メイキング・オブ・『来年「本当にやりたいこと」を見つけるための4ステップ』

2010/12/24 17:55:00

 年末も押し迫ってきましたね。年末って、雰囲気的にも、何かと忙しく感じますよね。

 その忙しさの中で、新年を迎えます。

 「今年の抱負は何ですか?」

 「今年もいい年にしたいですね」

 新春番組で流れる司会者とタレントのやりとりを、コタツに入って眺めながら、

 「今年の抱負か~、別に抱負なんかないよ~」

とため息をつきたくなる……わたしが毎年そうだったように、あなたもそんな気持ちを抱いていらっしゃるかもしれません。

 そこで、新たな年を好スタートするためにどうしたらいいのか……考えました。

 連載中の仕事を楽しめ! エンジニアの不死身力で、来年「本当にやりたいこと」を見つけるための4ステップという記事を書きました。はてブを見ると、たくさんの方に読んでいただいているようです。ありがとうございます! まだお読みでなかったら、よろしければ読んでみてくださいね!

 さて、エンジニアライフでは、この記事作成に至った経緯をお話しします。題して、メイキング・オブ・『来年「本当にやりたいこと」を見つけるための4ステップ』です。

■「心の振り子作用」を活用する

 この記事では、「やりたいことを見つけるには、やりたくないことを見つけるといいよ」というお話をしています。

 この方法は、すでの他の方もおっしゃっている方法です。「やりたいこと」「やりたくないこと」というキーワードで検索してみてください。たくさん出てきます。

 「やりたいことの前に、やりたくないことを考えるんでしょ? そんなことで、やりたいことがはっきりするの?」

と思いますよね。それがですね、思った以上にいい方法なんです。

 「やりたいこと」はあまり思いつかなくても、「やりたくないこと」ならすぐに思いつきます。「やりたくないこと」を洗い出していくと、「○○は嫌だけど、本当は○○したいんだよな~」みたいな心の動きが起きるんです。糸につるした玉を、ある方向にグイッと持ち上げて手を放すと、逆の方向にも振れるじゃないですか。それと同じような感じです。わたしはこれを、「心の振り子作用」と呼んでいます。

 実際わたしも、「こんなことやってて、いいのかな?」と思う節目時に、この方法で自分に問うようにしています。

■論理的に、さらに、感情に訴えかける

 ここまではよくある話なので、エンジニアのみなさんにとって役立つ、もう一歩先を考えたいなと思いました。そうして生まれたのが、今回の記事の後半にあるマトリックスなんです。

 「○○はやりたくない」「○○はしたい」と、論理的に、頭の中で考えるのもいいのですが、もっと「感覚」や「感情」に訴え、そこから本音を拾い、何か新たな思いを創出できないか……。

 で、普段、わたしたちが悩むことを考えてみました。

  • 「本当はやりたくないのに、無理に頑張っている自分」(やりたくないことをやっている
  • 「いつも夢ばっかり描いていて、何にもしていない自分」(やりたいのに、やっていない

 こんなことで、悩むな~と。

 これを、視覚的に表現できないかと思いました。「無理に頑張っていることが多い」「いつも夢ばかり」が視覚的に分かれば、「このままじゃ、イヤだな~」とか、「一歩踏み出さなきゃ」って気持ちが生まれ、次の行動につながりやすくなるのではないかと。

 そこで、マトリックスを作ってみることを思いつきました。縦軸と横軸をいろいろなパターンで組んでみました(結構、時間がかかりました)。「思い」を縦軸にして「やりたい」「やりたくない」にして、「行動」を横軸にして「やっていない」「やっている」と組んでみたら、「あっ、これだな。これなら、無理して頑張っていることも、夢ばかり見て行動していないこともうまく表現できるな」という形が出来上がりました。

■最初にできたマトリックス

 実は、最初から記事にあるマトリックスができたわけではありませんでした。最初にできたマトリックスは、これです(見にくくてすみません……)。

Matrix1

 マトリックスを目で見たときに、「我慢」にたくさんのことが入っていれば、ちょっと嫌な気分になって「もう、我慢するのはやめよう」と思うきっかけになるし、「断念」にたくさんのことが入っていれば、「よし! 頑張ろっ」って思うきっかけになりそうです。そして、

  • 「我慢」→「自由」
  • 「断念」→「充実」

 こうなるように、今できる小さな行動を考えてみる。うん、なんか良さそう。

 最初はこの形で編集担当のMさんに原稿を送りました。

■マトリックスの成長

 でもですね、よくよく眺めてみると、ちょっと違う印象を抱いたんです。「本当はやりたくないんだけど、その課題に向き合って、それを何とか解決しようとすること。それは、決して楽ではないけれど、その課題を乗り越えたとき、今までやりたくなかったことが、楽しく思えることもある。そこでつかんだものは大きいし、成長感や充実感を覚えるんだよな」と。

  • 「我慢」→「充実」

という線を入れたら、だいぶいい感じになってきました。

 最後に「自由」が残りました。

 「自由な時間があって、のんびりしているのもいいし、その時間はとっても大切なこと。でも、そこに甘んじていても面白くない。エンジニアが充実感を味わうには、やっぱり、スキルアップや、いろんな勉強も必要だよね」

