モンスターとなったIT
「ITの力で世界を変えます」
「あなたに最もふさわしいITを」
「ITでイノベーション」
テレビを付けると、10分に1回はこんなCMを見かける世の中になりました。
いつからITは魔法になったのでしょう。
いつからITはモンスターとなってしまったのでしょう。
申し遅れました。くえびこ、と申します。
数社のソフト会社の技術アドバイザや学校で講師を行っております。
わたしの簡単な自己紹介としましては、
- 30代中盤の中年でございます
- 小学校の頃、ファミリーベーシックでプログラム始めました
- MSX、88、FMTOWNS、98、NeXT、Macintoshなどを渡り歩いてきました
- 現在は組み込みやらゲームやらiPhoneやらWebやらと、とにかく何でも屋です
という感じです。単なるマイコンオタクだったわたしが、ソフトウェアを書いてご飯を食べられるようになったのも、一重にITブームのおかげです。
が、こんな時代でこの年になったからこそ、もう一度ソフトウェアと向い合ってみようと思います。
◯ソフトウェアが変えた世の中
いつの間にか、ITなどという言葉が生まれていました。
Windows95の発売とワールド・ワイド・ウェブの爆発的な広がりによって、ソフトウェアの重要性が上がってきたこの15年。一番変わったのは何かと考えてみます。
まずは何より生活が変わりました。
何をするにも、Webを見る。
電車に乗ったら、まず携帯を見る。
人とのつながりをネットに求める。
良いこともあり、悪いことも多くなりました。
リテラシーが試される世の中になったと言えば聞こえが良いですが、垂れ流される膨大な情報は世間の判断力を逆に落としてしまったようにも思えます。
それでも世界規模のネットワークの利便性に比べれば、大抵のことはノイズに見えます。
生活が変われば、職業も変わります。
ソフトウェアエンジニアが圧倒的に足りなくなり、猫も杓子もソフトウェアを書き始めました。
このことは、マイコンオタクだと後ろ指をさされながらプログラムを書いてきたわたしには(注:若干の被害妄想アリ)、とても嬉しいことでした。
プログラムを書くのってやっぱり楽しいからです。みんな、楽しもうぞ!
……でも、現実はそれほど愉快なものではありませんでした。
本当にコンピュータが好きで、新しい技術にワクワクする……そんなエンジニアはそれほど増えません。
結局、プログラムが楽しいと思える人はやはり一部のオタクなのかな、と思うこともありました(注:やっぱり若干の被害妄想アリ)。
◯好きだから、書く
わたしはソフトウェアの講師も行っており、多数の学生を教えてきました。
その中で「こいつはプログラマに向いているな!」と思える人物は5%も居なかったと思います。
そして、その数値を持って、社会へとトレースしてみますと、驚くべきことにその数値は下がってしまうのです。
社会ではむしろ、ソフトウェアというものをよく知らずに、ミドルウェアの上でスクリプトに近いプログラムをコピペして作っている、そんな人を多く見かけます。
それもそのはず。お話を伺ってみると、プログラミングを別段面白いと思っていないのです。
コンピュータ好きというのは、やっぱりマニアックな連中なのでしょう。
たしかテレビ番組で見た数字ですが、小学生男子がなりたい職業の5位にソフトウェアエンジニアが入っていました。
いまだにソフトウェアエンジニアが花形のように思われることがあります(ここ数年でかなり減りましたが……)。
マスメディアに踊らされ、自身の向き不向きを考えずにソフトウェア業界へ入ってしまう人が多いのかもしれません。
もうITという言葉自身がもうバズワードなのではないか、と感じることがあります。
これからソフトウェア業界へ入ろうとする人は、学校でも塾でも独学でも何でも良いので、まずソフトウェアを書いてもらいたいと思います。
見るのも嫌になるか、どっぷりのめり込むかのどちらかになるまで。
本当に好きだと思えたら、ソフトウェアエンジニアになるのが良いと思います。
好きこそものの上手なれ。これはソフトウェア業界では本当に実感できる言葉です。
◯ソフトウェアエンジニアのゴール
ソフトウェアエンジニアのゴールは、理想とするソフトウェアのゴールでもあります。
やはり理想とするソフトウェアは、「書かなくても良い」ソフトウェアですよね。
すなわち、ソフトウェアエンジニアのゴールは、ソフトウェアエンジニアという存在をなくすことです。
現状のソフトウェアの問題は、とにかく分かりづらいことにあります。
たった1画面のアプリケーションだとしても、
「この部分の文字は何ピクセルで表示しますか?」
「この色は何色ですか? RGBでお願いします。」
「初回起動時、画面はスクリーンのどこに表示しますか?」
などなど。とにかくソフトウェアを頼むと、「そんなの、どうでもいいよ」といった内容の“決め事”を聞いてきます。
で、ちょっとした要求変更をすると、
「そちらは伺っておりません。仕様変更なので、別途工数を請求いたします」
となるわけです。世間からはソフト屋はめんどくさい、などと言われる由縁です。
ソフトウェア書きのわたしとしては、どちらの気持ちも分かります。
「決めてもらわなくては作れない!」というソフト書きの気持ち。
「そんなのうまくやってよ!」というクライアントの気持ち。
もっとソフトウェアはコンビニエンスになるべきです。
イメージを描くと、すぐにソフトウェアになる。使ってみて要望があると、すぐに反映される。そんな環境が理想ですよね。
今でこそビヘイビア駆動開発なんて言葉もありますが、実用的になるのはまだ先。そして実現できても、まだまだ堅物というイメージは拭えないと思います。
しかし、XPなどのアジャイル開発(なかなか日本で定着しないですが)が出てきたのは、大きなパラダイムシフトだと思います。
きっといつか、ソフトウェアは言葉やイメージで伝えるだけで実装される、そんな時代になります。
そして、この時代にソフトウェアエンジニアをやっていられる我々はとても幸せなことだと思います。
だからこそ、多くのエンジニアがソフトウェアを書くことを好きであって欲しいと願っています。

くえびこ

インドリ 2010年3月25日 (木) 19:29
はじめましてくえびこさん。
フリーエンジニアのインドリです。
感想がありますので書きます。
> きっといつか、ソフトウェアは言葉やイメージで伝えるだけで実装される、そんな時代になります。
この件ですが、それこそが私たちの仕事ではないでしょうか?
