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【小説 エンジニアの事故記録】第四十一話 迷探偵

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「吉田課長がどうしても来てくれって言うもんでな......」

 コンビニのビニール袋を片手に、小山は戻って来た。

「みんな腹が減ってると思ってな......」

 袋からサンドイッチや缶コーヒーを取り出した。
 みんな礼を言いながらそれを受け取っていく。

「小山君、ありがとう。やっぱり、私たちのこと気にしてくれてたんだ」

 渚沙が目をキラキラさせながら缶コーヒーを手にした。
 目を潤ませ声を詰まらせている。
 二人の様子を見た幸一郎はこう思った。

(くっ......こいつ......吉田課長に呼ばれることを想定して、この近くで待機してやがったな)

 そうでもなければ、こんな差し入れ買ってる暇なんて無い。
 小山はみんなに囲まれて満足げだ。
 依然として予断を許さない状況だが彼が来てくれただけで、みんなどこかホッとしているようだ。
 毛利だけは一人、その輪に入らず外に出て行った。
 小山はリーダー選挙では吉田課長との勝負に負けた。
 そしてプロジェクトから外されたのに、今こうして呼び戻され皆に歓迎されている。

(小山、お前の勝ちだな)

 幸一郎はそう思った。

(最初からこうなるように仕組んでいたんだ)

 渚沙と楽しそうに話す小山を見ながら、幸一郎は色々と推理していた。
 わざと選挙に落選したのはプロジェクトから外れるためだ。
 彼がいないこの短い間に数々の事故が起きた。
 みんな吉田課長の怠慢と、小山が外れたことが原因だと口にするようになった。
 小山は自分の存在をプロジェクトから離れることでアピールすることに成功した。
 その間、本社に戻った小山は赤江課長に『魔の端末』や隠し玉である『ダンプファイル』のことを話したのだろう。
 それを知った赤江課長は今回の事故を計画し、ベルルーノプロジェクトを乗っ取ろうとしたのだ。

(僕だってバカじゃないぞ......)

 幸一郎は自分の推理を深めて行った。
 小山にとっては案の定というか、吉田課長からのヘルプが来た。
 彼はそれに応える形でこの場に現れたのだ。
 全てはこの男の自作自演なのだという確信が深まって行った。

(だが、一つ分からないことがある......)

 幸一郎と小山の秘密である『バッチ殺し』を赤江課長に密告したのは誰か?
 赤江課長はこの秘密をネタに幸一郎をゆすった。

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「一週間後の月曜日、職場を休むだけで良い。それで黙っておく」
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 幸一郎をわざわざ休ませ石川もいない間、つまりDBAが不在の状況を作り出し事故を起こそうとしたのだ。

(いったい誰が......)

 その時、吉田課長がスマホ片手に戻って来た。
 小山をチラと見た後、幸一郎の方を向いてこう言った。

「君に相棒がいれば何とかなると思ってな」

 吉田課長にとって小山は面倒くさい目の上のたん瘤だったはずだ。
 だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
 仕事だと割り切って、一度切り捨てた者を呼び寄せたのだ。

「課長、私は大竹をサポートします」

 小山はそう言うと、幸一郎の横に座った。
 他のメンバーは大机のところに戻った。
 業務確認についての話し合いを再開させている。

「じゃ、またよろしく頼むよ」

 小山を見て、幸一郎は思った。

(お前の思い通りになったな)

 訊きたいことは沢山あるが、今は目の前のインポートを終わらせるのが先だ。

「インポート速くしろよ」

 間に合わないと感づいてから五分ほど経過していた。
 その間にインポートが劇的に進んでいたか......というとそうでもない。
 未だに同じペースだ。
 やはり何か対策を施さなければならない。

「そう言われても......」
「それを考えるのがお前の仕事だろ? ほら、こうしてる間にも時間が過ぎて行くぞ」

 小山は時計を見ながらそう言った。

「ほれ」

 そう言うと、小山はインポートを強制終了させた。

「あ! なにすんだ!」

 幸一郎は目を丸くして驚いた。

「やり直せ」
「え!?」
「どっちにしても今のままじゃ間に合わないだろ? それに......」
「それに?」
「インポート中に裏で実行されているバッチを停めてないだろ」
「あ」

 バッチという一言で我に返った。
 誰しもが復旧させることばかり考えていて、この時間帯に流れているバッチのことを忘れていた。
 インポート中、データベースのデータは中途半端な状態だ。
 そんな状態を参照して処理するバッチがあったとする。
 そのバッチが出力するファイルなりデータは不正な物ばかりだ。

「まったく。お粗末なもんだぜ。本番作業をするときは裏で流れてるバッチを停めるかどうかまず検討するだろ? どんだけ状況に飲まれてんだよ」

 小山は吉田課長に聞こえるような大きな声でそう言った。

「まあ、今回はデータを復旧した後、バッチは再実行する必要があるな」

 そして、業務メンバーが打ち合わせをしているところへツカツカと歩いて行った。

「ちょっと水谷を借りますぜ」

 吉田課長の許可無く、小山は渚沙の手首を掴んで端末のところまで引き摺って行った。

「ちょ......ちょっとぉ! 何すんのよ!」

 と、彼女は口では拒否しながらも小山の力に逆らうこと無く付いて行った。

「時間が無いから、この三人で協力してやるぞ!」

 インポートを仕切り直すと判断した小山は渚沙に作業を指示した。

「水谷は今晩から明日の朝まで実行されるバッチを調査して、それが実行されないように停止してくれ」
「分かった」

 渚沙は大きく頷いた。

「俺は業務動作確認を早く終わらせる方法を考える。大竹はどうやったらインポートを速く出来るか考えてくれ」
「は......速くって......」

 そう言い残すと小山は打合せの場に戻って行った。

「端末、借りるね」

 渚沙は端末から本番環境にアクセスし、cronに登録されているバッチを確認している。
 小山は数歩先で業務の確認方法をホワイトボードに記しながら説明をしている。
 驚いたことに吉田課長がそれを素直に聴いている。
 幸一郎はその様子を見て思った。
 
(本当にお前の思う通りになったな......)

