『深く聴くための本 アサーション・トレーニング』――話を聞けない、言いたいことが言えないループを抜け出す

2011/06/22 17:08:39

深く聴くための本 アサーション・トレーニング 深く聴くための本 アサーション・トレーニング

森川 早苗(著)
日本精神技術研究所
2010年9月
ISBN-10: 4931317162
ISBN-13: 978-4931317161
1575円(税込)

 アサーションとは、リスクを覚悟した上で、話してみるか、話すのをやめるのか、話すとしたら何をどのように話すのか、自分が決めることができるのです。つまり、自分が納得して自分の言動を選ぶかどうかという主体性の問題でもあります。(p.104)

■「新人」から「先輩」になって思うこと

 去年の私は新人でした。その自分が今年、新人研修の世話役を務めました。指導する立場になってあらためて思ったのは、「入社したての新人はなにかと萎縮しがちな存在である」ということです。

 先輩・上司という立場が違う相手に対して、何か思うところがあっても遠慮して言い出せない新人たち……。彼らを見ていて、目上の人に言いたいことを言えず、後悔した新人時代の思い出が蘇ります。また、彼らが言いたいのに言えずにいることを、こちらがうまく引き出せないか、と思う場面が多々ありました。

 「言いたいことを言えない」――この問題を軽減する一助になればと思い、本書を手に取りました。

■アサーションって何だ?

 アサーションとは、「人が生まれながらに持つ自己表現の権利」です。相手の立場も大切にしながら「自分の欲求や意見、気持ち、価値観などを、正直に率直に、その場に適切に表現すること」(p.64)を指します。働く人々が、職場で自分の意思を伝えられず心身を病むことがないよう、メンタルヘルスの予防策として近年、注目されている手法の1つです。

 こんな場面を想定してみましょう。先輩から、来月分の予算見積もりに関する計算を頼まれた新人のAさん。しかし、計算方法を勘違いしており、明らかに異なる数字を先輩に提出してしまいました。

 ミスに気付いたAさんの反応、ミスの指摘にはどのようなものがあり得るでしょうか。想定できる状況をいくつかに分けて、「アサーティヴ」な言い方について理解してみたいと思います。

●アグレッシブ(攻撃的)……自分優先で、他人の存在を軽視した言い方

  • Aさん:「ミスは私のせいじゃありません。先輩の教え方が雑なんです」とふてくされる
    →相手の気分を悪くし、口論になる可能性があります
     
  • 先輩:「なんでこんな簡単なことを間違えるの?」と詰問口調でAさんを叱る
    →Aさんは萎縮して、何も言えなくなるかもしれません

●ノン・アサーティヴ(非主張的・受身的)……自分の言いたいことを抑え、他人を優先した言い方

  • 先輩:「間違いを指摘するのも時間かかるし、言って傷つけるのもなぁ」とミスを自分で直し、Aさんには何も伝えない
     
  • Aさん:ミスの原因は計算式にあるのではないかと気付いたが、指摘すれば逆に先輩を否定するのではないかと思い、何も言い出せない

    →その場は何事もなく収まっても、後日また同じ過ちが起きるかもしれません

●アサーティヴ……自分の言いたいことを伝えつつ、相手の存在も配慮した伝え方

  • 先輩:「私の教え方が良くなかったかもしれないけど、ここは数字がちょっと違うかな。どうやって計算したか教えてもらえる? 正しいやり方をもう一度教えるね」
     
  • Aさん:「私はこう理解したんですが」と、自分の計算プロセスを相手に見えるように伝える。間違いを犯したことをわびつつ、次回同じ過ちを繰り返さないために、正しい計算式を再度教えてもらう

