テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

ベルリン・フィルに思う、組織の中で生きるということ

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 こんにちは、第3バイオリンです。

  1カ月ほど前に「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」という映画を観ました。この映画は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(以下、ベルリン・フィル)のアジアツアーを3週間にわたって追いかけたドキュメンタリーです。

  わたしは市民オーケストラに所属していることもあって、ベルリン・フィルの舞台裏に興味があり、この映画を観ました。しかし、その内容は組織人としてのあり方について深く考えさせられるものでした。

  今回は、この映画の中で印象に残ったセリフとともに、組織の中で生きていくとはどういうことなのか、について考えたいと思います。

■ベルリン・フィルとは

 まずはベルリン・フィルについて簡単に説明したいと思います。ベルリン・フィルは1882年に創立された、世界でもトップクラスのオーケストラです。これまでフルトヴェングラーやカラヤンといった一流の首席指揮者とともに、常にクラシック音楽界を牽引してきました。

 わかりやすくいうと、業界トップで老舗の一流企業といったところでしょうか。ちなみにオーケストラは給料制なので、そういう意味では企業と似ています。業務内容はかなり特殊ですけれどね。

■まずは組織の「色」に染まる

  • 「個人を団体の中に溶け込ませる」
  • 「たとえパガニーニを弾けても、非協力的な人間は去るしかない」
  • 「新人は伝統を受け入れる覚悟が必要」

 オーケストラというのは、ひとたびコンサートツアーが始まると、移動のバスや飛行機の中でも、滞在先のホテルでも常に団体行動です。プライベートな時間はほとんどありません。そのため自分本位な人間は、たとえ楽器の腕が良くてもオーケストラでやっていくことはできません。

 また、オーケストラにはそれぞれ独自の「色」があります。ベルリン・フィルにも125年以上の伝統が醸し出す「色」があります。その色に染まることができない人間もまた、オーケストラの中で生きていくことはできません。

 映画は新入団員のオーディションのシーンから始まります。オーディションの合格者はすぐに団員になるわけではなく、候補生として約半年の試用期間を過ごします。

 候補生たちは試用期間中に団員たちから「ベルリン・フィルの伝統を守れるだけの人間かどうか」を判断されます。これは音楽的な感性に限らず、人間性も大いに問われるところです(普通の企業の採用でも「スキルは優秀だがうちの会社にはどうも合わない」という人がいますよね)。

 試用期間でベルリン・フィルに合わないと判断された候補生は団員になることはできず、辞めなくてはなりません。ここが一般の企業と違うところです。

 組織のなかで働くにあたって、スキルももちろん大事ですが、それ以上に組織の「色」に合うかどうか、もっと言えば組織の「色」に染まる覚悟があるかどうかが一番大切なことなのかもしれない、とわたしは思いました。

■組織の色に染まって初めて自分の「色」を出す

  • 「周りと同化しないで自己表現も大切」
  • 「オケで演奏することは本当に楽しい。だがそれは個の人間として機能できての話だ」

 オーケストラのアンサンブルは団員の個性のぶつかり合いです。個々が持つ音楽性がぶつかり合うことで、まるで化学反応のように素晴らしい音楽が生まれます。先に組織の色に染まることが大切といいましたが、その範囲で自分にしかできない音楽を提供しない人間はそこにいる意味がありません。

 組織の中で自分にしかできない仕事をするということは、組織の目指すものに理解と共感を示した上で、仕事に対して自分だけの付加価値をつけていくことだと思います。わたしも付加価値を付つけることができる人間になりたいです。

■組織から離れてひとりの人間に戻るとき

  • 「オケから離れたら自分に戻る時間も必要」
  • 「音楽漬けの時間を過ごしたら、それと同じくらい他に没頭しなくちゃ」

 映画では、ツアーの合間のわずかな自由時間を楽しむ団員の姿も見られます。初めて訪れた異国の街で買い物をしたり、自転車に乗ったり、みんな思い思いに過ごしています。

 ワークライフバランスの大切さは、今さら説明するまでもありません。確かに、仕事から得られるものはたくさんあります。しかし、仕事以外の趣味や娯楽から得られるものも同じくらいあります。どちらも人間として成長するために大切なものであると思います。わたしは仕事人としてだけではなく、ひとりの人間として豊かでありたいと願っています。

■仕事人としての苦悩と喜び

  • 「ミスするたびに死刑宣告されている気分」
  • 「歳をとれば楽になると思っていたが、歳をとるとますます苦しくなる」
  • 「演奏から解放されても頭の中は仕事のことでいっぱい。子供の声にハッと我に返ることも」

 ベルリン・フィルの団員も人の子です。ときにはミスをしてへこむこともあります。また、いわゆる「クラシック音楽」だけではなく、現代曲にもチャレンジしていく必要があります。世界で誰も演奏したことがない曲を演奏するのですから、戸惑いや不安もあるでしょう。たとえ演奏したことがある曲でも、指揮者が変わると違う演奏スタイルを要求されるので、油断はできません。