 そう思って、

  • 「自由」→「充実」

に線を入れたら、「うん、これだな。これでいいな」って感じのマトリックスが出来上がりました。

Matrix2

 最後に「充実」の英表記を「Happy」に変えたら楽しそうになったので、このマトリックスで仕上げました。こうして出来上がったのが、記事の後半にあるマトリックスです。

■マトリックスを使って、「やりたくないこと」「やりたいこと」を整理する

 「やりたくないこと」「やりたいこと」を書き出すフェーズで洗い出したものを4つのマトリックスに並べてみました。当初、付箋の配置がもっと「我慢」と「断念」に偏るんじゃないかと予想していたんです。でも、意外と、「自由」と「充実」にも分けられることが判明しました。わたしの場合は、バランスは良いほうなのかもしれません。

 中には、「我慢」や「断念」にたくさんの付箋が並ぶ方もいらっしゃるかもしれません。それは、あくまでも「今」なので、それでかまいません。

 でも、「我慢」や「断念」にたくさんの項目があることが目に見えて分かると、嫌な感じが芽生えてきたり、「いっちょやったるか!」って気持ちを抱いたりすると思うんですね。そこで、少しでも「自由」や「充実」に項目が移るように、今できそうな小さな何かを変え始めるきっかけになればいいなと思います。

■最後にテーマを決める意味

 最後にテーマを決めるのは、一言にまとめておくと、今後の目標やビジョンが明確になることが狙いです。似たような言葉が何度も出てきていたりしていたら、それがテーマである可能性が高いでしょう。

■□■

 こんな感じで、マトリックスが生まれたのですが、自分でやってみてもいろんな発見があったので、あなたも、もしよければやってみてくださいね!

おまけ1:

 自分で言うのもなんですが、なかなかいいマトリックスにまとまったので、「SWOT分析」のような、何か語呂がよく、意味ある名称をつけたかったのですが、いいのが思い当たらず、原稿の締め切りもあったので断念。何か、いい名称を募集します(笑)。

 断念(Abandonment)をRで始まる単語に置き換えることができたら、「HREFモデル」になりますね。htmlのタグみたいで、ITのエンジニアには語呂もよさそう。断念を示す単語で、そんな英単語、ないのかな。

おまけ2:

 このモデルを使って、来年の1月、何人かが集まって「今年やりたいことを決める」みたいな集い、あるいはセミナー(?)みたいなものをやったら面白そうですね。

 やりたくないこと、やりたいことを書き出す際に、文面の都合で表現できなかった詳しいカードの書き方のポイントやまとめ方、言語化しにくい、五感を使ったイメージ方法などを口頭でお伝えすることで、さらにビジョンが見出しやすくなると思います。

 「実際に教えてもらいながらやってみた~い」という方が10名ぐらい集まれば、企画してみましょうかね。せっかくなら、楽しいエンジニアライフのほうがいいですもんね。

 金額などはまだ決めていませんけれど、興味あるという方がいらっしゃいましたら、コメントを残していただくかこちらからご連絡くださいね!

「仕事へのこだわり」――エンジニアと大工さんの意外な関係

2010/10/22 16:30:00

 エンジニアの不死身力、新しい記事が公開になりました。

 「エンジニアとしてのこだわり」と「仕事の評価」の関係

 この記事は、つい最近わたしが顧客からお伺いした実体験を元に書いてみました。

 エンジニアの皆さんは、スキルにこだわりをもっている方も多いと思います。技術者ですから、スキルにこだわるのは当然のこと。

 こだわりが評価される方向につながるのならいいのですが、実際には顧客からの評価を落とすことにつながったり、こだわるもの同士のイザコザに発展したりすることもありますよね。「ボクは(わたしは)こんなにスキルがあるのに、なんで分かってくれないんだろう」……そんな思いを抱かれたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

 せっかくスキルにこだわっているのなら、そのこだわりによって、顧客や上司から「やっぱり○○さんはできるな」のような、皆さんの評価につながるように生かしてほしいなと思い、今回の記事を書こうと思いました。

 もし、よろしければ読んでみてくださいね。

■大工さんの世界にもある、「仕事へのこだわり」が招く顧客とのギャップ

 で、話は変わって……。

 今回の記事の舞台となった工務店さん。いま、ホームページを変えるお話を進めています。どんな文章をホームページに載せるかを一緒に考えているのですが、実はいま、工務店のホームページの中で、IT業界でわたしたちが体験するような「こだわり」による顧客とのギャップが起きているんです。で、「顧客が分かってくれない」と。

 こだわりがある職場だからこそ、同じような現象が起こっているんだな~と思っています。では、大工さんの世界でどんなことが起きているのか、ご紹介しましょう。

 ところで、皆さんがもし家を建てるとしたら、どんな家を建てたいですか?