 渚沙はcron登録されているバッチをコメント化している。
 小山の方も話がまとまりそうな気配だ。

(くっ......どうやったらインポートは速くなるんだ)

 幸一郎は頭を抱え込んだ。
 だが、こうしている間にも時間は過ぎて行く。
 全てはDBAである自分に掛かっている。
 小山が様子を見に戻って来た。

「こうやって皆で作業すると、やっぱ早いね」

 渚沙が楽しそうに小山に語り掛けた。
 こんな状況でも仕事が楽しいのは、やはり好きな人と一緒に仕事が出来てるからなのか?

「思い付いたか?」

 小山がニヤリと笑い問い掛けて来た。

「い、いや、まだだ......」

 周りが進んでいるのに、自分は停滞しているのが嫌になる。

「ゆっくり考えろ。時間はある」

 そう言うと椅子に座り、背もたれにもたれた。
 彼は吉田課長のように幸一郎を急かすでもなく、余裕のある態度で接してくる。
 楽しそうに渚沙と雑談し始めた。

「こうやって皆で協力するとやっぱり早く仕事が進むよね」
「ああ、一人で抱え込むより皆で共有したほうが断然効率がいい」
「吉田課長も小山君の言うこと聴いてたね」
「あの人も一人じゃ心細かったんだろ」

(楽しそう会話しやがって......)

 二人の会話を幸一郎は嫉妬しながら聴いていた。

「小山君、もしかしたらプロジェクトに戻れるんじゃない?」
「どうかな? それは大竹の頑張り次第なんじゃないか」
「大竹君! 頑張って。君がデータを時間までに復旧出来たら、また小山君と私と君の三人で仕事が出来るよ」

(三人......)

「会社は違うけど、君は私たちの同期みたいなもんだよ」

 渚沙の言葉が幸一郎の胸にジーンと沁みて行った。
 新卒で就職出来なかった幸一郎は、専門学校卒業後、数カ月経ってで今の会社に入った。
 そこには同期という者はいなかった。
 小企業であるニッポーシステムズは体力が無く、一括に人を採用することが出来なかったのだ。
 世間でよく聞く入社式や同期との研修なども無く、思い描いていた社会人生活との違いに戸惑った。
 やがて、派遣で職場を転々とする日々を経るにつれ、同じ年齢の仲間は必要無いと思うようになっていった。
 あんなものは気休めの傷のなめ合いをするだけの集団だと思うことにした。
 だが、心の中ではいつも寂しさを抱えていた。
 派遣先のプロパーが同期同士で飲みに行くところを見た時。
 仲良く連れ立って部会とやらに行くのを見た時。
 同期同士で付き合いだして結婚したのを見た時。
 彼らが助け合っているのを見た時。
 幸一郎は自分が孤独であることを自覚した。
 そして、欲していた。
 そんな幸一郎を渚沙は同期と認めてくれた。
 そう言えば、彼女はさっきからずっと自分を助けてくれている。
 そんな渚沙の優しさが、乾きり、ひび割れた幸一郎の心に溶け込んで行った。
 改めて彼女の顔を見た。
 小さな顔の真ん中にある、大きな黒い瞳に吸い込まれそうになった。

「あなたが好きです」

 気が付いたら、その言葉を発していた。
 場違いなことに後で気付いた。
 一回振られていることすらも忘れていた。
 渚沙は戸惑っているのか、小山の方を何度も見ている。

「水谷、大竹がこの試練を乗り切ったら付き合ってやれよ。こんなにもしつこく想ってくれてるやつは、なかなかいないぜ」

 小山が渚沙にそう言ったのを聴き逃さなかった。
 彼女の眼もとには光るものが見えた。

「......分かった」

 俯いたまま絞り出すような声でそう言った。
 渚沙としては小山にそう言われたことで、完全に振られたのだと再認識したのだろう。
 この場を乗り切るためには不本意とはいえ、だが、一途に愛してくれる男を選んだという事か。
 そんな彼女の葛藤を幸一郎は知る由も無かった。
 ただ単純に、OKの返事と受け止めた。
 そして、猛烈にやる気が湧いて来た。

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「上手く行けば、水谷がお前に惚れ直すかもしれん」
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 かつて小山はそう言っていたが、この試練に立ち向かうことで本当にその通りになった。
 と、恋愛については初心者な幸一郎はそう思った。

(そうか! 小山は僕と水谷さんをくっつけるために、この事故を起こしてくれたんだ!)

 小山だって渚沙のことが好きなはずだ。
 そんな彼は、やはり未だに幸一郎へ借りを返すことを考えていたのだ。
 怪我をさせ空手を諦めさせたことをずっと心に抱えていたのだ。
 幸一郎は小山のことをキラキラした瞳で見つめた。

「気持ち悪りぃな。じろじろ見るな」

つづく

※GW前後の掲載予定は以下の通りです。
 4/27(金) 第四十二話
 5/1(火) 第四十三話
 5/8(火) 第四十四話
 5/11(金) 最終話

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