 常に「トップオーケストラ」という看板がつきまとう状況で、ときには仕事にいきづまることもあります。しかし「トップオーケストラ」であるからこそ、音楽の喜びや達成感はほかのオーケストラとは比べ物にならないほど大きいものです。

  • 「平凡な趣味、平凡な暮らしと思っていても、決して平凡なんかじゃない」
  • 「うまくいったときの快感、それだけで報われる」

 仕事の重圧に押しつぶされそうになり、これをあと何度繰り返すのか……と考えて腐りそうになりながらも、仕事に喜びを見出す姿は、わたしと変わりません。ベルリン・フィルの団員たちに、少しだけ親近感が湧きました。

 最後に、首席指揮者のサイモン・ラトル氏の言葉を引用して、このコラムを締めくくることにします。

「もがきながらも前進する者に、わたしは深い共感を覚える」

Comment(13)

コメント

ビガー

ビガーと申します。

興味深く拝見しました。

お題にある組織の「色」は「文化」とも言い換えられそうですね。
私は色に染まるのではなく、色を客観的に理解することが重要と考えています。
社員と外部の人間の視点の違いかもしませんが。

私は外部の人間として仕事をしているのでいろいろな組織の色を理解してきましたが、
自分の強みは発揮することが重要なのではなく、組織に足りないものを補完することに
注力することが重要であると感じています。
しかしながら、自分の立ち位置や組織の構造などを考えると動き方が一番難しいんですけど。

第3バイオリン

ビガーさん

はじめまして。コメントありがとうございます。

>お題にある組織の「色」は「文化」とも言い換えられそうですね。
>私は色に染まるのではなく、色を客観的に理解することが重要と考えています。
そうですね。
私は社員の立場で働いているので「組織の色に染まる」という表現をしましたが、
組織との関わり方によってはそこまでしなくても構わない場合がありますね。
しかしどんな関わり方であってもビガーさんのおっしゃるとおり、客観的に理解する必要はあると思います。

オーケストラの場合でも、エキストラとして出るだけでいちいちオーケストラの
色に染まることはしません。オーケストラの演奏スタイルを理解する必要はありますが。

>自分の強みは発揮することが重要なのではなく、組織に足りないものを補完することに
>注力することが重要であると感じています。
私は、企業やオーケストラのように明確な目的をもって存在している組織で
働くということは、その目的に向かうために自分に与えられた役割を果たすことだと思っています。
そういう意味では組織に足りないものを補うということは大切な役割のひとつですね。
一番理想的なのは役割を果たすことによって自分の強みが発揮できることかもしれません。なかなかそういう役割は回ってこないですよ・・・。

>しかしながら、自分の立ち位置や組織の構造などを考えると動き方が一番難しいんですけど。
うーむ、それは難しそうです。
私も社員ではありますが、なんの権限も持たない平社員なので似たようなものです。
自分と組織の距離感をとらえることも大事かもしれません。

おはようございます。ある製作所の旋盤職人さんが、このようなことを言っておられました。

1)ひたすら先輩を見て、技を盗む時期
2)組織のカラーに自分を合わせる時期
3)応用的な技術を発揮し、会社に貢献する時期

どの分野でも、同じようなものだろうと思います。

インドリ

こんにちは、第3バイオリンさん。
私はフリーのエンジニアなので、毎回職場が違います。
おまけに、会社からの依頼でシステム開発体勢の改善などが多く、
元から居る人に敵視されやすいです。
それらが原因で組織の色に馴染めない事が多いです。
どのようにすれば素早く組織の色に溶け込めるでしょうか?

三年寝太郎

一度染まったら、それ以外の色に変わるのは大変ですよ。

制服着て学校行くと同じようなもので、
ある組織や共同体に存在しているという定義づけのための色であれば、
染まる必要は無いかもしれないですね。

引退するまでその組織や共同体に居るつもりであれば、染まっても良いでしょうが、
そうでなければ同じ色の服を着ていれば良いだけのように思います。

組織の色に染まってしまったエンジニアの末路って、
私の経験では良い例が思い浮かばない。。。
昔は仕事できるひとだったのに、それしかやってこなかったばかりに、
出来ることだけにしがみついて、いつの間にか周りにとって障害になってる古参のエンジニア。
そんなケースも無きにしも非ずです。

エンジニアにも職人的要素はあって良いと思いますし、
それが使いやすいものを社会に提供するために必要なことでもあるでしょう。

ただ、200年もの間大きく形の変わらない道具と、
必要とされる技術的な要件の変わらない曲を使い、
しかも経済活動とはほぼ無縁な中で、文化を残すという意義から
生き残ることを許されているオーケストラ。
5年もすれば技術的要件も使う道具も、経済活動の中での位置づけも
めまぐるしく変わり、生き残るために新しいものをどんどん取り入れる必要に
迫られているエンジニアや実社会での組織のあり方。
この2つが、それほど近いとも思えないので、参考にはなリにくい例のような気もします。

もし今、だれかがクラシックの新曲を出したってまず売れないでしょう。
新しいものを基本的に受け付けないからこそ「クラシック」なわけです。
新しいテクニックや発想が求められることも少ないし、
それが出来るとしたら指揮者が新しい解釈を持ち出すぐらい。

