たまたま脆弱性検査担当者になって、仕事がらみで日々感じる雑感

星の王子様

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悪夢の続き-誇り

(このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

「あのウェブサイトは、改ざんと情報漏えいが発覚してからずっと止まっていますよね。」

それまでずっと黙っていたDさんが言った。

「たとえどんなに苦しくて厳しい開発だったとしても、それで仲間や自分の心が壊れそうになったとしても、出来上がったシステムに何かするっていうのが考えられないんですよ。」

「たとえどんなに、理不尽な要求に振り回されても、報われない思いをしたとしても、それでも自分が作ったシステムって、自分にとっては誇りじゃないですか。」

「顧客が求めているのは、作った人間が誇れるシステムではないです。目的にかなう役に立つシステムです。」

「それはその通りです。でも、それは作ったものを大切に思ってはいけないということではないでしょう。」

「建物で例えればわかりやすいと思うんです。建築主がどうしようもなく気まぐれで、ケチで、あれこれどうでもいいような要求を出した挙句に、信じられないくらい値切って、しかも難癖つけて、なおかつ日程は厳しい。そうやってできた家を引き渡したとします。もう建築主の顔も見たくないとしても、その家に秘密の裏口を作っておいて、あとで盗みをしたりしますかね?」

「まともな業者はそんなことはしないでしょう。」

「まともな業者は仕事に誇りを持っています。」

「誇り、ですか。いい言葉ですね。」

「誇り、という言葉を経営者が語るときは注意したほうがいいですよ。誇りのためにただ働きすることにならないように。」

「世界に30億人のインターネットのユーザーがいます。その一人一人に名前があって、両親がいるのと同じように、世界に10億のウェブサイトがあって、その一つ一つに名前があって、サイト管理者がいて、それを作ったエンジニアがいるんです。」

「その中で、自分が作ったウェブサイトが今日も動いていて、誰かの目に留まって、誰かの役に立っているって思うと、それは自分にとっては特別なんですよ。」

「作っている間は、腹が立つことも、悲しくなることも、沢山あったとしても、それが出来上がって動いていると、それは自分にとって、夜空の中の一つの星のように、心の中で輝いているんですよ。」

どうしてDさんは、こちらが聞いていて恥ずかしくなるような正論を昼間からいえるんだろうと思いながらも、私の中のある部分では、いたく感動していた。

シリウスの光

最近晴れた夜が続いているので、冬の星座がよく見えます。少し前に改めて知ったのですが、シリウスの距離は8.6光年なんですね。昨日の夜見たシリウスの光は8.6年前のものなんですね。

2006年の夏、私は何をしていただろうか、と思います。それからこれまで何をしてきただろうか。今シリウスから放たれた光が地球に届く8.6年後、私はどうしているだろうか、どうしていたいだろうか。

お読みいただき、ありがとうございました。

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