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【小説 愛しのマリナ】第二十九話 面談に行こう!その2

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 真里菜が慶太の所属していた縁天プロジェクトに配属されたのは、それから数日後のことである。
 ブレインズ情報システム側からインフラチームの人員が必要とのことで、ダイナ情報サービスに打診があり今回の採用になった。
 社長の生島はお人好しであったため、慶太のことをペナルティと考え、ほぼ無償で真里菜を差し出した形になった。
 本来なら、不祥事を起こした協力会社の社員を雇うことは無いことなのだが、森本の実績があまりに高いので、慶太のことは目をつむることになった。
 森本と同じ会社の社員なら、同等の実力があると思われたのだ。
 真里菜も丁度、前のプロジェクトがタイミングよく完了していた。
 採用面談に臨んだ真里菜がまず驚いたのが、ブレインズ情報システムの社員と伴に森本が同席していたことである。

「上田さん、久しぶりですね」
「久しぶりね」

 真里菜は森本の変わりよう驚いた。
 髪はキチンと切り揃えられて、服装もちゃんとしている。
 以前のように袖に墨や、スクリーントーンが付いていない。
 漫画は完全に諦めたのだろうか。
 ちなみに、今回の面談では社長は同席していない。
 用事があるとかで後日、金の話だけをしに来るそうだ。

「二人は一緒に仕事したことがあるそうですね」

 これが慶太が言っていた久米か、と真里菜は思った。

「大丈夫ですよ。上田さんはしっかりしているから。こちらからあれこれ言わなくてもちゃんとやってくれます」

 真里菜は、あの森本がこんなことを言うようになったのかと、さらに驚いた。
 あれほどやる気が無かったのに、今ではこのプロジェクトの中心的な立場として、協力会社の採用面談にまで顔を出すようになっている。

「申し遅れました。私は開発チームリーダーの久米と言います」

 この男が保守端末に細工をして、荒川に事故を引き起こさせた張本人なのだろうか。
 そして、慶太はその巻き添えを食ったのだろう。
 森本はそのことを知らないのか、久米リーダーの側近のような形で面談に参加している。

「上田さんにはインフラチームに所属してもらって、DAOの作成やデータベースのメンテナンスを行ってもらいたいのです。あと、新しく来るデータベースサーバの構築もお願いします。まあ、DBAみたいな仕事ですよ」
「はい」
「丁度、データベースの担当が契約の関係で抜けてしまって困ってたんです。そこで森本君が、上田さんを紹介してくださって。本当に助かっています」

 久米は丁寧な話し方だった。
 紳士的である。
 それが却って、人を罠にはめるようなことをするか? という疑問を抱かせる。

「森本君のお陰で、プロジェクトもだいぶ落ち着いてきて、そんなに忙しくはないはずですので、安心してください」

 久米は森本の活躍ぶりを、ざっくりと話してくれた。
 要件定義がはっきりせず、設計の変更が次々起きて、それが開発の工数に影響を与えたことについては、大分改善されていた。
 その理由として森本が毎回、お客との設計の打ち合わせに参加するようになったことも要因の一つだった。
 森本は、客の要望を聞き、技術的に出来ることと出来ないことをその場でハッキリと、客が納得できる形で回答していた。
 そのせいで不要な作業がそぎ落とされ、開発メンバーが疲弊することは無くなった。
 また、共通部品の整備やメンバーが躓いたところを全て対応してくれるので、開発のボトルネックが無くなり、皆、定時で帰っているとのことだった。

「私のやり方に口出しする人もいたけど、これだけの実績を見て、口出ししなくなったし、皆ハッピーですよ」

 久米は森本をべた褒めした。
 まさに、森本様様であった。
 もしも、明日、森本が交通事故にでもあったらこのプロジェクトはどうなるのであろうか?
 久米の話し振りから、それくらい森本頼み感が伝わって来た。

(慶太君に、今の森本君を見せてあげたかったな......)

 今、きっと一人で落ち込んでいる慶太は、何を思っているのだろうか、真里菜はそう思った。

「じゃ、明日からお願いしますね」

 久米はそう言って、面談は終わらせた。


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「森本君!」

 真里菜は面談が終わった後、開発室に戻ろうとする森本を呼び止めた。

「何ですか?」

 その昔、一緒に仕事した時と比べて、やはり雰囲気が違うと思った。
 やる気漲る精悍な顔をしている。
 この仕事は腰掛けですから。とかそう言う適当さが無くなっている。

「仕事は楽しい?」
「何ですか? 突然?」

 唐突に、仕事が楽しいかと訊かれた森本はこう答えた。

「そうですね。楽しくやってます。目の前で作ったものが思い通り動くのを見るのが楽しい。それを喜んでくれるお客さんの顔を見るのが嬉しい」

 森本は照れ臭そうに答えた。

「良かった」

(慶太君、後悔しなくていいんだよ......)

