常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 愛しのマリナ】第二十三話 何でも屋さん

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 結合テスト二日目。
 森本と堀井の機能を中心にテストを行うスケジュールになっていた。
 堀井の担当する会員情報登録画面から入力した会員情報を、森本が担当する参照画面で表示出来るかどうかを確認する。
 特徴的なのは、参照画面が二種類あることである。
 一つは縁天社員が参照する用で、会員の情報の他に活動期間や会員種別などの事務的な情報を含んだもの。
 もう一つは会員が参照する用で、こちらは上記の事務的な情報を省いたものになる。

 結合テストからは、インフラチームが用意した開発サーバを使用する。
 結合テスト用のアプリケーションサーバには、業務チームが自らプログラムをデプロイ済みである。
 そのアプリケーションサーバから、結合テスト用のデータベースサーバに接続しテストデータを取得する。

「昨日のうちにテスト用の会員データを作成しました」

 堀井はそう言うと、森本の机に付箋を貼り付けた。
 そこには、テスト用の会員データの会員番号が書かれていた。
 森本は結合テスト環境に接続できる端末まで移動し、自分が作った会員情報参照画面を表示した。
 堀井に教えてもらったその番号を、会員番号入力欄に打ち込み検索ボタンを押下した。

「該当データはありません」

 森本は画面に表示されたそのメッセージを、無言で堀井に指し示した。

「え? 何で? 昨日ちゃんとデータを登録したのに......」
「そっすか」

 森本は慌てふためく堀井をしり目に、TeraTermを起動し結合テスト用のアプリケーションサーバにログインした。
 そしてtnsnames.oraを探し当てると、それをviコマンドで開いた。

「見て下さい。ここ......」
「え?」

 森本が指示した先にはIPアドレス(XXX.XXX.XXX.XXXの部分)が記載されていた。

■tnsnames.oraの中身
ENDB_IT =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = XXX.XXX.XXX.XXX)(PORT = 1521))
)
(CONNECT_DATA =
(SID = ENDB_IT)
)
)

 だが、堀井にはそれが何を意味しているか分からなかった。

「やって見せたほうが早そうですね」

 堀井が理解できず、あたふたしているのをよそに、森本はそのIPアドレスをYYY.YYY.YYY.YYYと書き換えた。
 変更したtnsnames.oraを保存して、viエディタを終了させる。
 もう一度、会員情報参照画面を表示させ、同じ番号を会員番号入力欄に打ち込んだ。
 そして、検索ボタンを押下した。

「あっ......」

 堀井が驚きの声を上げた。
 表示されなかった会員情報が、今度は表示された。

「tnsnames.oraに書いてあるデータベースサーバのIPが、結合テスト用のデータベースサーバとは別のサーバのものになっていたのが原因ですね」
「えっ......? どういうことですか?」
「開発用のデータベース設計書を見たら分かりますよ。昨日、堀井さんがデータを仕込んだ後、理由は分からないけどインフラチームがこっそりtnsnames.oraを変更したんじゃないんですか?」

 森本は今いちピンときていない堀井を見て、裏紙に図を描いて説明した。

裏紙.JPG

「なるほど......」
「プログラムの中でデータベースにOCI接続するとき、ENDB_ITっていう接続識別子指定してるでしょ。それが、tnsnames.oraに書いてあるENDB_ITと紐づいてるんですよ」

 森本は内線電話で結合テスト用アプリケーションサーバのtnsnames.oraについて、インフラチームに確認した。

「昨日、tnsnames.oraを修正して色々試してたみたいですね。別の開発データベースに接続される設定が残ったままなのを元に戻すのを忘れて帰ってたみたいです。迷惑な話ですよね」
「すごいですね! データベースも分かるんですね! 森本さん何でも出来るなんて素晴らしいわ」

 冷静に物事を処理している森本を、堀井が羨望のまなざしで見ている。
 何事も冷静に対処していく森本に憧れを抱き始めているようだ。

 そして、森本のその対応を見て、慶太は閃いた。
 
(そうか、tnsnames.oraか! これが変えられていたから本番データベースに接続されたんだ!)

