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【小説 失格のエンジニア】第八話 彼女のロジカル

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 職場には、福島課長、雄一、そして桜子。
 他には府中屋のプロジェクトを手伝ってくれている栗田という女性の派遣社員がいる。
 他の社員は常駐先や現地作業で出払っている。
 課長は雄一に説教を始めた。

「分かってるな?」
「......はい」

 二人の間にしばしの沈黙が流れた。
 カタカタと、桜子がキーボードを打つ音だけが鳴り響いている。

「お前はエンジニアなんだ。客の要望に応えてナンボの仕事だ」
「分かってますよ。分かってますとも。ただ、目白部長のあの態度は気に食わない。もうちょっと頼み方があると思います」

 雄一は昨日の目白部長とのやり取りを話した。
 自分も悪いとは思う。
 だが、謝るつもりは毛頭無い。
 障害対応でのあの自分に対する無礼な態度は、客とはいえ許しがたいものがあった。
 自分はちゃんと障害対応をやってのけた。
 それを評価もせず、頭ごなしに「こうなったのはお前のせいだ」と責任転嫁されてはたまらない。

「あの人は、私を物としてしか思っていません......」
「なるほど。お前の言い分も分かるけどな。ただ、仕事に好きも嫌いも無いだろう。目の前のことを片付けるだけ。本当にそれだけだ。そこに感情を挟んじゃいけない」

 福島課長なら味方になってくれると思った雄一は、当てが外れたことで更に苛立ちを強めた。

「なんで俺が悪者になってるんですか。悪いのは俺を利用して上手いことやろうとしている目白部長とか、オペラなんとかの奴らですよ!」
「オペラ?」

 訊き返されたことで、雄一は昨日美穂から聴いた情報を福島課長に話していないことに気付いた。

「ふぅん。そんな裏があったのか」

 事情を聴いた福島課長は手帳にそのことをメモした。

「だがな、それとこれとは別の話だ。お前はまず、客に謝らなければならない」
「嫌ですよ。謝るのはむこうです。そんなことより、課長、昨日、考えがあるとおっしゃいましたよね。それを教えてください」
「それはお前が出入り禁止になっていないことが前提だ。これから謝りに行くぞ。話はそれからだ」
「謝るのは向こうです!」
「それじゃ、お前にはもうチャンスは無いな......」

 福島課長は腕を組み、身体を逸らした。
 もう方法は無いということを雄一にアピールしているかのようだ。

「まったくもって納得出来ませんよ! 感情を振りかざして仕事することのどこが悪いんですか! いくら客だろうが嫌なものは嫌って言った方が伝わるでしょうが! こっちは昔から障害が起こるからリプレースしましょうって提案して来たんですよ。それを受け入れなかったから障害が起きるようになった。それを今更、再発防止策考えろなんて、今まで言ってきたことを聴いてたのかって話ですよ。それにコンペで散々俺をコケにして今度は次に来る業者のためにボロ雑巾になるまで使い倒そうなんて、あっちこそ私情を挟んだ依怙贔屓の感情で仕事してるじゃないっすか! こっちだってプライベートを削って対応したんだ。礼を言われこそすれクレーム付けられる筋合いなんて無いですよ!」

 一気に胸の底に溜まった澱のようなものを吐き出した。
 桜子のキーボードを打つ音が次第に大きく速くなって行く。

「お前はそうやって怒りっぽいのが玉に傷だな......」
「だから......」

タァーン!

