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【小説 失格のエンジニア】第七話 彼女が必要だ

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「お前ら、何やってんだ?」

 雄一はスズカ達がいる席に近づきそう言った。
 リュウジとツヨシが目を丸くし、何も言えず驚いている。

「俺の知らないところで、そんな話が進んでたのかよ。悲しいもんだぜ。始めっから俺を外して新しいドラムを入れるって言ってくれれば話も分かり易かったのによ」
「ユーイチ、違う。ちゃんと後で話そうと思ってたんだ」

 弁解しようとするリュウジを、雄一は冷たい目で見つめた。
 スズカは淡々と落ち着いた様子でアイスコーヒーをストローで啜っている。
 新メンバーのモッズスーツ氏はつまらなそうな顔をして雄一を見ている。

「何が後でだ! 今話せよ!」

 怒りに燃えた雄一は、言い訳しようとしたリュウジを一喝した。

「さっきも話したでしょ? あんたと私たちが合わなくなっただけ」

 スズカにそう言われた雄一は反論しようとした。
 その時、モッズスーツの男がしゃべりだした。

「リズムキープもロクに出来てないドラムにメンバーが付いて来る訳ないっしょ」
「あぁ!?」
「君さぁ、自分の立場分かってる? メンバーを今の状態そして、こんな決断させたのは君のせいなんだよ。メンバー達も君に気を使って疑似解散って言う形を取ったんだ。そこを分かってやれよ」

 無表情で淡々と話すその男を見ていると、一人熱くなっている自分がバカのように思えて来た。
 そして、そう思ったことで余計に自分の怒りに火が注がれた。

「お前は一体何なんだよ? まず名乗れよ!」

 タン、とアイスコーヒーのグラスを置いたスズカが、キッと視線を雄一に向けてこう言った。

「この人は、あなたと違って私たちとプロを目指してくれるのよ。私たちと音楽性も合うしね」

 メンバー間で考え方のずれが起き、それに気づかなかった雄一だけが取り残されていた。
 店の入り口付近では、事情が分からない美穂が不安そうにこちらの様子を見ている。

 
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 大切なものが次々とはぎ取られて行く。
 仕事は奪われるし、バンドメンバーまで奪われた。

(畜生......)

「大丈夫ですか?」

 目の前でコーヒーカップを持った美穂が心配そうに尋ねて来た。
 黙ったまま考え込んでいる雄一を覗き込むように見ている。
 元バンドメンバーと別れた雄一は、彼女と二人でライブハウス近くのコメダワラ珈琲店に来ていた。

「ライブ、カッコ良かったです! 特に有馬さんのドラム。ラウドで胸に響きました!」
「あ......ありがとうございます」
「ラストの『爆進王』って曲、スピード感があって......もしCDあれば買います」
「分かりました。今度焼いておきます」

 美穂はライブの興奮が冷めやらないのか、いつもよりハイテンションで話している。
 さっきの雄一の様子を見て、若干気を使ってくれているのかもしれない。
 雄一としては今日のライブはとてもお見せ出来るレベルの代物では無かったが、彼女にとっては満足のいく出来だったようだ。
 それはそれでいいのだが......

「次のライブはいつなんですか!?」

 そう問われて雄一は口をつぐんでしまった。

(言いづらいなぁ......)

 キングジョージは今日のライブをもって解散した。
 いや、正確には雄一がクビにされただけだが。

「ごめん。新山さん。俺はバンドをクビになったんだ」

 応援してくれる彼女には申し訳ないが雄一の中で、バンドは終わったのだ。
 恐らく落胆したであろう彼女の表情を見るのが辛く、しばし卓の上のコーヒーに映り込んだ蛍光灯の明かりを見つめていた。

「大丈夫ですよ」

 雄一はその言葉に反応して顔を上げた。
 目の前の彼女はショートボブの髪を揺らし、にっこりと笑っている。

「きっと、有馬さんのドラムに引き寄せられて戻ってきます。だってあんなに素晴らしいドラムが叩けるんだから。それと......」
「それと?」
「仕事もきっと取り返せますよ」

 美穂はコーヒーを一口すすると、笑顔が消えスッと真顔になった。

「私が知っていることをお話ししますね」

 コーヒーカップをソーサーの上にカチャリと置き、話し始めた。

「あのコンペは出来レースです」
「え?」

 雄一の大きな声のせいで周りの客が一斉に二人の方を振り向いた。
 美穂は構わず続けた。

「最初から竹芝システムが勝つと決まっていました」
「な......なんで?」

 それなら、始めから自分たちをコンペなどに呼ばず竹芝システムの提案発表会とすればよかったのに。
 何故手間の掛かることをしたのか。

「有馬さんの会社がコンペに負けたのは、府中屋の政治的な話が絡んでいます」
「政治的......?」
「府中屋は『オペラキャピタル』という会社から出資を受けています。そして事業の支援や業務改善のコンサルティングもその会社にお願いしているんです」
「はぁ......」

