【書籍紹介】たのしい開発 スタートアップRuby

2012/08/02 16:34:00

Tanoshiruby

 技術評論社から『たのしい開発 スタートアップRuby』(大場寧子監修/大場光一郎/五十嵐邦明/櫻井達生)を献本いただいたので、ご紹介します。

 まず、まるまる技術評論社の書籍紹介ページにある概要から引用します。

 本書はRubyでたのしい開発を続ける4人の筆者による,新しいRubyの入門書です。Rubyは,コミュニティとコミュニティの根底にある文化の中で常に成長を続ける言語です。Rubyのポテンシャルを最大限に引き出すには,Rubyの文化を理解し積極的に関わっていく姿勢が不可欠です。本書はRubyの言語としての基本に加え,Rubyの世界にもっと深く踏み込んでいくための方法を紹介します。  本書でたのしい開発への入り口を見つけてください。

 章立ては、以下の通りです。

Chapter1 「たのしい開発」を求めて
Chapter2 Rubyの基礎知識
Chapter3 Rubyを使ってみよう
Chapter4 Ruby on Railsとは
Chapter5 Railsを触ってみよう
Chapter6 Rubyの文化
Chapter7 自動化されたテスト
Chapter8 アジャイル開発とRuby
Chapter9 Rubyのコミュニティ
Chapter10 とある企業のRuby導入事例
Chapter11 「たのしい開発」の答え
Appendix RubyとRailsをもっと知りたい方へ

 1、2章ずつを割いて取り上げているRuby/Rails/自動テスト/アジャイルといったトピックは、それぞれが1冊の入門書として取り上げて良いようなテーマでしょう。本書は、そうした個別の入門書数冊分の、それぞれ第1章と第2章をうまく抜き出してまとめ上げたような雰囲気があります。「Rubyで(たのしく)開発」とRubyistが言うとき、それは言語処理系のRubyのことだけを指しているのではなく、文化や習慣、開発ツールに込められた主義や思想、コミュニティの性質まで指しているのだ、という認識が、この一風変わった入門書の根底にあるのでしょう。

 オブジェクト指向もMVCもDRYもCoCもアジャイルも自動テストも、個別に見れば、どれもRubyやRailsの専売特許というわけではありません。ですから、こうしたことが当然という開発現場にいる人には、「なぜRubyの人たちは、やたらと“たのしい”という言葉を使うのだろうか?」という答えは分からないかもしれません。本書には、その答えがさまざまなアングルから個人的な体験談を交えてまとめられています。

 例えば、Chapter1の「「たのしい開発」を求めて」は、駆け出しだったプログラマの著者(執筆担当は櫻井氏でしょうか)が感じた矛盾の吐露から始まります。著者は、いわゆる上流工程、下流工程の分業から生じる多くの矛盾から、「納得出来ない非効率」を、もどかしく感じていたといいます。開発現場の士気が下がる中で不安を抱えた著者は現状改善に動きますが、うまくいきません。そうした頃に出会った「アジャイル開発」「ペアプロ」といった言葉が頭の片隅に残り、やがて著者はそうした「どこか遠い外国の話」のように感じられたことを実践している会社に転職します。そこで発見したのは、ペアプロの楽しさや、フラットでオープンなRubyのコミュニティだった、といいます。また、Chapter11では「「たのしい開発」の答え」として、道具、人、環境の3つの柱によって支えられる「文化」として、Rubyを取り巻く環境のキーワードを解説しています。例えば、Ruby界隈では「名前重要」ということが繰り返し言われます。クラス名、変数名、メソッド名について、「正しい名前」を付けるために延々と議論をするという文化が、Ruby界にはあります。それが何故なのか、具体例とともに書かれています。Chapter10の「とある企業のRuby導入事例」は、あるとき「Rubyは素晴らしい」と思った外資系コンサルティングファームの会社員が、いかに障壁を乗り越えてRubyを会社的に採用していったかという体験談が、失敗した取り組みも含めて生々しく語られています。

 コテコテの技術書でもスピリチュアルな信仰告白の書でもない絶妙なバランスのRuby/Railsの入門書として、これまでRubyを遠巻きに眺めていた人が手にとると、いろいろと刺激や発見があるかもしれません。

“パッチモンスター”、RubyのなかださんもHeroku社員に!