 リターンキーを叩く音が、フロアに一際大きく鳴り響いた。

「有馬君!」

 振り返ると桜子が席から立ち上がり、雄一を見据えている。

「ちょっと来なさい!」


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 パーティションで区切られた四畳ほどミーティングスペース。
 桜子はそこに雄一を連れて行った。

「もっとロジカルに考えなさい」
「え?」

 福島課長と同じように怒鳴りつけてくるのかと思ったが、そうでもないらしい。
 その証拠に瞳には達観したかのような冷静な色を湛えていた。

「君は府中屋さんの仕事をずっとしたいんでしょ?」
「......はい」

 雄一は仕事の内容よりも先に、美穂の喜ぶ顔が頭に浮かんだ。
 そのことに自分でも驚いた。

「じゃ、しっかり謝って来なさい」
「嫌ですよ」
「だから、ロジカルに考えろって言ってるでしょっ!」

 ドン!
 と、桜子が拳で卓を叩く音が鳴り響いた。
 その音に雄一はビクついた。
 そして、彼女の顔を見た時更にビクついた。

(あの時の表情と同じだ......)

 セントライト化粧品で見せた障害対応の時の、あの厳しい表情を露わにしていた。
 だが、その表情は一瞬だけのものだった。
 彼女は一瞬目を伏せた。
 数秒経って顔を上げた時、元の総務の優しい顔に戻っていた。
 そして、雄一を真っすぐ見据え、柔らかい声で諭すようにこう言った。

「今のままじゃ君は出禁になったまま契約は解除され、行きたくない外の仕事に行かなきゃならなくなる。自分のちっぽけな意地を張り続けてたって事態は何も変わらないよ。むしろ君の望まない方向に動くことになる」

 改めてそう言われると、確かにそうだと思った。
 自分は小さいことに囚われすぎて、本当に大事なことをその手から逃そうとしているのではないか。
 頭では分かっているが自分の中にプライドみたいなものがあり、それは人から見た時、ちっぽけなものだったとしても、それを守り通すのが自分の生き方なのではないかとも思う。

「悪いけど、福島課長と君が話している内容も聴くつもりは無かったけど、全部聴こえちゃった」
「......全部です、か」
「その......裏事情的なことはもっと小さい声で言った方がいいよ。まぁ、私から言わせてもらうと君は非常に不利な立場でコンペに参加させられ利用されたようなものだよね」
「そうなんですよ。それにも腹が立ってるんです」

 雄一はやっと自分に賛同してくれるコメントが聴けて嬉しかった。

「けど、君はエンジニアなんだよ。エンジニアなら技術力で相手を打ち負かすのが筋でしょ? それが生き甲斐ってもんでしょ」
「生き甲斐......」
「仮に相手が非を認めて謝ったとしても、有馬君は別に勝ったことにはならない。本当に相手に勝ちたい、やり返したいって思うなら......今は我慢して謝って来なさい。謝りながら心の中では舌を出してればいいのよ。そして次のチャンスを作るの」

 桜子はそう言うと笑顔になった。
 総務として社員の面倒を見る時の優しい笑顔だ。
 だが言っていることは、彼女が元エンジニアだからこそ発せられた内容だ。
 雄一は何より悔しい思いを抱えたまま終わりたくなかった。
 そのためには今を耐え、出直すことが必要だった。
 桜子の言葉でそうすべきだということ、それが大切だと自分でも納得した。

「分かりました。安田さんの言う通り、謝罪します」
「うん」
「ありがとうございました」

 雄一は深々と頭を下げた。
 そして顔を上げた時、すでに桜子は席を立ち目の前から消えていた。

(勝つために、俺に力を貸してください......か......)

 彼女に発しようとした言葉を心の中で復唱した。
 まだ、何かが足りない。
 そう思った。

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「謝る気になったか」

 何かが抜け落ちサッパリとした雄一の顔を見て、福島課長は満足そうにうなずいた。

「じゃ、話そうか。私の考えていることを」

 一枚の紙を引き出しから取り出した。

「これは、うちと府中屋の保守契約書だ」

 そう言うと、雄一に契約書を差し出した。
 それを手にして一通り読み直してみる。
 作業場所、体制、期間、機密保持など小さい字で事細かに書いてある。
 関係各所への調整については府中屋主導で行うこと。
 保守については、府中屋からの申し出が無い限り半期ごとの自動更新。
 あとは、作業範囲について書かれている。
 軽微な改修は内容によるが実働工数で請求する。
 仕様変更を伴う様な改修については別途対応を協議する。
 定期的な保守対応として各サーバの稼働点検と、緊急時の障害対応がある。