 真里菜はその様子を見て、安心した。


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 翌日から真里菜はインフラチームの一員として、六階開発サーバ室に他のインフラメンバーと共に仕事をすることになった。
 自分用の端末を与えられた真里菜は、必要なソフトをインストールし作業に備えていた。
 必要なソフトと言ってもEXCELとエディタくらいのもので、後は開発サーバに接続できるように設定するくらいである。
 DAOを作成するマシンは専用のものがあるので、それで作ることになる。
 設計変更が落ち着いたとは言え、テーブル変更は一日あたり二、三回ほどある。
 結合テストの不具合や、仕様漏れでテーブル変更が発生する。
 DAO作成作業は手順書があるので慣れたら簡単だった。
 DDLは変更したテーブル設計書を、EXCELマクロに食わせれば自動生成してくれる。
 データベースエンジニアとして採用された真里菜は、忙しいと思って臨んでいた分、若干拍子抜けしていた。

「開発と結合テストの最初の頃は、テーブル変更沢山来てたんですけどね。今は落ち着いてますね。きっと、森本さんと久米さんが上手いことやってるんでしょう」

 インフラチームでネットワークを担当している吉井がそう教えてくれた。
 彼は、真里菜と同じようにブレインズ情報システムに外注として入り、プロジェクトに参画している。
 三十代前半と言った感じの男だった。

「忙しくない時に入れてよかったです」

 真里菜は冗談っぽく笑って言うと、端末に向き直った。

「上田さん、内線二番に久米さんから電話です」

 吉井が取り次いでくれた。

「はい」

 何の用だろうと思いながら受話器を取ると、電話の向こうにいる久米はこう答えた。

「今からプロジェクト教育をしますんで、四階の会議室に来て下さい」

 新規に参画した者は、プロジェクトについての決まりやセキュリティについての教育を一時間ほど受ける義務があった。
 その教育担当が久米なのである。


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「......と言うことで、パスカードを無くしたらすぐに連絡をしてください。セキュリティについては以上です。次は......本番環境で作業ミスした場合についてお話しします」

 久米はおもむろにA4用紙を真里菜に差し出した。
 そこにはこう書かれていた。

「本番環境と教育環境取り違え事故調査」

(慶太君が、巻き込まれた事件だわ)

 真里菜はそう思った。

「作業者Aと確認者Bは12月7日 17:30、教育環境データのメンテナンス作業を行った。
 だが、接続先の確認を怠り、自分たちが本番環境に接続されていることに気付かず、そのままデータメンテナンスを行った。
 結果、本番環境のデータが破壊され、顧客に迷惑を掛けた。
 そして、確認者Bが作業者Aの意見を聞かずに独断でリカバリを行った。
 問題なくリカバリは完了した。
 しかし、リカバリが失敗した場合の二次被害について想定がされていなかった。
 本来なら上長、顧客に報告し、指示を仰ぐべきである。
 上記のことからも、Bが独断で行ったリカバリは問題であり処分されるべきである」

 Aは荒川であり、Bは慶太なのだろう。
 やはり慶太は身代わりにされたのだなと、真里菜は思った。
 久米は文書を読み上げると、顔を上げこう言った。

「上田さんはインフラチームだから本番環境に触れることが多いと思います。だから、特に注意してください。不測の事態が起きた場合、決して独断で処理しないこと」

(お前が言ってんじゃねえよ)

 真里菜は心の中で悪態を吐いた。

「キーンコーンカーンコーン」

 昼十二時のチャイムが鳴った。
 丁度、セキュリティ教育が終わったところだ。
 森本とお昼の約束をしていた真里菜は、席を立った。


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「森本君のお陰で何とか入り込めたわ。ありがとう」

 真里菜は駅前のエムドナルドバーガーで、森本と向かい合っていた。
 机には二人分のチーズバーガーセットが置いてある。
 森本の口利きで、真里菜はこのプロジェクトに潜入することが出来た。
 もちろん、慶太の無罪をを証明するために。

「いえ、奢ってくれてありがとうございます」

 森本は礼を言うと、こう訊いて来た。

「証拠は見つかりそうですか?」
「今、色々資料見てるの。まだ決定的なのものは見つかってないわ」
「久米さんを疑ってるんですよね」
「......うん」

 真里菜は複雑な気持ちになった。
 今、森本は久米と上手くやりながら仕事をしている。
 その久米の悪行を、真里菜は今調べているのである。
 それが白日の下にさらされたら、久米が居なくなることになる。
 すると、森本にも不利益があるのではないか。

「僕は言われたことだけやりますんで、何かあれば言ってください」

 あくまで、森本は中立を装うスタンスのようだ。
 言われたことだけをやるということは、真里菜が何か頼めばやってくれるのだろう。

「まあ、大沢さんが会社を首になるのは寂しいと思ってるんで」

 森本は、そう付け加えた。
 こいつは協力してくれるだろう、真里菜はそう思った。

つづく

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