    →お互いの関係を良好なまま保持しつつ、仕事面の失敗もうまくカバーされています。

 やや単純化した形で例を示しましたが、もちろん、正しい対応は上に示した限りではありません。状況や関わる人間の性格によって、伝え方は臨機応変に変える必要があります。

■話の聴き方については教わらないからこそ

 アサーションは<自己表現>に関わる権利であると前述しました。では、本書の副題が「深く聴くための本」となっているのはなぜでしょうか。

 それは、アサーションが自分の主張だけではなく、「相手も大切にする」表現であるためです。相手を尊重するとはすなわち、相手の言いたいことをきちんと「聴く」ことです。アサーションは<言う><聴く>の対で成り立っている――これが、本書の基本的な立場です。

 先ほど、新人を例に出しましたが、実はアサーティヴな表現が求められるのは、上司や先輩の方なのかもしれません。

 考えてみれば、私たちは自分を「伝える」方法を教えてもらうことはあっても、話の「聴きかた」について教えてもらう、または考える機会はなかなかありません。

 「相手がうれしい時の話を聴く」「時間がない時に話を聴く」「会議の席で部下の意見を聴く」など、本書の終わりには、さまざまなシチュエーションでの「聴き方」に関するアドバイスが載っています。各シチュエーションへの対処法はさまざまありますが、そこには共通点があります。それは、「相手の立場になって、相手が感じていることを想像しながら動く」ということ。

 聴き方に正解はありません。著者の言葉を借りれば、「あなたがどうしたいかで決まります」(p.122)。このことを念頭に置きつつ、少しでも相手の気持ちに近づこうとする心掛けが、より良い聴き方を育てるのかもしれません。

■アサーションをする・しないはあなたの自由

 本書を読んでいて、最も気持ちが楽になったのは、次の一節でした。

 「権利を持っているからといって、保証されるわけではありません。また、権利があるからといって、使わなければいけないわけでもありません。(権利を持つとは)『アサーションをしていいよ』ということであり、『アサーションをしない』ということも選べるのです」(p.81)

 そう、アサーションは「義務」ではありません。大切なのは「言う/言わない」「聴く/聴かない」を自分で決められるということなのです。

 自分は何をしたいのか。<したいこと>を口にするかしないか。する、あるいはしないとしたらなぜか。こうした気持ちの1つ1つをきちんと言葉にすることで、自分が他人に対して求めているものを自覚できるようになるかもしれません。これは、仕事に限った話ではありません。人生のさまざまな局面で「アサーション」を意識することで、日々の生活をより良いものにできたらと願っています。

(営業統括部企画推進部 松岡瑛理)

『へんな数式美術館』を脳内探索してみた

2011/05/12 19:06:05

へんな数式美術館  へんな数式美術館
世界を表すミョーな数式の数々


竹内薫(著)
技術評論社
2008年7月
ISBN-10: 4774135569
ISBN-13: 978-4774135564
1659円(税込)

 本書は、サイエンスライター竹内薫氏が、氏の専門である物理学とやや近いと思われる「数学の数式」について書いたものである。

 コンセプトは「世の中には、実におかしな数式が跋扈(ばっこ)している。そんな面白い数式を料理し、鑑賞する」。ううむ、知的好奇心がそそられる。

 ※余談だが、竹内氏はJ-WAVEの情報番組「JAM THE WORLD」の金曜担当ナビゲーターとしてもおなじみで、会社帰りによく聞いている。彼のソフトな語り口は、仕事で疲れた頭を癒してくれる。また、最近では経済学者 高橋洋一氏との共著など、幅広く活動している。

■知的好奇心をくすぐる「美術館」を探索する

 さて、章立てを見てみよう。書名が美術「館」だから、章でなくて分館だ。

  • 第1分館:物理と数学館
  • 第2分館:数と数学館
  • 第3分館:いろいろ図形館
  • 第4分館:無限の不思議館

 物理の数式が第一というのは竹内氏の専門だからかと邪推する。やはり説明しやすいのだろう。有名な自然体系式のc=1などがあるからね。

 それぞれの項目は互いに独立しているので、興味があるところから読み始めて構わない。とは言っても、他のものと関連がある数式があったりもするので、その際は前後の項目を見返せばよい。