 「天井が高く吹き抜けていて、思わず背伸びをしたくなる家」かもしれませんし、「窓を開けると、森から流れてくる新鮮な空気を胸いっぱいになるまで深呼吸できる家」かもしれません。「お気に入りのデザインの家具を眺め、ゆっくりコーヒーを飲みながらリラックスできる家」かもしれませんし、「家族の笑顔が見え、安心感があるキッチンで、自慢の料理をふるまえる家」かもしれません。

 わたしは雪国に住んでいるので、冬でも暖かい家が欲しいです。雪国の家は、一歩廊下に出ると、そこはまるで氷の上を歩いているかのよう。お風呂場はさらに最悪です。脱衣所で裸になり、タイルに足をつけた瞬間の「ヒヤッ」とした冷たさといったらありません。あと、屋根の雪や除雪が大変なので、できるだけ人の手がかからない家が欲しいな~。

 「あ~、もっと快適にすごせる家が欲しい……」

 そう、わたしたちは「快適に過ごせる家」が欲しいんですよね。

 では、工務店のホームページにどんな言葉が並んでいるのかと言いますと、「高気密、高断熱」「家具職人が作るこだわりのキッチン」「こだわりの自然素材」などです。

 もうお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、工務店のホームページには、「工務店のこだわり」が書いてあるだけで、わたしたちが快適に過ごしたいと思っていることが一切書かれていないのです(多くの工務店がそうです)。

 わたしたちは「快適に過ごせる家」が欲しい。こだわるなら、そこにこだわりたい。でも、工務店のこだわりは「高気密、高断熱」「手作りのこだわり」「素材のこだわり」。これ、顧客のこだわりと、工務店のこだわりのギャップです。

 だから、わたしは工務店の社長にこう言っています。

 「わたしがこれから家を建てるとしたら……暖かい家が欲しいのであって、高気密、高断熱の家が欲しいわけではありません。暖かい家を実現するのに、高気密、高断熱が必要なのかもしれませんが、しつこいようですが高気密、高断熱の家が欲しいわけではないんです。今まで、お客さんの声で、『○○の家が欲しい』というような声はなかったでしょうか?そういう『お客さんが欲しいと思っていること。それを実現できること』をホームページでアピールできたら、きっとお客さんも読んでくれるでしょうね。」

 何度かこの話をしていたら、「このホームページじゃだめだね」「最近、仕事に対する方向性が見えてきた」と工務店の社長は言ってくれるようになってきました。

■こだわりがあるからこその構造

 この構造、IT業界でもまったく同じだと思うんですよね。大工さんも、仕事にこだわりがあるからそうなるように、IT業界のエンジニアの皆さんも、スキルにこだわりがあるからこそ、スキルを中心にアピールしたくなるのではないかと思います。

 でも、顧客の評価は、

 「このキモチ、分かってよ」

というのを分かってくれて、それを埋めてくれるから評価されるのではないかと思うんですよね。先ほどの家の話なら、

 「高気密、高断熱の家、いりませんか?」

だったら、「いえ、結構です」って感じです。でも、

 「冬が寒くてお困りなんですね。暖かい家に住みたいですよね? そのためには……」

だったら、「はい、住みたいです」となります。なぜなら、わたしが困っているのは、「寒い!」ということだから。

 「冬の、足が冷たいってキモチ、分かってよ。お風呂が寒いってキモチ、分かってよ」

なんです。寒いというキモチを分かってくれて、それを実現するために、高い技術で家を作ってくれそう。だから、信頼するし評価をするんですよね。

 IT業界にいるエンジニアの皆さんだとどうでしょうか。

 「高いITのスキル、いりませんか?」

だったら、確かに欲しい人もいるかもしれませんが、

 「○○にお困りなんですね。それなら、○○で実現できますよ」

だったら、「はい、それを解決したいです」って感じになると思います。

 「そんなに簡単じゃない」という方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、このような1行で表現できるほど簡単ではないです。けれども、このような視点が大切なのではないかと、顧客と接する中で、最近特に感じます。

 「エンジニアとしてのこだわり」と「仕事の評価」の関係の最後にも書きましたが、

  • 顧客が何に困っているのかを知り
  • 「それを何とかしたい」という欲求を満たすためには何が必要なのかを考え
  • 自分が持っているスキルを当てはめていく

 こんな流れを作ることで、高いスキルが評価されるようになるんじゃないかな~と思っています。。

 「顧客の気持ちを考えろ」とお説教じみたことを言うつもりはありません。顧客の気持ちを考えるのって、なかなか難しいですよね。でも、顧客が困っていることを埋めてあげること。それが評価につながることもまた、事実。

 どうせ働くなら、仕事が評価され、楽しく仕事をしていきたいものです。今回の記事が、そのヒントになれば幸いです。

連載が始まりました! 「仕事を楽しめ! エンジニアの不死身力」

2010/09/10 19:00:00

 こんにちは。竹内義晴です。ごぶさたしております。

 今回はエンジニアライフをご覧のみなさんにお知らせしたいことがあり、ご案内を差し上げました。

 実はこのたび、@IT自分戦略研究所で「仕事を楽しめ! エンジニアの不死身力」という記事を連載することになりました。

 この記事の前身は、ITmediaエンタープライズで連載しておりました「ビジネスマンの不死身力」です。ご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

 「もっとエンジニアのみなさんに役立つ記事でありたい」「楽しいと思う仕事を選択する人が増えてほしい」――そんな願いをこめて、新たな連載としてスタートを切ることになりました。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。

