ハッカソン等のIT創発イベントを企画するための基礎知識

第05回 イノベーション推進の背景

»

 イノベーションをすると言うのは企業の方にとってどのような仕事なのでしょうか。担当者の方に伺うとこんな本音を話してくださいます。

  • 対外的に「経営者の思いつきで始めました」と言うわけにもいかないのでなんとか形にしたい
  • 対外的に「他社もやっているから」とも言いたくないので自分が納得できる仕事にしたい
  • 本業が別にあるのに「ナントカTech」「ITによる変革」と掲げるのはまだ照れ臭い
  • イノベーションの企画で稟議書が起案された前例がなく、仕事の進め方がわからない
  • 既存の業務を若干否定することにつながるため、利害関係者の納得感が必要
 
 特命担当の方は、イノベーションそのものが最終目的化するリスクと日々戦っています。イノベーションは手段であり、イノベーションを通じて実現するものが何かは各企業がゴールとしてを設定する必要があります。
 
 しかし、そのためには前提知識が必要です。改めてイノベーション推進の背景から考えます。すべての業界について論じるのは大変ですから、ここでは銀行を中心としたFinTechについてふれます。

破壊者への対応

 FinTechには未だ破壊者の本命となるFinTech企業が現れていないとされています。つまり、行政機関から許認可を受け、各国の金融規制に守られている既存の商用銀行は、まだ存在価値が否定されていません。しかし、ウーバー現象の広まりは時間の問題かもしれません。
 日本において、銀行にしかできないことは3つあります。
  • 「銀行」と名乗ること (法律により、銀行は漢字で「銀行」と名乗らなければならないそうです)
  • 預金の受け入れ、為替取引、貸出しなどの固有業務を行うこと
  • 信用を創造すること
金融関係の方に伺うと、信用創造機能というのはかけがえのないものだそうです。みんなが日本銀行を信用するから安心して日本銀行券を使うし、みんなが市中銀行を信用するから安心して預金をして社会にお金が回ります。
 

 でも、そもそも日本のお金じゃなくてもいいや、仮想通貨でいいし、お金の受け渡しはスマートフォンで直接やればいいということになれば、現金不要、ATM不要、支店不要、そして信用創造ってもはやどうでもいいのではという人が出てくるかもしれません(あくまでも可能性の話です)。

 技術的には置き換え可能という時代が来ています。規制業務をすべて担うFinTech企業は日本にありませんが、個々の業務に類似したサービスや代替サービスは存在します。
 
 大企業の方は、たくさんある業界の中で金融業界がIT投資のリーダーであり、予算規模も適用技術の広さも圧倒的だということを理解しています。その金融機関が危機感を感じているなら、みなさんの業界も同じ道をたどる可能性があるということをお客様にご理解いただくことがあります。もちろん、金融業界よりも先にタクシー業界、旅館・ホテル業界、ソフトウェア・コンテンツ業界等は破壊者が出現していますので待ったなしです。

外部連携の強化

ガートナー社などは、ビジネス改革のためにITに対して「バイモーダル」という考え方を提唱しています。
企業のITシステムにはモード1とモード2の2つがあるという考え方です。SoR(エス・オー・アール)、SoE(エス・オー・イー)と呼ぶこともあります。
ガートナー社の定義
(※1)
モード1
従来の拡張性と効率、安全性、精度を重視する
モード2
逐次的ではないアジリティとスピードを重視する
ジェフリー・ムーア氏の定義
(※2)
SoR (Systems of Record)
Enterprise Content Management
SoE (Systems of Engagement)
Social Business System
 
 これまで作ってきたITシステムはモード1に位置づけられます。圧倒的な競争力を持った製品又はサービスがあるのであれば、モード2を考える必要がありません。一部の先進企業はITシステムをモード2中心で作っていますが、モード1のシステムを作り変えるのは費用がかかるため、モード1はすぐに作り替えなくても問題ありません。
 
 しかし、世界のITサービスがもたらす知見は社内よりもインターネット上に蓄積されています。
また、新しいアイデア、そしてそれによって生まれるサービスもまた、インターネット上で誕生しています。
もし企業が競争力を付けたいのであれば、新規の投資については、必要に応じて外部と連携して業務処理をこなした方が新しいものが使えますし、投資が効率的です。
 
 企業のデータは企業が持っていますし、何でも外部のコンピューターを使うというわけではありませんが、開発する場合はモード2を考えます。
  • 以前採用した技術、手法にはとらわれない。
  • 開発が必要な機能は、最新技術、最新の開発手法を取り入れスピード感を持って作る。
  • 企業の競争力は眠っているデータの活用にあるので、モード1のシステムで管理しているデータを、モード2のシステム(又は外部サービス)で使うことを考える。そのための連携の仕組みがなければ構築する。

 モード2のシステムを持つと、連携が深まるし、現場の要求を早くITで実現できるようになります。

 しかし、このようなことは理論的には理解できても、何に使うかわからない未来に向けてモード2の準備をしましょうと言っても多くの企業では承認してもらえないと思われます。
 モード2で実現するビジネス、モード2のシステムがこなす処理の中身を最初に考える方がよさそうです。
 上記の1と2を実現するには、新しいアイデアと、それがもたらすビジネスのイノベーションを見極めることが必要なのです。これらは一般論であり、このまま稟議書に書いても通らないでしょう。個別企業又は業界の事情を踏まえて検討する必要がありますが、続きは今度にします。
© 2011 AIIM
Comment(0)

コメント

コメントを投稿する