■ボナッチの息子、フィボナッチの数列

 再帰でおなじみのフィボナッチ数列の項。

Fn+2 = Fn+1 + Fn ただし、F0=0,F1=1

 これはフィボナッチ(ボナッチの息子を意味するとのこと)が考えた「1番(つがい)のウサギが、生まれてから2カ月後から、毎月1番のウサギを生む。1年後にウサギは何番になる?」という問題を表す式だ。この由来は知らなかった。というか、何でこんな命題を考えたのかがそもそも不思議。書籍の中で、竹内氏も「いろいろ調べたが分からない」と述べている。

 「本当にそうかな」と思い、6項目までを試算してみた。確かに、番の数がフィボナッチ数列の6項目である13になっている。

Fibo

 フィボナッチ数列の一般項を表す式に、黄金比である1+√5が現れる。黄金比の項目もあるので第三分館の「黄金比」の項をめくってみてもよい。

 随所に散りばめられたコラムが、息抜きとして面白い。数学者の生きさまについて書いたものが多い。三次方程式の解の公式のカルダノが残した「ギャンブルをまったくしないことが、ギャンブラーにとっての最大の利益」という名言は興味深い。理論から来たのか? 実践からか? さて。

■感覚的に「?」な式

 眺めていて腑に落ちないのが、第4分館「さかさまのp進数」の式。

-1=…99999

 確かに、等比級数の和の公式、

1/1-x=1+x+xの2乗+xの3乗+……

から導かれるのは分かる。が、感覚的にどうも腑に落ちない。まるで、狐につままれた気分。理屈は分かるのだが……。

■まとめ

 繰り返しになるが、本書はどこから読み始めてもよい。最初から読んで、きっちりしっかり理解しようと思うと、分からない部分があった途端に挫折する。「そのうち分かる」くらいのつもりで読むといい。

 第4分館のε-δ(イプシロン-デルタ)法などは、懐かしかった。極限といったらこれだ。竹内氏も苦しめられたのが分かる(詳しくは、「ロビンソンの無限小数」の項を参照)。

 本書にはあとがきがない。館長である竹内氏が、どんなふうにまとめるかが楽しみだったので、残念だ(拡散しすぎてまとめようがなかったのか?)。

 本書は、ビジネスロジックを考えまくって疲れたエンジニアの、よい気分転換になるだろう。あるいは、本書を読んでさらに頭を疲れさせて、「睡眠リセット」するにもいいかも?

『30過ぎで5社目でした。』コラムニスト けいいちっく)

『すべてはあなたが選択している』――ブラック企業に勤めているのも、自分の選択?

2011/03/18 16:08:37

言語設計者たちが考えること すべてはあなたが選択している

ウィル・シュッツ(著)
池田絵実(翻訳)
ビジネスコンサルタント (監修)
翔泳社
2011年1月
ISBN-10: 4798123609
ISBN-13: 978-4798123608
1680円(税込)

■過去の自分と今の自分は「すべて」あなたが選んだ結果

 この本書のタイトルに入っている「すべて」という言葉。この「すべて」とは何を指しているか、お分かりでしょうか。実は、「1人ひとりの人生におけるものすべて」を指しています。

 生まれてきてから入学、進学、就職、結婚……。過去の経験、また現在の自分が“こうある”ことは「すべて」自分が選択したから――誰か他の人や環境のせいではなく――だというのです。

 メンタルヘルスやキャリアプランに興味・関心をもつ私は、この過激な内容に心を惹かれ、読んでみようと思いました。

■では未来は?