■現場でご活躍の、エンジニアのみなさんのために

 記事のタイトルにあるように、この連載はエンジニアのみなさんに向けた記事です。

 ここでいう「エンジニア」とは、

  • ITエンジニア
  • プロジェクトマネージャ
  • ITコンサルタント
  • 情報システム部門の方

などを指します。記事ごとに対象を絞ることはありますが、IT業界の中で、主に現場でご活躍されているみなさんを、広い意味で「エンジニア」と呼ぶことにしました。

■連載の裏話――連載前の不安と、記事を書こうと決めた3つの理由

 連載するにあたり、いくつか不安がありました。その不安とは

 「いま、エンジニアではないわたしが、『エンジニアの不死身力』という記事を書いてもいいのか?」

ということでした。

 読者のみなさんの中には、「いま、エンジニアの第一線で活躍している方が、どうやってエンジニアとして働き続けているのか」に興味を抱いている方も多いでしょう。そういう方にとっては、わたしのような(ときどきプログラムを作ることはあっても)エンジニアの第一線で仕事をしているわけではない人間の記事など、参考にならないと思われるかもしれません。それも当然です。

 では、なぜ、わたしがこの記事を引き受けようと思ったのか? それには、3つの理由があります。その理由とは、

  1. いまもエンジニアの仕事が好きなこと
  2. エンジニア外の視点から、情報をお知らせしたかったこと
  3. 好きな仕事を選ぶために必要なことは、どんな仕事も同じであること

 が挙げられます。

「いまもエンジニアの仕事が好きなこと」について

 わたしは現在、表向きにはエンジニアの看板をおろしています。直接的なシステム開発に携わることはあまりありませんが、エンジニアの仕事はいまも大好きです。

 先日、知人からプログラム作成を依頼され、夢中になって作りました。自分でもホームページを開設していますが「○○のほうがいいな~」と思ったときには、カスタマイズして楽しんでいます。そのほか、あまり表向きではやっていませんが、信頼している方の紹介でホームページを作ったり、ハードディスクのデータ復旧などを依頼されることもあります。技術力を評価されたときは、その喜びもひとしおです。

 ゼロからものを生み出すことは楽しいですね。動かないものを動くように夢中になってやっているとき、「エンジニアの仕事は、単純に好きなんだな」と思います。

 逆に最近は、エンジニアであることへの「変なこだわり」(いいかえれば「執着」)がなくなった分、余計に楽しめるようになったような気がします。

「エンジニアの視点以外の情報をお知らせしたかったこと」について

 エンジニア時代にチームを任され、心理学やコミュニケーションの知識に触れました。「どんな風に接したら、仲間は癒されるのか?」「どんな言葉をかけたら、仲間がやる気になるのか?」その知識が非常に役立っています。

 例えば、コミュニケーションに関して……

 エンジニアのみなさんは、わたしがそうだったように、技術力にこだわると思うんですね。それはとてもすばらしいことです。けれども、仕事は1人で進められるのはまれなので、周囲に「やるべきことを進んでやってくれない」「全然やる気を出してくれない」――という問題を抱えている方も多いと思うんですね。それで、好きなエンジニアリングの仕事がなかなか進まないと。

 顧客との関係もそうです。システムを依頼する側も、作る側も、関わっているのは結局「人」。いくら技術力が優れていても、上手にヒアリングし、顧客が本当に望んでいるものを引き出せなければ、システムの仕様変更が数多く発生しますし、せっかく作ったシステムも評価されません。けれども、このような場合「顧客が仕様をはっきり示さないからだ」と片付ける場合がほとんどです。

 そうです。人が行動する仕組み、コミュニケーションの方法が分からなければ、好きなエンジニアの仕事をうまく進めることができないんです。

 「好きな仕事で成果を出す」=「技術力」×「人(コミュニケーション力)」

が必要ということに気付きました。

 コミュニケーションについては、天性の資質だと考える方も多いでしょう。それも不思議ではありません。実は、わたし自身、口ベタで恥ずかしがり屋です。それほどコミュニケーションがうまいわけではありません。そんなわたしでも、コミュニケーションにスキルを学ぶと、世界が広がることを知りました。

 コミュニケーションに限らず、これまで活動してきた中で、エンジニアを少し離れたところにも問題を解決するヒントがたくさんありました。開発の現場やプロジェクトマネジメント、コンサルティングなどのシーンで、実際に起こりそうな問題や悩みに触れながら、問題を解決するヒントをお伝えできたらいいなと思いました。

「好きな仕事を選ぶために必要なことは、どんな仕事も同じであること」について

 コミュニケーションといえば、対人関係だけでなく、自分自身に対してもそうです。

 例えば、「エンジニアの仕事を続ける」ことを考えたとき。年齢を重ねると多くの方が「このまま続けていくのは難しいんじゃないか」「自分には無理なんじゃないか」という不安感を抱かれると思うんですね。業界に広がっている情報から、そう思われるのも不思議ではありません。実際、職場でも技術以外の仕事を求められますよね。

 「じゃあ、独立しようか……」でも、先が見えないご時世、なかなかその一歩を踏み出せない気持ち、よく分かります。わたしもそうでしたから。

 けれども、同じIT業界にいて、エンジニアとして活躍している人もいます。

 「同じ業界で、それほど年齢や学歴に違いがあるわけではないのに、この違いは、一体なぜ生まれるのだろう?」

 ここ数年、ずっと興味を抱いてきました。この違いは、「自分自身の考え方や感情と対話し、うまくコントロールしているか否か」であるということに気が付きました。好きな仕事を選ぶためには、自分自身とのコミュニケーションを図り、自分を望む方法へコントロールすることが必要だったのです。

