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【小説 愛しのマリナ】第十六話 アシスタント募集

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 森本は自分が、漫画を描いたこともないやつに負けるはずは無い、と思っているようだ。
 言葉に自信がある。
 そして、自由に時間がもらえるのも魅力的だったのだろう。
 慶太の勝負を受けることにした。

 森本が去った後、慶太は急いでスマホを使って、漫画を描くのに必要な道具をgoogle先生で調べた。
 そして、google先生がはじき出した答えを元に、amazonを経由し、以下のものを注文した。

  ・Gペン(※1)
  ・ケント紙(※2)
  ・インク
  ・ペン軸(※3)
  ・定規
  ・鉛筆
  ・消しゴム
  ・枠線引き用のペン
  ・ホワイト(※4)

 といった漫画を描くのに必要な道具を即日、自宅に届くように注文した。
 話だけは頭の中で出来上がっている。
 ストーリーで勝負しようと考えていた。
 絵は中学以来描いてないが、構成とコマワリを工夫すれば何とかなると思っている。
 要はありきたりな話でも、見せ方で面白くなるということを色んな漫画を読んで理解していた。


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 昼休みが終わり、慶太は眠気を振り払うためにフリスクを一気に五粒、口に放り込んだ。
 ストーリーが頭の中をぐるぐる回り、仕事に身が入らない。
 気持ちを切り替えるために、トイレに行き顔を洗う。
 席に戻ると、隣で森本が暇そうにしている。
 自分の担当している機能など、午前中のうちに単体テスト込みで完了していた。
 のんびりネットをしながら、仕様の変更がいつ来るかを待ち構えているようだ。
 午後二時、森本が担当している機能の設計担当者が、仕様変更をメーリングリストで開発メンバー全員に展開した。
 慶太は、添付された最新のテーブル設計書を見て、メインとなるテーブルのカラム構成が大幅に変わっていることを知った。
 自分の担当分とは異なる機能の仕様変更も、こうしてメールが流れることで知ることが出来た。
 だが、自分のことで手いっぱいのメンバーは、他メンバーの仕様変更にまで気を回していられなかった。
 テーブルが変更になったことでDAOの再作成となる。
 インフラチームにDAOの再作成をメールで依頼した森本は、待っている間にプログラミングに着手した。
 追加になったカラムの名称は決まっていないが、そこは予測して作っているようだ。
 設計書を見て五分考えたかと思うと、次の瞬間、物凄い速さでキーボードを連打し一気に作業を終え、席を外した。
 十分後、戻って来てDAOの作成が完了していないことを確認すると、再びネットで遊びだした。
 ネットニュースを見ながら、改修分を取り込んだJUnitを片手間で作っているようだ。
 その間、慶太はSQLに悩んでいた。
 A4用紙いっぱいに印字されたSQLの解析に、延々と一時間費やしていた。
 自分の作ったSQLなのに、思うようなデータが取れてこない。
 group byやunionをよく理解せずに使用したことが仇になっていた。
 慶太がそうこうしているうちに、森本は最新のDAOを取り込み、プログラミングの微調整を行うと、改修分を取り込んだJUnitを走らせて、一気にテストを完了させていた。
 時計は午後三時半を指していた。
 森本は、次の改修がいつ来るか、ネットをしながら暇そうに待っている。


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 時計の針が五時半を指したのを確認した森本は、カバンを手に取り席を立った。

「お疲れ様でした」

 素っ気なく言い、職場を後にする。
 進捗率のバーは、開発・単体テスト込みで100%を示していた。

「すげえなあ......」

 帰って行く森本の背中を見て田中が言った。

「これ! 見て下さい!」

 堀井が驚いた声で、慶太たちを呼んだ。

「おお......」

 NASにある、全員が参照できる森本の個人フォルダには、開発メンバーそれぞれの単体テストデータのCSVと、JUnitが作られていた。

「あいつ......」

 恐らく余りに暇すぎて、他のメンバーのソースを眺めている内に作ってしまったのだろうか。
 全員にこれら成果物の場所を教えていないところを見ると、メンバーを助けるためと言うよりも、趣味程度に作ってみた、と言う感じがする。
 実際に動作させてみないと分からないが、とにかくこちらの作業の負担は少なくなることが予想できるレベルのものではある。
 森本の机の上には、ラフスケッチのように全機能の概要図がメモ程度に書かれたものが置いてある。
 それは、どこからデータが来てどう流れるかを、要点を絞って分かりやすく書かれていた。

「この短期間で、システム全体を把握するなんて......」

 慶太はこの段階ですでに、嫉妬を通り越して、森本がどこまで成長するのかを、この目で確認したくなっていた。


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 その日も夜中に帰って来た慶太は家のドアを開けるなり、昼に注文した漫画セットが届いていないかを響子に確認した。
 無言で響子が指示した先に、amazonの箱が置いてあった。
 箱を開け、中のものを確認する。
 紛れもなく昼間に注文した漫画を描くための資材だった。
 