 タイトルは非常に過激ですが、本書は「愚痴を言うな! 誰かのせいにするな! お前が今こうしているのは、お前がそうしたいと選んだ結果なんだ!」という根性論で書かれたものではなく、一般的な自己啓発の書籍です。

 「すべてはあなたが選択している」という言葉は、こう言い直すこともできるからです。「わたしたちの人生は、自分自身で選択して決めることができる」と。

 本書では、自分で自分の意思のままに選択をし、いきいきとした人生を送るための視点を紹介しています。

■“なりたい自分”になるための7つの要素

 著者のウィル・シュッツ氏は、対人関係について研究を続け、「対人関係に関する3つの次元(詳細は後述します)が、人と人との相互作用において非常に重要かつ効果的」と説きました。また、「対人関係における行動、およびその行動の裏にある気持ち、感情、自己概念から行動特性を明らかにする」という研究を発展させ、自己変革によって対人関係を改善することで、組織の生産性を上げる研究し、「ヒューマン・エレメント」モデルとして体系化しました。

※「ヒューマン・エレメント」の詳細は『自己と組織の創造学』という彼の別の著書で確認してください。

 同時に、彼は「ヒューマン・ポテンシャル・ムーヴメント(人間性回復運動)」に加わり、家族や人が抱える問題を解決するための研究を行っていました。児童虐待や精神疾患といった兆候がなければその家族は「普通」だ……という判断で終わらせず、家族1人ひとりが自分の潜在能力に気付くことを助けることが彼の目標でした。

 さて、シュッツ氏はさまざまな「本当に望む道、喜びにあふれる人生」に関する研究をまとめるうち、「これらの研究には、共通する『7つの要素』がある」と気付きました。本書では、7つの要素を政治や経済、教育、スポーツなどの場でどのように応用するかを紹介しています。

◎7つの要素

  • 真実
  • 選択
  • 単純さ
  • 限界のなさ
  • 全体性
  • 達成
  • 次元

 抽象的でやや分かりにくいと思うので、各項目について簡単に解説します。

■真実:自分の本音に反するうそはつかない

 例えば、妻帯者が浮気してしまったとします。家に帰れば妻が笑顔で迎えてくれるわけですが、浮気したことを妻に感付かれないために、自分の言動に気を配らなくてはなりません。そこにエネルギーを集中してしまい、妻との会話が成立しなくなります。その結果、自然と家庭内での会話がなくなってしまうわけです。

 これは「真実」、つまり「自分の本音に反したうそはつかず、オープンかつ正直に告白した方が、自分にとって良いことなのではないか」という事例です。上記の例は、大げさかもしれません。しかし、浮気をしてしまった事実を正直に告白して許しを請う、または家庭内の不満をお互い話し合って解決する、といった行動が取れたかもしれなかったのです。

■選択:イライラすることも、実はあなたが選択している?

 何かの議論に参加していた際、自分だけが意見が異なっていて、ほかの参加者に言いくるめられたとします。議論が終わって家に帰っても、言いくるめられた事実にイライラするかもしれません。しかし、意識レベルでは「言いくるめられた」と思っていても、無意識レベルでは「自分がその意見を選択したのだ」と著者は考えます。これは、自分の意見に限らず、不快な心情や病気など、ありとあらゆることにも当てはまります。

■単純さ:答えは意外と簡単かもしれない

 自分に赤ちゃんがいたとして、その子の乳離れをいつにするかで悩んでいたとしましょう。すでに子どもがいる友人に話を聞いても、意見がバラバラで余計に分からなくなったため、専門家に相談します。すると専門家は単純明快に答えます。「歯が生えてきてからでいいじゃないですか」

 人は何かで悩むと、悩み過ぎて問題を複雑化してしまいがちです。しかし、答えは意外と単純明快なものではないでしょうか。心をオープンにして受け身の姿勢になり、ほかの人とコミュニケーションを取ることで答えは出せます。著者は、この姿勢を教育の場でも生かして、相手に一方的に答えを教えてしまうのではなく、相手が答えを出せるように導くことが重要である、と説きます。

■限界のなさ:「限界」の線を自分で引かない

 小さい頃から「不器用だ」と両親にも言われ、自分自身も劣等感を感じているとします。自分で自分のことを不器用だと思っているのですから当然、図工の授業で何かを作っても、見栄えも悪いし実用性もないものが出来上がります。

 しかし、自分から何かを作ってみたいという気に駆られてこっそりテーブルなどを作ってみると、ちゃんとしたテーブルができます。その結果、「何だ、意外とできるじゃん」とうれしくなります。

