テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

「WACATE 2012 夏」参加レポート(その4)――改めて思う、会社や仕事の枠を超えて語れる仲間は大事

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 「WACATE 2012 夏」参加レポートもいよいよ最終回です。今回は、クロージングセッションと後夜祭の様子、今回のWACATEで得た気づきをお届けします。

■クロージングセッション「組み合わせテストツールPictMaster その開発と背景」

 「WACATE 2012 夏」の最後を飾るのは、岩通ソフトシステムの鶴巻 敏郎さんのセッションです。

 鶴巻さんがテストの世界に足を踏み入れたきっかけは、2002年に会社で組み込み機器の総合テストの担当になったことでした。しかし最初の2年ほどはテスト技術の存在すら知らない状態でした。

 そんな鶴巻さんに転機が訪れます。あるとき、開発チームからテストケースを渡され、その内容に愕然としました。それは、プログラムの各パラメータに値が振ってあるだけのテストケースが数千件も並び、その中で「○」が付いたものだけ実施する、というものでした。

 このテストケースを見た鶴巻さんは「『○』が付いているテストケースは開発チームのメンバーが勘で付けているだけなのではないか。個人の勘に頼らない、もっと合理的なテスト方法があるのではないか」と思い、組み合わせテストに関心を持つようになったそうです。そして組み合わせテストについて勉強するうちに組み合わせテストの技法を知り、その重要性に気がついたそうです。

 組み合わせテストの技法を大まかに分けると、直交表とPairwise法という2つの方法がありますが、鶴巻さんはPairwise法を選ぶことにしました。その理由は、考え方が単純で制限事項がほとんどないこと、テストケースの作成が容易で数の調整もしやすいこと、実用に耐えるフリーツールが存在していたことなどです。

 さっそく、テストツールを探してみましたが、ツールの種類は多いものの実務に耐えうるツールは意外と少ないことを知りました。やっと良さそうなツールを見つけても、日本語入力がエラーになったり、複雑な組み合わせのときにペアが抜けてしまったりという問題がありました。

 そんなとき、鶴巻さんは「PICT」というツールを知りました。詳しく調べてみると、それまで知ったツールにはない多機能ぶりと、フリーツールであることに驚いたそうです。

 しかし、PICTはコマンドプロンプト上で使用するツールだったので使い勝手があまり良くないうえに、一部の日本語入力がエラーになること、初期条件が変わるとテストケース数にばらつきが出ることがある、など、そのまま使用するには使いづらいところもありました。

 そこで鶴巻さんは、2007年にgihyo.jpでPICTの解説記事の連載を手がけることになったとき、連載最終回にExcel上からPICTを使用できる、PICT活用シートも併せて公開しました。ただ、この連載で掲載したPICT活用シートは付録のようなものだったので、最低限の機能しかありませんでした。

 鶴巻さんは、連載の翌年に業務の一環として本格的なPairwise法のツール開発に取りかかりました。鶴巻さんは「高度な機能をできるだけ簡単に扱えるようにする」という目標を掲げ、組み合わせ生成エンジンにPICTを使用した、Excelベースのテストツール開発を始めました。Excelを選んだ理由は、当時テスト仕様書をExcelで作成する人が多かったためです。

 試行錯誤を経て、ようやく組み合わせテストツール「PictMaster」が誕生しました。鶴巻さんはこのテストツールを、無償で公開することにしました。無償にすることでできるだけ多くの人に使ってもらいたい、ユーザーが自分でカスタマイズできるツールを公開することでテスト技術の向上に寄与したいと思ったためです。

 最後に鶴巻さんは、組み合わせテストのこれからについて語りました。今後は組み合わせテストの自動化はどんどん進むということ、3つ以上の要素の組み合わせテストのやり方についてはまだまだ改善の余地があることなどから、なるべく少ないテストケースで3つ以上の組み合わせの網羅性を確保したテストケースの重要性、またそのようなテストケースを扱うことができるツールの必要性が高まっていくとのことです。

 鶴巻さんは「組み合わせテストは実施するだけの価値があるテスト技法です。とはいえ、実際に導入してみないと効果がわからない部分もあります。現場に導入するとなると現場のメンバーの説得が大変だったり、上司の反対があったり、なかなか思うようにはいかないこともあります。しかし、部分的に導入して効果を確かめたり、マニュアルや担当者の教育方法を整備したりしながら、周りを上手に巻き込んでいってください」と締めくくりました。

 わたしも「PictMaster」を使ったことがあるので、身近なツールの開発秘話にワクワクしました。誰もが自由に、簡単に使える高性能なツールを作りたい、それによって日本のテストの技術力をアップさせたいという鶴巻さんの熱い想いが伝わるセッションでした。

■クロージング

 2日間のセッションがすべて終わったあとは、実行委員によるクロージングです。実行委員長の山崎さんのご挨拶や、ポジションペーパーの表彰がありました。

 ポジションペーパーの賞には参加者の投票で選ぶBPP賞(Best Position Paper賞)のほか、実行委員会が選ぶMAP賞(Most Accelerating Paper賞)、クロージングセッションの講演者が選ぶBFP賞(Biasd Favorite Paper賞)があります。

 今回は、すべての賞に女性参加者が選出されるという珍しい回となりました(残念ながらわたしは選ばれてないです)。ここ最近の傾向としては、初参加、2回目の参加という方が受賞することが多いです。常連参加者としては負けられないと思いつつ、やはり、賞を意識せずに素直な気持ちで書く人にはかなわないのかなあとも思いました。

■後夜祭

 WACATE終了後は参加者主催の打ち上げ「後夜祭」がありました。横浜の居酒屋で、参加者の皆さんとテストについて、WACATEについて熱く語る楽しい時間となりました。翌日に今の現場への初出勤が控えていたこともあったので、わたしは1次会でおいとましましたが、2次会以降も大変な盛り上がりだったそうです。

■改めて思う、会社や仕事を離れた仲間は大事

 参加レポート(その1)でも少し書きましたが、実は今回のWACATEは参加するのを止めようかと思っていました。

 というのも、参加申し込み開始の時点で、わたしはまだ求職中で、本当にテストエンジニアとして再就職できるかどうかもわからない状況だったのです。参加したい気持ちはありましたが、テストエンジニアとして働いていない、今後も働くかどうかわからない状況で、テストの勉強をして何になるのか、ただ毎回出ているから、他の参加者と会いたいからというだけで出るのは他の参加者にも、実行委員にも失礼にあたると思い、ずっと迷っていました。

 その気持ちをTwitterやFacebookに書き込んでみたところ、常連の参加者や実行委員の方々から「勉強しなければますますテストエンジニアとして復帰できなくなる。今働いているとかいないとか関係なく、来たいんだったら遠慮せず来なさい」と、暖かい言葉をかけていただきました。その言葉を聞いて、ようやく参加の決心がつきました。当日も、他の参加者や実行委員の皆さんと真剣にワークに取り組んだり、合間にちょっとした近況報告や冗談を言い合ったりして、変わらずに接してくださったことが嬉しかったです。

 エンジニアライフのオフ会のときも思いましたが、やはり会社や仕事の枠を越えてつながれる、久々に会ってたわいのない話をしたり、ときには叱咤激励してくれたり人がいるというのはとてもありがたいことだと思います。今回助けられたことを、いつかどこかで誰か困っていたり悩んでいたりしたときに、お返ししたいと思います。

◇ ◇ ◇

 「WACATE 2012 夏」参加レポートは以上です。「WACATE 2012 夏」で出会ったすべての方に感謝いたします。また、ここまで読んでくださった読者の皆様にもお礼申し上げます。

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