エンジニア目線でインストラクターの仕事についてご紹介します

IT研修インストラクターは、定時で帰れる楽な仕事?

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 前回からの続きということなので、本来であれば「ITエンジニアの視点から見た、IT研修インストラクターという仕事(2)」というタイトルにすべきかと思ったのですが、違うタイトルにしてしまいました。すいません。

IT研修インストラクターは帰りが早い!

 さて、このコラムを読んでいる皆さんがITエンジニアで、同じ職場にIT研修インストラクターがもしいたら、きっと、タイトルにあるような「IT研修インストラクターは、定時で帰れる楽な仕事?」と思ったことがあるのではないでしょうか。わたしも、前職の職場は周りはITエンジニアばかりで、どちらかというとわたしたちIT研修インストラクターは職場では少数派でしたので、そんな風に思われていたかもしれません。

 ITエンジニアの目線からすると、わたしたちの日常はこんな感じに見えているのではないでしょうか。

○自社オフィスに研修施設がある場合

  • 朝、出社したと思ったらすぐに研修会場へと向かう
  • 昼休みになると食事に戻ってくる
  • 昼休みが終わる少し前にまた研修会場へと向かう
  • 夕方、席に戻ってくる
  • ちょっとメールチェックなどをしたと思うと、さっさと帰宅する

○外部の研修施設で講師をする場合

  • 朝、出社しても講師の席には誰もいない
  • 夕方頃、会社に電話が入り、社には戻らず直帰する
  • 長期の研修の場合だと、週に1回くらいは帰社するが、ちょっとメールチェックや打ち合わせをしたら、やっぱりさっさと帰宅する

 ITエンジニアの場合、深夜勤務や休日出勤などが多めで「今日は早く終わったなあと思っても、すでに夜の8時前後」という方も珍しくないと思います。「夕方の5時なんて、これからエンジンがかかるっていう時間帯じゃないか」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 勤務時間の長さや休日出勤の頻度から判断すれば、IT研修インストラクターはITエンジニアよりも楽な仕事であるというのは、そのとおりなのです。逆に、定時ちょっと過ぎくらいの時間に毎日帰れるITエンジニアは、世の中にそうそういないと思います。

 でも、IT研修インストラクターを経験したことのある方(特にそれまで別の業種にいた方)は、皆いうのです。「研修が終わった後で別のデスクワークをしていく体力なんかとても残っていない」と。

 わたし自身、もともとはITエンジニアでしたし、職場でも普段は別の業務をしているが、業務の都合でIT研修インストラクターをすることになった、という人と一緒に講師を務めることもありますが、やはり皆さん、そうおっしゃいますし、わたしもこの仕事に就いてみて、同じことを思いました。

 「講師って定時に帰れて楽な仕事だなと思って見ていたけど、こんなにハードだったとは」「こんなのを月曜から金曜まで通してやるなんて信じられない」「普段の仕事(エンジニア)の方がよほど楽だ」

 朝普通に出社して、夕方帰宅するこの仕事のどこがそんなにハードなんでしょうか。わたしなりに思うポイントを3つほど考えてみました。

IT研修インストラクターはここがキツイ!

○体力仕事である

 講師は勤務時間のほとんどを、立って過ごさなければなりません。座っていられるのは、休憩時間のときと、受講者がPCなどで演習をしている際の少しの合間くらいです。演習中であっても、受講者が演習に取り組む様子を見て回る必要がありますので、座っていられる時間はあまりありません。そして、立って過ごしている間のほとんどは、講師がしゃべっている時間でもあります。1日にほぼ6~7時間のあいだ、立ちっぱなしでしゃべりっぱなしというわけです。これは、慣れている人でも相当の体力を消耗します。わたしがたまに行く研修会場で、駅から徒歩15分、バスで5分というところがあるのですが、普段なら歩く帰り道でも、日によっては疲れすぎてバスに乗らずにはいられないこともあります。

 この感覚をITエンジニアの仕事に例えるなら「プロジェクトの開発に関する会議を、朝から夕方まで、自分が司会で延々と行う」ようなものでしょうか。

○常に顧客の視線を受けている

 講師は研修時間中、常に受講者から自分の仕事ぶりを見られながら過ごさなければなりません。なんといっても、研修中は講師が全ての進行をうけもつわけですから、基本的には受講者は講師の一挙手一投足に常に注目しています。つまり講師は自分たちに対価を支払っている顧客に、常に自分のサービスを評価されているといえるわけです。ですからもちろん、講師をしている間は決して手を抜いたりやる気のないそぶりを見せることはできません(どうしても手を抜きたいときや疲労が蓄積しているような日がもしあっても、そう見えないよう細心の注意を払わねばなりません)。しかも、研修会場の多くは、講師の控え室のようなものがありませんので、講師は受講者と常に同じ空間にいなければなりません。休憩があるとはいっても、まるで気を抜くことができないのです。

 ITエンジニアにたとえると、客先常駐の場合はそういった感覚に近いと思いますが、もっと具体的にいえば「客先の担当者の方が常に自分の向かいに座って、自分の仕事ぶりを監視している」ようなものでしょうか。

○その時刻に自分がいないとサービスが成立しない

 講師は研修というサービスを提供するうえで中心的な存在であり、当然ながら研修のときに講師がいないと研修が成立しません。講師が研修に遅れれば、受講者は基本的に何もできませんし、もし講師がやむにやまれぬ事情で研修会場に行けなければ、対価を支払ってもらうことはできません。多くの研修は代金を前払いしているでしょうから、返金ということになるでしょう。

 ITエンジニアの場合、病気などで1日仕事を休むと、もちろんスケジュールの遅れがでますから、大変なことではあるのですが、残りのスケジュールでなんとかキャッチアップできる可能性は残ります。研修の場合「今日は開催できませんので明日に延期します」というようなことは通用しません。そして、大手といわれる研修事業者も含めた多くの場合に、ある講師に対する代わりの講師は用意されていません。つまり自分に何かあってその研修の講師が務められなかったら、研修は中止にならざるを得ないというプレッシャーを常に感じているのです。

早く帰っても、大目に見てください

 ですので、もしあなたの周囲にIT研修インストラクターがいたら、たとえ帰りが少し早くても、広い心で許してあげていただければ幸いです。

 「いや、そんなはずはない、講師の方が絶対、楽に違いない!」とお考えの方は、是非、一度IT研修の教壇に立ってみることをおすすめします。「楽(らく)」かどうかはわかりませんが、「楽(たのしい)」なことがいくつも見つかるかもしれません。

 そんなわけで、次回はIT研修インストラクターの楽しさや、やりがいについて書いてみたいと思います。

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