ハッカソン等のIT創発イベントを企画するための基礎知識

第03回 企業は自力でイノベーションできるのか

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 ハッカソンなど、いわゆる「創発系」のイベントの話をしていると「楽しいけれど、そんなことをして儲かるの?」と聞かれます。わたしが儲かるかどうかはともかく、何か始めたいと言う企業のニーズには声を傾ける必要があります。

次の打ち手が見つからない

 少子高齢化に伴い、日本経済は成熟化による低成長が予想されています。企業は生き残りをかけて危機感を持っていますが、「我々だけで考えてもだめなんだ。どうしたらいいか」とのご相談を受けます。

 わたしがそれに即答することはありません。新しいアイデアがないからだけではなく、もし大切なお客様にも自信を持って勧められるような儲かるアイデアがあるのなら、とっととIT業界を辞めて起業します。ですから「アイデアを手に入れるお手伝いは多少できますが、お客様自身が見つけなければなりません」と申し上げるしかありません。

ではどうするのか

 そのお手伝いの手始めに、なぜアイデアが出ないのかを説明することにしています。

 アイデアを得る方法として最初に思いつくのは、誰も思いつかない画期的な製品・サービスを自ら考え抜いて革新的な発明するという、当たり前のことです。しかし、それを意図してできれば誰も苦労しません。大企業は研究所を建ててプロの研究員を雇い、継続的に投資をしています。これまで現場で活躍されていた特命担当の方が突然発明家に変わるのは飛躍が大きいです。

 すぐに発明できないとしても、アイデアを具体化する「イノベーション」の本質は真似であるという説があります。世の中で自社(又は自社が所属する業界)よりも先進的なイメージがあるビジネスは少なからずあるでしょう。


 例えばITで何かを実現することは先進的であるというイメージを持たれる方が多いようです。そう信じたいですが、本当に先進的であるかどうかは重要ではありません。誰かがITを使っているのを見て、何かおもしろそうだと思ったらそれを真似てみるだけならできるかもしれません。

 みなさんは趣味で宝探しをしているわけではないので、効率的に探しましょう。新しいとされるものを持ってきてくれる人たちを見つける方が効率的です。
 ただし、これだけでは従来のIT部門によるITベンダーとのつきあいと変わりありません。
 真似とは言っても、特命担当が他部署の人と同じことを後追いで始めるのは非効率です。

業界秩序を破壊する勢力の出現

 さて、近年、既存の業界慣習を打ち破って圧倒的な競争力で既存市場をかき回している現象がいくつかの業界で散見されます。いわゆる「Uberization」です。世界各国のタクシー業界を震撼させる配車サービスを提供するウーバー・テクノロジーズ社が巻き起こした「ウーバー現象」をさします。ウーバーのような企業を総称して「破壊者(Disrupter)」と呼びます。

 破壊者の圧倒的な競争力の源泉に、次の新たなアイデアを生み出すために真似できることがあるかもしれません。破壊者には共通の傾向が見られます。必ずしも全て満たす必要はありませんが、破壊者になるための要件とも言えるでしょう。

  • 新興企業であること
  • そのサービスを提供している既存市場が存在すること
  • 業界慣習、規制法令、行政指導の隙間を狙ったビジネスをしていること
  • もともとその業界のプレイヤーではなく、異業種から参入していること
  • その業界で最も重要とされていた価値に投資しないこと
  • シェアリング・エコノミーを創造すること
  • これまでになかったアイデアで、普通のITを活用すること


 世界最大の民泊サービスであるAirBnBは、不動産を1件も持っていません。ホテルは寝食を快適に過ごす場所なので、その施設に投資すると企業の価値が高くなるというのがこれまでの常識でした。しかし破壊者は従来の価値には全く投資しません。AirBnBはホテルではないと言っていても始まりません。AirBnBは現に宿泊需要を侵食し、ビジネスを作り出しているのです。
 それと一体の考え方が「シェア」です。自分で資産を持つと減価償却費と維持費がかかります。新しく手に入れるのは時間と初期投資がかかります。であれば所有にこだわらず、持っている人に提供してもらえばいいと考えたのはすばらしいイノベーションでした。

 後の回で解説しますが、破壊者がもたらした変化はディスラプション(破壊、文脈によっては破壊的創造とする方がよい)と呼び、以下ではイノベーションとは区別します。シェアによって生まれた経済圏を「シェアリング・エコノミー」と言います。

 ここで重要なことは、老舗旅館や既存のホテル・チェーンがAirBnBを始めたとしたら大変な勇気が必要だろうし、そもそもそのような発想すらなかったのではないかということです。

 次に、価値を否定し、ものを持たないのにどうやって集客をするのでしょうか。その解がITとインターネットの活用です。ITを使うと、情報を価値を説明し、無人で休まず営業でき、インターネットがあれば国境なく営業でき、効率的に集客することができます。

 ここで重要なことは、新たなアイデアは必要なものの、「普通」のITを使っているということです。世界最先端の技術を使う必要はありませんし、世界最高峰の技術者を雇う必要もありません。日本企業のおもてなしレベルを満たす、絶対に止まらないITシステムも不要です。新興企業の新サービスなので、ちょっとくらい止まっても間違っても許してもらえるでしょう。既存の同業者からしたらとてもうらやましい限りです。


 最高レベルの品質を求めたければ既存企業のサービスを受ければよいのです。従来のタクシーは少し高いかもしれませんが、実績はあるし、苦情窓口もあるし、監督官庁の指導にも従っているので安心です。実はウーバー現象は既存市場が存在することで始めて成立するのです。

 なぜアイデアが出ないのか、それを「なぜ既存企業がUberizationできないか」という命題に置き換えると、

  • 既存企業にはしがらみがある
  • 既存企業には発想できない
  • 既存企業の既存客は、ほどほどのサービス品質では許してもらえない

ということになります。

 こんな話をお客様にすると、やや不機嫌になります。既存企業でイノベーションを推進することはできないのでしょうか。推進しようとしている特命担当者は、不要でしょうか。そんなことはないので後で説明します。

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