 好きな仕事を選ぶためには、ときに転職や、独立が必要なこともあるかもしれません。そんなときは余計に、「自分には無理」と思うのは当然のことです。では、なぜ、「ある人はエンジニアとして活躍しているのに、『自分は無理』と思うのか……」この問題の解決は、重要な課題です。

 「好きな仕事を選ぶ」ときに起こるさまざまな悩み……それは、エンジニアに限らずどの仕事も同じで、解決策もさほど違いがありません。

 また、ビジネススキルについても、どの仕事に就いていても、あまり違いがないように思います。

 もしいま、わたしが「エンジニアの仕事をしよう」と決意したなら、いきなり会社を辞めなくても、自分という商品を売り出すために、現在の活動(例えば、文章で自分が得意なことを表現するなど)とまったく同じことをすると思うんですね。それは、エンジニアとはまた別、マーケティングなどのビジネススキルです。

 「ビジネススキル」にはコミュニケーションも含まれますが、「どのように表現したら相手に伝わるのか?」が大事です。試行錯誤をして身につけたものは、いまでは大きなチカラを与えてくれました。いいたいことを受け取るのは相手次第。どんなにすばらしい技術力があっても、それが相手に伝わらなければ、せっかくの努力が水の泡ですもんね。

 そのようなことを含めて、

 「エンジニアの第一線にいるわけではないけれど、『好きな仕事を選択し、楽しむこと』の情報なら、お伝えできるかもしれないな」

 ……そう思いました。

 これらの3つの理由で、連載を始めることを決めました。

■□■

 エンジニアライフでは、(全記事とはいわないまでも)連載記事を書こうと思った背景や、メイキングなど、「本音の部分」をお話できたらいいなと思っています。記事に関する感想やコメントなど、どうぞ気軽にお寄せください。

 また、みなさんが抱えている悩みは、きっと多くの方の悩みでもあると思います。1人の勇気が多くの方を救いますので、「○○の場合、どうしたらいいの?」という悩みがあったら気軽に書き込んでくださいね。答えはお1人ずつ違うでしょうし、コメントでは答えられないかもしれません。それでも、みなさんからのコメントが次の連載記事を生む場合もあると思いますので。

 それでは、連載ともども、引き続きよろしくお願いいたします。

追伸:

 以前、このコラムでは小説を書いていました。タイミングを逃したら、続きをなかなか書き出せないまま、この機会を迎えてしまいました(苦笑)。小説の続きは、次の機会に書き出したいと思っています。

【出版することになりました】「職場がツライ」を変える会話のチカラ

2010/03/03 19:45:00

 みなさん、こんにちは。

 最近、このコラムでは物語を書いてきましたが、今回、ご案内させていただきたいことがあり、エンジニアライフの場をお借りすることをお許しください。

 この度、おかげさまで「職場がツライ」を変える会話のチカラ~ちょっとの工夫で雰囲気・環境・人間関係が改善する~という本を出版させていただくことになりました。

「職場がツライ」を変える会話のチカラ

 3月5日ごろから店頭に並び始める予定です。アマゾンさんでは予約が始まっています。

■この本のテーマ

 この本は、「日常の会話をちょっと工夫することで、『働きやすい職場』に変えていくこと」がテーマの本です。チーム作りや組織活性化に関する内容ですね。

 わたしがエンジニア時代に体験した肉体的、精神的な苦痛や、チームをまとめることができずに悩んだ管理職時代の苦悩から、「どのように乗り越えてきたか」「どうしたらうまく行かせることができたのか」など、「日常の会話をちょっと工夫することで、職場が活発になり、自分自身も楽しくなる」――このようなことを中心に書きました(エンジニア時代の苦悩や、そこから学んできたことについては、出版社のサイト《序章 思いやりも笑顔もない職場で働くつらさの中で見つけたこと》でお読みいただけます)。

 これをお読みになって、「リーダー層が読む本かな?」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、チームが1つにまとまらずにお悩みのリーダー層に役立つノウハウもたくさん含まれていますが、リーダー層だけではなく、社会人数年から管理職になる少し前の、主に現場の最前線で働く方に役立つ内容でありたい……という思いも込めて書きました(エンジニアライフをお読みのみなさんは、ちょうどそういう立場かもしれませんね)。

出版社のサイトから説明文を引用します。

仕事そのものは嫌いじゃないけれど、毎日の厳しいノルマや長い労働時間、結果を出すことへのプレッシャーなどから、スタッフみんなが精神的にも肉体的にも疲れ果て、自分のことで精いっぱいで、誰も他の人のことをフォローしたり気遣ったりする余裕もなく、チームはバラバラ、雰囲気最悪、みんなイライラしてて怖いし、自分のモチベーションも上がらない、この殺伐とした空気の中にいるだけで胃が痛くなる、職場に行くのがツライ!――と感じているあなた。
ほんの少し「会話の工夫」をすることで、仲間との信頼感を高め、おたがいに協力しあえる「働きやすい職場」へと変えることができるんです。

