常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】第十話 彼女を召喚せよ

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 ドラゴンファンタジーとは、株式会社アイアンキングが開発、運営しているスマホゲームのことである。
 プレイヤーは青軍と赤軍のどちらかに属し、自分の敵となる軍と全世界にあるポイントと呼ばれる仮想の陣地を奪い合う。
 敵が占領しているポイントを奪う際は戦闘が始まり、タワーディフェンス型のキャラバトルが行われる。
 陣取りゲームとRPGを足して二で割ったようなゲームだ。
 どれくらいポイントを取ったかで自軍での自分の地位が決まる。
 雄一は四年前からこのゲームをスマホにインストールして遊んでいる。
 青軍に属しレベルは30。
 占領したポイントは100個で、軍の中では軍曹という地位を得ている。

「ドラゴンファンタジーと、安田さんがエンジニアを辞めた秘密、その二つに何の関係が......?」
「それは私には言えない。彼女との約束だからだ」

 福島課長は桜子の事情を知っている。
 そして二人の間でそれは口外してはならない秘密になっている。

「やりすぎて廃人になって仕事すっぽかしたから、とか?」
「違うな」
「じゃ、ゲーム内で課長と安田さんとの間にやましいことがあったんですか?」
「ねぇよ」

 速攻で否定された。
 どうやら、そういった大人の事情では無いらしい。

「四年前のある出来事がキッカケだ」

 四年前。
 その頃、まだ雄一はステイヤーシステムに入社していない。
 そして、桜子は雄一が入社した三年前には既にエンジニアではなく総務の仕事をしていた。

「まずはお前自身で調査して見ろ。彼女が辿った道をお前が追体験することで、学ぶことが沢山あるはずだ」
「......はい」

 彼女が元エンジニアだと知ったのは半年前、セントライト化粧品での障害対応の時だ。
 神懸った彼女の指導と技術力により、困難な障害から復旧することが出来た。
 あれを彼女は「ただの気まぐれ」と評していたが、それこそが雄一を変えたきっかけになっている。
 そこに今の雄一のルーツがあり、彼の心の拠り所になっていた。

「私は安田が自分からエンジニアに戻りたいと申し出るまで、総務のままで居てもらおうと思っていたが......お前とあいつの、最近のやり取りを見ているとそんな悠長なことを言っている場合でも無いと考えるようになった」

 四年前、彼女に何があったのか。
 エンジニアを辞めるきっかけになった出来事とは一体何なのか。
 福島課長は彼女の辿った道を、雄一が辿ることで学ぶことがあると言った。
 その旅路の果てに彼女の秘密があり、それを手に入れることが出来れば--


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 社内に戻ると、桜子は既に退社していた。
 時計を見ると針はもう18時を指していた。

(話がしたかったな......)

 当の本人と技術の話をしたかった。
 一緒に提案書を作るために、あーでもない、こーでもないと、試行錯誤して見たいと思っている。
 与えられたヒントは、四年前とドラゴンファンタジー。
 とりあえず、端末に向かって作業している中山に話し掛けた。

「おい、中山。お前、ゲームするか?」
「ああ、たまにやるけど。なんだ突然に」
「ドラゴンファンタジーってやってる?」
「俺には合わないから、ついこの前アンインストールしたよ」

 中山は話が終わったと思ったのか、再び端末に向き直り作業を再開した。

「安田さんとドラゴンファンタジーって何か関係あるのかな?」
「えっ!? 何なんだよ。何意味わかんないこと言ってんだ」

 今度はこちらを振り向くことも無く、ディスプレイに目を向けたまま答えた。

(やっぱ、知らないよな......)

 中山は雄一と同期入社だ。
 だから四年前の桜子のことは知らない。
 それ以前に入社した人間なら彼女のことを知っているかもしれない。
 だが、ほとんどのメンバーは外注要員として派遣されていて、訊こうにもその場にいない。
 そこで、飲み会で何度か話したことがある先輩社員に電話をし、四年前の桜子のことを知っているか尋ねていった。

「知らないなあ。僕はずっと外の現場で働いてるから、同じ会社の人でもどこでどんな仕事をしているか分からないよ」
「彼女がどこに常駐していたかははっきり言って分からない。ごめん。力になれなくて」
「え!? 最初から総務だったんじゃないの!?」
「ドラゴンファンタジーとあの娘が? 一体何なんだろうな」

