開発プロジェクトは“異文化コミュニケーション”
2009/02/23 19:00:00
以前、英会話スクールNOVAのテレビCMで、宇宙人が関西弁で「オッサンが言うのも変やねんけども、異文化コミュニケーションちゅうのはやっぱりええと思うねんな」と話すCMがありました。みなさんはこのテレビCMを覚えていますか。
流暢にフランス語を話す日本人女性、上手に日本語を話すイタリア人男性、イタリア語を話す大阪のおばさん、と次々にシーンが展開し、最後に宇宙人が登場する、という内容のCMです。とてもユニークなCMだったので記憶している方も多くいらっしゃるかと思います。
さて、今回は開発現場における「異文化コミュニケーション」についてお話をしようと思います。
●標準化が大切
ある金融機関向けのシステム開発に参画していた時のことです。大手SIerが受注した開発案件でかなりの工数だったと記憶しています。ピーク時には300人くらいの技術者が関わっていたのではないでしょうか。
受注したSIerは技術力には定評のある有名な会社で、各社からエース級の人材を集めてプロジェクトに投入したと聞いていました。規模も大きく優秀な人材が多く集まるプロジェクトです。わたしのモチベーションも久しぶりに上がりました。「この現場で実績を認められるよう頑張ろう」と決意したことを覚えています。
参加した当初、プロジェクトのマネージャからは「人が多くて大変です。経験がある人もいればない人もいる。所属する会社もバラバラで誰がどこの会社なのか、いまだにわからない。だから“標準化”された開発手法が必要なのだ」とおっしゃっていました。
なるほど、好き勝手にドキュメントやソースコードを書いてしまったら、保守する人にはとても迷惑でしょう。障害原因を調べようにも読み解けないソースコードであれば、復旧までに時間が掛かってしまいます。また、ドキュメントにしてもある程度同じ体裁で記述する必要があるでしょう。人によって設計書の書き方が異なれば、設計内容以前にドキュメントそのものが理解できなくなります。人数の多いプロジェクトほど標準化が必要というのは十分理解できる話です。
●技術者は交換可能な部品?
ところで、わたしはそのプロジェクトでチームを管理する仕事を任されていました。ですので、進捗状況や進捗遅れの原因報告などをすることもありました。
ある進捗会議でのことです。チーム全体の進捗に遅れが出始めたので、プロジェクトマネージャから遅れている原因について聞かれました。わたしは「最初はある程度の勉強期間が必要です。計画では単純に作業量を日数で割っただけですので、遅れているように見えるのでしょう。後半に伸びてくるのでキャッチアップ可能な程度の遅れと認識しています」と答えました。
しかし、驚いたことにそのマネージャは「A機能は難しい機能だからBさんじゃなくてCさんに担当させる。それと作業中のおしゃべりが目立つから、仕事に専念させるため知り合い同士は近づけないように席替えして」と言うのです。わたしは耳を疑いました。このマネージャは技術者を機械の部品の一部や家畜程度に考えているのだろうか。
今まで機能の担当者していた人間に代わって、その機能について何も知らない人間が代打を務めることは容易なことではありません。設計書に記載していない背景や事情を知らないため、非常にリスクを伴います。また職場とはいえ、知らない人に囲まれ、冗談も言い合えない環境では緊張し続けてしまい良い仕事ができるはずもありません。
このプロジェクトの例はかなり特別だと思います。なかなかこれだけ、“人を人とも思わない”人には滅多に出会えません。とはいえ、ここまで極端でないにしても、似たような考え方の人が多いのも事実でしょう。統一された開発手法や標準化された作業手順さえあれば開発は成功する、という考えを持つ人が。勉強熱心なのはとても良いことですが、人間的な視点が欠けているように思います。人間は感情で行動する生き物であることを勉強しなおすべきでしょう。
結局、そのプロジェクトは“やる気がある”人ほど早く脱落(脱出)していきました。そして、ついには誰も保守に残らないという異常な状態になったと聞いています。
●開発チームは即席で寄せ集める
開発プロジェクトが立ち上がると、わたしたちのような技術者を集めなければなりません。ところがお客様から案件を受注した元請SIerは技術者を多く抱えているわけではないので、「協力会社」といわれる下請けの会社に技術者集めを要請することになります。「協力会社」は1社ではなく、数社に要請するのが一般的です。
そうして即席で集められたプロジェクトメンバーには、さまざまな特性があります(所属する会社、経験年数、スキルレベル、得意分野など)。また最近では、日本以外の国の技術者と仕事する機会も増えてきました。同じシステムエンジニアと呼ばれる人であっても、身に付けてきたスキルや経験そして文化に至っては多種多様です。
各社から技術者が集められプロジェクトチームが組織されるのですが、ほとんどが初対面の人ばかりです。プロジェクトに参画したら最初の1、2週間は“人の名前を覚えるのが仕事”というのもまんざら大げさな話ではありません。
わたしは人見知りする性格なので、なかなか人と打ち解けられず、プロジェクトが変わるたびに“転校生”のような気苦労をしてばかりいます。「今度のプロジェクトでは皆と仲良くできるだろうか? いじめられたりしないだろうか?」という具合に。
何年も一緒に仕事をしてきた仲間であれば、何が得意で何が好きなのか、もしくはどのような性格なのか、などその人の特性や背景を十分に理解した上で仕事ができます。しかし、開発プロジェクトは寄せ集めであるため、人間関係が出来上がっていません。その状態で高いパフォーマンスを期待するのは無茶というものでしょう。
●開発プロジェクトは異文化の坩堝(るつぼ)
旅に例えるならば、開発プロジェクトは“異国人同士のツアー旅行”のようなものです。お互いが初対面で、使用する言語や文化的背景が異なります。相手の言葉が理解できなければ、旅の間、誰とも話すことができず、伝えたいことも伝えられません。旅の間、孤独で寂しい思いをすることになるでしょう。
さらに、言葉だけでなく文化についても理解することが大切です。いつもどおりに生活していても、相手の国の風習から見たら不謹慎であったり、場合によっては犯罪とみなされるような振る舞いがあったりするかもしれません。女性が肌を見せることが犯罪となる国があったり、肉を食べてはいけない人たちがいたりするのです。自分と異なる人に対して尊重する姿勢が大切です。こちらから一方的に風習や文化を押し付けたりしては真の友好関係は築けません。
システム開発において、万能な標準化ルールやテクニックなど存在しません。開発プロジェクトが成功するか否かは、開発チームのメンバーが自主的に動こうとする気持ちであったり、ルールを越えた協力関係であったりするものです。つまりわたしたちのように技術力をもって仕事をする人間にとっても、相手を尊重する人間的な姿勢やコミュニケーションスキルといったものが重要なのです。多種多様な技術者が集る開発プロジェクトでは真の「異文化コミュニケーション」能力が求められるのではないでしょうか。
さて、冒頭の関西弁を話す宇宙人が登場するNOVAのテレビCMですが、あのCMを通じてNOVAが伝えたかったことは以下のようなことだったと記憶しています。
「単なる外国語の会話力だけではなく、お互いの文化の違いもきちんと理解して異文化コミュニケーションをしましょう」と(※1)。
◇ ◇ ◇ ◇
※1 残念ながらNOVA自身は社長と従業員の社内コミュニケーションにつまずいてしまいました。


高田善教