 オペラキャピタルという名前、どこかで聴いたことがある。

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「何でもオペラキャピタルさんの言うことばっかり聴いてちゃだめですよ」
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 昨日のコンペで府中屋の副社長がその名前を言っていた。
 府中屋はオペラキャピタルの言いなりなのか?
 それとコンペが出来レースとの間に関係があるのか。
 雄一は話に着いて行けない。

「で、うちの社長を含め役員連中はその会社に頭が上がらないんですよ」
「ちょ......ちょっと待ってください! それと弊社が負けたことに何かつながりがあるんですか?」

 話が見えてこない雄一は、美穂に結論を促した。

「すいません。結論から言った方がいいですね。オペラキャピタルが有馬さんの会社を切る様に、うちの会社の上層部に指示したんです」
「な......なんで!?」

 なぜ、ステイヤーシステムと関わったことも無い会社が邪魔をするのか?

「昨日のコンペの相手である竹芝システムがどんな会社か知っていますか?」
「いえ、あまり良く知りません。昨日、初めて存在を知りました」
「有馬さんと同じIT業界の会社なんですけど、創立が半年前ですからね。知らないのも無理はありませんね」
「その会社がどうかしたんですか?」
「竹芝システムは、オペラキャピタルが投資している会社なんです」

 雄一は混乱しつつも、頭の中でパズルのピースがはまっていくのを感じた。

「つまり......その、オペラキャピタルが自分たちの利益のために私たちを切り捨てて、新しく竹芝システムを入れるように指示したんですか?」

 美穂は頷いた。
 要は内輪で仕事を回し合って儲けを確保しましょうという事か。

「全てはオペラキャピタルが私腹を肥やすためです」

 美穂は溜息をついた。
 府中屋は株式上場を目指しているのだそうだ。
 その準備として業績拡大と上場準備を進めるためにオペラキャピタルから支援を受けている。
 だが、外からの資本が入るということは結果的に社内の意見が弱まるということになる。
 府中屋の上層部は言われるがままに、システム業者をステイヤーシステムから竹芝システムに乗り換えたのだろう。

「あのコンペは、言ってしまえば竹芝システムの発表会みたいなものです。目白部長は、そこに有馬さんを当て馬として参加させたんです」
「当て馬?」
「システム業者を変えることを反対している役員を黙らせるために、今の業者、つまり有馬さんが如何に無能かを分からせるために敢えてコンペに参加させたんです」

 そう言われると確かにそうだと思った。
 出席者のほとんどは雄一のプレゼンに耳を傾けてはいなかった。
 反対に新堀のプレゼンには真剣に耳を傾けていた。
 質疑応答にしても雄一には辛辣で回答困難な質問がぶつけられたが、新堀に対しては質問というより前向きな確認という風情が漂っていた。
 何より雄一はシステムの要求が変わったことなど事前に知らされてもいなかったから、その準備だって出来ていなかった。

(俺は言いように利用されたってわけかい?)

 コケにされたことが分かり、怒りが全身を駆け巡った。
 そして、雄一は自分の知らない所で話が決まり、何の努力もしていない横から来た輩が自分の仕事を奪っていくことに憤りを覚えた。
 その理不尽さは、知らない間に自分を切り捨てたバンドメンバーの姿とも重なった。

「笠松部長は有馬さんたちと契約を継続しようと主張したことが原因で外されてしまいました」

 雄一は気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを一口飲んだ。

「あの目白部長というのはもしかして......?」
「オペラキャピタルから出向してきた人です」

 やっぱりな。
 事情が分かると、目白部長のあの苛つく態度にも合点がいった。
 自分たちを排除しようとしているのだ。
 排除しながらも残り三週間で使えるだけ使い倒そうとしている。
 それは定時後に呼び出し超特急で障害対応させようとしたことからも分かるし、その後すぐに防止策まで作らせようとしたことからも分かる。
 カスしか出なくなるまで絞り出せるだけ絞り出して、後から来る竹芝システムに同じことをさせる手間を取らせたくないのだろう。

(さすが投資会社。金の価値をよく分かってるだけのことはあるぜ。コストの考え方が出来すぎてて、反吐がでらぁ)