「私が認識してる通りですが」

 雄一は書面から顔を上げた。

「もっとよく読んで見ろ」

 そう促され、注意深く左上から右下へと読み返してみる。
 すると、右最下段の隅の方に細かく書かれた一文が見て取れた。

「あ」


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 机の上には四つお茶が置かれている。
 その横には府中屋のお菓子が盆に乗せられ置かれている。
 どうぞご自由に取ってくださいませ。と言ったところか。
 だが、この場では流石に粉の吹く黄な粉餅は手に取れない。
 何より、この緊張した雰囲気では甘いものを手に茶話会という雰囲気でもない。
 正面には目白部長と美穂が座り、対面する形で福島課長と雄一が座っている。
 重苦しい緊張の中、先に口を開いたのは目白部長だった。

「どういうつもりですか? その人、出禁にしたんですけどね」

 雄一は自分を『その人』呼ばわりした、正面の男を睨みつけた。
 ドン、と福島課長に背中を小突かれ我に返る。
 顔の筋肉を意思の力で無理やり動かして笑顔を作り、申し訳なさそうな雰囲気を演出し頭を下げる。

「すいません、目白部長。昨日はうちの社員が迷惑をかけて。彼も反省しています。謝罪の言葉を聞いていただけないでしょうか」
「私は彼を出禁にしました。今日ここにいること自体がおかしい。出て行ってもらえませんかね」

 取り付く島も無かった。

「すいませんね」

 福島課長は道中で買ってきた『GODILA』のチョコレートの箱を机に置いた。

「こんなもので許してもらえると......」
「わあ、GODILAだ。私、これ好きなんです。いっつも餡子とかザラメばっかり扱ってるから、たまにチョコレート食べたくなるんです」

 目白部長が何か言い掛けると美穂が被せるように助け舟を出してくれた。

「この度は、私の不徳の致すところで申し訳ありませんでした。不快な思いをさせて申し訳ありません。今後は心を入れ替え誠心誠意対応させていただきます」

 雄一はその隙に謝罪した。
 考えて来た謝罪の言葉が棒読みにならないように感情を込めることに気を付けた。

「ふん、そんな上辺の言葉なら幾らでも言えるだろ。とにかく、彼は仕事を放棄したんですよ。我々が再発防止策を作る様にお願いしたのに、それは出来ないと言って帰って行った」
「すいません」

 雄一に代わって福島が頭を下げる。

「でも、事実として彼以外、障害に対応出来る人間はいませんよ。彼を外すと今後何かあった時困るのでは?」
「その時は、あなたが来て何とかしてくださいよ」
「すいません......そうしたいのですが、私は管理中心で、技術的なことからはからきし弱くて。昔はエンジニアをやってたんですがね。この年になると思い出すのに時間が掛かって......結局何か起きたらこの有馬頼るしかないんですよ......」

 親指で雄一を指し示す。

「あんたそんなこと恥ずかしげも無く客の前で言い放って、プライドは無いんか?」
「申し訳ありません。笑顔とコミュニケーションだけで生きてきたもんで」

 福島課長の本当にのらくらした掴みどころのない態度に、目白部長は腰砕けになったのか白けた顔で視線を合わせようともしなくなった。

「ところで目白部長。契約は今月までということですよね」
「ああ、あんたらみたいなのと縁が切れてせいせいするよ」

 目白部長が無表情でそう言うと、福島課長がニヤリと笑いこう答えた。

「それは簡単に出来ないですよ」
「はぁ?」

つづく 

Comment(2)

コメント

atlan

何かな? 自動更新の打ち切りするための猶予期間が設定されてて既に過ぎてしまってる・・・辺りは簡単そうだけど

湯二

atlanさん。

コメントありがとうございます。
予想通りです。
第九話で分かります。
とてもネタとしては単純です。いつもながら。。。

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