 チームをまとめる「責任」があるのはリーダーかもしれませんが、チームがまとまるきっかけになったり実際にまとめるのはリーダー以外の、たとえばあなたのような、ちょっとした気遣いができる方だったり、ムードメーカーだったり、リーダーを客観的に見ているからこそ分かる立場の方であったりすることも多いはず。

 「肩書き」や「責任者」としてのリーダーの立場ではないけれど、自分(たち)が少し工夫し、実践し合っていくことで、「自分の職場を変えることができるんだ」ということを知って欲しいと思っています。

 また、私たちの周りにある多くの情報の中には、「いい環境を作るのなら、まず、他人に尽くしなさい」というような情報がたくさんあります。けれども、自分が満たされていないのに、他人のために尽くすというのは、とても難しいですよね?その気持ち、よくわかります。なぜなら、わたし自身がそうだったからです。

 自分を犠牲にして、まわりに尽くすというよりも、あなた自身にストレスを発散し、自分を上手にマネジメントできるようになって欲しい。そして、あなたが満たされ、やる気が出てくることによって、周りも巻き込めるんだということを知って欲しいと思い、「自分自身を上手にマネジメントする」ということにもページを割きました。

 この本が、少しでもみなさんの「職場がツライ」を変えるきっかけになればと願っています。

■この本が生まれたきっかけ

 ちょっと話はずれてしまうのですが、「夢を叶える」という観点で、コラムニストのみなさん、読者のみなさんのご参考になるのではないかと思い、この本が生まれた経緯についてお話しますね。

 この本は、2006年7月から書いているメールマガジン「しごとのみらい ~わたしの未来は、わたしが決める~」がきっかけで生まれました。メールマガジンでは、先ほども触れたような、エンジニア時代に体験した肉体的、精神的な苦痛や、チームをまとめることができずに悩んだ管理職時代の苦悩から、「どのように乗り越えてきたか」「どうしたらうまく行かせることができたのか」などの体験を綴ってきました。

 書き続けていると、そのうち、読者さんからコメントをいただくようになり、「少しはお役に立てたんだな。うれしいな。」と思うようになりました。この頃から「いつか、本を出版してみたい……」という夢を抱くようになりました。

 けれども、わたしは地方に住んでいる無名の田舎者。特別文章が上手いわけでもありませんし、出版社さんや編集者さんとつながりがあるわけでもありません。「どのようにしたら本を出版できるのだろう……」その方法は全くわかりませんでした。当時のわたしにできることといったら、「本を出版したい」という思いや、「もし、出版できたとしたら○○になるだろうな~」などのイメージを頼りにしながら、メールマガジンを書き続けることぐらいしかありませんでした(参考:ビジネスマンの不死身力:新年に描いた夢のかなえ方(ITmediaエンタープライズ))。

 下手は下手なりに、書き続けていると少しはマシになってくるんでしょうね。メールマガジン配信スタンドのビジネス向け特集で、連載のお話をいただいたりするようになりました。

 ちなみに、普段文章を書くときには、「専門的な知識や経験を、難しい専門用語を使わずに、日常の会話をベースにして平易な言葉で書 くこと」「たとえ話や物語などを使って、分かりづらいことを直感的に分かるようにすること」「煽ったり、威嚇したりはせず、読者さんに語りかけるように書 くこと」などを意識しています。出版社さんからお話をいただいたのも、この辺りが理由のようです。

 そんなことを続けていた2009年5月、出版社さんから出版のお誘いのメールをいただくことができました。うれしかったですね。本当にうれしかったです。

■今回の経験から学んだこと

 今回の機会をいただいてみて、改めて思ったことは「やり続けることの大切さ」です。何のとりえもないわたしでも、こんな機会に恵まれたのは、きっ と「書き続けていたから」だと思います。書き続けるのは、最初は大変ですよね。でも、書き続けているうちに楽しくなってきました。楽しさの1つは、普段から「ネタになることはないか」と探し続けることで、日常の中に気づきが増えることです。書くことの楽しさは他にもたくさんありますが、それはまた別の機会に。

 もう1つ。学んだことは、「どこに住んでいる、何をしていているに関係なく、チャンスをつかむ環境が整っている」ということ。出版のお話を頂いてから約1年。実は、現在に至る今まで、編集者さんと一度もお会いしたことがありません。対面の打ち合わせも、電話もゼロ。メールのやりとりだけで、なんと出版までできてしまいました。わたしは地方に住んでいますので、この恩恵を特に感じました。

 このエンジニアライフでは、コラムニストと読者のみなさんが、それぞれの体験を本音で語り合う場がありますよね。コラムはいずれも実体験から生まれた意見ですばらしく、きっと多くの方にとって貴重な情報になっているはず。近い将来、出版に限らず、コラムニストのみなさんの中から、新たなチャンスにめぐり合える方が出てくるのではないかと信じています。

 大変なこともつらいこともたくさんありますが、今、できることから少しずつ行動していくことで、いろんな広がりや結果が見えてくると思います。みなさん、がんばっていきましょう!