「何なのそれ?」
「漫画だよ。漫画を描くんだ!」

 深夜に帰宅し、突然訳の分からないことを言いだす夫に妻は困惑した。
 
「何言ってるのよ! こんなもの買って来て。希優羅が口に入れたらどうするのよ!? それに墨なんか使って部屋が汚れたらどうすんのよ!」
「仕事のためなんだよ! 手伝ってくれないか!」

 慶太は響子にアシスタントとして、ベタ塗り(※5)をお願いしようとした。

「何なのよ! いきなりそんなことできるわけないじゃない! それより明日の土日は休めるの?」
「いいや、仕事だ」
「なんでこんなことやってる暇があるのよ!? それに私は、土日に友達と旅行に行く約束だって言ったじゃない。希優羅の面倒見てもらおうと思ったのに!」

 慶太は協力を仰ぐため、漫画を描くことになった経緯を、響子に話した。
 
「その新人が真面目に仕事しないからダメなんじゃない、そんな人は早く切って、別の人連れてくればいいじゃない!」

 考え方は合理的だが、事情を顧みない響子の意見は、慶太の意見と平行線をたどり、落ち着く場所を見失っていた。
 
「そういう問題じゃないんだ。一人の新人がエンジニアとして目覚めてくれるかどうかが掛かってるんだ。そうすれば、僕だって早く帰れて、君だって好きなことが出来るんだよ!」

 森本が救世主になれば、響子にも利があることを強調したが、
 
「そんな遠回りなことするくらいなら、今すぐ社長に電話して有能な人を入れてもらうようにしなさいよ!」

 と、とりつく島も無かった。
 
「わかったよ!」

 慶太は、漫画道具をひっつかむと自室にこもった。


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 ケント紙に、鉛筆でコマワリを描き、軽く人物の下描きをする。
 それにペン入れをし、消しゴムかけをして、下絵の鉛筆の線を消していく。
 実際に漫画を描くという行為は、慶太にとって意外に楽しいものであった。
 久しぶりに絵を描いてみて、デッサンは狂っているが描くことはできる。
 だが、自分が頭の中で思っている映像を、絵にすることがこれほど難しいとは思わなかった。
 描いてはやめ、描いてはやめを繰り返した。
 
 ストーリーは尽きることなく湧いてきた。
 コマワリは今まで読んできた漫画を参考に決めて行った。
 ヒロインが初めて登場するときは四段ぶち抜きで、全身を描く。
 主人公が最後に必殺技を敵に仕掛けるシーンは見開き二ページ使って、読者に訴えかけるつもりだ。
 大ゴマで分かりやすく、主人公のキャラをしっかり立てることに気を使った。

 気が付くと夜が白々と明けていた。
 時計を見ると朝の七時。
 土曜日だが、今日も出社しなければならない。

(漫画の出来はどうだ?)

 全十六ページ。

 今、五ページが完成した。

(せめて、アシスタントがいて、ベタ塗りと消しゴムかけをやってくれたらなあ......)

 もう少しピッチを上げなければ土日に仕上がらない。
 今日も帰ってから描かなければ。


つづく


※1:Gペン ペン先。インクや墨汁を付着させて、ケント紙に線を描く。
※2:ケント紙 漫画を描くための原稿用紙。画用紙よりもツルツルでインクが乗りやすい。
※3:ペン軸 Gペンなどのペン先を指すための棒。描く人の握る部分になる。
※4:ホワイト はみ出した線やベタを修正するための塗料のようなもの。
※5:ベタ塗り 人物の髪の毛や影、背景などを黒く塗りつぶすこと。

Comment(4)

コメント

VBA使い

なるほど、ここであの人がアシスタントに来るわけね。

手塚治虫の本で、漫画の書き方の解説を読んだことあるけど、鉛筆で適当に描くのとは全然違って、それを一人で一晩で5ページも描ける慶太も凄いと思います。

リーベルGさんの月朝の小説もいいけど、火、金のお昼に軽く楽しめるものを書いてくださり、ありがとうございます。

湯二

VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
読んでいただきありがとうございます。

>なるほど、ここであの人がアシスタントに来るわけね。

はい、予定通り進みます。

初めてペンで描いたときは、何て描きにくいんだろうと思いました。
一定の太さで思うような線が描けません。
こればっかりは慣れかなあと思いました。
主人公には、漫画のちょっとした才能があるのかもしれません。

>リーベルGさんの月朝の小説もいいけど、火、金のお昼に軽く楽しめるものを書いてくださり、>ありがとうございます。

お話として、軽い気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。

てら

この主人公理解できん。
漫画より先にSQL勉強しろや。
自分の仕事出来てない主人公がエンジニア語るとかちゃんちゃらおかしい。

湯二

てらさん、コメントありがとうございます。
私も、こんな小説書いてないで、もっと勉強せねば。

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