 社長にも訊いてみた。
 だが、答えは福島課長と同じものが返って来た。
 途方に暮れている雄一に、声を掛けてくる者がいた。

「安田さんのこと......調べてるんですか?」

 派遣で府中屋のプロジェクトを手伝ってくれている栗田富士子だ。

「栗田さん......何か知ってるんですか?」

 雄一は目を輝かせ、その両手で彼女の両肩をむんずと掴み揺すった。
 今年四十になったという富士子は、顔を赤らめてこう言った。
 
「やだわぁ......こんな年上相手に......」

 彼女は息を整えると何とかこう続けた。

「はい。彼女に似ている人を昔、別の職場で見たことがあって......」
「どこでですか!?」
「ソフトパークにあるタイキソフトウエアという会社です」

 ソフトパークとは県内のIT企業が集まる人工島のことだ。
 国のシリコンバレーとも呼ばれている。
 四年前の桜子は一人、そこに派遣され仕事をしていたのだろうか。

「四年前です。私はそこで経理のお手伝いをしていて、処理を自動化するマクロなんかを作ってました。安田さんに似た人を見掛けた覚えがあります。フロアが広くて遠くから見ていたから確かではありませんが......」
「話すことは無かったんですか?」
「その時は面識もありませんでしたし、仕事で関わることも無かったので......すいません。お役に立てなくて」
「いえ......いいんです。それだけでもかなりの手掛かりです」

 雄一が少し落胆したのを感じ取ったのか、富士子は付け足すようにこう言った。

「安田さんに似た人がいた島は、DFプロジェクトという名前で呼ばれていて、似ているその人も恐らくそこのメンバーだったと思います。そこで何かまあ時には大声で、偉い人や管理者らしき人に意見したり、活発に仕事していたようです」

 年長者やプロパーに意見か......
 その人物がエンジニア桜子本人なら、そういったことも当然していたかもしれない。

「ありがとうございます。栗田さん」

 雄一は自分の机の引き出しからリポビタンZを取り出し、お礼とばかりに彼女に手渡した。


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 深夜25:00。
 帰宅せず一人、システムリプレース提案書を作るための作業予定を立てていた。
 猶予は二週間。
 兎に角、時間が無い。
 EXCELを開き、やるべきことを縦に箇条書きにする。
 現行システムについて、洗い出すべきことを思いつくままに挙げて行った。

 ・サーバ構成
 ・ソフトウエア構成
 ・現状の問題点、課題
 ・業務内容のヒアリング

 現行が分かれば、問題点や課題からどういった構成が最適かを導き出せるはず。
 RFPが無いなら無いで、お客の立場でやるべきことを考え、筋道立った論理を用意すれば伝わるものが出来るはずだ。
 困難に追いやられているのに、気分が高揚している。
 そんな自分に呆れながらも、雄一はスマホを手にした。
 こんな深夜に非常識かもしれないが美穂にLINEをしたくなった。

<新山さんも仲間に入ってくれませんか?>

 福島課長、笠松、そして自分の三人で作った提案チームに美穂も加えたい。
 そういう思いが先走り、この深夜のLINEメッセージ送信と相成った。
 返事は明日の朝にでも返ってくればいい。
 自分が送信したメッセージに既読がすぐに付いた。
 その瞬間--

<りょ>

 「了解」ということか。
 それを補足するかのようにスタンプが続けて返って来た。

stamp.jpg

 こんな時間にすぐさま返事をしてくれたことも嬉しかったが、何より彼女が何も訊かずに仲間に入り一緒に提案活動に参加してくれることが雄一をして眠気を吹き飛ばすほどのテンションを与えてくれた。
 もちろん彼女の立場もあるだろうから、秘密裏のやり取り、そして情報交換になるが。
 ただ、雄一には一つ気になることが無いわけでは無い。

(福島課長と笠松さんには明日、伝えるか)

 美穂召喚はもちろんチームのことを考えてのことだが、八割は自分の欲求に基づく行動だった。
 そういったこともあり、二人に黙って美穂をチームに入れたことが多少心後ろめたかった。
 そして、事後報告というのはどうもトラブルのもとになることが多いと、過去の経験で分かっている。

(もうやっちまったもんは仕方ない)