■追伸:

 本の内容や、著者としての思い、出版に至った経緯は「特設サイト」にてさらに詳しくお話ししました。もし、よろしければ、こちらの特設サイトもご覧ください。

小説「わたしのみらい」―不安と期待のあいだで

2010/02/19 17:15:00

 あるエンジニアの歩み方を小説として連載しています。初回の物語はこちら、前回の物語はこちらです。

 いつもなら子供と一緒に入浴するのだが、今日は1人で入ることにした。

 ぬるめのお湯に肩までゆっくりとつかる。天井からぶら下がる明かりをボンヤリと眺めていると、起業への期待を抱く自分と、不安を抱く自分が、言葉を交わし始めた。

 (独立?そんなことできるのか?)

 (できるさ。ここは一旗あげてみようと思っているんだ)

 (でも、奥さんに反対されたらどうする?)

 (恵子なら、きっと分かってくれるよ)

 (お父さんとお母さんは、絶対に反対すると思うよ)

 (う~ん、それはそうかもしれないな)

 (うまくいくはずなんかないよ。こんな不景気の時に)

 (ピンチはチャンスと言うじゃないか)

 (あんな、神谷さんの言うことに惑わされちゃダメだよ)

 (でも、「出会いは必然」っていうじゃないか)

 (プログラムを作るって言ったって、どうやって仕事を探すの?)

 (それは……まだ考えていないな)

 (お前は今まで、会社の看板があるから仕事ができていたんだよ。独立なんて絶対に無理だよ)

 (ボクのスキルがあれば、いけると思う)

 (仕事を辞めてからの生活費は大丈夫?)

 (う~ん、それは……そうだね。プラス思考でなんとかなるさ)

 (家族がいるのに、今からそんな冒険をして大丈夫なの?)

 (不安な世の中だからこそ、自分で稼ぐ力を身につけておきたいんだ)

 (みんなそうやって楽観的に独立して、去っていくんだよ。現実を見ろよ、現実を……)

 2人の会話は続く。頭のてっぺんで考えると、不安はまるで次々と押し寄せる波のように浮かんでくる。

 (こんな不景気なときに、本当に独立などできるのだろうか?・・・)

 頭は独立を否定する。だが、体は、もう答えを知っているようだった。

 浴槽から出て、シャワーを勢いよくひねる。

 (このまま、考えていても仕方がない。え~い、やってみるか!)

 シャワーの温度を熱くする。冷たく、不安な気持ちを熱いお湯で洗い流した。

 頭をバスタオルで拭きながらリビングに戻る。食事の後片付けをしている恵子の目を盗み、神谷の携帯にメールを送った。

 「近藤です。先日はありがとうございました。あれからいろいろと考えました。不安はたくさんありますが、今回をいい機会だと捉えて、起業する方向で動いてみようと思います。準備をするにあたり、何から始めたらいいでしょうか? アドバイスをいただけたらうれしいです。」

 (本当に、これでいいのだろうか?)

 先ほどの決意が、もう、揺らぎ始めている。送信ボタンとキャンセルボタンを押すか、迷う。小さい画面には、「送信しました」という文字が映し出されていた。

 しばらくすると、携帯のメール受信音が鳴った。

 「おめでとう。近藤君の勇気ある決断を、心から祝福するよ。起業のアドバイスだね。メールより電話のほうがいろいろと伝わると思うから、明日の昼休みに電話くれるかな?」

 明日電話すると返信した。

 寝室に向かう。

 タケシは妻の恵子と保育園に通うヒロトと3人暮らし。毎晩、ヒロトを寝かしつけるために、3人一緒に布団に入る。恵子は、ヒロトに昔話を聞かせている。いつもなら、それに釣られてタケシもウトウト始まるのだが、今夜は、なかなか目が閉じようとしてくれない。

 寝付けぬままボンヤリと布団に入っていると、タケシの意思とは関係なく、向こう側から不安が襲ってくる。なるべく頭の中を空っぽにして、考えないようにしようと思えば思うほど、不安は大きくなった。それを振り払うように、背中を丸めて頭の上から布団をかぶり、悪魔のささやきが聞こえぬよう、指を耳に突っ込んだ。

 しばらくして布団から顔を出すと、恵子の昔話は、2人の寝息に変わっていた。

 (この2人を、路頭に迷わすわけには絶対にいかない……)

 布団になど、入っていられなかった。2人を起こさぬように体をそっと起こすと、タケシは寝室を後にした。とりあえず、何かを始めなければ不安で仕方がない。リビングにある通勤カバンの中からペンと手帳を取り出し、起業に必要なことを書き出してみることにした。

 (一体、何から手をつけたらいいのだろう? 当面の生活費の確保と、仕事の確保と、それから……)

 当たり前のことしか浮かんでこない。

 数年前の起業ブームのときに、あこがれで買ったビジネス書があったことを思い出した。本棚からそれを取り出し。適当にページをめくる。「ビジョン」「ミッション」「事業計画」「ビジネスモデル」といった、どこかで聞いたことがある言葉が、ところ狭しと並んでいる。

 「ビジョン」「こころざし」「社会的意義」……今までだって何度も聞いたことがあるし、それはとても大切なことだと、頭ではわかっている。「お客様のために」「社会が良くなるように」――格好いい言葉を並べることはできるが、今の、不安だらけのタケシにとって、「ビジョン」のような前向きな気持ちは浮かんでこない。それらは絵に描いた餅のようで、全然リアリティがなく、気持ちに響くものが何もない。

 (オレにとってのビジョンってなんだろう?ビジョンを持てないオレって、ダメなヤツなんだろうか? ビジネスモデル? 儲ける仕組み? ……全然わからないや。こんなことで、本当に大丈夫なのかな? オレ……。)

 時間をかけても、手帳は白紙のままだった。

 (とりあえず、簿記でも勉強して、お金の流れでも知っておいたほうがいいかな?)