私はエンドユーザーやソフトウェア会社の重役と直接会話して、
脳内で分析&設計して実装します。
※私はシステムを売るシステム屋をしています。
開発環境だけが便利になってしまえば、エンドユーザーが直接プログラミングをすればいいと思います。
ですが、実際に研究してみると、限界がある事が分かりました。
恐らく80~90%は自動化できるでしょうが、後の微調整はやはり職人技が必要となります。
ですから我々が、クライアントが「イメージを言えば勝手に出来上がる」、そんな便利な存在にならないといけないと考える次第です。
インドリさん
コメントありがとうございます。くえびこです。
>この件ですが、それこそが私たちの仕事ではないでしょうか?
完全にイメージしただけでモノが出来上がるようになるまで、段階があると思っています。
現在の自動車整備屋さんのように、困った時には専門家が必要となる段階を得て、整備自体をコンピュータがやってくれる時代に。
MDA→BDDという流れのもっと先に、コンピュータがパートナーになる時代があると信じています。
そのために、コンピュータやエンジニアが崇められる時代から脱却しなくてはならないと思います。
我々専門家が専門家を排除出来る時代にしなくてはならないと感じています。
SFに近い話かもしれませんが、不可能ではないと信じています(^^;
Soda 2010年3月25日 (木) 22:48
>もうITという言葉自身がもうバズワードなのではないか、と感じることがあります。
IT系と表現されることもありますが・・・
私は、IT系とそうではないものの境界がわからなかったりします(^^;
こー始めはなんらかの通信が絡むソフトウェアだったような気がするのですが・・・
今はソフトウェア全般のような感じの使われ方してるような・・・
他の業種で、こんなに得たいの知れない用語が多く使われるものがあるのかなーと素朴な疑問だったりw
>ソフトウェア書きのわたしとしては、どちらの気持ちも分かります。
相手の望んでいるものを予測することは重要ですね。
聞きすぎてもいけないし、情報が足り無すぎてもいけない。
>きっといつか、ソフトウェアは言葉やイメージで伝えるだけで実装される、そんな時代になります。
遠い将来はそうなるんでしょうねぇ。
プログラム製作の敷居はどんどん下がってますし・・・代わりに見た目の敷居は上がっていくのですが(^^;
プログラムを書く人ってのは、ほんの一握りになるんでしょうねぇ。
ソフトウェア産業の理想は、プログラムを書く人が居なくなることなんだよなぁ(^^;
しかし、進化ってのは早いですよね。
ブログとか、わりとなにも知らない人でも使えるようになってきているじゃないですか。
インターネットが普及したばかりのころから考えると信じられないぐらいの進化だと思うんですよ。
・・・思っているよりも早く、今のプログラマという職が無くなるのかもしれませんね。
10年もたてば、「そんなことでお金がもらえてたの?」って言われることも沢山あるんでしょうねw
お客がイメージしたものに自動的に変化するシステムが当たり前の時代では、そのシステムのメンテナンスでさえ人間が行わないのかな?w
すると、そのシステムのプログラムは誰かが作ってしまえば、作った本人ですら中身を知る必要がなくなるって不思議な話ですね。
Sodaさん
コメントありがとうございます。くえびこです。
>他の業種で、こんなに得たいの知れない用語が多く使われるものがあるのかなーと素朴な疑問だったりw
まったくですよね。バズワードだらけな業界です(^^;
>プログラム製作の敷居はどんどん下がってますし・・・代わりに見た目の敷居は上がっていくのですが(^^;
私もデザイン能力、欲しい!って思います。
どんな小さなソフトウェア会社にも、デザイン担当は居た方が良いと思ってます。
>インターネットが普及したばかりのころから考えると信じられないぐらいの進化だと思うんですよ。
本当ですよね。これもバズワードですが、Web2.0という言葉が流行ったおかげかもしれません。
>10年もたてば、「そんなことでお金がもらえてたの?」って言われることも沢山あるんでしょうねw
かも、ですね。
早くそんな世の中になればいいなぁと思います。
>すると、そのシステムのプログラムは誰かが作ってしまえば、作った本人ですら中身を知る必要がなくなるって不思議な話ですね。
面白いですよね。60年代に流行った近未来漫画のようです。
コンピュータはパートナーになっていくべきと思ってます。
今までのコンピュータは人間が使い方を覚えて使っていましたが、
これからはコンピュータが人間のことを考られるようになれば、と思ってます。
インドリ 2010年3月28日 (日) 11:09
返信有難うございます。
楽しい話題なのでもう一言いいます。
> SFに近い話かもしれませんが、不可能ではないと信じています(^^;
はい、可能です。
私には資金と権力がないので完全には実装出来ませんでしたが、理論上は可能である事が、自身の研究で分かっています。
ただし、どうやってもそういったシステムをメンテナンスする人と、バージョンアップする技術者が必要となります。
そのコストを考えると、現状ではあまりメリットがありません。
しかし、逆を言えば、コストさえ下げられるのであれば実現します。
なので、そういう風に進化していくと私は考えております。
次回のコラムも楽しみにしています。