 頭を振り、懸念を振り払う。
 提案するにあたり、検討すべきことを思い付くままに箇条書きして行く。

 ・新システムのサーバ構成
 ・新システムのソフトウエア構成
 ・可用性、信頼性、耐障害性

 この箇条書きした内容こそがWBSで言うところの大項目にあたると思った。
 「新システムのサーバ構成」を「インストールソフトウエアの選定」、「スペックの選定」といった中項目に落とし込んだ。
 さらにそこから「ORACLEのバージョン選定」、「CPUコア数決定」といったアクティビティレベルにまで落とし込んだ。
 各作業項目の横にステータス項目と担当項目を設けた。
 ステータス項目はリストにして「未着手」「着手」「完了」「保留」というようにステータスを登録した。
 その横に「開始日」、「終了日」の項目を設けて、スケジュール管理出来るようにした。
 ざっと二時間かけてWBSを完成させた雄一は、一階の自販機コーナーまで降りドリンクで一息ついた。
 インカコーラの糖分が疲れた脳みそに染み渡るようだ。

ブルルル

 胸ポケットに入れていたスマホが振動したのに気づいた。
 手に取ると電話ではなくスマホゲーム、ドラゴンファンタジーからの通知だった。
 ゲームにログインすると、こんなメッセージが表示された。

「今から一時間タイムサービス! 10連ガチャが今なら50クリスタルで出来るぞ!」

 クリスタルとはゲーム内の仮想通貨のことで、1クリスタルあたり10円である。
 つまり50クリスタルだと500円である。
 500円で10連ガチャが出来るということだ。
 通常のガチャよりもボーナスタイムのガチャは良いアイテムやキャラが手に入る確率が高い。
 そして、いつもより安い課金で10回も出来るとあっては、普段は非課金者の雄一も手を出さずにはおれなかった。

「やりてえなぁ」

 そう口中で呟くのが早いか、既にクレジットカードでの課金を数タップで済ませてしまい、早速ガチャをしまくっていた。
 一回目は暗黒魔空剣が出た。
 二回目はゴブリンおやじが出た。
 三回目はミニスライムが出た。

(くっそー弱いのばっかじゃんかよ!)

 雄一は心の中で叫んだ。
 そしてふと思い出した。

(そういえば、このドラゴンファンタジーのバックエンドで動いてる課金システムのデータベースはORACLEだって何かに書いてあったな......)

 十回目にDFソードが出た。
 このアイテムはどんな敵でも一刀両断に出来るが、使った本人は1/2の確率で死んでしまう......諸刃の剣。

(DF......)

 DFとはドラゴンファンタジーの略だと今更ながらに気付いた。
 DFプロジェクトという言葉とこのドラゴンファンタジーというゲームが雄一の頭の中で結びついた。
 雄一は階段を駆け上がり、開発室に戻った。 

(DFプロジェクト......もしも安田さんがそこにいたとしたら......そのプロジェクトで彼女が変わるキッカケがあったんだ)

 WBSを開き、一番下の行にこう書いた。

「安田桜子の秘密を突き止める」

 それは、このWBSに書かれたどの作業よりも優先されるものだ。

つづく

Comment(6)

コメント

atlan

インカコーラ、こっちでも出てきた

湯二

atlanさん。
コメントありがとうございます。


あの小説とこの小説の世界は繋がっている!?
いえ、ただの設定の使いまわしです。
しかし、この暑さでインカコーラの甘さはちょっと逆に喉が渇きますね!

レモンT

ドラゴンファンタジーと聞くとブレナンのゲームブックを(そして14番と詩的魔神を)思い出すクチですが、こちらのそれも結構ブラックな雰囲気ですねぇ(いろいろな意味で(苦笑))。

湯二

レモンTさん。
コメントありがとうございます。
ゲームブックに同じタイトルのものがあるんですね!
初めて知りました。
情報ありがとうございます。
ゲームブックは小中学生のころよく読んでました。
私の場合、ファミコンゲームが元ネタになったものが多かったですね。
この話では、某DQと某FFを合体させた名前のタイトルにしました。
今後の展開は、色んな意味で、期待してて下され。

VBA使い

痛い目見ろ!第二話のタクシーの中の淡い願いは実は叶ってたって事ですな

しかし、深夜の1時間にタイムサービスとは。

湯二

VBA使いさん。

コメントありがとうございます。


いやー、よく読んでいただいて、ありがたいですね。
まぁ、ネタバレになってしまうのでここで詳細について言及は控えますが、予想通り夢は叶っていたのでしょうね。
このゲームの運営元は、割と時間帯関係なしにイベントとかタイムサービスをやるっていう、独自というか儲かってるから出来るようなことをやってるていう設定にしています。

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