 ノートパソコンの電源を入れ、オンライン書店で、レビューの評価が高い簿記の本を注文した。

 会社の昼休みに、神谷に電話をした。

 「近藤です」

 「あぁ、近藤君?起業、よく決心したね。応援するよ。今の心境は?」

 「昨日、『よしっ』と決めたときは意気揚々でしたが、一晩たったら、すごく不安になってきました」

 「そうだろうね。僕たちは、今まで経験がないところに足を踏み入れようとするときに不安になる。例えば、今まで入ったことのレストランに入るときだって、『この店、おいしいのかな?』と不安になり、迷うぐらいだ。

 これから大きな一歩を踏み出そうとしているんだから不安に思うのは当然のこと。みんな、最初は不安なんだ。でも、その不安は、近藤君を危険から守るための安全装置だと考えて欲しい。多くの人は、この安全装置が働くと、そこでとどまってしまう。だから、決断しただけでもすごい勇気なんだ。その勇気がある自分を褒めてあげて欲しい。」

 神谷の言葉には、いつも勇気付けられる。

 「さて、早速だけど、起業するためにはやるべきことがいくつかある。今、メモできるかな?」

 携帯電話を左側の肩に挟み、右手にペンを持つと、タケシは神谷の声に耳を傾けた。

 「さて、起業するうえで、まず最初にやるべきことはなんだと思う?」

 「そうですね、ビジョンやミッション、事業計画やビジネスモデルを決めることですかね?」

 昨日、ビジネス書で読んだ言葉をそれっぽく並べてみる。

 「そうだね。それも大切なことだね。でも、今の近藤君にビジョンが浮かんでくる? 多分、不安が一杯でそれどころじゃないんじゃないかな? もちろん、ビジョンを持つことは大切なことだけど、それほど慌てなくても、仕事におけるビジョンは、時期が来たらちゃんと浮かんでくるから大丈夫。

 また、事業計画書やビジネスモデルも確かに大切だけど、近藤君の場合は、仕事を1人で始めるんだよね? 1人なら小回りも利くし、事業計画書を銀行に出して融資を受けるわけではないから、近藤君がどうなりたいのかをはっきりさせて、「今、ここ」で、できることは何かを考え、実際にいろいろと試しながら考えることもできる。

 それを踏まえた上で、今、考えておきたいことは2つある、「生活の確保の確認」と「ご家族の同意」だ。

 まず、生活の確保についてだ。毎日を安心して暮らせないと、不安で仕事どころではなくなってしまう。生活といえば、お金が必要だよね。1年間ぐらい働かなくても生活できるぐらいの余裕があると安心だ。家族3人なら、300万円ぐらいあればどうにかなるだろう。余計な出費を抑えれば、それでも十分豊かに生活できる。近藤君の貯金をかき集めて、どのぐらいあるか調べて欲しい。もし、足りなければ、親御さんなど、身近な人に借りるのもいいだろう。

 僕の意見では、この時期 ……つまり、軌道に乗る前のスタート時期は、できるだけ出費を抑えたほうがいい。実家に住むことができるのなら、家賃を払う必要もなくなるからそれもいいね。親御さんも、一緒に住むことができて喜ぶかもしれないしね。幸い、近藤君は、技術力とアイデアで仕事を生み出すんだから、仕事場所も比較的自由だし、レストランを経営するような、一か八かで大きな借金をしなくても大丈夫。」

 タケシは、「300万円確保」と手帳に書き込んだ。

 「次に、ご家族の同意だけど、いきなり『プログラマで飯を食っていく』と宣言しても、『はい、そうですか』と言う家族はまずいない。奥さんなら『どうして今じゃなきゃいけないの?』と生活が不安になるだろうし、親御さんなら、腹を痛めて産んだ子供に、安定した生活を送ってもらいたいと願うだろう。ひょっとしたら、『こんな不景気な時代に、なんてバカなことを……』と喧嘩になってしまうかもしれない。

 こんなときに、事業計画書やビジネスモデルを綿密に作ってご家族に説明しても、意味がまったく通じずに、逆に、大きな壁を作ることになるだろう。

 家族にとって最大の不安は、お金や生活の心配だ。「今、独立なんかして本当に将来大丈夫なのか?」という不安を拭ってあげる必要がある。その不安を乗り越えて、ご家族に応援してもらうには、これから話す流れでご家族に説明すればうまく行くだろう」

 タケシは、次の言葉に耳を傾けた。

 これは物語です。話の展開上、特定の個人、企業、商品名等を連想させる表現が場合によってはあるかもしれません。いずれの場合においても、それらを批判、非難、中傷するものではございません。また、こうすれば絶対にうまく行くという保証をするものでもありません。主人公が成長する過程で起こりうる思考や体験を再現するものとして、ご理解いただければ幸いです。

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コラムニスト プロフィール

竹内義晴
テイクウェーブ代表。ビジネスコーチ。エンジニア教育などに携わっている。

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