システムのサーバ構成だった。

「へぇ、こんな風になってたんですね」

 美穂が熱心にその図を見ながら言う。
 サーバ構成なんて気にするエンドユーザはそうはいない。
 物珍しそうに見る彼女に、各サーバの役割を丁寧に説明して行った。

「エンドユーザーとしてシステムの使用経験がある笠松さんと新山さんにお訊きしたいんですが、このシステムが遅いって感じることはありますか?」
「そうですねぇ......検索が遅いというか、毎回じゃないんですけど、そう感じる時があります」

 美穂が応える。
 笠松は相変わらず不貞腐れたまま、シロノワールをパクついている。

「それって、検索条件が大雑把だったりすると遅かったりします?」
「そう、そうなんです! 例えば商品ごとの売上を検索する時とか、期間を指定しないと何時まで経っても返ってこないんですよ!」
「そういう時は、諦めてるんですか?」
「そうですね。一旦画面を強制終了して、条件を細かくして再検索してます」

 美穂は申し訳なさそうに舌を出しながらそう言った。

「どんな検索だったとしても速い方がいいですか?」
「いえ、別に問題ありません。現に今、だいたい十秒から一分くらい掛かってるのが普通ですし。その間に別の仕事してますから」

 美穂は何でも無いという感じでそう答えた。
 実際使っている人はどう感じているのか、それを雄一は知りたかった。
 理想を追い求めてコストが掛かり過ぎては本末転倒だ。
 前回のコンペで竹芝はコストを度外視した提案ばかりをしていた。
 その中には現行の検索スピードの遅さを取り上げて、リプレース後は全ての検索を三秒以内にと謳っていた。
 それは分かり易い提案で、確かに上層部には受けはいい。
 業界に三秒ルールというのがある。
 どんな検索処理も三秒で返すというあれだ。
 だが、それは夢物語であって実際は難しい。
 それを全てに通そうとすると、どうしても良いハードウエアを使い、ミドルウエア面でも多機能なものを導入せざる負えない。
 その辺、竹芝は上層部から贔屓にされていて多少のコストは目をつぶってもらっているようなのだ。
 雄一だってコストを掛けることを許されれば同じ提案が出来る。
 だが、彼らと同じレベルの提案を同じコストで提案すれば負けるのは決まっている。
 かといって、同じことを低コストでは実現出来ない。
 だから、異なるアプローチを試みた。

「アプリの方で、例えば期間の指定をしてなかったら検索ボタンを押せないとかどうですか?」
「うーん、それじゃ、私以外の使い慣れてない人が戸惑いそうですね」
「期間の指定が無い場合は、自動的に直近一年間を指定したことにして検索されるのはどうですか?」
「あ、それいいですね。だいたい一年分しか見ないことが多いし」

 コンペではこうやって現状を交えながら、三秒以内の検索が本当に必要かどうか説いて行けばいい。
 相手と同じ提案が出来ないなら、コストを抑えて別ルートで相手を上回るものをぶつけるまでだ。

つづく

Comment(4)

コメント

コバヤシ

>出されたお茶に手を付けることも無く、緊張して待つ。
お茶を出す側としては、緊張をほぐすためにも残さず全部飲んで欲しいなー
なんて本編と全く関係ないどうでもいいところの感想ですみません。
いつも楽しみにしています。

VBA使い

ポニーテ-ル
→よく見たら、1つ目の横棒と2つ目の横棒が違うような。


何故害されたのか。
→何故気分を害されたのか。かな?


googleマップを使った
→google は実名なんですねー。
地球と似て、でも違う星にまで進出するほど成長したのかな?(どうでもいいツッコミすみません)


定番の緊迫シーンですが、自ら挑んで行ったところが見違えました。エライ!

湯二

コバヤシさん。
コメントありがとうございます。


確かに、お茶に手を付けて欲しい。
何で、手を付けないのか。
緊張しすぎて手が出ないだけなのか。
読み返してみると、逆に手を付けるほうが自然な気もする。。。


私も小説読んでると、本筋とは関係ない描写に突込み入れたり共感したりします。


これからも息抜きとしてお楽しみいただけたら幸いです。

湯二

VBA使いさん。

コメント、指摘ありがとうございます。
修正いたしました。


そう言われると、yahooニュースとか、google先生、LINEなどが平気で出てくる割には、コメダワラ珈琲店とかパロディもあったりして表現が統一されていませんね。。。


一応、エンジニア小説なので技術的なキーワードは実在のものを使うことでリアリティを出し、その他はパロディでごまかすというスタンスでやって行こうと思っています。
あと、一応、地球と異なる星という設定もあったか。。。


水戸黄門の印籠ばりに、毎回、緊迫するシーンは入れていきたいですね。

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