現場で一つ一つの音をつむぎだす奏者には、
過去を忠実に再現することが強く求められる傾向が極めて強い。

新しいものに挑戦するためには、失敗が欠かせませんが、
過去を忠実に再現しなければならないとなったら、失敗は許されない。

染まる染まらないも含めて、
オーケストラとエンジニアとは、前提条件が175度以上違う気がしますがどうでしょう。

ビガー

ビガーです。

>私は、企業やオーケストラのように明確な目的をもって存在している組織で
>働くということは、その目的に向かうために自分に与えられた役割を果たすことだと思っています。

役割の実行も大事ですけど、役割の定義の難しさが組織内での動き方を難しくしている
原因かもしれませんね。

私はエンジニア、コンサルと違った立ち位置でいろいろな組織を見てきて、
首尾一貫した目的やビジョンを「実行」している現場に遭遇した記憶がありません。
(うたい文句としてのビジョンなどがある組織は当然多いですけど)
だからこそ、それを手助けしていけるような人間になりたいと思いながら仕事をしています。

お邪魔しました。

第3バイオリン

田所さん

早朝からのコメントありがとうございます。

>1)ひたすら先輩を見て、技を盗む時期
>2)組織のカラーに自分を合わせる時期
>3)応用的な技術を発揮し、会社に貢献する時期

上の順序でいうと、私は1の段階あたりでしょうか。
社会人5年目で、今の会社も5年目ですから、組織のカラーは
ようやく分かり始めた感じといったところだと思います。

第3バイオリン

インドリさん

はじめまして、コメントありがとうございます。

>おまけに、会社からの依頼でシステム開発体勢の改善などが多く、
>元から居る人に敵視されやすいです。
私の部署もテストだけでなく、開発者に対して改善の提案を行っているので
開発者から「仕事増やすな」的な目で見られることがあります。
今は大変かもしれないけれど長い目でみれば開発にとっても得になる、ということを
わかってもらうにはどう提案すればいいか、いつも迷っています。

>どのようにすれば素早く組織の色に溶け込めるでしょうか?
それは正直わかりません。
私は今の会社でしか働いたことがありませんので、
フリーで働いているエンジニアの方のご苦労を完全に理解することはできません。
何の答えにもなっていませんが、適当なことは言えませんのですみません。

ただ、組織の内にいる者として、どうすれば組織がよくなるか、
そのために私に何ができるかを考えています(青いですかね?)。
実際に何かできるかどうかはまた別の話ですけどね。

第3バイオリン

三年寝太郎さん

はじめまして、コメントありがとうございます。

>引退するまでその組織や共同体に居るつもりであれば、染まっても良いでしょうが、
>そうでなければ同じ色の服を着ていれば良いだけのように思います。
先のビガーさんへの返答にも書きましたが、
組織との距離感の保ち方によって、どこまで染まるか、そもそも染まる必要があるのか
どうか判断することが大切なのだと思います。

>この2つが、それほど近いとも思えないので、参考にはなリにくい例のような気もします。
>染まる染まらないも含めて、
>オーケストラとエンジニアとは、前提条件が175度以上違う気がしますがどうでしょう。
それは確かにおっしゃる通りです。単純に比較することはできません。
ベルリン・フィルの例はあくまで一例です。しかも、かなり特殊な例です。
しかし、私にとっては映画を見たことで、組織の一員であるとはどういうことなのか
考えるきっかけになりました。

第3バイオリン

ビガーさん

>役割の実行も大事ですけど、役割の定義の難しさが組織内での動き方を難しくしている
>原因かもしれませんね。
今は正社員、派遣社員など雇用形態はいろいろですが、正社員と派遣社員が同じ業務を担当している場合もあって、
単純に雇用形態や業務内容といった単一のファクターだけで役割分担できる状態ではないのがややこしいところですね。

>だからこそ、それを手助けしていけるような人間になりたいと思いながら仕事をしています。
私もそう思います。私にできることは一体何だろうといつも考えています。

インドリ

第3バイオリンさん返信有難うございます。
青くないですよ。それが正しい姿勢だと思います。
自分の利益しか考えない人も多いですが、
本来会社ってそんな人の集団であるべきなのでそれでいいと思います。
フリーな人から見てもそんな人は好ましいです。
逆にそれを青いという人に対しては「じゃあフリーになって自分の腕一本で飯を食え」と思います。

インドリ

誤解を受けるかもしれないので補足します。

「本来会社ってそんな人の集団であるべきなのでそれでいいと思います。」

これは、自分の利益を考える人のほうじゃなくて、
組織の内にいる者として、どうすれば組織がよくなるか、
そのために私に何ができるかを考えている人の事です。

第3バイオリン

インドリさん

>青くないですよ。それが正しい姿勢だと思います。
ありがとうございます。
早く実際に何かできるエンジニアになりたいものです。

内部の人も外部の人も働きやすい職場というのは
そう簡単に実現できるものではありませんが、せめて一緒に働く人が
気持ちよく働くにはどうしたらいいか、組織の内の人間として考えていきたいと思います。

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