 能力を今以上に伸ばせないのは、自分自身が「もうこれ以上は自分には無理」と選択して、ブレーキをかけてしまうことが原因だと、著者は考えます(もっとも、本書では「超能力」という言葉も出てくるなど、やり過ぎ感は否めませんが)。

■全体性:心と体を結び付けて考える

 心と体は分けて二元的に考えるのではなく、結びついていると考えよう――こう著者は説きます。「面の皮が厚い」「地に足がついた」「頭が固い「目の色が変わる」「頭が軽い」といった慣用句は精神面の表現ですが、身体的にもそうなっている(自分の感覚がそう訴える)ことが多いそうです。

 心と体を結び付けて考える「全体論」的なアプローチを取ることで、人間の行動に対する理解が深まるのではないか、と著者は考えます。

■達成:エネルギー・サイクルを意識して、コントロールする

 人間の行動は、一連の「エネルギー・サイクル」としてとらえられます。

 現状を変えようとする(動機)→対処のために計画を立てる(準備)→準備していた動きを実際に行う(行動)→行動した結果、「それが的確であったかどうか」によってさまざまな思いが現れる(感情)

 このサイクルの要素のうち、何かを否定したり歪めたりしてエネルギーの流れを止めてしまうと、物事を達成できなくなります。エネルギー・サイクルを意識してうまく循環させることで「自分自身に気付き、自分の意思のままに選択できます」。

■次元:団体行動で起こる3つの要素

 組織・団体の中で起こる行動は、

  • 仲間性
  • 支配性
  • 開放性

という3つの基本的な次元(要素)で構成されています。

  • 「仲間性」:集団の仲間に入りたいという欲求から起こる行動
    • 自身を「重要な存在」であると感じているか否かで左右される
    • 自信が持てないと「自分は誰からも相手されないから、1人でいいや」と孤独に陥る/「とにかく誰かから注目されたい」と過度に思うようになる
  • 「支配性」:集団の中で自分が支配したい、もしくは支配されたいという欲求から起こる行動
    • 自身を「有能な存在」であると感じているか否かで左右される
    • 自信が持てないと「自分には関係ない」と責任を放棄/相手を支配しすぎる行動に出る
  • 「開放性」:集団の中で自分の心を開きたいという欲求から起こる行動
    • 自身を愛しているか否かで左右される
    • 自信が持てないと「人と関わることを避けてしまう/人の心に土足で踏み込むように人と深く関わろうとする

 適度な「仲間性」「支配性」「開放性」を持つことが重要です。

■ブラック企業に勤めているのも、自分が選んだこと?

 人によっては「いくらなんでも、それはさすがに……」と思う部分もあるかと思います。わたしは「いじめられるのは、いじめられることを選択しているから」「病気になるのは、病気になることを選択しているから」といった内容については同意できませんでした。

 また、本書の内容を実践したくても、さまざまな事情を考えてしまって「そうは言っても……」と思う方もいるかもしれません。

 ですが、ここで「ブラック企業」について考えてみましょう。「この会社はブラックだ」と愚痴を言い続けるにもかかわらず、その会社に勤め続けた結果、うつになって休職や退職に追い込まれてしまう……そんな人は決して少なくないでしょう。会社を辞めることを考えてもいいのに「そうは言っても、お客さまがいるし……」「そうは言っても、不景気だから転職なんて厳しいし」と何かと理由をつけて仕事を続けてしまいます。そして、今日も現状に愚痴ばかり言ってしまうというサイクルが回ります。

 愚痴は分かりますが、「その会社に勤め続ける」選択をしているのは、自分自身です。うつになると正常な判断できなくなるという話もありますし、そうなる前に転職の道を選択することも必要なのではないでしょうか。

 これは、ネガティブなことばかりに限らないと思います。ポジティブに自分のキャリアを考えたときに「転職したい。けど、今のお客さまも仲間もいい人ばかりで裏切れない……」と思うかもしれません。しかし、自分の気持ちを否定しているのであれば、流れを断ち切るような否定はやめて新しい道を選択することで、幸せになるのではないでしょうか。