 雄一は心の中で悪態を吐いた。

「有馬さん」
「はい」
「オペラキャピタルと竹芝は自分たちが儲けるために高価なシステムを提案していますが、それを反対している役員もいます。だから......こんな状況ですが、勝機はあります」

 雄一は黙ってうなずいた。
 そうだ。
 このまま黙ってはいられない。
 だが、良い策が今は思い付かない。

「私が話したっていうのは、内密にお願いします」

 美穂は唇のところに人差し指をあてて微笑んだ。

「もちろんです」

 雄一はしっかりと頷いた。

「でも、この情報自体をどう扱うかはお任せします」
「......なるほど」
「頑張ってください! 私は今までの府中屋が大好きでした。そして......」

 思い切ったように彼女はこう言った。

「有馬さんとずっと働きたいですから」


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 何としても彼女の力が必要だと思った。
 そう、安田桜子の。
 エンジニアとしての彼女がチームに加われば、この不利な状況から一気に巻き返しを図ることが出来るはずだ。
 まずは、チャンスをもう一度作らなければならない。
 明日、福島課長に相談だ。

 美穂と別れた雄一は、興奮を抑えるために深夜の街を一人あてども無く歩いていた。

(この貸しはキッチリ払ってもらうからな)

 満月を見上げそう決心した。


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 翌日--

 出社してすぐに端末の前に座り、グループウェアを起動するのが雄一の日課だ。
 新着メールの通知を確認しメーラーから受信したメールを開封する。

「To ステイヤーシステム 福島課長

 お世話になります、府中屋の目白です。

 先日、御社担当の方から不快な対応を受けました。
 つきましては、別の担当者をお願いいたします。

 以上 よろしくお願いいたします。」

 目白部長からクレームメールだった。
 CCには社長と雄一のアドレスが記載されている。

(くそっ......)

 確かにキツイ捨て台詞を吐いて出て行った自分も悪い。
 だが、それよりも目白部長の憎らしい態度は失礼だと思ったし、何より美穂から聞いた裏話を鑑みると謝る気にもなれなかった。

「おい、有馬」

 案の定、福島課長に呼ばれた。


つづく

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おまけ1

『爆進王』

作詞:ユーイチ
作曲・編曲:キングジョージ
BPM:210

定時に向けて爆進。
もう誰も止められない。
そう、俺は定時カッキリに帰ると決めている。
誰が何と言おうと、周りの雰囲気がどうであろうと、自分の仕事が終われば真っすぐ家に帰る。
そのために、日中は我武者羅だ。

俺は立ったまま会議に出席する。
他のメンバーは座っている。
立ったままの方が眠くならないし終わった後、すぐ次の行動に移れる。
笑いたければ笑えばいい。

俺は決まった作業は自動化する。
どんなイレギュラーなパターンもバッチに落とし込んで自動化する。
流しっぱなしで、自分は脳みそを使う仕事を並行で行う。
せっかちだと思うなら思えばいい。

俺はやらないでいいことから先に考える。
普通はやることから考える。
それだと際限がない。
いつの間にか、やること探しがやりたいこと探しにすり替わっている。
やらないでいいことから探せば、やるべきと思っていたことが実はやらなくていいことだと分かる。
本当にやるべきことだけやる。
これぞ時短。
変っていると思うなら思えばいい。

俺は明日やればいいことは明日やる。

俺はそれが得意なやつに仕事を振る。
そのために、丁寧に頼み、しっかりと礼を言う。

意外だと思うかもしれないが、俺は飲み会の幹事は率先して行う。
イニシアティブは俺が握る。
時間制限のある店を選ぶ。
リーズナブルな店を選ぶ。
二次会はしない。
その決定権を握るために、俺がやる。

全ては俺を待ってる息子、娘、そして嫁のために。

俺は家に帰ったら子供と風呂に入ってゲームをする。
嫁の肩を揉む。
だから、余計な会議は入れてくれるな。

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おまけ2

キャラクタートレーディングカード「美穂」

meidokoori.jpg

このクソ暑い中、店員が足りないからといって、海の家支店でメイドの恰好で接客させられているの図。

Comment(2)

コメント

VBA使い

「分かりました今度焼いておきます」
→ 。が抜けてる?


(この借りはキッチリ払ってもらうからな)
→雄一の立場から言うと、貸し かな?


前シーズンの最終話で、せっかくドラムが乱れなくなったのをメンバーに認めてもらったのに、残念。

湯二

VBA使いさん。
いつもコメントありがとうございます。
修正しておきました。

貸しと借りを良く間違うんですよね。。。
肝心なところなのに。。。

前シーズンをちゃんと読んでくれてありがとうございます。
精神的に参るとリズムキープが出来なくなるんですよ。
メンタル弱い。

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