「森本! ありがとうな!」
「は?」

 突然、慶太に礼を言われ森本は目が点になった。

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 荒川は午後を過ぎた頃、体調不良と称して帰宅した。

 リーダーの荒川がいなくても、森本の圧倒的な能力で仕事は順調に進んだ。
 登録のところで発生したバグは、堀井があたふたしているすきに森本がサクサク修正していった。
 森本にとっては早く帰りたいが為にやったことが、堀井にとっては自分を助けてくれたというように受け取られたようである。
 その瞳は潤んでいて、好意を持ち始めていることは、横で見ている慶太にも分かった。だが森本は意に介していないようである。
 もちろん、森本自身が受け持つ機能にバグはほとんどなかった。
 定時になった頃、堀井と森本の結合テストの進捗率バーが100%になっていた。

「森本さん、よければお食事行きませんか?」
「すいませんが、用事があるので」

 森本は女性からの誘いを断り帰って行った。
 堀井は悲しそうな顔をした。
 森本は、帰り際、一瞬だけ慶太の方を見た。
 そして、慶太と目が合った。

「明日だな」

 慶太はそう言った。

「よろしくお願いいたします」

 森本は会釈し、出て行った。
 このやり取りは、慶太と森本の二人にしか分からないものだった。


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 慶太は気になっていた。
 久米が何で、プロジェクトから外したいほど荒川を嫌うのか。
 客が苦情としてあげていないことを、わざわざ内部告発のような形までして、荒川を窮地に追いやろうとしているということは、何か理由があってのことなのだろう。
 慶太はもう一度、六階のサーバ室に行って確認したいことがあった。
 教育環境データベースサーバに接続されるはずだった保守端末の、tnsnames.oraだった。
 あの事故の時、それを確認すべきだったのだ。
 結合テストの時、森本がtnsnames.oraの不備を指摘しているのを見て、慶太は糸口をつかめた。
 そして同時に、慶太は自分の知識不足を悔やんだ。
 だが、悔んでも仕方がない。
 そう思った慶太は、今から保守端末を調べて久米に突きつける証拠をつかもうと考えた。
 しかし、慶太は六階のサーバ室には入れない。

「どうするかな......」
「どうするの?」
「え!?」

 突然、何者かに声を掛けられた慶太は驚いて後ろを振り向いた。
 そこには、掃除道具が入ったカートを押しながらこちらに向かってくる外山がいた。

「あ、外山さん」
「どいておくれよ。入れないじゃないか」
「すいません......」

 慶太を脇にどけた外山は、開発サーバ室に入ろうとした。
 胸に下げているパスカードをカードリーダーにかざしている。
 開発サーバ室の扉が静かに開いた。

「勝手にしな」

 慶太は、

「ありがとうございます」

 と礼を言い、共連れの形で中に入った。
 サーバ室に入った外山は、床の掃除機掛けを始めた。
 慶太は真っすぐに、問題の保守端末の方へ向かった。
 だが、そこにはもう問題の保守端末は無かった。
 その代わり、修理に出されていたはずの、本番環境接続用の保守端末が置いてあった。

「くっ......」
「今日の昼休みに、久米さんがここの端末を持って行ったよ」

 落胆する慶太に、外山が声を掛けて来た。

「久米さんが持って行ったんですか?」
「ああ、昼休みにね。この部屋でゴミを集めてる時に。大変ですねって声掛けたら、そそくさと出てったよ。修理に出すんでって言って。代わりにそこの端末を置いて行ったけど」

 恐らく、久米はその端末の設定を元に戻すために修理と称してどこかへ退避させたのではないか。
 慶太や荒川が何かに気付いて、中を確認する前に。
 だが、全ては慶太の憶測でだったが。
 退避された端末は、元の通り教育環境に接続される形で戻って来るのだろう。
 そうなると、証拠はどこにも無くなってしまう。

「ああ......」

 悔しそうに呻く慶太を見た外山はこう言った。

「探偵さん、大変ですね」


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 次の日の朝、慶太はキヨスクで週間ヤングマガデーを購入した。
 出勤前にベロッチェで森本と落ち合って、新人賞の結果を確認する予定だ。
 大袈裟だが、慶太は結果次第で、このプロジェクトの運命が決まるような気がした。
 慶太が勝てばいいのだが、森本が勝てばどうなるのか?
 好きなように勤怠をやり過ごす森本は、毎日午後半休で帰るようになり、その能力は見過ごされて、首になるかもしれない。
 奴はそれでもいいのだろう。
 真里菜と同じプロジェクトの時もそうだったからだ。
 それで、多少の給料がもらえて漫画が描ければいいという考えなのだ。
 そうまでして、あの男のやりたいこと、つまり森本にとっての「漫画を描く」ということを、止めようとしている慶太は、自分でもそれが正しいことなのかと一瞬思った。
 もしかして、これは自分勝手なことなのかもしれないという思いが湧きあがった。
 だが、その思いをすぐに打ち消した。

「待たせたな」

 先にベロッチェに到着しコーヒーを飲んでいる森本の隣に慶太は座った。
 カバンからおもむろに、ヤングマガデーを取り出し机に置いた。
 慶太は新人賞発表のページを開いた。
 そのページを見た森本は大声で叫んだ。

「嘘だ!」

つづく

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