 本書を読み、「本当に望む道、喜びにあふれる人生」について、いま一度考えてみるのもいいかもしれません。

『It’s Party Time!』コラムニスト あずK)

悩めるリーマンのための神経言語プログラミング――『夢をかなえるNLP』

2011/01/13 12:00:00

夢をかなえるNLP 夢をかなえるNLP

若本勝義(著)
PHP研究所
2010年10月

ISBN-10: 4569773648
ISBN-13: 978-4569773643
1575円(税込)

 神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming:以下、NLP)というものをご存じでしょうか。「プログラミング」とありますが、IT業界におけるプログラミングとは意味が異なります。個人が持っている、情報の受け取り方や考え方のフィルタを「書き換える」という意味の「プログラミング」です。

 NLPは、「3人の天才的セラピスト」、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティア、催眠療法のミルトン・エリクソンが用いていた手法を研究・体系化したものです。1970年代のベトナム戦争によって、心に傷を負った人たちへの心理療法として効果を発揮したといわれています。心理療法ではあるものの、最近ではNLPやビジネスやスポーツなどの分野でも用いられています。

 本書はNLPの入門書の1つですが、物語形式で書かれているため、実践的な面で非常に分かりやすいという点が特徴です。

■悩めるサラリーマンの物語

 物語の主人公は、コンサルティング会社に勤務する宮本邦彦(35歳)。上司との確執で悩んでいました。

 宮本は、ひょんなことから「カフェNLP(Natural Life&Play)」のマスター、リチャード田中に出会います。リチャードはカフェの店長でありながら、客の悩み相談(セッション)に乗って、問題解決へと導いています(彼の悩み相談の手法はNLPを用いていますが、物語中では「リチャード・マジック」と呼んでいます)。早速、宮本はリチャードのセッションを受けます。

■夢を阻んでいるものは何か?

 まずリチャードは宮本に、「理想のゴール」を想像させます。そして、「そのゴールにたどり着いた場合、いまとどのような変化が起きているか」も想像させます。

 ここまでは、一般的な自己啓発と同じかもしれません。しかし、この後でリチャードは宮本にこのように尋ねます。

 「そうなることを止めているものは何ですか?」

 そして宮本は、自身の深層心理に問い掛け、1つの答えにたどり着きます。それが何かは、本書で確認してください。

 その後、宮本の奥さんや会社の同僚もリチャードのセッションを受け、それぞれの悩みを解決していきます。リチャード・マジックによって、全員がまるで運命が変わったかのように幸せになる、という物語です。

■「やりたくない」という否定的な信念の裏にあるもの

 例えば、「ダイエットしたい」と思って行動に出ても、いつも失敗する場合。それは、「(そうまでして)痩せたくない」という信念(コア・ビリーフ)があるからかもしれません。では、どうして「痩せたくない」のでしょうか。ダイエットの食事制限がつらくて、「たくさん食べて満足したい」と感じているからかもしれません。「太っていることで安心できる(肉を身にまとっていることで心が傷つかずに済む)」と感じているからかもしれません。

 「痩せたくない」という否定的なコア・ビリーフを支えている“肯定的な意図”(「たくさん食べて満足したい」「太っていることで安心できる」など)のことを「ポジティブ・インテンション」と呼びます。

 では、ポジティブ・インテンションに気付いたら、それを変えればいいのでしょうか? そうではありません。NLPでは、ポジティブ・インテンションを尊重すべきだと説いています。つまり、「たくさん食べて満足したい」けど痩せたいのであれば、食べた分以上に運動すれば痩せられますし、「太っていることで安心できる」と思うのであれば、無理して「痩せよう」と思わなくてもいい、ということになります。ポジティブ・インテンションは無意識に感じていることであり、それに反した目標を意識的に立てると、無意識がブレーキをかけてきて悩んでしまうのです。