2011/07/19 16:11:19

 Salesforce.comの創業者でCEOであるマーク・ベニオフ氏は、Heroku買収に際してRuby開発コミュニティを支援していくと表明していましたが、その言葉には全く誇張がなかったようです。

Benioffmatz

 すでにRubyの生みの親である、まつもとゆきひろさんをHerokuがRubyチーフアーキテクトとして迎え入れたことは発表済みですが、もう1人、CRuby開発のキーパーソンの1人、なかだのぶよし(中田伸悦)さんも、すでに7月に入ってからセールスフォース日本法人の正社員として入社済みであることを、ご本人に確認しました。

 週末に行われたRubyKaigi 2011の基調講演の中でも、まつもとさんが、なかださんのHeroku入りを明らかにしました。スクリーンになかださんの写真が大写しにされると、会場からどっと拍手が沸き起こりました。

 懇親会でご本人にお話を伺ったところ、ありがとうと言われて悪い気はしないけど、自分のようなコミッタなんかに注目が集まるのっていいことなのかな……、と非常に謙虚な感想を漏らしていました。「ただ好きなことをやっててさ。そりゃ家族も食べさせていけて嬉しいけど、何だかね……」と、あくまで恐縮モードでした。

 CRuby界ではつとに著名ななかださんですが、一歩外へ出ると、ほとんど知られていないと思います。Ruby界にはまつもとさん以外にも“知られざるハッカー”が、たくさんいるのです。

まつもと氏を凌ぐ貢献数のパッチモンスター

 私が初めてなかださんにお会いしたのは、2年半ほど前。春の風が吹き抜ける隅田川沿いの桜の木の下でした。地域RubyコミュニティのAsakusa.rbのお花見に、グデングデンに酔っぱらい、気持よさそうに寝っ転がっているオジサンがいました。

 好奇心から初めてRuby関連コミュニティのイベントに参加しただけの私には、まさかその人が「パッチモンスター」の異名を取る凄腕ハッカーであるとは想像も付きませんでした。

 なかださんは、誰よりも多くのパッチ(Rubyのソースコードに対する改善)を量産し、Ruby開発コミュニティの中で知らぬ人がいないほどのRuby開発のコアメンバーの1人だったのです。遠藤侑介氏がプロットしているRubyへのコミット数のグラフによると、16年に及ぶRuby開発の中盤ぐらいから、なかださんのコミットがものすごい勢いで伸びていて、トータルのコミット数では、なんとまつもとさんを抜いてしまっていることが分かります。パッチモンスターと呼ばれるゆえんです。緑がまつもとさん、そして最近その緑を超えた赤い線が、なかださんのトータルのコミット数です。

Ranking

 以前こんなとがありました。

 Rubyの開発者数人がフェース・ツー・フェイスで技術的な議論をしていたときのことです。なかださんは、「きみらさ、パッチも見ずに、よくそんなことが議論ができるねー」と言いました。具体性がなくて空論だよというほどの批判ではなく、やんわりとした皮肉だったのだと思います。さっさとコードを書いて試してみろよ、という意味だったのだと思います。

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なかだのぶよし(中田伸悦)さん

 なかださんは、Ruby関連のミートアップにふらりとやってくると、かばんからにゅっと焼酎のビンを取り出すほどの酒豪です。この議論のときもプラスチックカップになみなみと注いだ焼酎をペットボトルのお茶で割りながら飲んでいたように思います。で、腕まくりをして30分ほど経ったときです。「ほら、こんな感じで書いてみたよ」と言ってパッチを1つ、作り終わっていました。知っている人は知っていることですが、「Rubyの半分は焼酎でできています」というのがあながち完全なジョークとも言い切れないのではないかと私は疑っています(なかださん、本当にお身体に気を付けて)

 なかださんは酒豪であると同時に、「さすらいのコミッタ」とでも言うべき人です。定職があって安定しているという感じではありません。腕をかわれてエンジニア色の強いベンチャー企業に勤めたり、研究プロジェクトに参加したりということはあっても、いずれも短期間。Ruby界隈では、冗談めかして「Rubyコミッタ兼主夫」などと言われがちです。バックパッカーのような身軽な出で立ちでミートアップに表れ、ネットカフェを目指して夜の街へ消えていく……。そして、どこからともなくパッチが大量にメーリングリストに投げられる。そんななかださんを見ていて、私は常々どうしてこのような人がもっと報われないのだろうか、と感じていました。Rubyは、Railsの普及もあって、それなりに大きな市場を支える技術となっています。そのRuby開発で最も生産的な人物の1人が主夫。

 そういうことですから、なかださんがセールスフォースへ正社員として迎えられたことは大変素晴らしいことだと思います。聞けば、これまで通りRubyの開発に尽力することが仕事であって、六本木の日本法人オフィスへ出社することとか、何か報告することなどという義務は、今のところないそうです。経済的にも十分に報われるという話です。Herokuは世界的にも有数のRubyのヘビーユーザーなので、何か技術的に困ったことがあれば相談しやすいパイプとなるということはあるかもしれませんし、それはまつもとさんやなかださんにとって、むしろ望ましいことなのでしょう。しかし、それによって紐付きになるという話でもないようです。事実上、これはHeroku(セールスフォース)によるOSSコミュニティへのお返しです。

 OSSコミュニティは、企業によるこうしたコミュニティ支援を、じっと目を凝らして見つめていると思います。ですから、これは援助側にとって良いマーケティングともなるでしょう。元々Rails開発者の多くはHerokuが好きだと思いますが、ますますHerokuが好きになることでしょう。さて、CRubyを支えるコア開発者のうち、まつもとさんとなかださんの2人がHerokuに参加した形ですが、今後もまだ少し、この流れが続きそうな気配です。


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