 本書では、コア・ビリーフやポジティブ・インテンションの見つけ方について詳細に解説しています。また、本書の大半は「信念」をキーワードに「自己実現のためのNLP」について書かれていますが、後半ではNLPを用いて他者との円滑なコミュニケーションを取る方法についても触れています。

■キャリアプランを考える際にも有用

 本書は、NLPに興味がある方の入門書として最適だと思います。また、悩みを持つ方にもお勧めです。本書を読み、自分と向き合うことで、何らかの答えが出るのではないでしょうか。

 例えば、将来のキャリアプランを考えた際、バリバリ稼げるビジネスマンになりたいと思っていても、無意識下では長時間の残業や土日出勤、多忙になることに不安を感じているかもしれません。

 仕事をするうえで、自分は何に価値観を置いているのか。それが見えれば、キャリアプランを立てるときに役立つのではないでしょうか。

 本書を読んで自分なりに考えてみてもいいでしょうし、友人や家族に話を聞いてもらう、竹内義晴さんなどのNLPに精通したプロのコーチングを受ける、といった行動を通じて、自分を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

『It’s Party Time!』コラムニスト あずK)

「整理」とは、人生の創造である?! ――『整理HACKS!』

2010/09/17 15:48:59

整理HACKS!―1分でスッキリする整理のコツと習慣 整理HACKS!―1分でスッキリする整理のコツと習慣

小山龍介(著)
東洋経済新報社
2009年6月
ISBN-10: 4492043373
ISBN-13: 978-4492043370
1575円(税込み)



 わたし(新人M)はこれまでの人生を通して「整理」という作業を好きになれたためしがない。「整理」は掃除と似ている。頑張って整理した机は、美しいし気持ちがよい。しかし、時間がたつと新たな乱れ(ゴミ)が発生し、また1から作業をやり直さなければならない。終わりのない、苦しい作業である……。そう思っていた。

 ある日書店に寄ったとき、普段は立ち寄らないビジネス書棚の前である本が目に止まった。書名は『整理HACKS!』、副題は「1分でスッキリする整理のコツと習慣」。うん? 1分で整理ができちゃうって? いやいや、それって「日当たり良好 駅徒歩2分」って書いてるのに、実際行ってみると倍以上の時間を歩かされる不動産物件と一緒で、本当はもっと時間がかかるんでしょ……。眉唾ながらも本を取ったわたしは、冒頭「おそらく整理が楽しいという人はほとんどいないでしょう」という一文に「わたしのこと?」と心をつかまれた。あとにはこんな文面が続いていた。

「整理は創造性のない、退屈な仕事のように思っている人も多いかもしれませんが、整理について考えることは、実は本来、創造的なことなのです。どんなふうに書類を保管すれば、取り出しやすいか、机の上をすっきりさせられるか。どんなふうに整理をしたらスムーズに行くかを考えるというのは、いわば、整理のプロセスデザイン。きちんと整理ができる人というのは、整理というプロセスを美しく設計できる、優れたデザイナーでもあるのです」
(「はじめに」より)

■「整理」の発想転換

 先の引用文で、著者は2つのメッセージを送っている。

  1. 本書のターゲットは整理が「嫌い」な人である
  2. 本書の狙いは、整理のとらえ方を「退屈」から「創造」へと転換させることである

 つまり、着地点は単に「整理ができるようになる」ではない。あらゆる方向に発想を広げ、整理を通して「人生の創造者になる」ことなのだ。各章のタイトルが「書類ハック!」「人脈ハック!」といったビジネス向けの内容に限らず「生活ハック!」「環境ハック!」など日常生活面にまで及んでいることは、その表れである。

 本書全体で紹介されている整理術は90。ただし、すべてに手をつける必要はない。整理に関して、自分がいま困っている部分にフォーカスし、見合ったものを取り入れていくとよい。以下、私的な目線から自分の日常生活でも取り入れたいと思う(実際に取り入れている)ものをいくつか紹介しよう。

■ノート1冊に情報集約せよ!

 仕事は情報との戦いだ。特に、新人であるわたしは日課業務、各種編集作業の進め方、取材先でのインタビュー術……などなど、あらゆる方面から仕事の情報を仕入れていかなければならない。しかも、いつ誰に何をいわれるかは分からない。「いま、ちょっといい?」といわれたら、瞬時に情報をインプットできる体勢を整えるという、なんとも緊張感あふれる毎日を過ごしているのである。

 そんな状況にありがたいのが「100円ノート1冊に情報を集約する」というテクニック。ポイントは「時系列管理」である。ノートの表紙には使い始めた日付け、各メモの右上にはそれを取った日付けを記入する。中には、レジュメや走り書きメモのポストイットなども欠かさず貼りつけ、紛失を防ぐ。書き終えたページの端は破っておくと、スケジュール帳と照らし合わせていつでも「あのときの記録」にたどりつけるようになる。

 この「時系列管理」、わたしの仕事用メモにも取り入れている。日付けと合わせて、仕事内容の「項目」もカテゴリーに分け、インデックスをつけるとさらに検索が素早くなるのでオススメだ。

Seiri02

■名刺には「もらった日付け」を記入

 続いて、人脈管理の話。社会人は「ひと」に関する情報の管理も欠かせない。わたしも先輩の取材先への同行、社内での打ち合わせ……など、仕事を通して日々さまざまな出会いが訪れる。大抵は1時間で2~3人を相手にお話しすることが多い。

 ……となると、1人に対する記憶はおぼろげで、もらった名刺はたまる一方。さて、どうしよう?

 ここで参考にしたいのが「名刺をもらったら日付けを入れる」というテクニック。著者いわく、1度きりのご縁であれば、会ったときの情報を詳しく名刺に記入しても無駄になってしまう。シンプルに「日付け」のみを書き入れることは時間短縮になり、スケジュール帳と合わせてあとから探し出すのも簡単になるというのだ。

 「時間の短縮」と書いたが、もらった名刺を会社で再度取り出し、日付けを記入するという作業を行うだけで、記憶の定着度も変わってくるのではないだろうか。わたしはいまのところ日付けの記入を手書きで行っているが、著者によれば日付スタンプを使うのがおすすめらしいので、近日中に東急ハンズに走りたいと思う。

■自宅と会社、そして「第三の場所」をつくる

 いろいろと偉そうなことを書いたが、人間はそう簡単に変われるものではない。どんなに気を付けようとも、整理に対して心理的余裕を注げず、自宅や会社が散らかってしまう瞬間があるだろう。

 そんなときは整理をあきらめて、自分が過ごしやすい場所に移動するといい。「第三の場所」とはスターバックスが提唱した呼び名で、「おいしいコーヒーだけでなく、心地の良い空間」を指す。いつもと違った場所で仕事をすることは、気分転換にも最適だ。本書で紹介されている「第三の場所」には、例えば以下のものがある。

  • お気に入りの喫茶店
  • ホテルのラウンジ
  • 行きつけの旅館・ホテル

 ……ううん、下にいくにつれ、だんだんとグレードがアップしていく。行きつけの旅館まで作るのは、いまの段階では難しいかも。

 ひとまずは、会社から少し離れたところにある「椿屋珈琲店」でこの原稿を書いてみたところ、静かでかなり集中できた。いつもとは違う空間のため興奮が高まり、おすすめだ。

■「自分なりの整理」を楽しむ

 以上、本書に紹介された整理術のうちのいくつかと、その実践レポートをお届けしてきた。

 実践を通し体得したのは、本書が紹介する手法を自分なりにカスタマイズする楽しさである。先に挙げた「第三の場所」作りにしても、「行きつけ」のお店を固定化するのもいいし、自分が集中できるお店がどこか、研究してみるのもいい。こうした積み重ねを通じてだんだん「マイ整理術」の幅が広がっていくとしたら、それが整理を通して「人生を創造する」ということなのかもしれない。その境地に到達できるよう、これからも修行を重ねるのみである。

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